第2回句会桃李 六月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:静けさ(不言)、寂しさ(不言)、雨 (有言)

一般参加者対象の定例句会です。夏の句でお願いします。
参加者は1句から3句までを投稿して下さい。(一度に三句投稿せずに何度かに分けて投稿してもかまいません)一句は必ず題詠にします。
残りの二句は、当季雑詠(自由詠)でも結構です。
題詠は、三つ有りますが、どれを詠んでも構いません。
有言の題詠(その言葉を使う)は「雨」
不言の題詠(その言葉を使わずに、心を詠む)は、「静けさ」
および「寂しさ」です。
投句締切は六月一八日(木)、選句締切は六月二八日(日)、締切と同時に
直ちに披講となります。

投句: 雲外、木菟、碁仇、はる、東鶴、楽千、瓶、若翁、重陽、風人、洋一、松、安寿、尚史、楽人
選句: 楽千、雲外、楽人、若翁、碁仇、輝石、木菟、洋一、ひとし、安寿、風人、重陽、東鶴、はる、尚史

披講

・9点句

竹林を縦に貫く驟雨かな  風人
<碁仇(地)>
「縦に貫く」という表現が、すばらしい。
いかにも竹林に降る雨という感じがする。
すぱっとした、切れ味の鋭い句。

<木菟(地)>
 樹の下に雨宿りするなどと言うことは、竹の下では無理なんですね。天をさして
真っ直ぐに伸びた竹林の隙間を、集中豪雨が沛然と降りしきる。いかにも日本的な
風景だと思います。

<重陽(地)>
斜めに降る雨では当り前ですが、縦に伸びた竹、驟雨のたての発見が相乗して鋭角的な緊張を覚える情景が伝わってきます。

<東鶴(天)>
今回の句会で、一瞥して最初に選んだのがこの句。
「縦に貫く驟雨かな」とさりげない嘱目の句に、
しっかりとした写生の筆捌きを感じます。
古来、竹林は音楽と詩を愛する高踏的な文人が酒を酌み交わす
場所でもありました。驟雨に世俗の心を洗い流し、脱俗自然の境地に
遊んだ七賢のこころを偲びました。

糸とんぼせせらぐ音のするばかり  楽千
<碁仇(天)>
「静けさ」に糸とんぼを持ってきた着眼点がするどい。
葦の茂る水面近くを、音も無く、すいすいと飛ぶ糸とんぼ。
清流のせせらぎ。風景が目に浮かんでくる。

<木菟(天)>
 糸とんぼのはかなげな生態と、せせらぎの音の組み合わせ、そしてそれが句の中
に静けさを秘めて居るというのですから、もう何も言うことがありません。

<重陽(天)>
糸トンボのかろさと微かな水の音、それしか無い世界が浮かんできます。ふっと時間が止まったような錯覚に襲われる感じがします。


・6点句

笛花火鯰も泳ぐ月のなか   はる
<楽千(天)>
そうですか鯰がねえ。
では、あの月の精となって
生まれたままの姿で泳いでいるのは
一体誰でしょうか。

<風人(天)>
ヒュルヒュルヒューと高い音で夜空を泳ぐのが笛花火でしょうか。
月に向かって昇っていく花火の軌跡を鯰とみた。
鯰と月の取り合わせは絶妙、禅画か大津絵を見る如し。軽みが素晴らしい。


・5点句

荒梅雨や心も走る斜め傘  東鶴
<若翁(天)>
意外に強い雨が降ります今年の梅雨に、世上の厳しさをはね除けようとする意識を感じました。

<木菟(人)>
 傘を斜めに気ばかり急いて、身体はもう思うに任せない。そんな時代もあった気
がしますが、今はもう雨など物ともせずに、悠然と濡れるに任せている。私として
はそんな心境です。

<安寿(人)>
突然の吹き降りに家路を急ぐ人のうろたえようが、
「斜め傘」の体言止めでよりいっそうはっきり浮
かんできます。走って帰るうちに、どうせ足元や
肩はずぶぬれになっているだろうに、それでも斜
めにしてまで律儀に傘を掲げている光景に、おお
いに人間の味を感じます。

読経やみ 甍を敲く 虎が雨  雲外
<ひとし(地)>
「虎が雨」なんて季語は、このごろでは誰も使わなくなった。
第一、曽我兄弟の仇討ち芝居のわかる人がいなくなってしまった。
それだけに、こういう俳句は懐かしい。

<安寿(天)>
読経が終わって初めて気づく激しい雨。
読経の世界からふっと雨の降る俗世に意識が戻る
瞬間の感覚が素敵です。

桜桃忌最後の5インチをコピー  瓶
<洋一(天)>
寂しさの不言という事ですが,此の句は逆に爽やかな若々しさを感じます。
「桜桃忌」の忌日感も決して寂しいものではありませんし,中七以下も軽快です。
上五「桜桃忌」は動かそうとすれば動きますが,「さくらんぼ」が蓮の糸。
「黴の宿」じゃあ採りませんぜえ (^_^)

<はる(地)>
太宰治のファンなので、どうしても桜桃忌の句を選びたいと思いました。
「5インチ」てなんだか良く分からなかったのですが、フロッピーディスクのことではないかと、あるかたからヒントを頂きましたので、イメージがつかめました。
誰も使わなくなった旧型のFD、でも大切な思い出が詰まっています。
コピーしたら太宰さんも現代青年に若返るかも。


・4点句

大夕焼どこかで人間焼く匂ひ  洋一
<輝石(天)>
夕焼けの「焼」の文字と人間を「焼く」の文字を掛けられたのですね。
空いっぱいに広がる夕焼けと、死んで火葬場で焼かれる小さい骨との
大小の対比が印象的な句です。夕焼けはこれから闇の世界が始まるた
めか、どこか「死」につながるイメージがありますが、その連想を「
匂い」であらわしたところがいいです。

<風人(人)>
赤から黒へ重く染めていく夕焼けに人間を焼く匂いを感じた。
作者の心に、ある種終末感が過ぎり、漂ったか。

梅雨闇の奥底を這う変形菌  楽人
<東鶴(人)>
梅雨闇の奧底を這う「変形菌」に、昼間の世界から締め出された
深層にうごめく生命の不可思議を感じます。
宮沢賢治の詩のように、科学用語が見事に詩語(俳語)
として生きています。
変形菌、粘菌などというと、日本の土着の信仰を大切にした南方熊楠
の仕事など連想しますね。

<尚史(天)>
梅雨時の生命の濃厚さを感じさせる句です。

クレシェンドデクレッシェンド青嵐  尚史
<楽千(人)>
青嵐に向かってタクトを振っているのは、
あなたですか。

<輝石(地)>
風がやってきて吹き抜けるさまを「クレシェンドデクレッシェンド」
とあらわしたのでしょうか。この表現の仕方が目新しくて新鮮でした。

<洋一(人)>
惹き付け易い季語「青嵐」に引き付けられてしまいましたが,なんてことのない詠み古しを
音楽用語で表現したのは Good です。

バスを待ついつまでも・・・青嵐  瓶
<楽千(地)>
いつもボクはひとり、
やって来ないバスを待っている。

<洋一(地)>
奇異をてらったと取られがちでしょうが,,,矢張り奇異をてらったでしょう(^_^)
でも僕はこの奇異な空間を愛します。


・3点句

テスト中だれも気づかぬ揚羽蝶  安寿
<雲外(地)>
二階の教室の窓まで舞い上がった蝶とみました。

中学生達の真剣そうな横顔との対比。

席の間を巡回している先生のスリッパの音まで聞こえてきます。

<輝石(人)>
学生の自分には共感しやすい句です。みんながテスト用紙に鉛筆を
走らせている中、ひらひらと舞っている揚羽蝶。勉強に明け暮れる
子どもたちの上を気付かぬ間に飛び去って行くもの、と解釈したら
しすぎなのかもしれませんが。

蟹くさき 女の指かぐ 梅雨の夜  雲外
<ひとし(天)>
なぜか、永井荷風の小説、墨東綺譚など連想。
この「ひと」、やはり堅気ではつまらない。やはり、
裏町の生活の匂いなど漂わせている玄人でないと....

戦闘機の耐久試験蝿の恋  尚史
<雲外(天)>
蠅の恋、いいですね。

戦闘機の耐久試験といい定めた、

あまりむきになってない気分が佳句に。

あせもの子寝つき電気の音やある  安寿
<はる(天)>
寝付かない子供をやっと寝かせて
ふっと我に返ったとき、たぶん、冷蔵庫の音か
蛍光灯の音に気付いた。お母さんの子育ての
苦労が良く出ています。

捨舟は何で夢見る夏の海  はる
<碁仇(人)>
夕暮れの海を想像した。
太陽の沈む寸前の浜辺に、打ち捨てられた船が一艘。
その船も、昔は海の上を自由に行き来していたのだろう。
船に魂があるのなら、きっと.......

<風人(地)>
無限に広がる白い白い夏の海。その片隅に打ち捨てられた捨船に己が老境を託し
た。青年の日への郷愁。ヘミングウェイの世界。


・2点句

鶏声を 納屋に留めて 五月雨  雲外
<安寿(地)>
いつもは賑やかな鶏たちも、さすがに雨にはかなわない。
納屋の中から鶏の落ち着かなそうな声や、少し羽ばたいて
みる音や、足音などがばたばたと聞こえてくるのだけれど、
何一つ気にせず雨はやむことなく降り続いている。

夏祓きしみ微かに巫女をまつ  重陽
<東鶴(地)>
「きしみ微かに」が良い。「静けさ」の不言題詠に相応しい句です。
夏祓は、「夏越しの祓」で陰暦六月晦日に行われます。
神事の伝統との繋がりは、現代人の生活からは消えつつあリますが、
これは嘆かわしい傾向です。(キリスト教も含めて)神祇釈教の句を
桃李では大切にしたいと思っています。

柿の葉と化し恍惚の雨蛙  風人
<若翁(地)>
もう旧い昔、庭先にありました柿ノ木の葉にしがみついて、動こうとしない雨蛙の姿を思いださました。恍惚とは言い得て妙です。

五月闇夢の老婆の笑ひける  碁仇
<尚史(地)>
西東三鬼の「緑陰に三人の老婆わらへにき」という句を思い出します。


・1点句

スプリンクル雨と降らして花手鞠  若翁
<はる(人)>
この句、ひょっとして「雨」の不言題かも。カンカン照りの日に、
庭で水撒きをしている情景。「手鞠」に遊び心を感じました。

紫陽花がリトマス試験紙古都の雨  碁仇
<若翁(人)>
赤と言いますかピンクと言いますか、はたまた青に変わる紫陽花を、土中のPHをはかるリトマス試験紙に捉えたのでしょうか。古都の雨と現代科学との対比に面白さを感じました。

雨上がり雨ににじんだ雨蛙  木菟
<ひとし(人)>
雨という字を三回使っているのが気に入った。
(他の字では、こういう反復は煩わしいとおもうが)
実際は、もう雨は止んでいるのだが、梅雨の名残が
雨蛙にある。

夕照の樹を聴いてゐる異邦人  洋一
<尚史(人)>
「異邦人」がちょっとわかりにくいですが、望郷をかんじさせる句です。

ピザ運ぶバイクの髪に梅雨清し  瓶
<雲外(人)>
赤いヘルメットから後ろに溢れた長髪を、

小糠雨がぬらしてる街角の情景、鮮やか。

パステル画のスケッチ。