桃李歌壇  目次

梅雨近し

連作和歌 百首歌集

4601  梅雨近し苔のみどりをます庭に燃ゆるいのちの紅き石楠花  人真似 531 0901
4602  石蕗の葉を打つ夜の雨の音われに激しき夏の来るべし たまこ 531 1126
4603  恐るべき乳房と言われおとめごの若さ爛漫夏の街行く 茉莉花 531 1253
4604  さくらんぼ含みし君の唇は種吐くごとく別離きりだす  人真似 531 1512
4605  甘味屋の空調の音隣席の会話にわかに小声となりて 千種 531 1656
4606  安らはで寝なましものを大地震 ソニーショックにりそな国有 真奈 531 2320
4607  知る知らぬなにかあやなくわきて言はん月なき夜とて明けぬ日はなし  人真似 61 0026
4608  旧暦の四月に重なるこの五月嵐の無月となりて終わりぬ 茉莉花 61 0057
4609  宵越しの酒をちびりとふくんだら昨日の傷がちりちり痛い ぽぽな 61 0232
4610  天道さまが真つ直ぐわたしに射してくる一夜明ければ真つ青な空 たまこ 61 0615
4611  太陽にファイトを燃やし月みてはもの想う心のめでたさよ  人真似 61 0624
4612  誘われて娘と二人で行くプール運転手だって構わないから 海斗 61 0642
4613  春の葉を楚々と広げし吾亦紅やがて紅して野辺に立たんと  蘇生 61 0658
4614  袖振れば停まってくれると思いしが平成男の子は猛スピードで去り 茉莉花 61 1024
4615  猛スピードで落ちくる雨に打たれつつ発火しさうな私のからだ たまこ 61 1123
4616  イヴになる今日のわたしは赤い服みゆき通りにジャズの流るる 真奈 61 1221
4617  ビル風になびくブラウス乙女らの胸のラインの鮮やかにして  人真似 61 1338
4618  魔歌(まがうた)を謡ふ乙女は石となり激つ河面を見つめゐるなり  61 1418
4619  公園の石の人魚の像は旧りその石の目にやどる朝露 たまこ 61 1608
4620  ふためきて羽根きらめかせ食う餌の輪からあぶれる片足なき鳩  人真似 61 2235
4621  涼しげに早引け決めるその刹那凄腕経理課長氏につかまる ぽぽな 62 0508
4622  早引けの啄木の歌想ひつつ城裏に仰ぐとほき浮き雲 たまこ 62 0557
4623  青春の焔の壁を想ふとき智慧なきゆえの妄想と悔ゆ  人真似 62 0653
4624  箒目の立たぬ小庭に十薬と薄荷が香る蜥蜴が走る 千種 62 0950
4625  建替へて庭なき家になりにけり駐車場なぞ造りたる故  冬扇 62 1138
4626  見渡せば庭も紅葉もなかりけり車ばかりがわがものにして 海斗 62 2040
4627  学生らと酌みあふ夫のいまだ強し五月の庭に肉など焼いて たまこ 62 2232
4628  アンテナに陣取り街を睥睨し恫喝するか嘴太鴉  人真似 63 0121
4629  澄む声は嘴太鴉・だみ声は嘴細鴉と楽しき山路 たまこ 63 0644
4630  楽しきは森にこだますポリフォニー心の硬さ溶かす万緑 真奈 63 1324
4631  つぶつぶの残るお濃茶手前にもとりなす人のやわらかき声 千種 63 1708
4632  助手席のわれに小啄木鳥(こげら)のまねをしてふとはにかみしその笑ひ声 たまこ 63 1810
4633  上等の和菓子を載せる器にもあるじの心ゆかしくありて 茉莉花 63 1812
4634  ききざはしの風雨にたへし踏み代は幾たり人の過ぐるをみたか 蘇生 63 1919
4635  半月に侘茶の髄を説く利休躙り口よりしのび寄る翳 真奈 63 2033
4636  朝顔を愛でむと庵に誘われ花なき庭に侘を見よとは  人真似 64 0004
4637  朝顔の双葉に光る露の玉いいことばかりにならんこの夏 たまこ 64 0546
4638  そよかぜに花びらふれる雛罌粟の立ちくらむがごときその花壇  人真似 64 0627
4639  いつの日か土に帰郷を果たすとき花育てましその名しらずも ぽぽな 64 0723
4640  ふる里の追憶おぼろに浮かぶときあなたにどこかで出逢う気がする  人真似 64 0816
4641  いつしかに朧々と霞み行く君が面影けふも追ひつつ  冬扇 64 1039
4642  ストーカー罪になるぞと諭されど断てぬ想いは墓に埋めとか  詠み人知らず 64 1954
4643  幾つまで女は恋すと問はばただ火鉢の灰を掻く大女優  人真似 64 2204
4644  歌うたはば声涸れるまで人恋はば冴ゆる魂燃え尽きるまで ぽぽな 65 0356
4645  ひたむきな青春の愛うるわしく胸のあかりはオーラの如し  人真似 65 0646
4646  人恋ひて君無き里を訪ぬれば軒それぞれに燕の巣あり やんま 65 0728
4647  やがてダムに沈む家居にきびきびと腰赤つばめが巣作りをする たまこ 65 1137
4648  電線に音符のごとく待つ仔らに餌はこび繁し燕夫婦は  人真似 65 1242
4649  胸の淵五里の深きに渇きゐてそを満たせるはただ君の愛 ぽぽな 65 2342
4650  たぎつ瀬の鯉のやみ路は苦しくて かはと見ながらえこそ渡らね  ひとまね 66 0139
4651  さざ波にさやうならの声溶けてゆくモノクロームのやうな一瞬 真奈 66 1440
4652  ヨコハマを船はでて往く未練は残る別れテープの芯むなし  ひとまね 66 1704
4653  何となくなにやらゆかしこの調べヤーレンソーランソーラン恋し ぽぽな 67 0055
4654  どっこいしょ立ち上がり様気がつけば記憶の底の祖母の掛声 海斗 67 0659
4655  歌ことば口調ひとつで悲劇すら奇矯に染まる日本語の怪!  人真似 67 0753
4656  手から手へ移されかたちを変へてゆく綾取り遊びはしりとりに似る たまこ 67 1048
4657  堤防の沖から順に竿立ちてしりとる如く鰯はためく   蘇生 67 1858
4658  腹太き鰹の瞳に黒潮の色灯火の下煌き居り  人真似 67 2254
4659  とりどりの幸を盛りたる浅鉢ののぼり鰹の芳しきかな   蘇生 68 0900
4660  厚切りの旬の鰹のたたきこそ我が好物の第一にこそ  冬扇 68 1613
4661  ウェルダンにしてはなるまじミディアムの少し手前の透き通る紅  千種 68 1755
4662  シェフの名を記しただけのレストラン何処へ失せしシェフの誇りは   蘇生 68 2012
4663  家ごとに味の好みは異なれど母系で決まる味覚の伝統  人真似 68 2228
4664  きやら蕗をくつくつ煮つつ思ひをり祖母のつくりゐしその香その味 たまこ 69 0941
4665  みな月は揚げて美味なる柿わか葉もみじに三つ葉ゆきの下など  人真似 69 2300
4666  化粧ッ気なくてさらさら淡白でいかす彼女は菜食主義者 ぽぽな 610 0328
4667  京のまち出会がしらの恋をしてあかずも君を逢ひみつる夜  人真似 610 0737
4668  風が出会ひ人間が出会ひ四つ辻は風も思ひも渦なすところ たまこ 610 1130
4669  肩書きのなき名刺もてその初め如何に渡さむ如何なるときに 蘇生 610 1729
4670  仮そめとかなぐり捨てし裃の人はひとなり吾はわれなり 人真似 611 0019
4671  百足の草鞋をはきしジャンコクトー眠れる才能こそ恐るべき ぽぽな 611 0303
4672  真なることとは何かかりそめかなじみ尽きたる草鞋一足 蘇生 611 0528
4673  能因も西行芭蕉もわらじ履き 旅こそ数寄と人のいふらむ 人真似 611 0759
4674  がたごとと列車は歌うきしきしと連結部から合唱の声 海斗 611 2319
4675  はつ恋の熱き想いの紅き灯を曳きて夜汽車は雪国を往く   人真似 612 0009
4676  初恋は太古に続く内海の潮騒に耳傾けるとき ぽぽな 612 0155
4677  ためらいつきみの乳房に耳よせばはるかむかしの潮騒の音  人真似 612 0534
4678  一語づつ硬くまあるくしまいたる青き葡萄の房ごとの闇 ぽぽな 612 0632
4679  くちびるは語らずとも君の眼はしずかにわたしの過去を見透かす 人真似 612 0753
4680  「観念はそれが存在する限り心理学的に真実である」 ぽぽな 612 1018
4681  沈黙の真を胸にひそめつつ 犀角のごと独り歩まん  人真似 612 1220
4682  さよならは敢へて言はない夕焼けは明日になれば朝焼けになる たまこ 612 2239
4683  雨のおと風のゆるがす音にさへ豊かさみちる夜は水無月   人真似 612 2333
4684  前線の見えているやについり荒れて桂の浜の砂にしむなり   蘇生 613 0552
4685  桂浜の竜馬の像に並びたち入梅に荒るる海を見てゐる たまこ 613 0647
4686  偉大なる映画俳優また逝きぬ時代を駆けたグレゴリー・ペック  人真似 613 0849
4687  父と見し総天然色「仔鹿物語」父のあだ名はグレッグだったと  茉莉花 613 0935
4688  生あればジェラール・フィリップ八十歳「パルムの僧院」いまだ褪せずに 真奈 613 0956
4689  「肉体の悪魔」のタイトル親に言えず隠してフィリップ見た少女の頃  茉莉花 613 1109
4690  雨上がりポプラ並木をゆきながらラストシーンの女優の気分 たまこ 613 1150
4691  男屠ふる「夏の嵐」のアリダ・ヴァリ昏き瞳に沈む情念 真奈 613 1223
4692  愛の記憶蘇らせむと踏むワルツ「長き不在」の果ての悲劇よ 茉莉花 613 1325
4693  ドロン駆る大型ヨットの優雅さを夢見そめし「太陽がいっぱい」  人真似 613 1420
4694  少年は帆柱 白きシャツの背に風はらませてバイクを飛ばす たまこ 613 1600
4695  海賊と薔薇を夢見る夏の海遠く聞こゆるセイレンの歌 真奈 613 1644
4696  週末の夜毎とどろく海鳴りに耳を澄ませばエンジン唸る  蘇生 613 1847
4697  理由なき若き日の反抗心 轟き渡るナナハンの群れ  人真似 613 2334
4698  爆音を立ててバイクが疾走し私の帽子が青空へ飛ぶ たまこ 614 0957
4699  聞き分けが良くていつでも穏やかな仮面捨てて高速ぶっ飛ばす ぽぽな 614 1030
4700  web和歌は仮面舞踏か聖か邪か非日常の尽きせぬ魔力  人真似 614 1113