第25回句会桃李定例句会(9月)披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:梨、案山子、一期一会(不言題)

秋の句(雑詠)または題詠
有言の題詠(その言葉を使う)は「梨」または「案山子」
不言の題詠(その言葉を使わずに、心を詠む)は、「一期一会」です。
9月15日(水)投句受付開始
9月22日(水)投句締切、選句開始
9月29日(水)選句締切、披講

投句: 省吾、渓美、松、木菟、今 良耶、葉子、碁仇、悠久子、たにし、旅遊、香世、涙笑、裕、池之端、安康、楽人、重陽、雲外
選句: ひとし、重陽、旅遊、葉子、楽人、碁仇、京香、香世、雲外、悠久子、涙笑、安康、木菟、松

披講

・10点句

秋うらら顔をはみだす欠伸かな  たにし
<葉子(人)>
なんともおかしみがあって楽しい句。さて大欠伸のあとは何をなさるのか。おはぎでも買いにいきますか。

<雲外(天)>
「大欠伸」が顔をはみだしたという戯画的表現が、まさに俳味。
文句無しの「天」

<安康(天)>
「あくび」といえば私のイメージはむしろ春かなと思ったのですが、よくよく思えば暑くて眠れない夜、日が昇るのが早くて眼がさめてしまう朝、そして、夏の睡眠不足を取り戻そうというきょうこのごろ、なるほどと思う次第です。「はみだす」が好きです。

<松(天)>
そうです。あせることありません。ゆったりとした気分になってさて何をしよう。

幾億の過去を集めて星月夜  碁仇
<楽人(地)>
何億光年の彼方から、今この瞬間、網膜に到達した光。
まさに一期一会と感じ入ってしまいました。

<悠久子(地)>
広大で、優しくて。

<涙笑(天)>
なかなか意味深!浪漫ティックで良いですね。

<木菟(天)>
 満天の星を眺めて、一億光年の昔を偲ぶのはもう慣れっこになった感慨ですが、
何度言われてもその度に粛然とした気持ちになります。


・6点句

予言書の見事外れて梨を食ふ  碁仇
<楽人(天)>
人々の勝手な思い込みとは全然関係なく季節は巡り、もうすっかり秋。
今年も梨は美味しいし、何だか愉快ですね。

<悠久子(天)>
1999年の秋にだけ作ることの出来る句ですね。
どこかでは気になっていたのですから、思わず笑いも。

阿の犬に吽の犬にも秋時雨  渓美
<重陽(人)>
時雨の風景と狛犬に託した詠者の心情が見事に表現されている。
この境内は、少しの落葉が、そして他に人は無く静かなんだろうと。
そうであって欲しいと思った。

<葉子(天)>
観察の細かさに脱帽

<木菟(地)>
 対になった犬の姿を並べて比較してみるのは、いつものことですが、秋の時雨の
中に立たせてみると、一層引き立つようです。


・4点句

あの頃はへのへのもへじの案山子ゐて  悠久子
<京香(地)>
実は私も同じような句を考えていました。
今はいなくなったへのへのもへじ、の案山子、懐かしいですよね。現代はしょう油顔が好みかな。
でも、昔の案山子は雀を追い払っていたけれど、今はあのこしゃくなカラスですもの。ヘラヘラして立っていられませんよね。

<香世(地)>
案山子を、哀しいものと見るか、滑稽味のあるものとして見るか。
先日、ひさしぶりに定番案山子と出会いました。
残念ながら、へのへのもへじはありませんでした。

最後かもしれぬ窓辺や雲の峰  今 良耶
<ひとし(人)>
雲の峯は夏の季語だから、季節がちょっとずれていますが、内容が今の私の気分と同じなのでとりました。どの瞬間も、これを最後の時として、慈しみたいものです。

<旅遊(天)>
どうしようもなく、この句に共感を覚える年になりました。


・3点句

蹌踉の 身にも逢瀬や 秋彼岸  雲外
<香世(天)>
たぶん、歳若い妻に先立たれた身。
お彼岸の墓参り。ここで遠い妻との逢瀬。
なにか日本の情緒を感じます。先立つのもいいか。

梨割れば酸いも甘いも天の業  楽人
<碁仇(天)>
うまい!
一生懸命手入れしても、結局最後は、「天の業」が梨の味を決めるのです。
季題が動かないか考えてみましたが、やっぱり梨がいいようです。
リズムも良いし、文句梨(無し)の天。

里案山子ついお天気の話しなど  香世
<京香(天)>
ほんと案山子はたった一人で田んぼの中に立っているのですよね。
ちょっと寂しそうだから、話しかけてみたくなる。
この頃はマネキンを使ったものもあり、ギョッとしてしまいます。
でも、この案山子はおしゃべりをしたそうな、懐かしそうな顔をした案山子だったんでしょうね。

実ざくろの異相を好きというもあり  重陽
<旅遊(人)>
何を好きになろうと勝手とはいうものの、他の多くの人と好みがいささか異なれば、
このようなことばが自然と口の端に浮かんで来るものなのでしょうか。

<安康(地)>
「ざくろ」の実は、確かに「異相」です。
実辞は「実ざくろ」一語、あとは虚辞です。「実ざくろ」一語では眼に浮かばない映像が虚辞の力を借りていっそう鮮やかに眼に浮かびます。虚実の妙を感じました。

枯れてゆく色をしながら梨実り  池之端
<碁仇(地)>
何気ないようで鋭い。
人間も20歳から年老いてゆくといわれています。
20から40歳、成熟してゆくようで、実は枯れてゆくわけですね。
この句にはそんな悲しさがあります。

<松(人)>
ああ、こんな色がきれいと思える年にいつのまにかなっていた。

きりりっと父の古着の案山子かな  たにし
<重陽(天)>
きりりとしていた姿の父親への思い、詠者の父親への深い気持ちが伝わる。
案山子の姿も実に鮮明。それでありながら平易で素晴らしい。
今父親はお元気なのだろうかと問いたくなる。

鈴虫や今宵ゆかしきメール来し  悠久子
<碁仇(人)>
鈴虫の季語とメールの取り合わせがいい。
句の雰囲気からすると「今宵ゆかしき」は少し堅いように思いました。
それと鈴虫から夜は連想されるので、「今宵」はどうでしょう?
私なら「ゆかしき人のメール来て」ぐらいにするかもしれません。

<雲外(地)>
「メール」というからには、E-mailか。
私のところへも「台風一過、晧々たる月があがっている。見てる?」という
Faxが昨夜ありました。書簡とは一味違うリアルタイムメール、それも
鈴虫の鳴いている夜、ゆかしき電子メールとは。


・2点句

口に出せば消えし口説きや秋の風  木菟
<涙笑(地)>
そこはかとなく良いですね。

新涼やポストに落つる文の音  渓美
<雲外(人)>
文は、やはり手漉きの和紙などに水茎の跡も麗しく認めたい。
投函するときのかすかな心の震え。手を離れた瞬間のかそけき音。
秋、新涼ならではの枯葉の音に呼応している。

<涙笑(人)>
素トン と音が聞こえてきそう。

女郎花男嫌いで嫁にゆき  たにし
<松(地)>
まあ、そんなもんですわ、落ち着くとこへ落ち着くもんです。

爪ぐれの幼き子らの化粧かな  重陽
<旅遊(地)>
ふと懐かしさを覚えました。

種袋立てて春待つ秋日和  香世
<重陽(地)>
秋の収穫の喜びと心情を、春への種袋で、上手く表した秀句。
充実した笑顔が見える。
この句には人の生業と四季の移ろいがある。

山里の案山子はひとり恋思案  木菟
<葉子(地)>
今回は案山子の句によいものが多かったですね。どれを選ぶか悩みましたが、案山子の孤独に同情してこの句を。

雨風に虚無の眼の案山子かな  涙笑
<悠久子(人)>
何があろうと変らな案山子の表情を、虚無と見ることも出来るのか、と。
発想の転換ですね。

<木菟(人)>
 虚無の眼といささか生硬な表現が、案山子の表情にはいかにも似つかわしい。


・1点句

赤蜻蛉西日の中へ消え入りぬ  旅遊
<安康(人)>
どこにでもありそうで、だれでも作りそうで、しかし、わたしは作ったことがない句です。ぎりぎりのところで月並みと袂をわかつ普遍性について、考えさせられます。言葉が「枯れている」ところが好きです。

見たことなき案山子を詠めと?我二十歳  池之端
<楽人(人)>
私も案山子は難しいと思います。
「見たことなき」とまではいかないけれど、車窓から遠目に見たのが関の山ではね。

梨むくや 父在らば今日 九十五  雲外
<京香(人)>
初物の梨を剥いていると、梨が好きだった父親の顔が浮かんでくる。お父さん生きていれば、95歳か・・・。風が冷たく感じられます。もうそろそろ冬支度をしなくては。父親思いの作者の心情がよく出ていると思います。

ねこじゃらし猫の代わりにじゃれてみる  楽人
<香世(人)>
私もそんな気分になったことがあります。
あの、ぼよぼよとした穂(?)を見ると、顔や鼻下を軽く触れたり、
ね、コチョコチョしたくなりますよね。