第111回桃李3月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:春雪、遍路、凧

春の句 雑詠または題詠

兼題1:   春雪
兼題2:   遍路
兼題3:   凧


披講

・13点句

遺されし帯の手擦れや春の雪  愛子
<芳生(天)>
故人の帯を偲んでいると、折りしも春の雪。取り合わせがよい。

<月雫(天)>
夭折された親近の方の形見なのでしょうか 手摺れに 故人の愛着を感じ
感じるが故に また悲しみが 押し寄せてくるのでしょうね
春の雪が ぴったりです

<毬栗(人)>
お母様の帯でしょうか。
春の雪の優しさが良く似合います。

<径(天)>
和服を愛用していた奥様かお母様か。
春の雪の美しさ淡さが思い出を彩る。

<虹子(天)>



・11点句

春の雪六年生はもういない  雛菊
<梵論(人)>


<康(天)>
こう言い放った心情が察せられます。別れの季節の一情景がきっちり捉えられていると感服しました。

<雪女(人)>
単純明快にして感慨深し。

<文枝(人)>
過疎化、少子化の波に乗って、小学生の児童数も一段と減ってきた。きっと六年生の数が一番多かったのかもしれない。卒業式の後の、春の雪、六年生の存在感がよくでています。

<明子(地)>
雪が季節の流れをちょっと止めてくれた。校舎の一角が静まり返って六年生の不在を改めて感じている。共に過ごした時間のこともあれこれ思い出して・・・・

<顎オッサン(人)>
しんみりした雪、なごり雪ですが、
「春の雪」と言ったので希望も感じます。

<馬客(地)>
6年生を送り出した担任の先生の哀歓か、
はたまた、5年生のゴンタどもの雄叫びか。


・10点句

負け凧のへらへらへらと落ちにけり  晴雨
<英治(天)>
「へらへら・・」の実感が挫折する人生に通じる。

<明子(天)>
へらへらへら がよく効いていると思いました。言葉の響き、そして字面からも負けて落ちて行く凧が見えてきます。

<雛菊(人)>


<庚申堂(天)>
何とも素敵な表現ですね。

子の生るを村中に告ぐ祝い凧  素人
<佳音(人)>
「生る」がひっかかったのですが、景色が好きなのでいただきました。

<梵論(地)>


<康(人)>
めでたさを共有する、良き時代の山村風景。

<雪女(地)>
めでたい!

<愛子(天)>


<径(人)>
こんな楽しい風習があるのですね。
たくさん凧があがりますように。


・8点句

春雪や海へと続く番屋屋根  月雫
<佳音(地)>
雪にうっすらとおおわれて、つらつらと白

<潮音(地)>
藤沢周平の時代小説の一齣、あるいは松前藩の番屋。「晴雪」の華やいだ響きとはうらはらに、「寂び」の印象を受ける「番屋屋根」はうそ寒い印象。ふたつの言葉の醸し出す雰囲気が実にいいですね。

<雛菊(地)>


<径(地)>
「海へと続く」の勢いがまもなく漁期が訪れる北国の
活気を連想させます。

波の音ばかり聞えて春の雪  願船
<東彦(天)>
大きな牡丹雪がふんわりと海に落ちてゆく感じか。

<青榧(天)>
春の雪が雑音をすいとってしまったのでしょう。

<月雫(地)>
春の雪が故に 音を隠すような 存在の厚さがないのでしょう
寄せては帰る 波の音の繰り返しが 印象的です 


・7点句

すれ違ひまた巡り会ひ遍路かな  鞠
<芳生(人)>
遍路行はこのような光景の繰り返しでしょう。

<青榧(地)>
袖すり合うも他生の縁、南無大師遍照金剛。

<明子(人)>
生きることそのものですね。

<素蘭(人)>
人生の縮図ですね

<庚申堂(地)>



・6点句

組紐の金糸銀糸や春の雪  毬栗
<童奈(天)>


<浮遊軒(天)>
きれいな句。俳句は詩なのだから、詠う対象も美しいものでなければ。

しのびよる足音に似て春の雪  虹子
<葉子(天)>


<庚申堂(人)>


<若芽(地)>
忍び寄るのは春ですね。たしかにホトホトと降る春の雪です。


・5点句

まはりからたぷたぷとける春の雪  雛菊
<顎オッサン(地)>
「たぷたぷ」のオノマトペアが良いですね。

<鞠(天)>
 水気の多い春雪の溶ける様を「たぷたぷ」と活写している。


・4点句

春の雪あめ湯に添えし塩昆布  康
<浮遊軒(人)>
あめ湯に塩昆布とはなつかしい。セピア色の写真を見るような。

<素酔(天)>
取り合わせがいいですね。この季節、仕事の合間の一休み、最高の演出ですね。

抜襟を濡らして消えぬ春の雪  東彦
<白馬(地)>
「抜襟」が効いている。綺麗な色気があっていいな。

<葉子(人)>


<鞠(人)>
 花街の風情か、うつくしく艶めかしい。

汽車を見る椅子並べをり遍路宿  康
<佳音(天)>
遠くまで風景の広がる近くの音遠くの音も聞こえてくるような句だと思います。

<馬客(人)>
「並べをり」がもう一工夫かな、と思いますが
お摂待の雰囲気は充分伝わっていると思いました。

理由あらん盲目夫の手引く遍路  庚申堂
<白馬(天)>
この句にはジーンときた。観光ではない本物のお遍路さん。
「理由あらん」と言う作者の立場は−−−。

<治男(人)>
 四国ではお遍路のシーズンです。バスでの観光編路、徒遍路、この句のように夫婦で身を修め、信仰に生きる姿は美しい。「盲目の夫」であるところに強く訴えるものがある。

風吹けば風の形に春の雪  文枝
<英治(人)>
ととのった表現。類句もあるかと、ネット検索したら「・・・・春の海」あり。「春の雪」の方がよい。

<浮遊軒(地)>
風の形が眼目。これで句になった。

<願船(人)>
柔らかく降る春の雪が風の吹くままに流れている。心の安らぎを感じました。


・3点句

国盗りの城を遠見の武将凧  芳生
<ぽぽな(天)>
言葉が映像と物語をくっきりと浮かび上がらせる鷹羽狩行ばりのカッコイイ句。

結願に瞳の潤む遍路かな  素人
<雛菊(天)>


ジーパンの裾の破れし遍路かな  毬栗
<雪女(天)>
ジーパン遍路にいろいろなイメージが浮かぶ。

遍路より戻りし人の眼かな  ぽぽな
<願船(天)>
山や海を見ながら巡礼の寺を巡って戻ると、きっと眼が澄んでいるのでしょう。

ぽつつりと新大阪の遍路かな  佳音
<馬客(天)>
新幹線のホームってのはどうしてああも無機質で
機能一点張りなんでしょう。新幹線其のものがそう
なんだからしかたないか。
この句、「東京」でも「名古屋」でも「京都」でも
「大坂」ですらなく「新大阪」だからこそ。

凧あげや糸を伝わる風の音  青榧
<葉子(地)>


<素人(人)>
指に伝わってくる感触が読み手にもそのまま・・・

凧落つるアキレス腱が切れたごと  月雫
<文枝(天)>
「如く」は、俳句に躓いたとき便利な言葉。それだけに難しい。
しかし、この糸の切れ凧の捕らえ方は、見事です。
アキレス腱は切れる瞬間、プツリと音がするのですよね。経験者語るです。

大屋根の向うに出たる凧  願船
<童奈(地)>


<青榧(人)>
凧が生き物のように、ぬうっと出てくる様子が見えます。

影ひとつ残して高く凧揚がる  ぽぽな
<治男(天)>
一見、分かりやすい写生に見えるが、色々に想像できる句である。影が出来るので
晴天である。上手く高く高く上がって、子供達や大人までの歓声が上がる。
手作りの凧であろう。そして、人生にも例えられるようだ。どんなに高く昇り詰めた人にも、影となるものがあるでしょう。

金太郎飴両手でしゃぶり子の遍路  願船
<素人(天)>
子連れの遍路もあるのですか。つき合わされるのも大変でしょうね。

草に濡れ遍路の杖のあをさかな  月雫
<素蘭(天)>
草を払い草を踏みしめて歩く遍路道
草色の染みこんだ杖を眺めて行程を回想する作者は
 分け入つても分け入つても青い山
とよんだ山頭火を髣髴しているのではないでしょうか

天空の凧より見えし青い星  東彦
<木菟(天)>
地球は青かった。

逃げ水を追へば東京タワーに灯  顎オッサン
<ぽぽな(人)>
憧れたものは、東京にありましたか。

<毬栗(地)>
都会今の光景が鮮やかに浮かびます。

母に似し人に添ひ行く遍路道  愛子
<東彦(地)>
ちょっとつきすぎかな。

<虹子(人)>


春の雪あぐり口開く子の鼻に  潮音
<梵論(天)>


春の雪下五につもる阿蘇の句碑  水
<潮音(人)>
言葉の組み立て方について少し気になる点もあったのですが(ごめんなさい)、実に巧みな構図を描ききっておられます。今年の寒の戻りの積雪は凄かったので、阿蘇の句碑の下の部分まで雪が積もっているのをご覧になった驚きと感動を詠まれたものでしょう。調べてみると「阿蘇の句碑」はかなり有名なようですね。芭蕉・漱石・山頭火・虚子などたくさんあるうちのどの句碑でしょうか。内容的には「浮草の寄する汀や阿蘇は雪 汀女」ですが、この句碑は五七五を四行にわけて書いてあるので下五のみを雪が隠すのは難しそうです。雪の阿蘇に行ってみたくなる佳作と存じます。

<治男(地)>
 写実である。下5の言葉が見たい気がする。雄大な阿蘇高原に立つ句碑に淡雪が掛かり、そこで、詩情が湧いたことでしょう。良いところを発見しましたね。

春の雪ランチの客をざわめかす  素酔
<毬栗(天)>
雪の少ない地方なのでしょう。光景が見えるようです。

ひこばえに漕ぎ出してゆく車椅子  顎オッサン
<潮音(天)>
見事。拍手。春のよろこびの句。読後感も最高。

車椅子上の人は恢復可能な程度の怪我の若い人でしょうか、麻痺のあるお年寄りでしょうか。どちらの場合も味わい深い状況が想像できますが、わたしの場合、後者を連想してしまいます。傍にいた車椅子のお年寄りが、何かの弾みに、お顔に喜色を浮かべてものすごい勢いで車椅子を漕ぎ出したのを見たときの喜びと驚き。この句を拝見してそのときの気持ちが甦ってきました。現在、そのお年寄りは寝たきりになっておられます。

筆迷う文の余白に春の雪  潮音
<顎オッサン(天)>
心にも降る雪ですね。
なごり雪を上手く表現しました。

遍路道夕陽に消える背中かな  童奈
<若芽(天)>
夕暮れ時になってもまだ目的地に着かず、歩み続ける姿が寂しげ。


・2点句

夕遍路小さき影の寄り添いて  馬客
<木菟(人)>
ちゃんと記憶に残っているかも知れない。

<愛子(人)>


淡雪のただ滲みてゆくローム層  青榧
<鞠(地)>
 関東ローム層の上に住む身にとって「滲みてゆく」に共感をおぼえる。

凧買うや揚げる空無き街にすみ  馬客
<素酔(地)>
ぼくもつい買ってしまいます。

春雪の束の間佩いて過ぎゆけり  木菟
<素蘭(地)>
身に佩いたとてすぐ融けてゆく春の雪
その儚さを幾度も胸に溶かし込んで
心象風景は淡く明るくなってゆくのかも…

洟垂れのひとり糸引く凧  佳音
<白馬(人)>
洟垂れ小僧の淋しさと自分流の楽しみ。 合い交差して。

<月雫(人)>
季重なりが気になったのですけれど
今時は居ない洟垂れ小僧に郷愁をみました

地下街に牛の舌焼く春の雪  康
<ぽぽな(地)>
春の雪の中、地下街のあの店を思い浮かべながら向かっているのでしょうか。「牛の舌焼く」と「春の雪」の出会いが面白し。

降られても晴れてもふたり遍路道  青榧
<康(地)>
遠ざかっていく夫婦遍路の後姿が目にうかびます。

ガス燈に染まりて消えし春の雪  晴雨
<芳生(地)>
明治調の浪漫的な光景です。

凧下るる入日染めゆく海の上  潮音
<愛子(地)>


春雪のしづり音写経の閑けさに  鞠
<願船(地)>
春雪が木の枝からしずる音が、写経の部屋に聞こえてくる。宗教的安らぎを感じます。

睫毛いま涙ささへて春の雪  明子
<木菟(地)>
瞬きをすると消えていってしまうから、我慢しよう。

子遍路の歩巾せばまる茶店前  晴雨
<素人(地)>
親に付き合わされる子としてはご褒美をねだりたいところでしょう。

見返れば君行く道も春の雪  馬客
<英治(地)>
ロマンチックだ。

屋根までは梯子届かず春の雪  毬栗
<虹子(地)>


山襞に見えつ隠れつ遍路笠  芳生
<文枝(地)>
「遍路」の季題で、子遍路の句が多かったようにおもいます。
遍路道は大抵は厳しい道。いい句は沢山ありましたが、敢えて、誰にも解る遍路道の一こまを頂戴しました。


・1点句

玄海の凧は悠々震度六  水
<東彦(人)>
地震の後に凧を揚げる余裕があるか。地はゆれても、天は凧が止っている。そんな長閑な風景を望みたい。

凧となり虚空にひとり漂ひぬ  木菟
<若芽(人)>
凧になって虚空を漂いたい気持ち、よく分かります。

同行二人新幹線から遍路かな  明子
<童奈(人)>