桃李歌壇  目次

冴ゆる月

連作和歌 百韻

3501 > 冴ゆる月の満ちたる姿映したる高き小窓ぞ街照らしたる
(ぽぽな)
(1120 0700)

3502 > 小窓から暗きシベリヤ見下ろせば東かすかに帰る実感 
(蘇生)
(1120 0717)

3503 > 冬河に戻りし千羽のゆりかもめの中にをらぬか逝きし妹
(たまこ)
(1120 1412)

3504 > 枕辺にすゑたる鶴の旅だたねひかりながるる見晴の空に 
(素蘭)
(1121 0120)

3505 > 千羽鶴 Engine No.5(消防5部)の軒先に子らの祈りと冬晴に映え
(ぽぽな)
(1121 0505)

3506 > 朝焼けに羽ばたく鳥の姿にも千羽鶴にも見えし冬雲  
(蘇生)
(1121 0728)

3507 > 秒針の音を聞きをりいづこへか飛びゆく夢の途中に覚めて
(たまこ)
(1121 1519)

3508 > 薔薇をつむかなしき手と手あらはれぬ現世忘れゆく二十五時 
(素蘭)
(1122 0039)

3509 > 糠星の狭間に揉まれ屑となり 闇から戻り 爪に星ひとつ
(ぽぽな)
(1122 1055)

3510 > 爪の星は何の兆しか「人生はお好み焼き」とテレビが歌う
(たまこ)
(1123 0726)

3511 > 闇鍋かお好み焼きか知らねども蓼食ふ虫のかくこそありけれ 
(素蘭)
(1123 2326)

3512 > 暮迅しバス待つ角に柔らかきお好み焼きの風が流れて 
(蘇生)
(1124 0506)

3513 > 善し悪しはお決め下され拙者めの歌の横好きまだまだ続き 
(ぽぽな)
(1124 1025)

3514 > 歌詠みに横好きならぬ縦好きも楽しみ召され評定なんぞは 
(蘇生)
(1124 1444)

3515 > 縦のもの横にするがに時折は些細に視点変ゆる大切 
(素蘭)
(1124 2011)

3516 > 真つ直ぐに魚眼レンズの中に立ち終末世界を説く男あり
(たまこ)
(1124 2252)

3517 > 預言者は怪魚に呑まれ三日三晩夜な夜な願ひて蘇りけり 
(ぽぽな)
(1125 0626)

3518 > 旬なれば怪魚もへちまも美味かろう吊るし鮟鱇つとに美くし 
(蘇生)
(1125 0735)

3519 > 美しいドライフラワー作るため真紅の薔薇を逆さに吊す
(たまこ)
(1125 2110)

3520 > 美しき薔薇に棘ありさりながら美しからぬわれに棘あり 
(素蘭)
(1125 2336)

3521 > をりとりて冷たき針に温かき血潮つたひぬ薔薇より赤く 
(ぽぽな)
(1126 0501)

3522 > 若者はたぎる血潮を持て余す解き放つべし閉塞の世を
(素人)
(1126 1743)

3523 > はてしなき議論の後の一碗のココアほろほろ苦く甘かり 
(素蘭)
(1126 2339)

3524 > 空論を重ねて実り少なきを嘆くポーズに砂噛む想い 
(素人)
(1127 0101)

3525 > 空つぽになつちまつたぜ酒瓶をいちにいさんしと数へけり
(ぽぽな)
(1127 0723)

3526 > 空っぽの酒瓶逆さに庭に埋め花壇の区切りぞ許せ女房 
(素人)
(1127 1035)

3527 > 花畑に向こうをむいてかがむ人短歌を作つてゐるかもしれぬ
(たまこ)
(1127 1221)

3528 > 冬耕の畑にあれこれ想いつつ残り少なき壁の日めくり 
(素人)
(1127 1239)

3529 > リニューアルの住まいながらの工程を寸分乱さぬ職人仕事 
(蘇生)
(1127 1811)

3530 > 衣食住足りて礼節知るという儒教の教え影を薄くす 
(素人)
(1127 2346)

3531 > 言ふは易く行ひがたき性なれど無為自然とふ道のほのぼの 
(素蘭)
(1128 0059)

3532 > 花は咲き鳥は飛ぶやうに人は恋ひ月をしたがえ地球はめぐる
(ぽぽな)
(1128 1114)

3533 > 人恋ふる想い高まる冬の夜はココアすすりて短歌を作る 
(素人)
(1128 1218)

3534 > きみならでたれにか見せむ初冬の空にいもせの虹かかりしを 
(素蘭)
(1129 0057)

3534 > はにかめる汝の笑顔を思ひ出す今年も汝の冬薔薇が咲き
(たまこ)
(122 1815)

3535 > まだらにてはにかむような秋のいろ森はやがては光をまとう 
(蘇生)
(122 2003)

3535 > 冬の虹出でて何おか暗示する暗雲を背に彩きわだてり 
(素人)
(1129 1056)

3536 > いい冬が来る予感する緋めだかがガラスの鉢にきらきら泳ぐ
(たまこ)
(1129 1526)

3537 > 緋めだかの明日の夢は翼得て宙へ羽ばたく銀河の果てへ 
(素人)
(1129 1740)

3538 > どの駅に降りても銀河鉄道の旅人はまたふるさとめざす
(登美子)
(1129 2303)

3539 > 刀折れ万策尽きし吾になほふるさとの山ふるさとの川 
(素人)
(1129 2348)

3540 > 夢はいつも帰りゆきなむ追分に凍みこほりたるのちのおもひに 
(素蘭)
(1130 0043)

3541 > 凍つるほど浅間の肌はなほ青く 煙る吐息はなほ白くあり
(ぽぽな)
(1130 0914)

3542 > 浅間嶺を越えんとせるかな雁の列吾は独りぞ落葉松の道 
(素人)
(1130 1009)

3543 > からまつの林を過ぎてからまつの韻(ひびき)幽けしかそけきゆふべ 
(素蘭)
(1130 1528)

3544 > 坦らかな遥か点なる直線の落葉松の並木道行く
(蘇生)
(1130 1902)

3545 > 電飾の光華やか並木道若者集ふ原宿の街 
(素人)
(1130 2103)

3546 > 風花の舞へる峠に歩を急きて君待つ街の空に踏み入る
(やんま)
(1130 2208)

3547 > 歳末の大売り出しの五番街ヒト科ヒト属怒濤のごとく
(ぽぽな)
(121 0101)

3548 > クリスマス商機迎へるティファニーに群れる若者何故に若者 
(素蘭)
(121 0159)

3549 > 昼下がりランチョン盛るレストラン集くミセスの何故に溌剌 
(蘇生)
(121 0524)

3550 > 集ふ場所見つける才にたけたればヤングミセスのトークは続く 
(素人)
(121 1523)

3551 > 公園デビューなる項目のあらはれて肥大化する育児マニュアル 
(素蘭)
(122 0028)

3552 > 乳母車に一対の子を乗せ坂を押しあがらんとうら若き母は  
(蘇生)
(122 0610)

3553 > 乳母車赤子の笑顔は変わらねどマニュアル世代を父母に持つ子よ 
(素人)
(122 0926)

3556 > つはぶきの黄はひかりいろ石の間にだんまりだまりひともしをりぬ 
(素蘭)
(123 0034)

3557 > おとなしき鈴にはあれど鈴掛の小鈴戯る風を誘ひて
(ぽぽな)
(123 0703)

3558 > 枯れ柏遊び足らぬと風誘ふ乾きし音の樹より降りくる 
(素人)
(123 0851)

3559 > 光りつつ楓の枯れ葉が舞ひ落ちる冬空からの手紙のやうに
(たまこ)
(123 0944)

3560 > 舞い香るしなやかな肢体ダンサーは喜び怒り哀しみの世を 
(素人)
(123 1039)

3561 > 月隠(つごもり)の吾の心の色映せ喜怒哀楽を能面に聴く
(ぽぽな)
(123 1137)

3562 > 奥深く秘めたる想いの現れる無表情なる能面ゆえに 
(素人)
(123 1244)

3563 > 老い成りてすでに失せたる表情の眼の奥に性を宿せり 
(蘇生) 
(123 1914)

3564 > 文と文のあはひに生るるみづからに笛吹きやれば目覚めしわれは 
(素蘭)
(124 0030)

3565 > 老いなりてあはひに母は母をぬぎ老いとげなむと独りあはいに 
(蘇生)
(124 0540)

3566 > 恋文の痛く語るは行間の文字無き言葉か涙の跡か
(ぽぽな)
(124 0757)

3567 > 行間に託す想いのあらばこそ若き人らを飛び交う写メール 
(素人)
(124 0908)

3568 > 人知れず想ふ人こそいとしけれ夜半の雪見つひとり文書く
(冬扇)
(124 1052)

3569 > はにかみつ想いの丈を吐露したる君の眼差し打たぬものなし 
(素人)
(124 1227)

3570 > 朝まだき早や去()なんとぞする君の髪の乱れのなつかしきかな
(冬扇)
(124 1329)

3571 > 黒髪を異国の人にほめられし日を懐かしむ鏡の前で
(茉莉花)
(124 1536)

3572 > 老いの日のかくも早うに来にけるをうらみにけふは紅を濃くして
(冬扇)
(124 1551)

3573 > 熱き日の記憶のあればいたづらに老いのいまをば嘆きたまふな
(茉莉花)
(124 1649)

3574 > さりとても末を契りしかの君の心離るをいかにとやせむ
(冬扇)
(124 1759)

3575 > 追えば逃げ逃げれば追うが人の性大樹のごとく気高く立てよ
(茉莉花)
(124 1828)

3576 > いかにしても千々に乱るる吾がこころ恋は女の命なりせば
(冬扇)
(124 1847)

3577 > 戻り来る君の足音待ちながら夜には鋭くなるわれの耳
(たまこ)
(124 2123)

3578 > 気多の海堺の海の遠鳴りに耳をすまさむわれも海賊 
(素蘭)
(125 0014)

3579 > 君の腹に耳をあてればそこは海潮騒泡の音浮かびつ消えつ
(ぽぽな)
(125 0330)

3580 > 老いなりてベッドの母は丸く居て冬の光に浮かびつ消えつ 
(蘇生)
(125 0643)

3581 > 今にして思へば恩愛限りなく慕はしき哉たらちねの母
(冬扇)
(125 0937)

3582 > 受けし恩次代に伝える役目あり来し方思いて忸怩たるもの
(素人)
(125 0942)

3583 > 千年の桜の花を見にゆかむこの世につかのまの母と子として
(たまこ)
(125 0949)

3584 > たをやかに風に揺らめく素振りしてなほ毅然たる秋桜かな
(冬扇)
(125 1013)

3585 > 呆けたる母の喜ぶ紙風船乾きし音の孫と行き交ふ 
(素人)
(125 1231)

3586 > 折り鶴の願ひの届く日やあらむ世の平和こそ人の幸せ
(冬扇)
(125 1351)

3587 > 室内に応えて咆える犬の来て老父の声は幸に弾めり 
(蘇生)
(125 1625)

3588 > 子を送り夫を送り小走りの朝のわたしにチワワがじやれる
(たまこ)
(125 1728)

3589 > 老いなりてベッドの宙に声もなく窓に向かひて母は埋もれり 
(蘇生)
(125 1939)

3590 > 耳すこしとほくなりたるたらちねの血筋なるかな超個人主義 
(素蘭)
(126 0024)

3591 > 恋しきは遠き受話器の向かうから心配いらぬと言ふ母の声
(ぽぽな) (126 0621)

3592 > 老父からお前来る日はしばれるぞ雪もふるぞと電話たびたび 
(蘇生)
(126 0650)

3593 > 降り積もる雪の重みに軋む屋根齢重ぬるふるさとの父母 
(素人)
(126 1215)

3594 > 右膝が今朝も痛むと冷ゆ朝の電話の声の痛ましきかな  
 (蘇生)
(126 1230)

3595 > もどかしや言葉のみなる励ましは心の空洞満たさるるなし 
(素人)
(126 1418)

3596 > おはやうと元気な声で走り行く少年少女の寒中稽古
(冬扇)
(126 1425)

3597 > 怪文書作成講座見るやうな東海学園〈共生〉思想 
(素蘭)
(126 1653)

3598 > 怪しげな呪文唱えて煙に巻くそれも人生時は還らず 
(素人)
(126 2309)

3599 > 哲学の煙を吐いて嘯けど高等遊民今許されず
(茉莉花)
(127 0038)

3600 > 大野原どか雪明けて大はしゃぎ子らも犬らも吐く息白く
(ぽぽな) (12月7日 02時07分)