第105回桃李10月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:柿、木犀、イチロー(不言題)

秋の句 雑詠または題詠

兼題1(季題): 「柿」
兼題2(季題): 「木犀」
兼題3(不言題):「イチロー」 (祝大リーグ安打記録)     


披講


・14点句

母老いて顔中で食ふ熟柿かな  たま
<佳音(天)>
お母さまの柿を召し上がっている表情が目に浮かぶようです。

<月雫(天)>
さぞかし やわらかで 美味しかったでしょうね
親に対する思いが 痛いほど伝わる句です
野口英世とその母親の話を思い出しました

<葉子(天)>


<白馬(天)>
田舎で暮らしていた頃の若く美しかった母は、裏庭から取ってきた熟柿を淑やかに
大事そうに食べていた。今は作者は都会での勤めを終え、母を引き取って同居している。たまたま熟柿が手に入ったので母に与えた。
嬉しそうに「顔中で」食べる母。ふと、昔の母の姿も思い出されて−−−。

<馬客(地)>
歯の無い老母がたべられる柿は熟柿だけ。
でも嬉しそうに召し上がるお顔がみえるようです。
”顔中で食う”が言いえて妙。


・11点句

便り来る木犀香りますとのみ  双六
<青榧(天)>
木犀の香ることを伝え合うだけで、十分な間柄なのでしょうか。それとも、作者に残ったのが木犀が香るという文だけだったのでしょうか。どちらにしても、詩情豊かな佳句だと思います。

<童奈(地)>


<庚申堂(地)>
優雅ですね。

<欅(人)>
○○の花咲くとのみの便りがある、という句がほかにもあることはこの句が良い句であることを少しも損ないません。良いお友達に恵まれておられてお幸せですね。

<素酔(天)>
こういう便りをもらった人は何を考えるのでしょうか。喚起力のあるいい句だと思いました。


・9点句

定年の男の歯型富有柿  潮音
<雛菊(地)>
この写生はすごい。これまでの人生が柿に歯形として複写された。
男っぽくてなんか惹かれる好きな句です。

<佳音(地)>
木の下で、丸のまま、子供のときのようにかじってみたのでしょうか。
あの頃とは違う大人の歯型。

<梵論(地)>


<馬客(天)>
歯型からみればまだまだゲンキなのだが。
富は無いがヒマだけはしこたまあり。
と読んで同感限りなし。

祖母の家更地となりて柿残る  頼髪
<鞠(天)>
 わが家も親譲りの柿三本との共棲みが長い。時としてわが死後の柿の木たちの
運命を思うことがある。

<素人(人)>
身近な話題です。それゆえに共感するものがあります。

<童奈(天)>


<素酔(地)>
柿の木は、家族の歴史を刻むものであり、ときには、その土地の周辺の人々の記憶の中にあるものかも知れません。この句に、そんな柿の役割を気づかされました。

木犀や猫に猫道子に子道  たま
<雛菊(天)>
人間だって動物だってこだわりのある道あるもん。
ここしか通らないぞーみたいな。なんか人生のようでもある。

<潮音(地)>
非常に強い印象を受けた句です。「猫に猫道子に子道」に惹かれた一方、引っかかりも感じましたので、わたしなりに時間を使って、この句についてあれこれ考えました。結果、やはりこの表現はすばらしく、この句は非常にいい句だと思いました。

<双六(地)>
猫好きには、通り過ぎることの出来ない句です。金木犀の散り敷くあたりの生垣の下は、猫の通り道だったりして…。
それに、あの空き地の金網は丁度、子供がくぐれるほどの穴がいつも開いているのです。

<康(地)>
猫には猫の、子供には子供の世界がある・・・・キンモクセイかなあ、そのかおりにつつまれてふとそう思った。


・8点句

千万の目で追ふ打球秋麗  青榧
<ぽぽな(人)>
正にその通り。潔く言い得ている句。

<童奈(人)>


<東彦(天)>
目「が」追うの方が尚皆の思いが集中しているように思う。秋麗が動かないか。しかし、いい。

<頼髪(天)>
世界の野球ファンの期待がよく表現されて
いると思います。

木犀の疾うから闇の中にいる  木菟
<梵論(天)>


<硝子(天)>
既存のものに気づいたことを反語的に詠むことで、木犀の香の連想に留まらず作者の自我意識のようなものを感じました。

<たま(地)>
ずっと以前から木犀はあったのに花が咲いて芳香を放つまで、それと気づかなかった。忙しい生活をおくっている人のふっと立ち止まっている姿がみえるようです。


・7点句

木守り柿国の行方が気にかかる  雛菊
<ぽぽな(天)>
作者の思いが、あたかも高い枝から柿が鳥瞰(柿瞰?)し、国の成り行きを思案しているかにも読めて”旨い”句です。

<素人(地)>
同感です。先細りで実に不安です。栄枯盛衰、万物流転と達観してれば良いというものでもありますまい。とはいえ、何が出来るのだろうかと。

<素蘭(地)>
まことに…


・6点句

ああそこにゐてくれたのね金木犀  素蘭
<鞠(人)>
 花時以外は全く目立たなくて、毎年のことながら香気が辺りに漂い初めてから
気付いてみれば、小花がびっしり灯っている、それが金木犀。

<青榧(地)>
ああこういう句もありなのね。とても、いい感じです。初心者なのでまず写生に励んでいますが、私もこういう句を作りたいなと思います。

<木菟(天)>
そこはかとない香りにはじめて、いつものところにひっそりとたたずむ金木犀に気付いた喜びが伝わって来ます。

シアトルへ祝いの飛脚新走  徳子
<雪女(地)>
「新走」がぴったり

<白馬(人)>
飛脚に祝いを託す。新走を同封して。
脚で得た大記録。イチローさんおめでとうございます♪

<明子(天)>
飛脚、新走などの文字がイチローの姿を彷佛とさせて、うまい!と思いました。

柿の木や古りし屋敷の門構  童奈
<浮遊軒(天)>
村里を歩けばどこにでも見られる、いわば日本の原風景を詠んだ句。

<東彦(人)>
平凡かなと思いながら、この句のもつ古い日本の取り合わせに1票。

<木菟(地)>
何の変哲もないけれど、柿の木にはそんな古めかしさがあるようです。


・5点句

金木犀香るよエリーゼのために  ぽぽな
<徳子(地)>
エリーゼのためを弾くピアノの音が聞こえて来たのでしょう
金木犀の香る庭に。こんな風景が私にもあった。

<潮音(天)>
こどもがピアノのおけいこに。ピアノの先生の家には金木犀の花。なんだか、自分の子ども時代のデジャ=ヴュを感じてしまいました。「香る『よ』」が実におもしろいですね。実は「『金木犀の香』とか『金木犀の細かい花が地面いっぱい降り敷いている』とかの句には投票しないでおこう」と思っていたのですが、流石のレベルの高さ。これらの意匠の句に魅力的な句がたくさんあって選ぶのに苦労しました。

銀木犀生徒手張が落ちてゐし  康
<雛菊(人)>
金木犀ではなく白い花の銀木犀だからいいのですね。
金木犀だと道に降った花に隠れて見つかりませんものね。
落ちてる物が生徒手帳というのがいいとおもいました。

<月雫(地)>
自分だけの特等席と思っていた 銀木星の香る場所に
他人の手帳が落ちていたと 捉えました
生徒とあるだけに 思春期の 得体の知れぬ 怒りや不安とが
特等席をより特別な場所に 思わせてくれます

<硝子(地)>
取り合わせの妙、木犀の銀が効いています。生徒手帳(今もあるんでしょうか)を落したのはきっと、学校を抜け出した○○君・・・

木犀を過ぎてより手をつなぎ合ふ  硝子
<雪女(天)>
木犀の香の気分はこれ

<頼髪(地)>
木犀ときて自分がはじめに思い浮かべるのは
『歩く』ということでした。
歩くと言わずに歩いていることが表現されて
いて、「この 手 があったか!」という感じです。

記録てふ破らるるもの天高し  たま
<浮遊軒(人)>
季語の斡旋が上手い。

<まよ(天)>


<康(人)>
天高しにふさわしい爽快さですね。(この句に較べて、1番の句の味気なさ、気になります・・・)

金木犀散らし狭庭の浄土かな  雪女
<白馬(地)>
金木犀の落花でいっぱいの庭。
そこに浄土を見た。幸せな一時。

<素蘭(天)>
金木犀を散らした庭土に秋の西日が差し込むと
辺り一面黄金色に照り映えた浄土を幻出し
作者自身光に浄化されているようです


・4点句

球界にムサシ現はる柿たわわ  晴雨
<双六(天)>
イチローの、バッターボックスのあのポーズから、宮本武蔵を連想したのは私ばかりじゃなかったのですね。「柿たわわ」の季語で、武蔵が柿の実る村を歩いてゆく情景などが、オーバーラップしつつ、イチローの姿に柿の明るい色が映えているようなイメージをいただきました。

<素馨(人)>
この不言題は私には難しかったので、感心しました。

連日の雨に木犀ほのかなり  静影
<木菟(人)>
可もなく不可もなく、俳句はこんなものでしょう。

<欅(天)>
今年は台風が多かったですね。雨の後はいろんな匂いがします。

白球の秋の光を返しけり  雪女
<顎オッサン(天)>
爽やかな句です。
一般的な球児の句として通用します。
打球を打った時の様子と思いますが、
少し解りにくい感じがしました。

<庚申堂(人)>
イチローを句にするのは難しかったですね。なんとなく、258本目(?)のセンター前ヒットを思い浮かべました。


・3点句

柿ふたつ施設の父母にみやげとし  素馨
<徳子(天)>
多分行き届いた老人ホームに入所しているだろう父と母へは柿一つずつで充分子供の愛情は伝わる。柿がまだまだ元気な御両親が想像されて嬉しいです。

木犀や目を閉ぢて入る父の庭  佳音
<たま(天)>
よい香りがすると何故か目を閉じるんです。勝手知ったるお父様の庭ならなおの事。もしかしたらお父様はすでに亡くなられたのかも・・・とも思いました。木犀の香りのことには触れずに香りを想起させているところがよいと思いました。

木犀の香る家並に住み慣れて  まよ
<康(天)>
銀木犀かもしれませんね。仄かな匂いにつつまれて、ふと見回した夕暮れの家並。市井の小さな幸福を感じる一と刻・・・。

先人を敬すればなお登高す  馬客
<素人(天)>
イチローの人となりを上手く伝えて共感。

秋茄子にほどよき塩を送りをり  顎オッサン
<英治(人)>
季節の生活感あり。個人的には「・・送りけり」と達成感が欲しい。

<素馨(地)>
何でもない句ですが、ほどよき、という言葉が生きていると思います。

金木犀何かを思いだしそうで  明子
<英治(天)>
たしかに。この強烈な香りに、思いが中断される。

戦争は終わりましたか熟柿生る  顎オッサン
<素馨(天)>
戦争と柿の取り合わせがいい。

縁日の花魁道中秋うらら  浮遊軒
<四万歩(天)>
「秋うらら」の季語が縁日の花魁道中に適合しています。いかにものどかな秋の1日。

修行者の破顔一笑秋の風  硝子
<毬栗(天)>
静かな面差しの修行者(イチロー)のこぼれるような笑みが
「破顔一笑」の4文字でパーッと目の前に浮かびました。
秋の風の季語も爽やかで似合ってます。

せうせうと雨降る中の銀木犀  柊
<庚申堂(天)>
木犀は、なぜか雨や、風、落ちた後などの情景が似合います。今年も台風などに虐げられた金木犀をよくみました。

盗れ盗れと誘いて枝の柿朱し  馬客
<顎オッサン(人)>
これはまさに「人」の句です。

<まよ(地)>



・2点句

秋うらら努力という字好きになり  雛菊
<佳音(人)>
努力の文字には筆字(それも太筆)が似合うと思っていましたが。
たんたんとした努力は素敵です。

<頼髪(人)>


錦秋や自らを超え新記録  鞠
<葉子(地)>


226より68年後262  康
<欅(地)>


かくれんぼの服に木犀よく沁みる  月雫
<顎オッサン(地)>
上五の字余りが「かくれんぼのじれったさ」「沁みるlに
よく呼応しています。
でも「染みる」のほうが普通ではないでしょうか。
「沁みる」にした訳を聞きたい気がします。

神苑に散木犀の円を描き  鞠
<東彦(地)>
何処の神苑か。古い大きな金木犀の木が円柱状に手入れしてあり、その木のままに、金木犀がこぼれている様が、まざまざと分かる。「39」の銀木犀と生徒手帳の取り合わせもミステリアスでいいが。

路地裏のひととこ明し金木犀  馬客
<明子(地)>
金木犀の周りには独特の明るさが感じられます。

木犀やいきなりぐらと君がゐて  ぎふう
<ぽぽな(地)>
「いきなりぐら」と来るのは地震。それほどの衝撃であの人があらわれました。木犀から漂う香りも伴って気の遠くなるほど一瞬を醸し出しています。
[22]かくれんぼ、[102]猫道子道と、子供との相性が良い木犀を発見しました。

渋柿の木に柿満ちて利かん坊  ぽぽな
<浮遊軒(地)>
利かん坊がよく効いている。

体育の日のヒーローの快打かな  まよ
<鞠(地)>
 天災・人災、日々のニュースの暗さを吹き飛ばすような快挙。

柿剥けば鈴鹿連山夕茜  双六
<英治(地)>
語調が中々良い。

一枝の柿に夕日の暮残る  硝子
<毬栗(地)>
一枝に残る柿に、夕日のオレンジが乗り移ったような・・・
美しい秋の夕暮れの光景です。

爽やかや262本の大記録  東彦
<四万歩(地)>
「爽やか」の季語の取りせが中七下五の文章にぴったりです。


・1点句

干し柿に円谷の遺書思ふかな  素馨
<青榧(人)>
吊るし柿は 秋の農村の原風景ですね。素朴な干し柿、円谷の遺書に感じられるその人柄、しみじみとした取り合わせだと思います。『父上様、母上様、三日とろろ美味しゅうございました。干し柿、モチも美味しゅうございました。敏雄兄、姉上様、おすし美味しゅうございました。−略−』

またしても内野安打の小春かな  英治
<素酔(人)>
言いえて妙。描写は批評である、ということでしょうか。

みちしほの月を掬ひぬ厳島  顎オッサン
<毬栗(人)>
満ち潮の厳島に月がぽっかり浮かんで、
海面すれすれの月を波が掬い取っているようで。
とても美しい光景ですね。

木犀の香りに杖つく音の止む  素人
<葉子(人)>


累累とまた兀兀と天高し  素蘭
<徳子(人)>
天才でも累累と兀兀と努力の積み重ねなのですね。

別れても傍にいるよな木犀花  夜宵
<まよ(人)>


垣ごしの柿の朱きを目で喰らひ  梵論
<馬客(人)>
カキごしのカキのあカキをめでクらい。
カキを三つ、句末もカ行のクで締める。
この工夫に一票。

柿の実しんじよ派出所の黒電話  佳音
<潮音(人)>
「しんじょ」といえばわたしは「えびしんじょ」を思い浮かべますが、「柿の実しんじょ」は知りませんでした。派出所の巡査さんがそれをたべていたのでしょうか。となると、柿のなる里の派出所なのでしょう。山里の風景が鮮やかに目に浮かびます。(いや、「駐在所」ではなく「派出所」ですから都市部なのでしょう。)柿ではなく「柿の実しんじょ」なのがおもしろいですね。五七五にする方法もあるとおもうのですが、リズムが乱れるのを厭わずに、「ものふたつ」の名詞だけをならべたうえに体言止めにしておられるところに作者のこだわりを感じます。この句自体は成功かどうかはわかりませんが、非常に真摯に作られた句だと思います。

柿の実のしんと熟れたる天花村  康
<たま(人)>
過疎の村でしょうか。しんと熟れたるでいただきました。

柿の村鐘は影絵に衝かれけり  晴雨
<素蘭(人)>
私の生地も柿の産地なので
この光景しっかり記憶に刷り込まれています

金木犀香を失ひて風に落つ  四万歩
<梵論(人)>


金木犀少女の赧き耳たぶに  潮音
<双六(人)>
可愛いですね。あの十字のひとひらを、少女のピアスにしてみたいと思うのは…男性でしょうか。女性のノスタルジアでしょうか。

金木犀平たき峰の明け初めて  白馬
<四万歩(人)>
金木犀の香りがただよってくるさまが実感できます。2句の取り合わせが効いています。

少年は佇みてあり熟柿落つ  白馬
<月雫(人)>
佇む少年と 熟柿の取り合わせが 面白いです

背番号51つけ案山子立つ  月雫
<硝子(人)>
今年の秋はこんな案山子が結構いたのでは? たとえユニフォーム姿でなくとも、あるいはそれだからこそ、きっと皆の口元はほころんで、あらためて誇らしい気持ちに・・・

象の守る多聞天あり柿日和  毬栗
<明子(人)>
古都奈良の空気を感じます。柿が似合いますね。

取る人も無き柿を食ふ里の熊  東彦
<雪女(人)>
表現にもう一工夫ほしいような気もしますが、自分が「柿食う熊」でうまくつくれなかったもので。