第100回桃李五月定例句会披講
選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:走り梅雨(迎え梅雨)、窓、酔う(不言題)
雑詠または題詠
兼題1(季題): 「走り梅雨(迎え梅雨)」 素馨さんの出題
兼題2(キーワード題):「窓」 梵論さんの出題
兼題3(不言題): 「酔う」 馬客さんの出題
披講
・18点句
全山のずしりと重し梅雨兆す 馬客
- <芳生(天)>
- 鬱々たる空に比叡山が坐っている光景を思い描きましたが。
- <英治(地)>
- いかにも梅雨の季節到来の雰囲気。
- <柊(地)>
- 青葉に覆われた山塊が雨に濡れる景色を想像しました。
- <双六(地)>
- 椎若葉、欅若葉、鬱蒼とする全山に梅雨の走りの雨が降る。
鬱々とこもる心の内にも、みなぎるものはある。
- <葉子(人)>
- 梅雨の前の山々のたたずまいを見事に写している。
- <潮音(人)>
- 大道をゆく堂々とした表現が印象深かった。「[68]:走り梅雨葉蔭に動く太き鯉」も俳画の味わい。兼題「窓」の「[43]:建ち進む家に窓生れ夏の風」には教えられるところが多かった。
- <明子(天)>
- 堂々とした句だと思いました。全てのものがしだいにしっとり重く感じられるこの季節の
雰囲気が良く出ています。
- <蘇生(天)>
- <丹仙(人)>
- こういう端的にしてものをズバリといい止める句が良いですね。
・10点句
俎に銀の鱗や走り梅雨 素蘭
- <月雫(天)>
- 俎に付いた銀の鱗という鈍い輝きが、走り梅雨の鬱陶しさを深くしるように感じます。
- <ぽぽな(地)>
- 走り梅雨に魚の鱗の銀の取り合わせが決まっていると思います。踊る刃も見えるようです。
87「膨らむ珈琲」は、香りと更に味まで立ち上がってくるようで素敵です。
72「差出人の無い手紙」はサスペンス映画の一場面のよう、想像が広がります。
- <明子(地)>
- 銀の鱗と走り梅雨、ぴったりです。
手入れの行き届いた厨と、まだそんなに重くない曇り空が見えてきます。
- <好鵡(天)>
- 鮮明な風景ですね。キラキラ光ってます。鱗をそいでいる時に降る雨音に気がつきます。自分で釣ってきた魚でしょうかね。
ふつふつと膨らむ珈琲走り梅雨 明子
- <雛菊(地)>
- ホットと走り梅雨の取り合わせうまい。ホットコーヒーそのものは春秋冬いつでも句になるが泡を見つめるたたずまいは肌寒いこの季節にふさわしい
- <芳生(地)>
- <青榧(天)>
- 長雨に閉じ込められた部屋を、生き返らせるかのようなコーヒーのアロマ。サイフォンの中の雨を眺めるのも楽しいですね。
- <水(人)>
- 生きもののように、珈琲が動き出します。 香と味をたくみに助演してくれますね。
- <馬客(地)>
- 梅雨が近い、梅雨に入った等なにかしら
負の状況のようですが、この句に有るように
なんとなく落ち着いた心を得られる季節
でもあります。それが良くでています。
・9点句
泰淳も司馬遷もゐる梅雨の酒 康
- <ぎふう(天)>
- 梅雨もまた良しという気持にさせてくれました。こういう酒を飲みたいものです。
- <浮遊軒(天)>
- 愛読書に囲まれて呑む酒。至福の一時。
- <梵論(天)>
・8点句
窓うつす窓うつす窓なつ燕 ぽぽな
- <梵論(地)>
- <四万歩(天)>
- 夏の光のもとを飛び交う燕の姿が窓に映るさまが鮮やか。力動的です。
- <素蘭(地)>
- ぬけるような青空、屹立するビルディング
無機的な摩天楼を飛び交う燕は初夏の風
- <明子(人)>
- 窓うつす窓うつす・・・と頭のなかでずっと続けてしまいました。
くり返される平仮名のうつの文字が眼に訴えています。
建ち進む家に窓生れ夏の風 英治
- <顎オッサン(天)>
- 爽やかさと生きる喜びを感じます。
- <馬客(天)>
- 建築中の家、窓の形が現れてきた。
施主の「己が家」が着々と出来上がっていく
ことえの素直な喜びが読み取れます。
- <鞠(地)>
- 棟上げも済み建ち進む家、窓がついて住居らしい表情が生まれる。
袋掛ハートの小窓あけてをく 佳音
- <雪女(地)>
- 窓の句で異色かつほほえましい。
- <柊(天)>
- 袋掛けという、殺風景な作業と対比的な、情感のある雰囲気に感心いたしました。
- <素蘭(人)>
- なんとなくほんわかとしていいですね
ただ「をく」は「招く」「呼び寄せる」という意味
ここは「あけておく」なのでは?
- <好鵡(地)>
- 桃か梨か、甘くおいしい果実に育つようにと願いを込めて袋を掛けるのですね。願いが通じるように少しだけ窓を開けておくのでしょうか。
・7点句
半角の歩幅愉しむ冷酒かな 素馨
- <佳音(天)>
- 半角の歩幅という言葉にリズムを感じました。
- <水(天)>
- 「半角」の活用がおもしろい。女性の方の句でしょうか? ひとりぽっちの散策なのか、それとも遠回りしたい相手がいるのかな。 冷酒はゆっくり効いてきます。 男性なら、倍角の千鳥足になりがちですが。
- <好鵡(人)>
- ほどほどがいいんですね、お酒というものは。私なんかつい飲みすぎて千鳥足になってしまいますがね。歩幅より足の向く方向が気になりましてね。
・6点句
駅までは並木伝いの走り梅雨 青榧
- <雪女(天)>
- 走り梅雨の景として自然で無理がなくすっきりして、雨にぬれた並木も見える。
- <鞠(天)>
- 降りみ降らずみの迎梅雨、並木伝いなら傘をささずに駅まで行かれそうな……。
塔見ゆる蕎麦屋の二階走り梅雨 康
- <浮遊軒(地)>
- なんでもない日常の一点景。それでいてなにか心ひかれる。
- <冬扇(地)>
- 寺めぐりの徒次,走り梅雨をよけて入った蕎麦屋なのでしょう。「塔見ゆる」で景が見えた。類想句はありそうですが。
- <静影(地)>
- どこの塔なのだろう。蕎麦屋、しかも二階、という私にとっては日常と非日常が微妙に交錯する空間がいいです。羽織ものを取って畳に座り、窓からは、折しもの雨に霞んだ塔。身近にある旅情を感じました。
長靴の片足いずこ走り梅雨 水
- <雛菊(天)>
- 長靴の片方が見つからない。小さな黄色の長靴かしら。梅雨の最中ではありえないわけで走り梅雨の微妙な季節の一瞬を捉えていると思います。
- <雪女(人)>
- ありそう
- <蘇生(地)>
病室の窓それぞれの人の夏 馬客
- <素馨(人)>
- 外から見ていると、病室というのは、無機質な、同じ大きさの窓が並んだだけの物に見えます。
でも、病人にも、いろいろな人生があり、限られた時間の場所であっても、それぞれの営みもあります。
ずっと前、長い入院生活をしたときの記憶が蘇り、感ずるものが、ありました。
- <英治(人)>
- ドラマがいっぱい詰まった病院の窓々。
- <冬扇(天)>
- 私も夏に家族から病人が出て冬に死なせました。今まで何とも思わなかった病院が,まさに このように。身につまされて一票。ただ,季語の「夏」が動くかも。
- <蘇生(人)>
・5点句
カンバスに重ね置く赤走り梅雨 ぽぽな
- <芳生(人)>
- <双六(人)>
- 梅雨の緑の中、油絵の具の赤が鮮烈なイメージを呼ぶ。
- <潮音(地)>
- カンバスに重ねた赤は燃える夏への希求の思いであろうか。色彩の対比の描写に面倒な手順を踏まずに直接絵の具の赤を持ってきたところが本句成功の所以であろう。
- <静影(人)>
- 雨降る外の風景は青みがかっている筈、画布にはしかし濃い赤を。内面の思いは抑える外界があってこそますます鮮やかになるもの。走り梅雨の語によって力と動きが感じられ、とともに若々しく熱い心模様、とも読めるところがいいです。
ほろほろと右に左に螻蛄の芸 ぎふう
- <しゅう(天)>
- 螻蛄芸というのは、種々の芸を持ってはいるが、それが大した芸では無いという意味。この句には、酔いの体の、左右に揺れる体を、軽く自虐めいて、螻蛄の芸とした、ほのぼのとした味わい深い明るさがあります。「螻蛄の芸」という言葉を「酔う」の不言題に持ち出したのは、螻蛄芸ではないと思います。
- <丹仙(地)>
- 古俳諧のような雰囲気に一票入れます。
消火栓鉄線脱線地も廻り 梵論
- <双六(天)>
- 酔眼に映るは白い鉄線か、おっと消火栓にぶつかりそう、今宵は少々脱線気味、というような心境、下戸には羨ましい。
- <しゅう(地)>
- 無季の句ですね。泥酔感が生なまと出ていて、面白いと思いました。「消火栓」は道路によくありますね、それにぶつかり、「鉄線」は電車の線路でしょう、それを鉄線と表するものも、線路より硬いものがあって良いと思いましたし、その線路の上で「脱線」、ころんでしまったのでしょう、「地も廻り」には思わず噴出してしまう、滑稽ではありますが、そこまで酔う、それは哀しみでもあります。
西行の転び寝見たり花の下 芳生
- <素馨(天)>
- 西行の有名な歌。それをふまえての句ですが、満開の花の下で死にたいと思うのは、多くの人の見果てぬ夢です。
花見の宴で、ほろ酔い気分の中で、ふと過ぎった夢。自らを西行の姿に託したのでしょうか。
- <葉子(地)>
- 西行は花と月の下で死にたい、といったが、転び寝というのは
死を前にして寝ているさまなのか、それとも昼寝?後者だとし
たら、とてもユーモラスで面白いが。
・4点句
走り梅雨新の字にじむ掲示板 潮音
- <庚申堂(地)>
- 4月の、新年度、新学期から2ヶ月過ぎました。92「窓うつす窓」もよかったです。
- <水(地)>
- 活気にみちていた4月をすぎて、そろそろ五月病が芽生えるころ、大学のキャンパスなどで、よく見かける光景。
若葉陰ペガサス作る飴屋の手 明子
- <馬客(人)>
- 子供の頃、飴やさんやシン粉細工のおじさんの
手元を魅せられたように、いつまでも見ていた
ものです。
- <潮音(天)>
- 若葉、ペガサス、飴屋という語が爽快感とともに目に飛び込んでくる。通常ならば不整合を感じさせる「飴屋」と「ペガサス」の二語の取り合わせがこの句では成立してしまっている鮮やかさに暫し呆然。飴細工の題材に天翔けるペガサスを選んだ飴屋(そして作者)の感性・やさしいこころがうれしい。
蟇鳴くやエーテル甘き壜の底 潮音
- <顎オッサン(人)>
- 危うい夜もあるかもしれません。
- <欅(天)>
- そういえば理科実験でやったなあ。
「酔う」では[41]:泰淳も司馬遷もゐる梅雨の酒 は、ネット検索で調べましたが、武田泰淳の著作に『司馬遷』『杜甫の酒』がある以上の背景がわかりませんでした。たぶん深い意味があるのでしょうが・・。
・3点句
蔵窓の外は罌粟畑踊る猫 梵論
- <葉子(天)>
- 罌粟は人を酔わせるが、猫も酔って踊るのだろうか。
シュールで面白い着眼。
繰り言も老いのきざしや走り梅雨 浮遊軒
- <木菟(天)>
- 全く持ってわが心境を代弁してくれた気持ちです。
リビングに砂場の道具走り梅雨 冬扇
- <夜宵(天)>
- 遊び盛りのお子さんと薄暗い雨との対比が新鮮
紗を掛けし夜の球場走り梅雨 好鵡
- <庚申堂(天)>
- 情景が目に映ります。
旅果てのホテルの窓辺鳩の恋 鞠
- <顎オッサン(地)>
- ほっとする光景をすかざす切り取った佳句です。
- <柊(人)>
- 楽しい光景で、旅行の良い思い出になりそうです。
香箸のかそけき音や夜半の夏 ぽぽな
- <静影(天)>
- しんとした夏の夜ですね。闇の広がりのなかで灯のともるような、美しいお酒の情景。カ行音、サ行音の重なりもきれいだと思います。
父に似て年々せっかち走り梅雨 鞠
- <素蘭(天)>
- 諧謔精神も似ていらしたのではありませんか?
千鳥足帰りそびれて夏の月 素人
- <夜宵(地)>
- 羽目をはずした自分を受け止めてくれるような燐とした月なのかな
- <四万歩(人)>
- 酔い過ぎて、はや帰宅の時を過ぎてしまった。ふと見上げれば夏の月が。少しばかりの悔恨が胸のうちをよぎる。
一瞬の幻花曼陀羅花火舟 四万歩
- <ぽぽな(天)>
- 大空とそれを映す水面に萬華。強烈で儚いがゆえの美。花火の色と音の曼荼羅に酔いました。「幻華」の表記にしても面白そうです。
裏窓のアジサイの花今日も雨 東彦
- <青榧(地)>
- あじさいに雨は似合いますが、また、太陽も欲しいですね。紫陽花ですから。
- <素人(人)>
- 「裏窓」、意味深な語でもあります。アジサイと響いてアンニュイな感じが漂います。
でで虫の槍を納めし朝の水 顎オッサン
- <英治(天)>
- 観察がすばらしい。リアリティーが感じられる。
西窓に掛けし背広や朔太郎忌 素馨
- <康(天)>
- 西日の窓、背広、朔太郎、合いますね。詩「晩秋」では窓に「斑黄葵の花」でしたっけ?
走り梅雨することなくて犬洗う 海月
- <素人(天)>
- この心境、共感するもの大です。犬も冬毛の抜け替わる時期で、洗ってもらえると嬉しいでしょう。
酒呑んだからだ末黒の原野かな しゅう
- <丹仙(天)>
- 「からだ」というのを「身體」と漢字で表記して
酒呑んだ身體末黒の原野かな
と書き直してみたらなかなか面白い俳句だと思った
走り梅雨ひんやり重い厨灯 東彦
- <佳音(地)>
- 夏座敷とは対極の湿り気の厨のあかりですね。
- <青榧(人)>
- 梅雨寒と薄暗さ、ぴったりの句です。
・2点句
飛下りろ囁く窓に初燕 旻士
- <欅(地)>
- だれしも経験があること。今回は燕に緊張をそがれたが。
走り梅雨差出人のない手紙 丹仙
- <素人(地)>
- 何かドラマが展開する気配。いろいろ想像を膨らませています。爆発物や有毒物質が封入されていないことを願います。
木洩日を拾い集めて噴井かな 海月
- <ぎふう(地)>
- 光のきらめきが見えるようで清々しい一句だと思いました。
駄々こねるワイシャツ夏の月皓々 佳音
- <月雫(地)>
- 大の大人が駄々をこねてる、不思議な感覚の句です。ヨッパライの特性を良くご覧になられてると察します。それだけに「晧々」まで言うのは蛇足のような気がして残念でした。
走り梅雨水琴窟はアレグロに 欅
- <ぎふう(人)>
- 水琴窟の音色の調子が変わっていることに気づいて、それから雨が降っていることを知ったのでしょうか。
- <鞠(人)>
- 「走り梅雨」と「アレグロ」が韻きあって、速さを感じさせる。
尼御前の肌の白さ走り梅雨 佳音
- <康(地)>
- 裾をちょっと摘んでいたでしょうか。風情があります。走り梅雨にぴたりです。
宙に舞ふ柳絮に心奪はれし 柊
- <木菟(地)>
- 自然はいつも思いがけないときにはっとする美しさを垣間見させてくれます。
神鶏の羽を濡らして走り梅雨 柊
- <四万歩(地)>
- 雨に濡れる神鶏の羽のさまが鮮明です。
武者窓を覗く薄暑の天守閣 柊
- <雛菊(人)>
- 武者窓にひかれました。
- <木菟(人)>
- 天守閣はいかめしい顔をしてあたりを睥睨していますが意外とお茶目な面もあるのです。
今年こそ鬱になるまい走り梅雨 雛菊
- <素馨(地)>
- まだ本格的な梅雨に入る前の雨。
今年は、5月に入ってから、雨の日が多いようです。
まさにこんな気持ち、と同感しました。
・1点句
合鍵のきしむ五月や国の窓 水
- <康(人)>
- 何かいまの為政者たちのうろたえぶりを暗示してますね。
走り梅雨三年坂の石畳 芳生
- <冬扇(人)>
- しみじみとした佳句と思う。梅雨に濡れて行く石畳の風情がよい。
生れしより祈る浮き世や糸とんぼ 顎オッサン
- <庚申堂(人)>
薫風やどの家も窓開け放ち 浮遊軒
- <月雫(人)>
- まさに薫風ながれる町の様子という感じです。
雀らの賑々しくも迎へ梅雨 好鵡
- <梵論(人)>
銃身を磨く夢見て走り梅雨 素馨
- <欅(人)>
- 作者様は従軍体験がおありなのでしょうか。だとしたら、背負っておられるものの重さに言葉もありません。
新樹光壁に窓なきICU 欅
- <佳音(人)>
- 外は初夏、その対比がきれいで、胸が痛い。
はめ殺し窓に閉じ込む赤い薔薇 雛菊
- <ぽぽな(人)>
- 「はめ殺し窓」という言葉の魅力を生かしている句だと思いました。美しいものは独り占めしたい。「青髭伝説」を思い出しました。
12「駆け上がり」はすがすがしさが一貫の句
玉砂利のにぶく光りてむかへ梅雨 蘇生
- <浮遊軒(人)>
- 観察眼のするどさとでもいうか。誰もが見ているのですが、それがなかなか句にならない。
しづかにて身にもふれなん落花かな 蘇生
- <しゅう(人)>
- これは、短歌を俳句にされたものではないでしょうか、かつてこの句のような短歌を読ませていただいて、ふかく感銘したのが、記憶に新しい。桜が散って風に運ばれてくると思わず、手のひらで受けたくなりますが・・、「しずかにて」という作者の「酔い」に、作者のこころの平安があり、ゆったりしていて、句としても惹かれました。
同期会ジョッキを伏せて飲めぬ振り 冬扇
- <夜宵(人)>
- 女性の歌だと思うと艶っぽい