第107回桃李12月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:大根、冬銀河、年つまる

冬の句 雑詠または題詠

兼題1(季題):     「大根」
兼題2(季題):     「冬銀河」
兼題3(季題):     「年つまる」

披講

・14点句

廃校と決まりし母校冬銀河  馬客
<顎オッサン(人)>
気持ちがよく解る句です。

<梵論(人)>


<毬栗(人)>
廃校の上の冬銀河が悲しいほど奇麗です。

<童奈(天)>


<双六(人)>
山の部落の冬空は、本当に冷たくて星も降るようなのであろうと、そんな美しい情景をいただきました。あるいは作者は遠い故郷を想っていて、今は冬銀河もあまり判然としない都会にお住まいでしょうか。

<好鵡(天)>
古びた臭い、ナイフで傷つけられた小さな机、その落書きとともにあの頃のことが思い出されてくる。自分の小さな歴史の一コマが抜け落ちるような感じだ。でもすべては自分の心の中に刻み込まれてわすれることはない。

<水(地)>
町村合併か、ダム建設の余波かな?

<明子(地)>
いろいろな思いを胸に見上げる冬銀河です。


・12点句

たつぷりと峡の日抱かせ大根干す  芳生
<顎オッサン(天)>
「峡の日抱かせ」が良いですね。
寒風と日の匂いが感じまれます。
今回の句会の中で迷わずに天にできました。

<英治(地)>
いかにも山村の景。

<毬栗(天)>
こんな干し大根なら是非食べてみたいと思います。

<葉子(人)>
あんなにみずみずしく白かった大根も今や老婆の皺を思わせるように干しあがっているだろう。美味しい沢庵を食べたいものだ。

<丹仙(天)>
大根の題詠ですが、場を山峡の村に設定したうえで、「たっぷりと峡の日抱かせ」が秀逸ですね。


・11点句

年つまるちりめんじゃこの千の眼に  康
<英治(天)>
ちりめんじゃこの眼の一つひとつがそれぞれの世を見ている。

<青榧(天)>
天上界から見れば、たとえばアメ横の買い物客も、ちりめんじゃこと同じようなものかも。

<やんま(人)>
今年は上野のアメ横も築地へも行かなかった。近くの柏公設市場にも魚の目目目目があった。

<潮音(人)>
意味不明(ごめんなさい)な愉快な句は大好きです。「眼に→年つまる」と無理やり理屈にしてしまったところなど、痛快。ちりめんじゃこの佳句では坪内稔典の走り梅雨や秋風の句を思いだしますが、小さな目に着目したところがミステリアスでおもしろいですね。
「[59]年つまる子ら嫁がずに娶らずに」は文句なしの佳作。親のこころを思い、粛然とした気持ちになりました。

<素人(天)>
面白いですね。良く分からないままに納得させれる句です。


・9点句

年つまる無人の駅の暦かな  青榧
<芳生(天)>
山間の駅の年詰まる情景が分かります。暦が効いている。

<ぽぽな(人)>
寂寥感。どんな時が流れたのか。

<童奈(地)>


<佳音(天)>
無人駅は決して終日無人ではなく、それが証拠に暦がきちんと今日になっています。


・8点句

一本の大根誠実な重み  硝子
<ぽぽな(地)>
本当だ、大根の重みは冷たい程に誠実だ。

<庚申堂(天)>
重量感を「誠実」と表現されたのが、新鮮でした。
ところで気が付いた方もおられるでしょうが、今月の投句は全部で108句。除夜の鐘でも聞きながら、新年を迎えましょう。

<馬客(天)>
近くのスーパーへ行って実感して来ました。
この句の通りでした。


・7点句

ゆうずつの軒端にならぶ干大根  青榧
<芳生(地)>
風景がよく描かれている。

<欅(天)>
田舎の農家でしょうか。静かな年の暮。

<佳音(地)>
干し終えて、腰を伸ばせば。

傾ぎつつ青首大根せり上がる  径
<柊(地)>
観察の行き届いた句。

<青榧(人)>
よく見る光景です。寒い季節に顔を出さなくてもよいのにと思っています。

<葉子(地)>
大根の成長のさまが的確にとらえられている。

<鞠(地)>
 よく見掛ける大根畑の情景であるが、「傾ぎつつ…‥せり上がる」に、作者の
眼の確かさを感じる。

たっぷりの大根おろし海は雨  虹子
<ぽぽな(天)>
目の前の大根おろしと遠景の海(または心の情景かも)の取り合わせの妙。通底するもの有り。
また、遠近法とも言いたい手法がこの句に奥行きを与えるのに成功してる。

<雪女(地)>


<康(地)>
海は「雪」ではなくて「雨」の暗さが大根おろしの白さを際立たせていますね。


・6点句

大根の味の中からお母さん  やんま
<潮音(天)>
「おかあさん」という日本語は強く美しい。あらためてそう感じる。

<素馨(天)>
凝った句ではありませんが、素直な詠いぶりに、暖かさが伝わってきます。


・5点句

芯までもほろほろ崩れ大根かな  毬栗
<顎オッサン(地)>
食べ物の句は美味しそうでないと
いけないと思います。
これは美味しそうです。

<明子(人)>
おいしそうですね。

<素馨(地)>
柔らかくことことと煮て、よく味の滲みた感じが出ていて、気に入りました。

年つまるとてなにあらん定年後  庚申堂
<梵論(地)>


<木菟(天)>
確かにそんな心境ですね。

居酒屋の切り盛り一人冬銀河  晴雨
<月雫(地)>
しっちゃかめっちゃかに忙しい年の瀬 一人で切り盛りされてる厨房ならなおさらのことです。涼しげに輝きを増す冬銀河へ泣き言の一言もでてきそうです。

<やんま(天)>
この悠久の宇宙の中、人の営みが息づく。

地球儀の軸きしみつつ年つまる  馬客
<雪女(天)>


<双六(地)>
今年は、内外の災害、砂漠の国の戦争、信じがたい犯罪の続出、本当の「地球」の軸も軋みそうな年でした。

年つまる子ら嫁がずに娶らずに  双六
<明子(天)>
子供たちはゆうゆうとマイペースで生きている。そんな姿を横から見ながら暮らしている作者のどこかにある焦りの気持ち。年つまるの季語がぴったりです。

<丹仙(地)>
どうも身につまされる句ですね。年詰まるによくついていますね。

我が文字の読み取れぬメモ年つまる  明子
<庚申堂(人)>
1年間手帳を使い切ったことのない私ですが、よくわかります。

<馬客(人)>
スケジュール手帳を見返す時に、ほんとに
この句の状況にいたります。悲観はしませんがね。

<康(天)>
若い頃からその傾向はあったが、いよいよそうなってしまったか・・・という述懐ですね。小生もその実感があります。「年つまる」がその現実を確認させてくれる言葉として効いていると思いました。


・4点句

初産を今日か明日かと年つまる  鞠
<東彦(天)>
長男か長女の子供が生まれるのを待つ父親の落ち着かぬ気持ちであろう。年つまるがぴったりである。初産は微妙である。

<雛菊(人)>
娘さんかお嫁さんかの初産に落ち着かない日々。まして歳末。
早く出てこい初孫よですかね。安産でありますように。

捨てられぬもの少し殖え年詰る  月雫
<浮遊軒(天)>
そして、要らぬものに取り囲まれて人は老いるのでしょう。生活実感の出ている句です。

<童奈(人)>


朝市のふるまひ鍋や大根汁  明子
<東彦(人)>
冬の朝市のざわめきが聞こえてくる。もうもうと上がる湯気が朝市の中心である。

<やんま(地)>
冬の朝は寒い。鍋の大根汁は熱いのでご注意を。

<康(人)>
冷えが伝わってきます。そして不思議な連帯感と鍋の湯気の暖かさも・・・。

福引きのからんからんと年詰まる  雛菊
<柊(人)>
からんからんがよいと思った。

<素蘭(人)>
さて、サル年の帳尻やいかに?

<馬客(地)>
「福引」は歳時記上は新年の季語ですが、
なーに、年末大売出しにこそ「福引」は
付き物でしょう。ポケットテッシュしか
当たりませんけど。


・3点句

恙なく並こそよかり晦日蕎麦  顎オッサン
<梵論(天)>


読み掛けの本を積み上げ年詰まる  柊
<鞠(天)>
 曾て私も「読みたいと読まねばならぬと年詰る」と嘆息したことであった。

落ち椿天を夢見て生きむとす  丹仙
<素蘭(天)>
甘美な表現ながら
天を仰いで唾することをご自分に戒めておられるようで
あるがままにという枯淡の境地への憧憬を感じました

透きとほる赤子の爪や蒸大根  雛菊
<双六(天)>
蒸大根のどこかはかなげな姿と赤子の爪のはかなさと、二つのイメージから立ち上がるやわらかい透明感が美しい。他の大根の句と違っていたところもいただきました。

大根の泥つくままの白さかな  馬客
<柊(天)>
大根の泥で大根の白さが鮮明になっている。

わが星はあれよと決めぬ冬銀河  虹子
<青榧(地)>
わたしは夜ごとに、いちばん気に入った星を母の星ときめています。

<素馨(人)>
決めないけれど、本当は好きな星があるのでしょうね。

年詰まる思ひ思ひの帰宅かな  好鵡
<葉子(天)>
老若男女怒りあるいはくやしさを噛みしめ、あるいは恋の成就にほほえみっつ帰宅する年末。年があければ何が起こるだろうか。

年の功大根一本使ひ切り  鞠
<水(天)>
使いきり;大きな達成感。

二本づつ吊るす大根の縁結び  英治
<月雫(天)>
保存食の大根を結わえつつ 今年一年を振り返っているのでしょう。縁結びに来る年への希望が見えるようです

半世紀といふも須臾の間冬銀河  径
<木菟(地)>
なにしろ今見える星は何万光年昔光った星だと言うんだから。

<丹仙(人)>
半世紀どころか、宇宙の歴史とくらべれば、人類の歴史全体も須臾の間かもしれませんが、ここは人生五十年という感じでしょうか。

冬銀河エントロピーは速度増す  白馬
<佳音(人)>
冬銀河のおもちゃ箱をひっくり返したような星の散らばりと今てふ時の混沌を思います。

<素蘭(地)>
理系はどうも苦手なので
それでコスモスが猥雑化したのか
だからビッグバンが起きたのか、フクザツな問題…

冬銀河どこかで赤子が泣いている  康
<月雫(人)>
赤子の泣声、それは銀河のどこかで生まれた小さな星の産声なのかもしれませんね。

<素人(地)>
かえって静寂が強調されます。

冬銀河武者返してふ城の垣  芳生
<径(天)>
格調高い句ですね。
いまも鎧姿の武者が守りについているような緊張感が好きです。

ふろふきや大根の花知らぬ子と  双六
<雛菊(天)>
私たちは野菜を最後の収穫形態でいただいているのだけれど種から育てて花が咲き実を結んで行く課程に思いを馳せる作者。無邪気にふろふきにかぶりつく子をみてふと宿った思い。 

夜業終へ仰げば爆ぜり冬銀河  梵論
<欅(地)>
冬銀河の句では壮大なロマンを描いた句を拝見したいな、と思っていました。宇宙や冬の空からひきだされてくる天文用語や星座伝説のことばはいくつかあるのですが、自分ではうまく作品をつくれませんでした。この作品も「爆ぜり」がどうか、という意見もあるでしょうが、成功していると思います。

<雪女(人)>



・2点句

年詰まる空白多き日記帳  欅
<好鵡(地)>
この1年を振り返ってページをめくっているとブランクのページが眼につく。いつものこのなのだが、でもその空白の中にこそ自分の生きた証が綴られてもいるじゃないかな…。

背を丸め串刺す母や煮大根  庚申堂
<浮遊軒(地)>
もうしばらくすると、おふくろの味というものは無くなってしまうのでは。あるのは、コンビニの味。

大根に芥子一筆災を喰う  水
<潮音(地)>
火傷しそうなくらい熱く煮えた大根にたっぷりと芥子をつけて食べている様子を「災を喰う」と形容されたのかもしれませんが、「大根に芥子で『災』の字を書いて、がぶり」と解しました。そのような風習がどこかの地方にあるのか(調べたのですが判りませんでした)、この所作は作者の独創なのか。(そもそも解釈が間違っているのかもしれませんが。)いろいろ想像のふくらむ非常におもしろい情景ですね。

土壁の吊るし大根の軽さかな  好鵡
<毬栗(地)>
軽さかな という表現がとてもいいですね。

冬銀河未開封メール流しけり  水
<庚申堂(地)>
銀河となるとロマンチックな気持ちになりますね。80番台の銀河の句みな素敵でした。

橋桁に干大根のひと並べ  浮遊軒
<雛菊(地)>
橋桁に大根を並べて干している景、私には新鮮でした。

花嫁も大根踊りの群れの中  東彦
<径(地)>
愛する旦那様ともども、の「も」ですね。
大根踊りというのがなんともユーモラスで、
もうすでに地域に溶けこんでいる様子がうかがえます。

蛇を銜ふる懸巣冬銀河  欅
<東彦(地)>
星座は詳しくないが、蛇も縣巣も冬銀河の中に輝いているのだろう。壮絶なきらめきが視線を惹きつけて離さない。


・1点句

冬銀河独りぼっちの四畳半  素人
<芳生(人)>
青春の孤独感。

大根抜く俳人よ肩の力抜け  潮音
<水(人)>
力が入りすぎると、駄句になりがちですね。

風呂吹の湯気幻影の妻女かな  晴雨
<木菟(人)>
美人に見えて惚れ直したりして。

潦いつか流れて冬銀河  雪女
<浮遊軒(人)>
常識では割りきれないところに詩が生まれる。あっと思いました。次からはすこし翔んでみようかなと思いました。

星一つ流れ聖母の井戸の底  丹仙
<英治(人)>
「流れ星」は秋、「聖母御告祭」は春だが、ムードのある句。

大根をオフのビートで刻みをり  素馨
<径(人)>
「オフのビートで刻む」って家事を楽しんでいるのですね。
見習わなくちゃ(笑)

超人の歩幅に見合ふ冬銀河  硝子
<鞠(人)>
 SUPERMAN か OVERMAN か。 理想或いは空想世界のこととしても、句柄の大きさ
に魅せられる。

蛇崩によこしま風来年の暮  素蘭
<欅(人)>
蛇崩(一般名詞か、目黒や福島の固有名詞か)、横様風(万葉集のうたを背景にしておられるのか)と、おもしろい言葉を続けられましたね。「風来年」と漢字が続いてしまった(つい「らいねん」と読んでしまう)のはしかたがないのかも。

大根を嬰抱くやうに煮るといふ  康
<好鵡(人)>
葉、皮すべてを無駄なく食べることのできる大根ってたいしたもんだな。そんな大根に感謝するようにくつくつとやさしく煮る。台所の人のたたずまいが眼に浮かんでくる。

冬銀河人形の目はガラス玉  潮音
<素人(人)>
冷たさが強調されます。