第110回桃李2月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:氷、二月(如月)、夢

冬または春の句 雑詠または題詠

兼題1(季題):    氷
兼題2(季題):    二月(如月)
兼題3(キーワード題):夢
 


披講


・17点句

亡き友の着膨れて来る夢の中  馬客
<葉子(地)>


<英治(地)>
そんな夢を見たような気にさせる。

<月雫(地)>
着膨れて夢にやってくる友は、あの世とやらで寒い思いをしてるのだろうか。昨秋、友をなくした私にとって身につまされる句であった。彼岸には参ってやるからな。 

<芳生(天)>
現実感のある句です。

<鞠(天)>
戻り寒の夢に、亡友の着膨れ姿が、懐かしくも切ない。 

<木菟(地)>
亡き友はしょっちゅう出て来ますが、そんなにリアルだったことはありません。

<虹子(人)>


<明子(人)>
目覚めた後の何とも言えない寂寥感。

<丹仙(人)>
冬の現の世界にいる詠み手の夢のなかの景も冬であるという趣向、「着膨れ」という具体的でなまなましいイメージが印象的であった。


・12点句

老いの夢たとえば朝の紅椿  山西治男
<顎オッサン(天)>
金子兜太さんの夢はこんか感じかと。
不安感はあろうとも、老いても決して脆くない。

<潮音(地)>
わたしはまだ「老」と呼ばれる年齢にはなっていません(つもりです)が、本句の志の高潔さにはこころをうたれました。「たとえば朝の紅椿」の淡々とした力強さ。老齢になったとき、わたしは作者の何分の一かまで人格を高めていることができるでしょうか。

<愛子(地)>


<木菟(天)>
もっと生臭い夢ばかり見ていますが、そんなであったら良いと思います。

<虹子(地)>



・11点句

容赦なく薄氷土に鋤きこまれ  明子
<葉子(天)>


<双六(人)>
薄氷の繊細さを容赦なく砕いてみせた作者に敬意。

<柊(地)>
力強い句だと思います。

<毬栗(人)>
農業の厳しさを感じました。

<童奈(地)>
耕人の力強さ

<雛菊(地)>
今の時期の土作りの景。容赦なくという表現から
ここから始まる農作業の凛とした決意が読み取れました。

絵日記の枠突き抜けり軒氷柱  文枝
<双六(天)>
子供の絵には、感動が真直ぐに表現されていて、はっとさせられることがあります。枠をはみ出す氷柱の絵を描いた子供の目になって、陽を受けてきらきら光る氷柱を見ているような気がしました。この句も「ハナマル」です。

<東彦(地)>
子供の絵日記であろう。大きな氷柱が日記の枠を突き破って居るのがいい。

<径(天)>
大きな氷柱をみつけた子供の驚きと興奮が感じられて楽しいです。

<丹仙(天)>
初めて氷柱を見た子供の驚き、「枠突きぬけり」というところに、大人が設定した枠組みを突破する自由さを捉えていますね。


・10点句

鳥籠をひかりに出して二月かな  明子
<柊(人)>
二月の明るさがよいと思います。

<童奈(天)>
「ひかりに出して」が春らしい句

<佳音(天)>
一月と二月の違いは光だと思います、といえばどの月も異なるのですが、
一月には外に出せば凍えてしまうに決まっている鳥籠を二月の「ある日」なら出そうと思える。そんな日を切り取った美しい景色だと思います。

<梵論(天)>



・9点句

如月の風のすきまのリコーダー  青榧
<英治(天)>
なおも力む寒さの隙間に春を見る感。

<毬栗(天)>
風のすきま という表現が素敵です。

<佳音(人)>


<静影(地)>
小学生が、まだ寒い風の吹く中にリコーダー片手に登校していそうですね。

薄氷ぽつんと胸に穴があき  雛菊
<英治(人)>
心に訴えるものがある。

<顎オッサン(地)>
誰があけた穴でしょうか。
小さな石礫の罪ですね。

<芳生(人)>
薄氷を割ってできた穴に自分の虚脱感を重ねたということでしょうか。

<白馬(天)>
バケツに張った薄氷を指で触ったら、すっと穴があいた。
その瞬間自分の胸の中にある小さな空洞に気付いた。

<明子(地)>
ぽつんと が心に響きました。薄氷が効いていると思います。


・7点句

富士が嶺の照りつ翳りつ氷面鏡  芳生
<山西治男(地)>
 富士山の峰は昨年の秋から積もっているので、固く凍っています。それが氷面鏡となり太陽に光り、ある時は翳りとなって見えます。そこに、時間の経過があり、作者の眼があります。日本人として、富士山に対する敬愛の念も表出されています。詠んでリズムが宜しいです。

<祐理(人)>
景の雄大さが良いですね。

<梵論(地)>


<丹仙(地)>
普通、俳句は一瞬の景を捉えるものであるが、この句の場合、時の経過がありながら成功している例外的なケース。その理由はなぜだろうか。おそらく、凍てついた湖が鏡となっているというその特殊な状況が、変化する過去の持続、雄大な 富士の遠景を鏡の内に凝縮しているからなのかも知れない。

突発性人事捌きて二月尽  文枝
<鞠(地)>
会長・社長とて、御身ご安泰ならぬ荒い世相ゆえ、突発性人事が多発するのかも。

<雪女(人)>
緊張感が伝わってきます。

<素蘭(地)>
突発性発疹という赤ちゃんの病名から連想
これからがまた大変
予防注射は忘れず怠らず、離乳は焦らず慎重に!

<径(地)>
突発性だからどの季節に起こっても不思議ではないけれど、
日数の少ない二月の気忙しさにぴったりです。


・6点句

一面の空一面の氷湖なる  素蘭
<文枝(天)>
いきなり空と氷湖だけの視界が開け、単純明快で、すっきり心に響きます。

<虹子(天)>



・5点句

蕗の董祖父の果たせぬ夢を継ぐ  素人
<文枝(地)>
祖父はどんな夢をもっていたのだろう。
「夢」というキーワードから、読者も想像力を膨らませ、更に蕗の董の季語で、その夢が場当たり的でなく、長い年月に亘るものであることがわかる。

<馬客(天)>
「父の」でなく「祖父の」であるところに
なにか物語性を感じます。
我が家の庭の片隅に、今年もフキノトウが。
律儀に同じすみっこに出てきます。

幼子に夢はと問はれ春昼下  童奈
<月雫(天)>
幼子に夢を問われて口ごもってしまう。そんなに歳をとってしまったのか。しみじみとした絶望感が春昼と反していて寄り際立っている。

<雪女(地)>
答えはあのねのおぼろかな

天平の甍に溢る二月の陽  芳生
<愛子(天)>


<素人(地)>
気持ちの良い句です。

夢結ぶ真珠の吐息春の潮  潮音
<柊(天)>
綺麗な句だと思います。

<白馬(地)>
「夢」と「真珠の吐息」の取り合わせが大変美しいですね。

寒立馬湯気たつ糞を氷上に  葉子
<祐理(地)>
「寒立馬」の生命のリアリティですね。

<雛菊(天)>
ビンビンとした北国の冷気の中にホワンとした糞
句に温みを感じました。

電話鳴るたびに動悸の二月かな  葉子
<文枝(人)>
二月は年度の終わりと、初めの準備の月。それぞれの人生の節目を迎える月。
願わくば吉報であって欲しい。相手の声を聞くまでの鼓動。

<素蘭(人)>
これは三月のほうがより切実になりそうです
合格通知、採用通知、転勤辞令
これも栄転・左遷、リストラかも…

<素人(天)>
まさに今の時期、身内に受験生を持つ人の心境を余す事無く描いて妙。


・4点句

辻褄のあふ夢ばかり冴え返る  明子
<素蘭(天)>
鶏と卵ならば、鶏がいて卵を産む
現実と夢ならば、現実があって夢を見る
夢でああそうだったかと合点する(私)は
幽体離脱できる私の冷徹な眼の賜でしょう

<童奈(人)>
「冴え返る」がややつきすぎの感があるも面白い


・3点句

何か来る二月の沖見てをれば  康
<明子(天)>
一月でもなく三月でもない、二月の海。だからこそ何か来ると思えるのです。
なんとなくつかみ所のない二月という月をうまく表現していると感じました。

紋別の夜や忽然と流氷鳴る  丹仙
<祐理(天)>
流氷という不可思議な現象に惹かれます。

風邪の子の待合室に鳩時計  柊
<青榧(天)>


薄氷をそっと外して空透かす  白馬
<潮音(天)>
「そっと」に、作者のやさしいこころを感じます。氷を割ったり氷の上で滑ったりではない氷遊びを詠んだ本句。作者が五感とこころを氷にしっかりと向けておられることが伝わってきます。今度、わたしも、氷に透かして空を見てみようかな・・・。
わたしは小さかったころ、盆地に住んでいました。我が家に冷蔵庫があったのかどうか覚えていません。薄い皿に水を入れて外に出して、寝ます。あくる朝、皿に張った薄氷を食べるのがなによりもご馳走でした。

夢いかに家なき人ら春時雨  旅人
<静影(天)>
厳しい現実を捉えた句でもあるのに、柔らかな情景の中に詠んでいるのが見事。

如月の雪見障子や床の中  白馬
<東彦(天)>
雪見障子は上がっており、外は雪がちらちら降っている。床の中の怠惰な温かさが幸せである。

凍蝶の夢ほど繊き六肢かな  佳音
<双六(地)>
凍蝶の繊細さをいい得て妙です。

<静影(人)>
何色の蝶なのだろう、凍えて縮こまった「六肢」が憐れ。

山籠り漬物桶の氷割り  鞠
<雪女(天)>
あの冷た〜い感触を思い出しました。

薄氷ネオンを映す銀座かな  康
<山西治男(天)>
銀座に薄氷が張っているのは、裏通りでしょうか。薄暗い薄氷に煌びやかなネオンが写り、映像が見えてきます。昔ながらの薄氷と現代的な銀座のネオンの取り合わせが旨く調和していて、惹かれた句です。写真の被写体に最適です。


・2点句

機影はや二月の折鶴ほど遠し  径
<佳音(地)>


惚けそむ母に二月の雪霏霏と  愛子
<芳生(地)>
「惚けそむ母」と「雪霏々」との対比がよい。

夢いくつ置き去りにして春の潮  英治
<馬客(地)>
穏やかな春の浜辺の景と叙情なのでしょうが、
それと二重写しに、スマトラ巨大津波のもたらした
惨禍とその犠牲となった人たちの想いが胸に
せまってきました。

夢うつつ猫の恋聴く湯治宿  鞠
<顎オッサン(人)>
恋猫の歌も許せる、のんびりした
時間でしょうか。元気をもらったのでしょう。

<東彦(人)>
明け方のまだ眠い頃猫は帰ってくるのだ。「聴く」は、ひらがなか「聞く」がいいと思う。

薄氷や螺子ギコギコと古時計  毬栗
<青榧(地)>


鑑真に会いに上野へ春の夢  雛菊
<毬栗(地)>
鑑真像はまさしく夢に会いに行くという感じでした。


・1点句

口惜しさにいくたび踏みし薄氷  愛子
<素人(人)>
分かります。分かります。それで気が晴れるなら何枚でも割りなさい。

遠き日の夢はいづくへ寒北斗  愛子
<白馬(人)>
寒空にかかる北斗七星をじっと見ていると、若かりし頃描いた夢が思い起こされ
懐かしいような、無念のような−−−。

如月の琴たづたづし連子窓  潮音
<山西治男(人)>
 場所の設定が良い。寒いが、如月は何となく身も心も軽くなる。おりから連子窓より琴の音が聞こえてくる。達人でなく、たどたどしく弾いているのである。
 未完成な奏者に何となく親しみが持てる。そんな状景を旨く表現している。

如月のなにとはなくて消えゆきて  海月
<木菟(人)>
全くその通りです。

春暖炉あさき夢みし媼の眼  ぽぽな
<馬客(人)>
一瞬を詠み切る句、爽快です。

蜘蛛膜下出血の報二月尽  童奈
<鞠(人)>
文字通りの報告でしかない、その素っ気なさに惹かれる。

出棺の警笛今朝も薄氷  梵論
<葉子(人)>


凍るもの歯を食ひしばり氷りけり  童奈
<雛菊(人)>
確かに凍つている様は歯を食いしばっているよう。

如月やフラスコ光る実験台  毬栗
<青榧(人)>


通学の列の乱れて氷割る  素人
<愛子(人)>


のったりと鳴門の渦潮二月かな  素人
<月雫(人)>
流れの速い鳴戸の渦であろうが、とにかく「のったり」が良い。春近しだ。

夢醒めて頬に冷たき涙あと  葉子
<潮音(人)>
外に耳を向けてみてください。囀りが聞こえてきますよ。

夢の世にあとひと花をちやんちやんこ  芳生
<径(人)>
ひと花などとおっしゃらずに。
まだまだこれからです。