歌物語「かもめをとこ」

むかし、男ありけり。海のほとりになむ住みける。男、鴎をめづることなのめならず、

明け暮れともに舞ひ遊ぶ。みぎはに立ちて呼ぶに、いかなるゆゑにや、鴎すだきて

つゆおぢおそれざりければ、みな人あやしがりて、いみじきことになむ言ひあへりける。

しかるあひだ父の翁なむ僻々しき邪びとなりける。鴎のおぢぬを見て子にいふやう、

「あはれ、をこの鳥どもや。率(ゐ)て来(こ)。籠(こ)に入れて慰みにせむ」

とぞいひける。男、これを聞きて心に思ふやう、「われ年ごろ鴎と遊びしかども

さらに得る所なし。いふかひなや。市にひさがば値幾ばくぞ。いかで得てしがな」

と思ひけり。

つとめて、男、海辺にゆきけり。例の呼びののしるに、鴎、浦風に飛びありきつつ

さらに寄りつくけしきなし。男、わびてよめる。

 いさなとり 海に浮き名の たつまでに 呼べど見ぬ妹 うらみぞ吾がする

鴎、かへし

 頼めりし 君が心は 白波の 袖にひぢつつ 吾が泣きぬれし

これは、もろこしの列御寇といへる人の語りたまひけるとなむ。

   




●記録者 堂島屋 [202.250.240.254]
●記録日 03/26(木)21:06

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