桃李歌壇 連歌と俳諧

英語のHaiku世界へ

前回、交換留学生に芭蕉の「古池や」の句の感想を書いて貰ったものを
皆さんに紹介しました。今日はその続きで、英語のHaikuへの挑戦です。

英語のHaikuをどうやって作るのか、五七五の定型や切れ字をどう表現するの
か、
季語が英語でも存在するのか、など難しいことを言い出すときりがありません。

私の演習では、最初に、俳句の原点が連歌の発句にあること
俳諧連歌が芭蕉において面目を一新したという歴史を述べた後で、
芭蕉が門弟達と巻いた歌仙「しぐれ」の英訳を参考にし、
それに倣って作句するように言いました。

歌仙「しぐれ」の表六句の英訳は次のようになります。
(訳者は スタンフォード大学の Ueda Makoto さん)

つつみかねて  A Cloud, trying to enwrap
月とりおとす   the moonbeams, momentarily fails--
しぐれかな   a winter shower.
(杜国)    (Tokoku)

こほり踏みゆく Someone walks on icy pathches
水のいなづま  making lightening in the water.
(重五)    (Jugo)

しだの葉を   The New Year's hunter
初狩人の    on his back a quiver
背に負て    adorned with ferns.
(野水)    (Yasui)
 
北の御門を    The northern gate is open
おしあけの春  and the begininng of springtime.
(芭蕉)     (Basho)

馬糞掻く    Over a fan 
扇に風の    that brushes away the horse dung
うち霞み    a hazy breeze.
(荷兮)     (Kakei)

茶の湯者惜しむ The tea master loves
野辺のたんぽぽ dandelion flowers on the roadside.
(正平)     (Shohei)

句数、去嫌などの式目の説明は後回しにし、とにかく
奇数句は英語の三行詩、偶数句は英語の二行詩
両者を併せて、五行詩で一つの世界を表現することを
原則としました。複数の詩人が共作するわけですが
それぞれの句に個性と連帯性の両方が要求されること、
次々と展開される世界が輪廻(同じ趣向の繰り返し)に
陥らないように常に斬新さ(novelty)と多様性を求めて、
先に進むことを基本ルールとして説明しました。

まあ、最初から連歌を作るというのは難しいので、
初めは、三行詩として書かれる Haiku に挑戦して貰いました。
その作品をいくつか紹介しましょう。
(どの学生も、最初の作句です)
 
 
   Green moss on a tree
    a wooden branch clings above
    ants hurry along
( Andres Rodriguez 23才男子学生、チリ、カトリック大学)  
 
   青き苔枝垂るる蔭の蟻忙し 
(あおきこけ しだるるかげの ありせはし)
と日本語訳しておきましょう。
 
The mirror in front,
they see what needs to be seen,
shatters to pieces.
(Scott Nakaatari  22才男子学生 米国、カリフォルニア大学)

  これは何のことか分からぬので、作者に説明して貰いました。
以下はScott君の自句解題です(原文英語)。

-------この俳句で、自己認識、自己のアイデンティティ についての
私の感じを表現してみました。鏡の前に立って自分の姿を見つめている
人を想像して下さい。彼は、自分が何ものであるのか、捉えがたき
自分の心を、本当の自分の姿を見ようとします。
鏡の立場に立つならば、鏡は、彼が求めている答えを与えてくれる
ように思われます。鏡は曇りなき姿を見せて、彼が安らかな生活を
営むことを可能にしてくれるように思われます。

しかし、互いに見つめ合っている二つの存在(人と鏡像)の静謐な
状態は、突如として破局を迎え、鏡像は粉々に砕け散ってしまいます。
像も鏡も永遠に失われ、再生はあり得ません。

鏡は問に対する答えを与えることが出来ず、 その像の重さに耐えれ
られなかったのです。 私の俳句では、砕けたのは鏡だけではなくて、
鏡に映った像でもあります。

もし彼が、鏡の中に 真の自分の姿を見ようとしなかったら、像が砕ける
こともなかったでしょう。その姿が破壊されたのは ある意味で、鏡の
なせる奸計なのです。鏡は心であり、鏡の前に立つ人は答えを求める
意識的存在、 砕けた鏡の破片は、失われた自己のアイデンティティ
なのです------

なんとも難しい解説をつけたものですが、その意図を尊重して、
Scott君の俳句を

姿見に映す我が身も砕けたり
(すがみにうつすわがみもくだけたり)

と意訳しておきましょう。

次は、女子学生の作品を紹介します。

Lone drop of water
zigzags down the windowpane,
gathers friends and gone.

(Lai Lai Ho 21才女子学生 米国カリフォルニア大学)
 
  いかにも嘱目の句という感じで
女性らしい繊細な感性が出ています。
zjgzags という言葉が生きていますね。

これを日本語の俳句にするのは難しいのですが

窓の雨独りジグザグ友を呼ぶ

とでも訳しておきますか。(もっと良い翻訳があれば
是非教えて下さい)

以上、交換留学生の作った俳句をいくつか紹介しました。
皆様の感想などお聞かせ下されば幸甚です。