第3回七月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:山または海、にぎやか(不言)、うるさい(不言)

夏の句(雑詠)または題詠
(一句は題詠とする)
有言の題詠(その言葉を使う)は 「山」 または「海」
不言の題詠(その言葉を使わずに、心を詠む)は、
「にぎやか」または「うるさい」です。
投句締切は七月一八日(土)
選句締切は七月二八日(火)、
選句締切と同時に直ちに披講となります。

投句: 松、暁星、重陽、尚史、碁仇、勝美、木菟、楽人、心太、雲外、楽千、風人、はる、あきこ
選句: 心太、楽千、雲外、楽人、松、碁仇、木菟、暁星、若翁、勝美、重陽、尚史、東鶴、はる

披講

・13点句

まくなぎをまとひし牛の大悟かな  風人
<雲外(天)>
「牛の大悟」ですか。牛の鈍重と宗教的悟りとの落差の大きさが、いいですね。

これぞ俳味。

<碁仇(地)>
いかにも、うるさそう。
まくなぎの中で牛は、きっと尻尾でもゆっくりと左右に振っていたのでしょう。
我関せずの牛を「悟っている」ととらえたところがおもしろい。

<木菟(地)>
とぼけた顔の牛、如何にも悟りきったように見えて、無表情に虫を追い払っている様子、心憎い表現です。

<重陽(天)>
田舎道での糠蚊のうるささには閉口する。それを全身にまといながらも何食わぬ顔の牛を「大悟」と表現したところに句の面白さがある。

<東鶴(天)>
「ま」「ま」「た」「な」というA音の響く音律が実に心地よく、
悠然とした牛の物に動じない様を活写しています。
十牛図に見られるように、牛は禅門の悟りには縁の深いもの。
今回の句会で、もっとも印象に残りました。


・7点句

梅雨明けの象に輪郭戻りをり  尚史
<心太(地)>
時間を遡る句か、梅雨の間は象に輪郭がなかったということか、
曖昧模糊さが面白い。

<松(天)>
南の国の生き物なのに、日本の動物園で飼われておれば、梅雨の中に煙ることも致し方なけれ、ようやくの夏のおとずれ、本来気候とはことなれども、まずは、よかった、よかった。

<重陽(地)>
人間には、象の表情はいつも変わりなく見える。しかし、あきらかに季節の変化には敏感で何かが違う。暑さを得ての変化を「輪郭が戻る」としたところに表現のユニークな新鮮さがある。いい得て妙である。


・6点句

鼠死す道路の上に夏の朝  はる
<勝美(天)>
上5で、もうすでに強烈な印象です。
まだ人どうりの少ない早朝の散歩でのことでしょうか。
ただの情景だけでない奥深さを感じます。

<尚史(天)>
夏の朝の強烈な光がはっきり見えます。その無機的な感じも。


・5点句

碧き眸も 混じりてセイヤ 紅花連  雲外
<暁星(地)>
紅花連……所謂ギャル神輿ですね。
天神祭の情景でも頭にございましたでしょうか? なかなか粋な句です。

<若翁(天)>
セイヤにかけ声の華やかさを感じます。
碧き眸に、最近は外国の方の参加が目のあたりですね。

群青の 海より一荷の 鱚を抜く  雲外
<碁仇(天)>
気持の良い句です。
その光景がぱっと目に浮び、爽やかさも伝わってきました。
「一荷」と言う言葉を見つけたのが手柄でしょう。

<尚史(地)>
草田男の「秋の航一大紺円盤の中」を思い出しました。大景を感じます。


・4点句

潮の香の髪に触れたし浜日傘  楽人
<楽千(人)>
触れてください。彼女はそれを待っている。
海の光も夏の陽も、二人の恋に弾けます。

<木菟(天)>
青春時代、ただもう美しい女の人を見ると、胸がワクワクした頃の、思い出がこの句の中に秘められて居るように思えて、真っ先に目に飛び込みました。


・3点句

虹消ゆるまだひとことも言わぬ間に  楽千
<心太(人)>
まだ一言かただ一言か、ただの方がよさそに思えるが、
類句逃れかな。

<木菟(人)>
恋句でしょうか。このあえかな美しさは、そんな風情がよく似合います。

<重陽(人)>
虹をみることも、おまじないを唱えるということも少なくなった。そしてこんな句も目につかなくなったが、爽やかなロマンと潤いを感じさせてくれる佳句である。

草に木に耳を澄ませば夏盛かな  碁仇
<はる(天)>
草木も、そこに潜む虫達も、夏の日の豊かな恵みをうけて
私たちに語っています。「生命」の声に耳をすませている作者
の心が素敵です.

海人に散る船虫の速さかな  風人
<雲外(人)>
強烈な磯の香り。大きくうねる波。

今年から直行便が開通した屋久島あたりでしょうか。

<松(地)>
さすが、プロ。違うわな!

冴え冴えと心を砕くかき氷  はる
<心太(天)>
氷菓一せんの別れは、夏休み後が楽しみだが、この人の夏はどうなるかな−。

万燭に烏賊おどり競る闇の海  重陽
<暁星(天)>
万燭と闇のコントラストが絶妙。今月の巻軸はコレで決まり!

藻の花の間に乙女の姿見ゆ  楽人
<楽千(天)>
「藻の花の咲くや姫」に会ったのですね。
月見草の咲く頃、糸とんぼに乗って彼女は
帰って行きます。

閨の蚊やドップラー効果を証しけり  重陽
<碁仇(人)>
推敲の余地はありそうですが、その着眼点で取りました。
「なるほど」と思う一句です。

<東鶴(地)>
夏の句で、不言題の兼題「うるさい」ならば、「蚊の羽音」。
この句は、なんといっても「ドップラー効果」を証明するという発想がユニークで
良い。寺田寅彦のような科学者の目を感じます。

夏、渋谷茶髪とピアス17歳  勝美
<暁星(人)>
今月は(も?)最現代的な句が幾句か見られますが……
僕はこの句に尤もそんな味を感じました。

<若翁(人)>
若者の行き交う街、意外に綺麗な目をしている茶髪・ピアスが、
おじんには不思議に思えるのですが。

<はる(人)>
「にぎやか」で「うるさい」不言題なら、これですね。
あ、でもこの句を真っ先に選ぶなんて、いつも教室で悩まされているから
反動がでちゃったのかも。


・2点句

海までをひと跨ぎして夏の雲  碁仇
<勝美(地)>
雲が海より大きい。モコモコと発達した大入道を想像します。
この雲を、雲の峰とかんがえれば、題詠山と海を同時に詠ったスケールの
大きさです。

雲海の底の浮世や登山宿  楽人
<若翁(地)>
山宿に色々な人が集まって着たのでしょうね。
どんな話題が広がっていったのでしょう。

母親の小言の向う蝉時雨  碁仇
<雲外(地)>
わたしも九十一歳の母に未だに小言を言われます。半分は尤もだと思い、

半分は聞き流しています。そうした雰囲気と蝉の声の取り合わせが、いいですね。

泣くはずもない 海の見える墓  心太
<楽千(地)>
僕に会いたければ、海の見える場所に来ておくれ。
あのぎらぎら光る入道雲が僕の墓標さ。
そしてそんなふうに泪で顔をいっぱいにしないでおくれ。

白き帆にロゴの見えしが君が艇  松
<はる(地)>
ヨットのレースを遠くから応援している恋人のまなざし。
夏らしいうきうきした感じが伝わります。


・1点句

独語めく携帯電話梅雨に入る  尚史
<東鶴(人)>
都会生活者が経験する「梅雨入」の句としての、新しさを感じます。
「独語めく」が、携帯電話の雰囲気をよく捉えています。

夕立に降り込められし娘たち  木菟
<勝美(人)>
走り込んできた息使いや、濡れてしまった衣服への驚き、ため息、
興奮したおしゃべりなど、かしましさが伝わってきます。

炎昼や余命を知らず知りたきも  木菟
<松(人)>
本当は知りたくない。