第201回桃李10月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:朝寒、柚子、iPS (不言題)

題詠または当季雑詠

兼題T 朝寒
兼題U 柚子
兼題V iPS (不言題)

10月15日(月) 投句開始
10月22日(月) 投句締切・翌日選句開始
10月29日(月) 選句締め切り
10月31日(水) 披講

投句: 白馬、鞠、芳生、松風子、素蘭、あや、柊、馬客、潮音、ぽぽな、翔河川、明子、雛菊、英治、春愁、丹仙
選句: 芳生、英治、雛菊、白馬、ぽぽな、鞠、柊、あや、松風子、春愁、翔河川、馬客、潮音、明子、素蘭、丹仙

披講

・10点句

指ポキと鳴らして独り朝寒し  馬客
<芳生(天)>
独り身の朝寒が伝わってきます。

<鞠(人)>
老若共に独り暮しの多い昨今、ポキポキ指が鳴らせるようなら未だまだ大丈夫。

<柊(天)>
指を鳴らす音が寒ざむと聞こえてくるよう。

<春愁(天)>
秋のわびしさ身にしみる


・9点句

 口中に柚子の香ともる一の膳  ぽぽな
<英治(天)>
まさに会食の臨場感が。

<あや(天)>
格調高く、気品ある柚子の香。この句ように詠まれたなら、柚子もさぞや本望なことでしょう。

<松風子(天)>
柚子の香りが口中ひろがるさまがよく感じ取れます

蓑虫や我が細胞も汝と同じ  丹仙
<白馬(地)>
元を質せば本当に−−−。

<ぽぽな(地)>
一人一人は違っても人細胞としては同じなのですね。「蓑虫」の飄々感がいいですね。

<あや(人)>
ユーモラスな表現ながら、とても大きな真理が?

<馬客(地)>
朝寒にふと目覚めたら、蓑虫に変身していて
柚子の木にぶら下がっていたりして。

<潮音(人)>
生物学的に本当にそうか、などの揚げ足とりは、作者様のおられる高い境地からは問題にもされないでしょう。「俳諧味」とはこの句のような句をいうのです、というお手本のような句。

「iPS細胞」という難題の題詠(不言題)で、さまざまな佳作。皆様がの実力の高さに、失礼ながら改めて感じ入っあった次第です。ただ、「iPS細胞」の概念を報じるニュースの報道には、不正確なもの、事実誤認のあるものが少なからずあることが気になっておりました。
たとえば、よく報道で使われる「細胞の初期化」は、わたしには異論のある表現です。また、「万能細胞」は新聞の造語でしょうか。ふつうはpluripotent stem cells(多分化能幹細胞)といいます。ちなみに、分化しきった細胞にinductionをかけて(iPSの”i”)作製した幹細胞がiPS細胞です。「生物において分化は不可逆(未分化な細胞には戻れない)」という。多くの人の信奉していた概念を覆したのです。
1953年、ワトソンとクリックが、フランクリンのX線回折のデータを盗用してDNAの二重螺旋構造の発見してから半世紀以上、現在では遺伝子工学はもはや中学高校の理科実験の水準までに日常化。1981年にはエヴァンズによるES細胞の樹立や、1987年のES細胞による遺伝子ノックアウトマウスの樹立よりすでに30年。ES細胞の研究によって救われた命はあったのでしょうか。ES細胞による難病治療の困難さの本質は、倫理的、法的制約ではなく、技術的な困難さそのものにあるのではないかと愚考いたします。(こと、移植して生体内で目的臓器の細胞にのみに分化させ、それ以外の細胞には分化させない技術の困難さはiPS細胞でもES細胞もまったく同じ、だと思うのですが。)

<明子(人)>
細胞レベルまで考えれば皆一緒ですね。


・7点句

朝寒のかけら啄む小鳥かな  潮音
<柊(人)>


<松風子(地)>
「かけら啄む」とした見立てがおもしろいと思いました。

<春愁(人)>
かけら啄むの表現・・・好きな句

<明子(天)>
晩秋の朝の引き締まった空気がありありと感じられました。冬の朝には無い親しみも伝わり、とても好きな句です。


・6点句

細胞がつくる細胞銀河濃し   ぽぽな
<芳生(人)>


<素蘭(地)>
  マトリョーシカを蔵ふうそ寒

<丹仙(天)>
俳句に新しいコスモロジーを持ち込んだ句として評価できる。夜空には銀河に新しく星が誕生する。大宇宙と小宇宙との照応。もとをただせば、銀河の大宇宙と雖もiPS細胞よりも小さなミクロ宇宙から膨張してきた物です。

身に入むや神の領域かも知れず  明子
<雛菊(人)>
同感。快挙は素直に嬉しいが、将来私たち人類は死ぬ
ことができるのだろうかとふと思う。

<白馬(天)>
神さまはどう思っておられるでしょうか?

<丹仙(地)>
ふと呟きのような形で、遺伝子工学を通じて人間が自らの分際を越えた事への畏れを表現しています


・5点句

生命をつなぐ朗報天高し  あや
<ぽぽな(天)>
「生命をつなぐ朗報」と大きく捉えた表現が秀逸。季語もこれしかないでしょう。

<柊(地)>
高らかに詠まれている。こまごまと言ってないのが良い。

遠富士へ大きくかざし柚子をもぐ  芳生
<鞠(天)>
大きな景色の中、核をなす見事な柚子。

<明子(地)>
大きいものと小さいものとの対比が鮮やかです。

ゆれやまぬ光のなかの柚子湯かな  松風子
<芳生(地)>
柚子湯ってこういう感じですね。

<馬客(人)>
柚子がいっぱい浮かんだ野天風呂でしょうか。

<潮音(地)>
朝風呂でしょうか。人生何十年か走り続けてきた作者様が得た、文字通り黄金の憩いの一瞬がきれいに伝わって参ります。
*****
[19]:皮手袋しても手に傷柚子を摘む
実際に柚子を栽培しておられるお方でしょう。実体験がないと詠めない佳作です。
*****
[18]:軽きもの早暁に柚子ひとつあり
柚子のどこを「軽い」とお感じなったのか判りませんでしたが、清少納言が現代にいたら、こう書きそうでもあります。おもしろい発想ですね。
*****
[32]:知足とは耳貸さぬこと柚子の家
「理屈だ」といわれればそれまでですが、愉快な理屈は大歓迎です。
*****
[36]:みどり児の瞳にありて柚子の金
おなじ黄色の柚子でもお孫様(か、お子様なのだと想像いたしました)の目に映ると金色にみえてしまうのですね。


・4点句

朝寒しまづは薬罐に火を点けて  雛菊
<英治(地)>
雰囲気あり。

<翔河川(地)>


朝寒やわが身心を初期化する  丹仙
<鞠(地)>
身心か、心身か。朝寒に耐える吾は、先ず身、そして心。

<松風子(人)>
「初期化」という言葉をこのように使う斬新さを感じました

<翔河川(人)>


来るときは来るEメール朝寒し  ぽぽな
<潮音(天)>
どのような状況か、ちょっと判り辛くもありますが、不安なご心情がよく伝わって参ります。
*****
[6]:朝寒の素足にふれる椅子の脚
椅子の脚というところがおもしろいですね。季節の変化の感じどころに味わい深さのある句です。

<素蘭(人)>
忙しい時に限って…(遅刻するぅ〜〜〜)

素朴さを貫きて柚子高貴なり  あや
<英治(人)>
落ち着いた心情。

<馬客(天)>
人間界にもこのような方がまれにおられます。

柚子の香の立つ朝の椀母想う  馬客
<白馬(人)>
懐かしさが込み上げてきますね。

<翔河川(天)>



・3点句

皮手袋しても手に傷柚子を摘む  明子
<雛菊(天)>
我が家にちっぽけな金柑の木がありまして晩秋収穫する?時
素手で取り針があたっていつも傷だらけです。
作者さまの柚子の木はりっぱなのでしょう。革手袋しても
手に傷とは柚子の針は金柑の比ではありませんね。苦労の末
収穫されたたくさんの黄色の柚子があざやかに見えてきます。

瘤柚子や猫背の父の墓遠く  潮音
<素蘭(天)>
  遺愛の筆を洗ふ秋寒


・2点句

朝寒の素足にふれる椅子の脚  松風子
<あや(地)>
現代の朝寒シーンが詩的です。

朝寒や浮足立てる永田町  素蘭
<春愁(地)>
国政の寒々しさ・・・

柚子ジャムを快気を込めて贈りけり  丹仙
<雛菊(地)>
ジャムを煮ながら相手を思いやるその時間そのものがプレゼント。
深い香り、豊かなひととき。


・1点句

知足とは耳貸さぬこと柚子の家  素蘭
<丹仙(人)>
「知足とは耳貸さぬこと」という言い方が面白かった。他人の相談などには耳を傾けない究極の自己中心主義が「知足」の「徳」かもしれない。そうすると柚子の家は、そういう主人の生きざまを象徴しているかのようです。

ケータイの身震ひ頻り朝寒み  春愁
<ぽぽな(人)>
バイブレートモード(?)というのでしょうか。「ケータイの身震ひ」とは上手い表現です。「あささぶみ」も新鮮です。