第36回句会桃李正月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:元日、二千年(ミレニアム)、成人の日

新年の句 雑詠または題詠
有言の題詠(その言葉を使う)
は「元日」または「二千年(ミレニアム)」
不言の題詠(その言葉を使わずに、心を詠む)は、
「成人の日」です。
1月15日(土)投句受付開始
1月22日(土)投句締切、選句開始
1月29日(土)選句締切、披講

投句: 暁星、省吾、旅遊、碁仇、化猫、葉子、木菟、ひとし、香世、楽人、悠久子、重陽、登美子、東鶴
選句: 葉子、碁仇、楽人、松、化猫、重陽、旅遊、木菟、暁生、悠久子、香世、登美子、ひとし、由起、省吾、東鶴

披講

・10点句

御慶の句齢二千の杉に寄す  楽人
<葉子(地)>
年古る巨木に対する敬意の念の気持ちがなんとなくユーモラスに出ていて好ましい。その句はどんな句であったのだろうか。知りたいものだ。

<碁仇(天)>
人間には2000年は長い年月だけれど、杉の大木にとっては
わずか一世代のことでしかないのだ。
ありきたりな、見方でなく別の角度からとらえたところが秀逸。

<悠久子(地)>
西暦2000年と、樹齢2000年の取り合わせが見事。
目出度さそのもの。

<東鶴(天)>
「齢二千年の杉」で、「ミレニアム」が日本の句になりました。
誠に慶ばしいこと。しかつめらしい言い方と、杉の樹齢に寄せる
作者の賛嘆の気持ちが、うまくミックスして、どことなく俳味
を感じさせます。


・8点句

元日や驢馬に揺られし聖家族  東鶴
<化猫(地)>


<ひとし(天)>
クリスマスが済むと、多くの日本人は、ベツレヘムの馬小屋に滞在した
大工の家族のことを忘れてしまう。その聖家族とともに年越しをする−−
そういう気持ちがでていてミレニアムに相応しいと思った。

<由起(天)>
驢馬に揺られし、というところが絵のような情景で印象的でした。
ベツレヘムからヘロデ王の迫害を逃れてエジプトに行くところでしょうか。

この星も旅人なるやミレニアム  ひとし
<碁仇(地)>
この句もまた、2000年を別の角度からとらえている。
2000年というのは、地球が太陽の周りを2000回回った
時間である。しかし、それも長い地球の歴史からみれば、ほんの
一瞬に過ぎないのかもしれない。

<旅遊(人)>
我も旅人、彼も旅人。

<木菟(天)>
 二千年旅をしてきた地球、その一隅にのっかっている自分。大らかな気分になり
ますね。

<香世(地)>
なんでもない句のようで惹かれました。
ずばり旅人といってしまうのが良い。
はるかなる時をへて、星も生まれ、旅して、そして死ぬ。


・7点句

水茎の老い美しき賀状かな     重陽
<楽人(人)>
いたずらに年を重ねても、こうはいきません。
私もこんな賀状が出せるようになりたい、
まず無理でしょうけど。

<旅遊(地)>
いつか美しき賀状を書きたいとは思っているのですが。

<登美子(天)>
このような字を書けるように年齢を重ねたいと願っています。

<ひとし(人)>
私は「老いの悪筆」なので、やはりこういう句には弱い。
若い人でも能筆家はいるでしょうが、「老いうるわしき」というのは
言葉遣いや文章に年輪を感じさせるということか。

時果つることもあるらむ寒月夜  碁仇
<葉子(人)>
Y2K問題などがあり、二千年の新年はいつになく緊張があり、そうそう目出度い、目出度いとうかれてはいられなかった。大寒を過ぎて、満月を仰いでいると、やがてこの月も欠けるのだ、人間世界も?と少々物寂しい思いがし、共感した。

<重陽(人)>
ふっと、無限と終末を感じたりする瞬間に共感を覚えます。

<旅遊(天)>
冬の夜なればこそ、こうした思いが強くなるのですね。

<木菟(地)>
 冬の月にはそんな孤高の雰囲気がありますね。


・6点句

春着の子紅おしろいの無口かな  重陽
<楽人(地)>
日頃のお喋り、お転婆はどこへやら。

<悠久子(人)>
晴着を着せてもらって、お化粧もしてもらって、
嬉しくて、ドキドキして、お喋りをしない女の子の様子。
だって、おすましもしなくては!

<香世(天)>
いつもは、おてんばで元気な子。
お正月に着慣れない晴れ着で、緊張しているのでしょう。
でも、女を自覚して、嬉しくもあり、哀しく(?)もあり..


・5点句

美しく散りたきものを冬紅葉  旅遊
<化猫(人)>


<重陽(天)>
暖冬の枯山の風景を詠んだともいえるが、むしろ人生の終末がこうありたいと響く。

<省吾(人)>
今年のように紅葉することなく何時までも木の枝に
しがみついているのが、実はもみじの本当の心だと
いうことはないのでしょうか?

元日のけふもまばゆき主婦ならむ  木菟
<悠久子(天)>
お正月はお正月でゆっくりは出来ない主婦だから、
元日らしく「まばゆき主婦」たらんとする心意気に拍手。
作者は、にこやかに、晴れやかに過されたことでしょうね。

<登美子(地)>
主婦の鑑ですね。
手抜き主婦には少々煙ったい気持ですが。

元日や幼き顔に明けにけり  ひとし
<葉子(天)>
だれが見ても新しい年を迎える幼子には未来に対する希望が感じられ明るい気持ちになる。「幼きかおに明ける」という表現がとてもいい。

<由起(地)>
幼き顔が、未来が今ここに眠っているような、そんな感じです。
まなざしが、とてもあたたかいですね。


・4点句

かくれんぼ見つけて泣かれ2日かな  香世
<松(天)>
のびやかなお正月で結構でございます。
明けまして、おめでとうございます。

<登美子(人)>
普段仕事で忙しいパパがお相手でしょうか。
ほほえましいですね。


・3点句

うらめしき雲のむこうの初日の出  省吾
<楽人(天)>
雲の合間から見える初日は、線状でしたね。

元日の無為に過ぐるをよしとおもふ  登美子
<松(人)>
なかなかに、そう言いきれない身の凡庸さ。

<暁生(地)>
願わくば、三が日とも無為に過ごせたらと思うこのごろです。

去年今年幾たび重ね二千年  葉子
<化猫(天)>


二千年電気ついたと初笑い  香世
<暁生(天)>
何事もなくて良かったですね。
我が家は水をバケツで備蓄しました。

冬日和父恋いて母墓参る  香世
<省吾(天)>
大雪が降り積もった日の暖かく晴れ上がった翌朝、父は急逝しました。
多勢の子育てに明け暮れていた母には、この句のような
余裕もなかったのではなかろうかと、今さらながら涙がにじみます。


・2点句

元日や老いには老いの思いあり  旅遊
<省吾(地)>
何事も半ばを過ぎれば残りの経過は早いものといいます。
特にこの頃は一年の過ぎるのを早く感じますが
人の世は半ば過ぎてからこそゆっくりと行きたいものです。

元日と刷りし賀状を三日出す  楽人
<松(地)>
私もそうでした。
それで、すませるところがいけないと言えばいけないんですけど。

久々にそろいし笑顔に雑煮もち  省吾
<東鶴(地)>
親元を離れてはいるが、まだ独立して所帯を持っているわけではない子供達とか、単身赴任して家族から離れていた父親が戻ったとか、いろいろな状況が
考えられますね。とにかく正月は、久々にみんなが揃って笑顔で雑煮が食べられる。それ以上に目出度きことは何もなくとも、幸せな瞬間です。
 家族が頭を揃えてものを食べる楽しさを率直に詠んだ曙覧の和歌なども
思い出しました。

水鳥の影見えてきて初日出づ  登美子
<重陽(地)>
「影見えてきて」は、素晴らしい写生です。繊細な心の動きを感じます。

雪催ひ地蔵はくさめこらえゐる  葉子
<ひとし(地)>
「雪催ひ」というのは味わい深い季語で、これを使った句は選びたくなる。
「地蔵はくさめこらえゐる」というところ、なんとも軽妙洒脱。


・1点句

冬ざれて翼生え来し二千年  化猫
<香世(人)>
難解な句だと思いました。
冬ざれて、で、悲観的な未来(過去?)を思いますが、翼生え来しときて、
なにか希望もあり。2000年。区切りには、時の流れに思いをはせます。

そんな日のなかった世代まだ子供  木菟
<由起(人)>
成人式がなかったって、大昔のようなきがします。ということは
作者は、おじいちゃん? だったらとっても愉快な句です。

携帯を覗き覗き待つミレニアム  暁星
<東鶴(人)>
携帯という小さな私的空間からミレニアムという公的時間に接続したところ
が面白い。人情「他」の嘱目の句と解しました。若い女性が、恋人と電話しな
がらミレニアムを迎えている、いかにも現代的な情景で、ほほえましい。 

元旦の少年の瞳に決意あり  化猫
<暁生(人)>
あなたの眼力に惚れました。

白髪に染めて娘は成人式へ  ひとし
<木菟(人)>
 目立ちたがり屋が多い若者の中でも、白髪の乙女となると何となくセクシーで、
気を引かれますね。

寒稽古父を叱れば笑われし  化猫
<碁仇(人)>
寒稽古をしている父を「もう歳なのだから」とか言って叱ったのだろうか?
それを一笑に付されたのであろう。いかにも豪快な父親の姿が見えるようだ。