泪のレンズ

シクラメンくれなゐ深く母眠る泪のレンズ越しに看取りす

胡蝶蘭すゑまで咲きぬしなやかに静かに老いし母の枕邊

九拾年の四季ちりばめて眠るらむいな曼陀羅華ゆめに織るらむ

遊星につながれ眠るときのまを山査子の白き花はこぼるる

べつかふの櫛ひとひらに梳きてやる母の髪なほ黒きかなしみ

旅に死ぬるおもひか母は冬ざれの庭のみはてぬ鳥の名告らす

房州は筍掘るとつたへくる春のあしおと聴きませ母よ

明日知れぬ命の母が食事して帰れと宣らすことば縺れて

夢に添ふ紡車のきしみ黄繭の淡きほむらに黄泉のひたみち

夕陽にささらすすきの穂は濡れて<おんくろだのうんじゃくそはか>

真言の霊符をろがみ母の背を拭はむとほき冬雲雀

櫻花の下にて死なむといひし西行を母きれぎれにうつつに語る

しらたへの蓮華のごとき顔を忘らふべしやみ柩とざす

たちこむるいで湯のけむりこの身こそ母のかたみか淡き菊の香

ラベンダーの蕾籠めたる枕して人の頭骸はものおもふ壺


●記録者 みどりこ [ppp16050.win.or.jp]
●記録日 12/28(月)16:48

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