長歌「東大寺千手堂炎上」

青丹よし 寧楽(なら)の都に 太敷ける 寺は多けど すめろぎの 神のみことの

万代(よろづよ)に 国の鎮めと 畏くも 定めたまひし ひむがしの 大き御寺は

天足らす びるしゃなぶつの ゆゆしくも 端厳(きらぎら)しけれ 天地の

寄り合ふ所 谷蟇(たにぐく)の むか伏す極み 拝(をろ)がまぬ 人とて無きを 

思はぬに 禍(まが)つ炎の にふぶかに 襲(おほ)ひ来ぬれば 水取の 

籠りの僧の 飯(いひ)炊く 千手堂は 風のむた あらぶる火気(ほけ)の 

紅蓮なす 朱(あけ)に染みたり 朝な夕な 行ふ人は 立ち走り 騒ぎののしり

むらぎもの 心消(け)ぬべく 思ほへど さてしもあらねば 神さびし 古き仏を

かき抱(むだ)き 負ひ奉り みなのわた か黒き煙 潜(かづ)きつつ 逃れ惑ひつ

五百人(いほたり)の 臂(かひな)持ちます 観世音 さとき仏は うつしよの    

蒼人草の 苦しびを 除きたまふと 昔より 語りつぐらく しかはあれど

かくも常無し 世の中の道



古の 三つの車も あらなくに 火宅浄土を うつつにぞ見る 

千手眼 ひとつあるとふ 正眼も この災ひを あらまさずけり  

末の世の しるし見にけり けふよりは 醒めて過ぐさむ うたかたの日々
           


●記録者 堂島屋 [202.250.240.254]
●記録日 05/24(日)16:05

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