桃李歌壇  目次

誰がために

連作和歌 百韻

801 > 誰がために二十四時間戦ひて君は逝きしか名も揚げずして (堂島屋) (104 2256)

802 > 「二十四時間戦えますか」がいまわしきバブルの頂点だったということ (志織) (104 2311)

803 > 貨幣とは即ち電子情報の夢幻空華よ自己増殖よ  (堂島屋) (105 1156)

804 > 人ゲノム回転木馬卍型銀河夢幻の種子(しゅうじ)となりぬ  (旅情) (105 1840)

805 > 銀河より届きし一通の手紙星の生まれし頃を語れり (志織) (106 2348)

806 > かつてここにあった藁葺きの家の記憶を甦らせる星月夜 (志織) (109 1040)

807 > 空青き旗翩翻と駒沢に戦後終りし十月十日 (重陽) (109 1425)

808 > ドラム缶より砂糖水一杯を五拾銭にて鬻ぎし戦後  (堂島屋) (109 1956)

809 > 建て直す小学校の砂場より掘り起こされし五拾銭銅貨 (志織) (1010 2356)

810 > 欧州の古き街並とりどりのコインに思う旅のいろいろ (重陽) (1012 0909)

811 > 日に三たび関をくぐりぬ言語圏滑走するは楽しきろかも  (堂島屋) (1012 1910)

812 > 関所より吹きたる風のすき間にて青を連ねし杜鵑花かな (志織) (1013 2348)

813 > ひっそりと戸塚の宿の小碑文真っ赤なポルシェ風巻きてゆく (重陽) (1015 0818)

814 > 黒塗りの車を降りて住職の電話唐突ポップな着メロ  (堂島屋) (1015 1939)

815 > 交差点のケータイに驚かされしは昔 見えない電波の蛇に巻かれて (志織) (1015 2300)

816 > 蛇は目も脱皮してをり生け垣に風に吹かれて旗のごとしも(たまこ) (1017 0510)

817 > 生垣の錆び色深き剪定の陰に深紅の帰り花見ゆ  (重陽) (1017 1417)

818 > 錆色にメタセコイアの立つ峠を超えれば一気に過疎の古里(たまこ) (1017 1820)

819 > 産土や神木なりし大楠を見つ渇水のダムの水面に  (堂島屋) (1017 2119)

820 > 幼友の沈みしままのあのダム湖春には桜の花が囲みし(たまこ) (1018 0624)

821 > 花筏吹き重なりてただよへり愛はしさまに自在うばはる (重陽) (1018 2018)

822 > 片よりて吹き重なれる花びらを胸にかきよせてはみたけれど(たまこ) (1018 2111)

823 > 峰越しの風に乗りては布引の瀧壷に敷く落花なりけり  (堂島屋) (1018 2131)

824 > イッペーの黄の花落ちつぐクリチーバ出合ひすなはち別れなりにき(たまこ) (1019 0633)

825 > さざめきを渚の潮に秋の朝誓いはなくもまたの出合いを (重陽) (1019 0708)

826 > いい別れができたと思ふまた明日も会へるかのやうに「じゃあ」と手を振り(たまこ) (1019 2008)

827 > 「じゃあまたね」ひそかに自分に嘘をつく急がなくてもよかった出会い (志織) (1020 0036)

828 > 茅の葉も稲の葉もなにかどこか違うチキチキバッタのやうに急いで(たまこ) (1020 0655)

829 > 初雪の便りも届く北の空明日に向かう白鳥の群れ (晴雲) (1020 1123)

830 > ネットにのみ捕まる世界みいだせず乱れ暴れて騒ぐ弱虫(ネット荒ら不愉快&憐れ)     (耽空) (1020 1714)

831 > 電気蜘蛛へらへら吐ける糸のうへ個我崩壊のサイバー浄土  (堂島屋) (1020 1750)

832 > 遙かなるシベリヤに向かふ白鳥の想ひに託す収容所群島  (有情) (1020 2047)

833 > 大群を上目に見やる五六羽の渡りいずこへ茜雲果つ (重陽)   (1020 2241)

834 > かつてこの世の果てという小説ありたどり着いたらむしろ気楽さ (志織) (1020 2343)

835 > 燕らの発ちたる後を葦原に南想えばあこがれに似る(たまこ) (1021 0608)

836 > 燕らに此所は北だと想ふとき人の暮しの灯が点り初む(たまこ) (1021 0616)

837 > 焼黍にふるさとを嗅ぎかぶりつく見やるテレビに初雪の報 (重陽) (1021 0820)

838 > 良い便り待ちつつ早も神無月テレビに釧路の初雪映り(たまこ) (1021 2057)

839 > われの想(も)ふ人いま遠く北国に松の根締めて冬備へせむ  (有情) (1021 2312)

840 > 思わずも早そうな今年の冬にまず新世紀迎える備え (志織) (1022 0109)

841 > 世紀末は十月日暮れのゼブラゾーン風に吹かれて落ち葉が過る(たまこ) (1022 0712)

842 > きらきらと樹の葉舞い散る陽だまりに銀杏拾う小さき丸き背(晴雲) (1022 1417)

843 > 銀杏のさみどり押せば弾性体 部下を演ずる青年と酌む  (堂島屋) (1022 1937)

844 > 北便りルビーの如き弾性体炊きたて飯に盛りてかきこむ (重陽) (1023 0520)

845 > 昏睡の父の病窓にかぎりなく光を引きて銀杏散りゐし(たまこ) (1023 0547)

846 > 君とふたり出でしは史料編纂所いてふかつ散る道に語りき  (堂島屋) (1023 1300)

847 > かの秋の銀杏を想ふ妻たちの眼に多分よぎらぬ夫(たまこ) (1023 2000)

848 > それぞれの秋を過ごして午後は過ぎ温め酒を酌み交わす夜(晴雲) (1024 2332)

849 > ものなべて翻りやすく秋がゆく落ち葉・浮き雲・わたしの心(たまこ) (1024 2357)

850 > 三十路きてすきま風しむ友ありぬ虚心の秋に心起てしか (重陽) (1025 0922)

851 > このゆふべ不惑に近き歯をみがく狂するほどの使命はありや?  (堂島屋) (1025 1235)

852 > 何故などと問うたら悲しくなるばかりたうたうたらり酔ふて生きんか(たまこ) (1025 1830)

853 > 現世のよろずことごと過客なる日々の吾こと輪廻万象 (重陽) (1025 2013)

854 > くすみては猿にかも似るもろともに夢の一期を舞ひ暮らすべし (堂島屋) (1026 0125)

855 > 梨・葡萄・無花果・蜜柑このやうに食べても食べてもやはり悲しい(たまこ) (1026 0540)

856 > ときじくの木の実笑ふや汝(な)のことをけふも想ひけり青空の下 (有情) (1026 1329)

857 > どれもどれも翔んでゆきたい症候群 青空に干す子供らのシャツ(たまこ) (1026 1534)

858 > 朱の色に翻る幡チベットの古寺の頂き鳥葬の朝   (有情) (1026 1952)

859 > 摩尼車きしむ古刹にけふもまた問答すらし若き師僧は (堂島屋) (1026 2342)

860 > 満身創痍の飛鳥大仏の御前に小さく願へと木の札ありぬ(たまこ) (1027 0601)

861 > 蜩の声や往昔の苦しみは汝(な)のためにこそかけし大願 (有情) (1027 2059)

862 > 往昔の万事思へば吾今を心澄みたり秋のあけぼの (重陽) (1028 0537)

863 > 冬近き夜をあらわれて飛べる蚊の細き羽音は祈りにも似る(たまこ) (1028 0738)

864 > 硝子戸の凍れる隙に蝶独り眠るが如く祈るがごとく  (有情) (1028 1005)

865 > 「どうした」と近寄るわれに「おまえこそ」と時雨降る日の街の野良猫(たまこ) (1028 1251)

866 > おなじ道おなじ時刻に「おはよう!」とウオーキングの清々しき人 (重陽) (1029 0704)

867 > 毛筆で子が書きて来し線あまた字となる前の清しさを持つ(ぽっぽ) (1029 0936)

868 > 残菊に雨を重ねし水茎のあまたの句より特選となる (重陽)ぽっぽさんおめでとう (1029 1717)

869 > 八千矛の神の尊の語りごと水茎にせし史し思ほゆ  (堂島屋) 史=ふひと (1029 2128)

870 > 白兎なる社の御籤大吉と顕わの磯をとび渡りゆく (重陽) (1030 1150)

871 > 神前のせせらぎをつと飛び渡るせきれいの青日に映えいたり (志織) (1031 0015)

872 > なゐふりて驚く我は丑満のオフィスに書類つくりてゐたり  (堂島屋) (1031 0149)

873 > 書を閲つ不乱に過ぎて東雲の企業戦士の友の懐かし (重陽) (1031 1442)

874 > 名刺折る人騒がせな役人よ吾(あ)は不惑なるクリスタル・クリアー (有情)   (1031 1944)

875 > これやこの名刺の法則 肩書きは字数少なき人ほどえらい  (堂島屋) (1031 2305)

876 > 初めて知る名刺の端は折るものと青き陰翳など付け置かむ (志織) (111 0013)

877 > 幾年の名刺の束にたばかりて手にとる葉ごと思ひ廻らす (重陽) (111 0516)

878 > 胸病みし旧き朋あり柿落葉つもりて深き小径を迂回(まは)る  (有情) (111 1657)

879 > 落柿舎や坐して仰げば紺碧の空に熟れゆく渋柿の尻 (堂島屋) (111 2149)

879 > 雨音と落ち葉の音を聞き分けて独り遊びは昔から好き(たまこ) (111 2135)

880 > 晩秋の小町通りに斑らなる紅葉と渋柿庵の小窓と (志織) (112 0002)

881 > 桜木の錆び深まりし段かずら朱き社殿を遥かに拝す (重陽) (112 0421)

882 > 雨だらうか光だらうか晩秋の八幡様の杜に降るのは(たまこ) (112 0623)

883 > 神さびし社(やしろ)なつかし秋時雨紅葉降り敷く階段(きざはし)のうへ  (有情) (112 0746)

884 > 紅葉照る石のきざはし掃きおろし禰宜の浅葱の袴すがしも  (堂島屋) (112 1246)

885 > 千年の巖の如き公孫樹黄葉に化して新春を待つ (重陽) (112 1623)

886 > 千年は遠くてされど宇宙の営みの中ではほんの一瞬 (志織) (112 2325)

887 > 象の眼の瞑るや遙か千年の時還り来て曼陀羅を喰む  (絵) (113 0946)

888 > 千年の文待ちたれど君の見し花は幻虚空さまよふ  (素蘭) (113 1516)

889 > シャンパンは封したるまま置かれたりグラスを合はす人なき聖夜 (小梅) (113 1733)

890 > グラスとグラスふれあふ音の澄み透り二人はさみし一人よりなほ(たまこ) (113 2200)

891 > 歌よめば寂しさあふること多き君をばゆかし思ふはやわが (重陽) (114 0840)

892 > ラブダンス失敗せしか片脚で屋根を滑りぬ明けの鴉は  (小梅) (114 1458)

893 > 禍故重畳 凶聞累集 しののめの妻の告白 妻の告白 (堂島屋) (114 1643)

894 > 耳のあることの楽しさ「ナイショダヨ」こそこそ子の声くすぐったくて(たまこ) (114 2049)

895 > 耳のあることの空しさ聞きたくもなきB級のニュースが障る (志織) (114 2218)

896 > 我が咎と知りし時より幾夜経て君の言葉をここに聞くとは (素蘭) (114 2311)

897 > 咎と言ふにもあらざれど思ひ出す度にわが眼をきゅんと瞑らす(たまこ) (115 0641)

898 > 諍いて何かをいえば済むものを無言のままに箸をすすめる (重陽) (115 0958)

899 > 「満洲をとられた」といふ祖父ありき我あらがへど甲斐もなかりき (堂島屋) (115 1739)

900 > 一生の過半を帝国臣民として生きたればやむを得ずかし  (堂島屋) (115 1742)