第106回桃李11月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:紅葉、時雨、地震(不言題)

晩秋または初冬の句 雑詠または題詠

兼題1(季題):      「紅葉」
兼題2(季題):      「時雨」
兼題3(不言題):     「地震」

披講

・18点句

風通すだけの帰郷や柿紅葉  明子
<青榧(天)>
住む人も無い大分の山の中の、妻の実家を思い出しました。紅葉、紅葉というが、私の家の周りは紅葉だらけだったとは妻の言葉です。

<東彦(地)>
誰も住まぬ故郷の家に風を入れに帰る。雨戸を開けると目の前に柿紅葉が色づいている。誰も居なくても自然は巡っている。何時帰れるのだろう。

<潮音(人)>
どのようなご事情で故郷を離れておられるのであろう。故郷と自分との距離や故郷とのつながり方などさまざまなことを考えさせていただいた。切っても切れない縁。切りたくても切れぬ縁。
「風通す」で、つい夏のイメージを持ってしまうのだが、秋に帰郷された作者の実感を尊重したい。
もし、作者が先般の新潟中越地震や大型台風の被災者で一時帰宅を詠まれたものなら、災害を免れたわたしが安直な感想を書くのは失礼かと思いつつ。

<雛菊(天)>
ご両親は亡くなり空き家になっているのだろう。そこへつかの間の帰郷。ふと庭に目をやると紅く色づいている柿の木。思い出すのは柿の木に登った自分と兄弟たち。そこには若き両親もいて。作者の回想が伝わってきます。

<まよ(地)>


<旻士(天)>
この句はうまいですね。
いや、一語一句が活きています。
まさに、現在の男親宅への帰郷風景ですね。
(おっと、この特定の仕方はまずいかな)

 とくに「柿紅葉」が感服いたしました。

<虹子(地)>


<たま(地)>
待つ人のいなくなってしまった故郷の家。家に風を通しに一年に数回だけ戻る故郷。柿の木は昔と変わらずにたっている。ああ、柿の葉が色づきはじめている・・・。


・13点句

ひとりゐのやうにふたりゐ初紅葉  硝子
<青榧(地)>
なっとくできます。

<英治(天)>
世のことば言い尽くしたる二人です。

<佳音(人)>
紅葉に奪われる目、おのおの。

<康(人)>
しみじみとしたモノクロの空間に、配される初紅葉の彩り。ふたり並んで腰掛けて、黙ってながめているふたり。言葉のいらない世界ですね。

<双六(天)>
寡黙な二人が向う山の一刷けの紅葉を見つめ、それぞれの想いに耽っている情景が浮びました。お互い空気のようであって、しかし孤立しているわけではない、そんな関係でしょうか。すべて「かな」で表現されたところが美しいと思いました。

<たま(天)>
お互いが空気のような存在になったご夫婦でしょうか。初紅葉のさりげない
置きかたに二人の年輪を感じます。


・12点句

美しく朽ちるは難し紅葉焚く  馬客
<白馬(天)>
紅葉を焚いている。美しい紅葉、そうでもない紅葉。
老人介護にやや疲れ気味の日々。
私は美しく朽ちたいと思う。

<柊(天)>
落ち葉を炊く静かな時間に感じるのはこのようなことではないでしょうか。

<木菟(地)>
人生の終焉も似たようなものかも知れませんね。

<素人(地)>
同感です。美しく朽ちる意義もなさそうに思えてきました。

<水(地)>
「ちる」ではなく、「くちる」ですね。 結局、火葬をえらぶ。


・11点句

しぐるるや夜汽車ととのふ車両基地  英治
<潮音(天)>
すでに暗くなっている操車場でひそやかに準備を整えた汽車が点した前照灯。時雨の中に浮かび上がった明かりによって気付いた夜汽車の息遣い。汐留などの大きな操車場の汽車が夜の鉄道をゆく遠い旅程までを想像させる壮大な句と存じます。

<素酔(地)>


<馬客(地)>
「ととのふ」でちょっと鑑賞に惑いました。
整える動きを詠まれたのか、その動きの後の
整った静謐のひと時を読まれたのか。
当方の文語理解力ふそくですが。いずれにしても
好きな句です。

<頼髪(人)>


<硝子(天)>
「ととのふ」の措辞に惹かれました。
時雨の夜半、出かけていくために用意遂せて並ぶ車両・・・色気のようなものを感じます。


・9点句

水底に着きて紅葉のまだ流る  月雫
<芳生(地)>
観察が効いている。

<毬栗(人)>
よく観察されています。

<鞠(地)>
 水底が見えるほど澄明な流れに沈み、共に流れる紅葉の美しさ。

<馬客(人)>
素直な句の好例ではないでしょうか。

<虹子(天)>



・8点句

モツ焼や端の客より時雨来る  素酔
<碁仇(人)>
「や」の切れが少し強すぎる気はするが、雰囲気はでている。
「端の客より」としたところが手柄であろう。

<白馬(地)>
夕闇迫り来る時刻の屋台。モツ焼で一杯し始めたら、しょぼしょぼと時雨が
やってきた。北側の端のお客さん濡れないようにもう少し奥にどうぞ。

<顎オッサン(天)>
屋台の風景ですね。
下町の人情は時雨に負けぬ。
今日も一杯ですか?!

<径(地)>
数人でいっぱいになる小さなお店。
入って来たお客が「外は時雨れてるよ」と告げて、端っこへ座る。
ひとしきり「おおっ」というささめきが伝わる。
「端の客より」がそんな情景を描かせてくれました。

所詮われらマントルの上の冬の月  英治
<碁仇(天)>
地震の句のなかで一番だとおもう。
不言題なので「地」とか「震える」「揺れる」とか使えば当然減点。
「所詮われらマントルの上冬の月」としたほうが良いかどうかは、
意見の分かれるところだろうと思う。
個人的には「マントルの上」で切る方が、好みではある。

<顎オッサン(地)>
どうしようもないマントルという流れと
煌々と照る月の取り合わせが良いですね。
ただ「上の」の「の」は要らないでしょうね。
説明的になり句が緩みました。
なかったら天にしていました。

<素蘭(天)>
日本列島いたるところに活断層
地震による被害は本当に他人事でなく…

中七の「マントルの上(へ)の」という発声はいただけません
「マントルの上(うえ)」と切った方がすっきりしませんか?

角突きの牛に手塩や初しぐれ  好鵡
<童奈(天)>
手塩を掛けて育ててきた牛もこれから寒い冬となる。心配気味の飼い主の心が伝わります。

<東彦(天)>
闘牛で一戦終わった牛の全身から湯気が立っている。冷ますように時雨が降る。手塩もて戦いを癒している。作者の目の優しさ。

<毬栗(地)>
牛に対する優しさが、ひしひしと伝わります。

紅葉且つ散る看板の塩一字  佳音
<顎オッサン(人)>
「塩」「たばこ」「切手」という看板がありましたね。
山峡のお店の前に素晴らしい紅葉があったのですね。

<雛菊(地)>
看板の字見えぬ謎。看板摩耗説か、散る紅葉に隠れたか。もしや看板に消えてしまった字は塩原ではないだろうか。ここは紅葉の名勝地。

<ぽぽな(地)>
山里の小売店が目に浮かびます。静かな秋です。紅葉が散る広い情景から看板の一字に絞り込んだダイナミクスが効いています。

<径(天)>
昔、塩が専売だった頃の山里のよろずやの看板。
今は店も閉めているけれど、錆を浮かせながら残っている。
そんな懐かしくもわびしい風景が浮かびました。


・7点句

コーヒーの湯気の向こうの時雨かな  庚申堂
<英治(人)>
コーヒーの暖かさ、時雨の冷たさが・・。

<鞠(天)>
 コーヒーの湯気と時雨と、日常の何気ない景色が、しっとりと描かれている。

<夜宵(人)>


<四万歩(地)>
意外な取り合わせが旨いです

三島忌や活断層の上に住み  鞠
<雪女(天)>
今回三句とも地震で頂きましたが、三島忌と活断層にはうなりました。
句型もすっきりしてインパクト強し。

<素人(人)>
面白い捉え方と思います。三島忌と組み合わせたのがいっそう面白い。

<双六(地)>
三島自決のあの日、日本中を激震が襲いました。我ら活断層ばかりの日本列島に住むという感慨に三島忌を取り合わせたところに感服しました。

<径(人)>
あの事件は本当に衝撃的でした。
いつ何が起こるか分からない世の中。
そう言えばわたしたちの足元の大地には、
いつどうなるかわからない活断層が縦横に走っているのですね。
緊迫感に惹かれました。


・6点句

大焚き火おのこおみなの逞しき  双六
<雪女(地)>
やはり「逞しさ」こそが希望です。

<康(地)>
天災のあと、人間のもつ潜在的な勁さをいつも感じます。大きな焚き火がそれを象徴してますね。

<庚申堂(地)>
頑張ってほしいです。


・5点句

釣銭を紅葉明かりの掌に享けし  康
<童奈(地)>
掌に揺れる紅が見えるよう。

<庚申堂(天)>
いいですね。紅葉の赤よりセピア色の情景が浮かびます。紅葉は手にもかかるのでしょうね。

掌で拭ふ鏡のくもり小夜時雨  虹子
<まよ(天)>


<明子(地)>
時雨の夜の湿気を含んだ冷たい空気を感じます。

西高東低新潟はしぐるるか  明子
<佳音(地)>
天気予報を見るたびに被災地を思います。

<馬客(天)>
「新潟」を「故郷」と読み替えて声に出して
みました。
「不言題」としても当確でしょう。

揺るがすは木枯なれど子をかばう  馬客
<水(天)>
余震におののく日々。

<旻士(地)>
 昨日も釧路で大きな地震が揺りました。
 まだまだ新潟でも余震がありそうです。
 この句の景色はまさに当地では実感として捉えられていることでしょう。
 うちも妹の嫁ぎ先の実家が神戸市長田区で大変でした。
 今年の種種の天災被災地が早期に復興されますことを祈ります。

地も天も荒ぶるゑちご神の留守  月雫
<白馬(人)>
本当に神の留守を狙ったような中越震災。
その爪痕が痛々しい。

<葉子(天)>


<木菟(人)>
ピッタリの季語があって驚きました。


・4点句

紅葉やカーブで変わる山景色  雛菊
<ぽぽな(人)>
カーブを曲がる度に変わる山の相。山間のドライブの楽しみです。「カーブで変わる」の表現が決まっています。

<四万歩(天)>
観察している目があります

冬の月幽明分かつ大巌  径
<葉子(地)>


<柊(地)>
運命としか言いようのないことが人の世には有ると思います。

去来の墓そのほどよきに時雨くる  双六
<康(天)>
「凡そ天下に去来程の小さき墓に詣りけり  虚子」ですね。さっと過ぎる時雨が似つかわしい。以前、真鍋呉夫さんが「こんなに小さいんだよ」と赤ちゃんを抱っこするような仕草をされたのを思い出します。

<旻士(人)>
 この感覚に共鳴いたしました。
 私は西行法師の墓によく訪ねていきましたが、何度かほどよい時雨に会いまし  た。
 細い雨に打たれて、木々の葉や落ち葉がわずかに音を鳴らす様は、まるで故人の
 囁きのような気がします。

狭庭とて村一番の草紅葉  芳生
<毬栗(天)>
わが庭の紅葉自慢がとても爽やかですね〜

<虹子(人)>



・3点句

池の面に音なく時雨呑まれけり  たま
<木菟(天)>
経験ありませんが、多分時雨の池の面はこんな感じではないでしょうか。

眼裏の故郷の廃家蔦紅葉  木菟
<芳生(天)>
故郷を思う気持ちが惻々と。

しぐるるや母の時間は奔放に  径
<童奈(人)>
意外性。「奔放に」とはなかなか。

<硝子(地)>
「母の時間」という。歳を召された、もしかしたら少し呆けた母上の・・・ととらせていただきました。
降ったり止んだり、ひとしきり降ったと思ったらすぐ晴れて・・・幾年か介護した姑は、そう言えば時雨と似ていました。

母の泣く夢見し朝の時雨かな  康
<雛菊(人)>
作者のせつない気持ちがわかります。

<月雫(地)>
天で戴きたかった句でしたが 中7のリズムのもたつきが 気になりました
しかし、こういう夢は嫌なもんですね

近江路のたより時雨しまま届く  硝子
<佳音(天)>
決して先方の雨をそのまま持ってきたのではないでしょうが、近江よりの便りを手にした瞬間に感じた重みを時雨と結びつけた感覚が好きです。

大方の杖差す先の谷紅葉  英治
<月雫(天)>
険しい登山の末の 谷紅葉なのでしょう
大方という曖昧さが良いです

鶏眠る屋根にも降らむ紅葉かな  素蘭
<素酔(天)>


落書きの相合ひ傘や泣き時雨  晴雨
<夜宵(天)>


時雨るるや埋火いまだ消えやらず  童奈
<素人(天)>
怒りでしょうか、後悔でしょうか。未だ囚われて吹っ切れないでおるのですね。
二重季語ですが、かえってやるせなさがつのります。

紅葉狩まずは田楽食べてをり  雛菊
<頼髪(天)>


透明な足湯に落ちし紅葉かな  毬栗
<英治(地)>
白いご婦人の脚も目に浮かぶ。

<鞠(人)>
 足湯に散り込む紅葉からも温もりが感じられる。

しぐるるや女の雨と思ひけり  まよ
<明子(天)>
さっと来てはまた晴れ、青空と思えばまたぱらぱらと・・・
こんなきまぐれさが、女性の特質と重なるのでしょうか。


・2点句

湯どうふをくつくつ揺する地球かな  硝子
<水(人)>
火力、地震、酒酔いが複合する揺れですね。

<明子(人)>
私もいつ揺すられてもおかしくない土地に住んでいます。

時雨るるや仕掛けおもちやのふと騒ぐ  ぽぽな
<青榧(人)>
時雨降る静寂の中、時折の物音、はっと我にかえるようなこと、あります。

<たま(人)>
時雨と仕掛けおもちゃとの意外な取り合わせが新鮮です。

全村の崩れ傾く神の留守  まよ
<芳生(人)>
季語が効いている。

<四万歩(人)>
「神の留守」がうまく使われています。少し付きすぎかも。

地に降りて地の色となる紅葉かな  青榧
<庚申堂(人)>
私は、こういう句好きです。

<双六(人)>
鮮やかな紅葉も、地に降ってやがて地の色に同化し、土そのものに帰って行くという時の流れを一息に詠まれているところが美しいと思います。

谷紅葉声ばかりする札所道  四万歩
<潮音(地)>
谷紅葉を俯瞰した構図が見事。巡礼の経験がないのでどこの札所の光景かは存じませんが、祖谷渓などの紅葉はきれいでしょうね。谷紅葉に見取れて足を止め、渓流の音に混じるのどやかな人声が聞こえてきたのでしょうか。

慟哭す地球はこのごろ秋心  旻士
<夜宵(地)>


日を透かし桜紅葉を見てをりぬ  頼髪
<素蘭(地)>
きっと大切な桜の一樹がおありなのですね

ぶらぶらと時雨の銀座画廊まで  柊
<頼髪(地)>


紅葉山一歩一歩を丁寧に  たま
<碁仇(地)>
作者の生き様が現れているような、好感のもてる一句である。


・1点句

震源に小春日和ぞ贈りたし  ぽぽな
<雪女(人)>
なにより贈りたいものです。

いさかひは終わりましたか熟柿散る  顎オッサン
<葉子(人)>


熊去って地面波打つ柿の里  晴雨
<東彦(人)>
今年越後の熊はどんな秋をおくっているのか。ひもじい腹をかかえて眠っているのか。自然現象は平等に残酷である。

なにものか斃れたる痕蔦紅葉  梵論
<素酔(人)>


一行も書けぬ日記や小夜時雨  毬栗
<月雫(人)>
時雨が 書けない出来事があったのかなという 悲劇の推測を与えてます

しぐるるや電柱ぽつんぽつん立つ  月雫
<硝子(人)>
時雨の街の感じがでていると思う。「ぽつんぽつん立つ」と、「と」を入れないのが、危なっかしいような、魅力的なような。
お節介ですが、私なら「佇つ」に。

石庭にそっと紅置く紅葉かな  晴雨
<柊(人)>
美しい日本的な秋の風景だと思います。

小夜しぐれ金縷玉衣の人想ふ  鞠
<素蘭(人)>
 枕そばだつ草庵の中

先見えぬ避難所に吹く隙間風  素人
<まよ(人)>