第109回桃李正月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:臘梅、凧、鏡餅

新年の句 雑詠または題詠

兼題1(季題):  「臘梅」
兼題2(季題):  「凧」     
兼題3(季題):  「鏡餅」


披講


・27点句


真中に百歳の席鏡餅  文枝

 
<水(地)>
万事めでたし。

<径(天)>
文句無しのめでたさ。「真中に」で大家族の様子がみえます。
 
<康(地)>
かけがえのない、めでたさそのもののような・・・。

<毬栗(天)>
お正月のおめでたさがますます増してゆくようですね。
 
<佳音(天)>
桜も百回、鏡餅も百回。
<丹仙(天)>
百歳とは目出度いですね。鏡餅の本意をふまえた佳句。なんとなく「百」という文字まで、鏡餅に見えてきました。
 
 
<童奈(天)>


<湧栂(天)>
 


<梵論(天)>


<愛子(地)>


・16点句

受付は無人システム鏡餅  馬客
<ぽぽな(天)>
現代の正月の情景をうまく切り取っています。

<やんま(地)>
ATMで年金を引き出し、切符を買って、改札を通る。
ビルの受付のどこにも人はいない。
鏡餅を飾った人は機械の裏側へいってしまった。

<鞠(天)>
 無人システムの受付、機器によるセキュリティも多分万全であろう。人の世の
季感は、ただ鏡餅だけに。

<硝子(人)>


<明子(天)>


<双六(人)>
人気のないマンションかなにかの受付、無機質な空間にも鏡餅が置かれて、新年の淑気を漂わせている。現代的な鏡餅をいただきました。

<月雫(天)>
無人の受付の殺風景さの中に 唯一 鏡餅が温かさを感じさせてくれるようです


・13点句

蝋梅やひと日雲捲く奥白根  芳生
<英治(天)>
近景、遠景の整ったよい感慨がある。

<ぽぽな(地)>
近くの景、遠くの景、そして時間を合わせ奥行きと広がりを生み出している。格調の高さも命。

<潮音(天)>
臘梅を添えた近景から、名高い日光奥白根の雲海の遠景へ。わたしは奥白根の実景をみたことがなく、また、雲海自体も朝の短い時間のものしかみたことはないのですが、終日雲海のたなびく山並みの光景はさぞ見事でしょう。静寂で荘厳ささえ感じさせる冬の風景ですね。

<径(地)>
ひっそりと咲く蝋梅と冬山の荒荒しさの対比が魅力的。

<双六(地)>
小さな蝋梅の花を近景に、いまだ厳寒の奥白根を詠んだ雄大さに惹かれました。「雲捲く」が美しい。

<丹仙(人)>
山里の蝋梅、「ひと日」に悠々とした時の流れを感じます。


・11点句

臘梅や李白酔眼胡姫青眼  童奈
<雪女(地)>
最初口がもごもごしてしまったが、何回か繰り返していたら快くなってきた。蝋梅のイメージを豊かにする。

<梵論(人)>


<素蘭(天)>
面白い句
胡姫は青眼に青眼でこたえながら
心底では正眼に構えているのでしょう

<馬客(地)>
この句、大好き。
青眼には「親しい人にむける眼差し」との
意があるそうで、胡姫は「好イタラシイヒト!」
なんて目付きで酔った李白を見ている。
作者はどなたでしょうねぇ。

<硝子(天)>



・10点句

子ら発ちし部屋の広さや鏡餅   愛子
<柊(人)>
子供たちの帰って行った後の寂しさがよく出ています。

<青榧(地)>
鏡餅ひとつ、ひとりでは食べきれずとも、空虚になった部屋は埋まりませんね。

<芳生(地)>
鏡餅も淋しがっているようです。

<水(人)>
ほっとして、さびしい。

<鞠(人)>
 子や孫の集う正月休みは短くて、あっという間に終り、実家にはまた、がらんとした部屋に、親たちと鏡餅とが残される。

<庚申堂(天)>
寂しさを鏡餅が象徴しています。


・9点句

臘梅や八十路の父の字の歪み  潮音
<童奈(人)>


<湧栂(人)>
マ梺Vと伊噴揃とに圈V屬△蝓」

<水(天)>
がんこな父であるが、字はやさしく歪む。

<径(人)>
親の老いてゆく姿は切ないですね。
臘梅の季語が中七座五の描写によく合っていると思います。

<愛子(天)>



・8点句

凧揚げの少年の唇一文字  双六
<葉子(天)>


<白馬(地)>
情景がすんなり浮かびます。
この少年に自分を重ねてしまいそうです。

<潮音(地)>
少年少女の純粋さを詠んだ句には心惹かれるものがあります。わたしたちの心には少年少女は純粋なものだと考えたい欲求があるのかもしれません。駅の構内で地べたに堂々と円座になって座って煙草をふかす高校生を実際に目にしているのに。単なる懐旧の情でしょうか。とうに少年少女期を過ぎ、いろんなことに疲れている人間だからこそ純粋なものへの憧れはよりいっそう強いのかもしれません。

<文枝(人)>
凧揚げの少年の一生懸命が伝わってきます。
この少年が逞しく成長を遂げますよう祈る思いです。

臘梅や夜のマネキン目を閉ぢず  月雫
<青榧(天)>
マネキンの寿命を考えたりしました。不思議な取合わせですね。

<雛菊(地)>
よくわからないのだが惹きつけられる句。臘梅の花が長い睫毛のよう。

<馬客(天)>
まるで細工物のようなろう梅、
まるで生きているようなマネキン人形、
鋭い感性を蔵した句。


・6点句

風吹けばこんがらがりし夫婦凧  やんま
<童奈(地)>


<湧栂(地)>
曳・C・_い討い泙后」

<月雫(地)>
夫婦が生きてますよね


・5点句

臘梅に小歌を聞かせ恙なし  素蘭
<東彦(地)>
蝋梅と小唄の組み合わせがいい。

<白馬(天)>
良いですねぇ。こんな心境になってみたい。
お座敷の廊下なら最高。


・4点句

唐梅の荘厳世界起ちにけり  丹仙
<文枝(地)>
そうごん世界ではなく、しょうごん世界で、一句が、すっきりと気品に満ち、一枚の屏風絵を見ているような気がします。

<剛(地)>
「起ちにけり」に一隅を照らす格調のある世界の成立を感じる。

揚がるほど重くしだるる凧の糸  月雫
<雪女(天)>
今回最初のこの句にまず共感してしまった。

<東彦(人)>
重くしだるるが凧の高さを表している。

凧今天明の空の色  雪女
<潮音(人)>
すっきりと詠んだ句で清浄な印象を受けます。真っ白い画布に描かれた朝の光景。「いかのぼり」と「天明」という古雅な雰囲気をもつふたつのことばが朗々と響いてきます。

<双六(天)>
「凧きのふの空のありどころ−蕪村」を踏まえて、心憎いですね。
「天明の空の色」と大らかに詠んだところがいい。

山並みの紫紺に明くる鏡餅  芳生
<柊(天)>
すがすがしい新年の景色がうかがえます。

<英治(人)>
風格の感じられる句。立派な客間なのだろうか。

三日月に凧ひっかかる夢をみた  葉子
<ぽぽな(人)>
そうそう、よくひっかかるんです、三日月に。

<芳生(天)>
ユニークな句。

深き夜や臘梅一枝雪被る  丹仙
<木菟(人)>
深夜に雪を冠った蝋梅、風情がありますね。

<剛(天)>
微かな香と、闇の中にほのみえる色彩のコントラストが印象的。

臘梅や点眼一滴零れ落つ  愛子
<葉子(地)>


<明子(地)>



・3点句

奴凧操られつつ自在かな  梵論
<顎オッサン(天)>
風と凧と人との関係を上手く言ったものです。
この凧を作者の分身と読んでも面白いです。
迷わず天にしました。

今年も金槌初めや鏡餅  庚申堂
<文枝(天)>
一度読んだら忘れられないリズムと、歯切れの良さで、いただきました。
こんとしの の読み方に俳諧味を感じました。

嫋嫋と凧糸の音父の音   愛子
<康(天)>
情感が伝わります。「ヒいてユルめる、ほら、こう・・・」なんて(今は亡き)父の声も聞こえるような・・・。

 盛況の千円バーバー女正月  径
<好鵡(天)>
雑居ビルの大きなガラスに赤い字で宣伝している、そのガラス越しに生き生きした動きが垣間見えます。正月だからかいつもと違ってなんとなく華やいで見えました。

鏡餅猫の横切る鈴の音  童奈
<東彦(天)>
大広間を猫が鈴の音を立てながら横切っている。その大広間の神棚に鏡餅がどっかと置かれている。古い日本の家の様子がよく描かれている。

凧ひとつ富嶽の白の真上かな  芳生
<顎オッサン(人)>
雄大な景を詠っています。
お正月らしい句です。

<佳音(人)>
美しいです。

<剛(人)>
絵に描いた様な句。正月らしくて良い。

忘れたと思ってたのに奴凧  明子
<素蘭(人)>
お生憎さま

<硝子(地)>


鉈で割る道場開きの鏡餅  東彦
<雛菊(天)>
豪快な中に凛とした緊張感がいいですね。

切れ凧となりて大空流れたし  柊
<木菟(天)>
長いこと見つめていると、そんな光景を期待しているような気になります。

臘梅の道を戻りぬ退職日  径
<柊(地)>
この日ばかりは、感慨深く蝋梅の香りに浸りながら帰途につかれたと思います

<毬栗(人)>
退職の日の安堵と寂しさが、蝋梅の透き通るような風情に募ってゆくようです。

臘梅やかはたれどきの耳聡く  硝子
<やんま(天)>
彼が誰であるのか分からない薄明に耳を澄ませて気配をうかがう。
鋭く感覚に浮かびあがる蝋梅。

土曜日の子育て支援はがき凧  文枝
<康(人)>


<丹仙(地)>
お孫さんと共に遊びながら、葉書から凧をつくり遊んでやっている、そんなほほえましい情景が浮かんできました。


・2点句

そこからは日本見えるか奴凧  ぽぽな
<顎オッサン(地)>
日本丸はどこへ流れていきますか。
風任せとはいきませんね。

凧の糸こんがらかって日が暮れて  馬客
<英治(地)>
何とも言えぬ郷愁を覚える。

凧土星の音を聞きにけり  童奈
<佳音(地)>
下から見えるだけが凧ではなく、もっともっと高みを目指しているかもしれない、凧。

「だんだん」といふ雪道を譲りをり  顎オッサン
<庚申堂(地)>
細い雪の坂道を想像します。下ってくる人に立ち止まって道を譲る。なにげないですが・・・

罅割れていくぶん軽き鏡餅  月雫
<好鵡(地)>
ごもっとも、人間も歳をとると皹というか皺から水分が抜けていくようです。

裏白や尻に敷かれてをりまして  顎オッサン
<素蘭(地)>
鏡餅の不言題にユーモア大賞を差し上げたい

鏡餅どっかと据える古都の駅  素人
<毬栗(地)>
でんと座った鏡餅と由緒正しい古都の駅が良く似合います。

蝋梅の香に総身を預けけり  柊
<芳生(人)>


<愛子(人)>


御鏡のラップの埃拭ひけり  素蘭
<鞠(地)>
 ラップ包みの鏡餅は、黴も生えず罅割れもせず、衛生的で扱い易いけれど、これにもやっぱり、人の暮しの埃は積もるのである。

金柑に似合ふほどなる鏡餅  双六
<雪女(人)>
今年は頂きものの大きなダイダイを乗せたら鏡餅よりはみだしてしまった。キンカンぐらいが似合いだったのでつい。

<好鵡(人)>
季語が重なっていると思いますが、ほほえましさを買います。絶妙のサイズなんでしょうね。

愚痴ひとつ鏡餅にも聴かれたり  康
<葉子(人)>


<月雫(人)>
壁に耳有り 障子に目有り  鏡餅にも人格有りですね

小波や冬日は玻璃となりて寄す  やんま
<木菟(地)>
キラキラと眼に浮かんできます。

鏡餅かすかなひびの黴びてをり  径
<梵論(地)>



・1点句

いっぽんの水仙なれど留守託す  水
<庚申堂(人)>
いいですね。

大凧を鳴らしたる指雑魚を干す  康
<やんま(人)>
大空になじんだ耳。海の雑魚を天日にさらす指。
今日かく営めり。

客足の絶へし本屋の鏡餅  毬栗
<白馬(人)>
さっきまで多勢居たお客さんが帰った後なのか、それとも近時お客さんが少なくなったのか。がらんとした(古)本屋に取り残されたような、しかし堂々と店内を
睥睨する鏡餅。

連凧の波うつて陸ひるがへり  硝子
<馬客(人)>
「陸ひるがえり」が非凡。

ちぎれ凧電灯線に明かす夜  英治
<青榧(人)>
若き日に午前様で鍵を忘れ、家に入れてもらえず、近くの公園で一夜を過ごしたことを思い出しました。

蝋梅や笑ひの漏れる黒板塀  素人
<雛菊(人)>
東京下町。明治末。鴎外の「雁」のような。黒板塀の中にはどんな
秘密があるのでしょう。