第5回八月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:花火(有言)、盆(有言)、涼しい(不言)

夏/秋の句(雑詠)または題詠
(一句は題詠とする)
有言の題詠(その言葉を使う)は 「花火」 または「盆」
不言の題詠(その言葉を使わずに、心を詠む)は、
「涼しい」

投句締切は八月一八日(火曜日)
選句締切は八月二八日(金曜日)、
選句締切と同時に直ちに披講となります。

投句: 雲外、暁星、心太、木菟、東鶴、はる、ひとし、重陽、勝美、碁仇、風人、松、悠久子
選句: 雲外、暁星、松、重陽、葉子、勝美、ひとし、はる、東鶴、碁仇、心太、悠久子、風人

披講

・12点句

花火はなびHanabiとなりしベネチアの夜  はる
<暁星(天)>
僕は所謂新傾向俳句は好きじゃないんですが……
「花火」「はなび」「Hanabi」と三表記を並立させた点は特筆モノ。

<ひとし(天)>
ううむ。斬新ですな。花火がどんどんと打ち上げられる、
ビートたけしくんの面影づけか。リズムがじつに良い。

<東鶴(天)>
花火はなびと続けて最後にHanabiを持ってきたのが、なんともベネチアと符合して
面白い。映画祭に参加する作品の表題をどうするかたけし監督が、あれこれと思案
している様子、審査員が一斉に「hanabiだ!」とグランプリに投票している様子、
そしてなによりも夜空をつぎつぎとあがる花火の、派手ながら一抹の虚無感を漂わ
せる情景などが浮かびます。

<悠久子(天)>
字余りなのに不思議にリズミカルで、「Hanabi」とあることでか
異国情緒を感じます。「ヴェニスの夜」とすれば納まりがいいかも。
古い映画「旅情」のシーンを思い出しました。


・10点句

盆の入り男の折たる鶴一羽  心太
<重陽(人)>
切ない感じが出ています。ご一緒にご冥福をお祈りしてあげたくなります。

<葉子(地)>
盆の入り男の折りたる、でなくて、折りしではいかが?

<東鶴(地)>
中七が字余りでややもたついた感じがあるのは意図したものか。
男の折った鶴ですから、
丁寧にではなく、やや不器用に折ったものなのでしょう。
妻か子供に先だたれでもしたのか、言外にそんな余情を漂わせますね。
折鶴に万感の思いが宿っています。

<碁仇(天)>
なぜか、心をひかれる句です。
句の背景は、はっきりしないのだけれど、かえってそれがこの句に広がりを与えているように感じました。
その鶴には、どんな思いが込められていたのでしょうか。

<風人(地)>
男が折鶴をしているとは哀しい景色ですね。
失った子供を思ってか、あるいは先立たれた愛妻を偲んでか。
一羽であるところがいい。


・9点句

夏風邪やハスキ−ウ゛オイス童女めく  木菟
<雲外(地)>
憶えがあります。

そんな女を連れ歩くときの気恥ずかしさ。まるで自分の所為みたいで。

<松(地)>
どぅちたの!?と人に聞く気にさせるところがかわいい。

<勝美(地)>
喉の風邪は声が嗄れます。
しかし、童女めく、でしょうか。子供ならむしろ声変わり期のようだし、
女性なら男性的な声に聞こえます。ハスキーボイスでないハスキ-ヴオイスの
字並びで選句しました。
うに点々とワープロで打てるのですか。

<ひとし(人)>
熟女か婆さんが風邪をひいた
下五の「童女めく」というのは
ふだんお喋り(出しゃばり)の女が、いつになく
おとなしく楚々としている図か

<悠久子(地)>
風邪をひいて普段より可愛い声になったのでしょうか。鼻に掛って甘え声に。
男の方の句ではないような気がするのは何故?
夏風邪の季語には思いがけない句でした。


・6点句

羅をまとひし影も透きて揺れ  悠久子
<重陽(天)>
素敵な絵を鑑賞しているような綺麗な句です。ちよっぴりエロチックで、ロマンがあります。音律にも無理がなく爽やかです。

<勝美(天)>
こういう美しい句もいいですね。
確かに影も透いて見えます。今年のトレンドの服でもあります。

すててこに昵みて唯我独尊や  風人
<雲外(天)>
すててこは、やはりフレーム生地のですね。女房と娘が帰郷した留守か。

唯我独尊と大きくでた俳諧。

(「昵む」は「泥む」の変換ミスか)

<はる(地)>
作者の方は、ご自身のことを詠まれたのかもしれませんが、私は、むしろ
日本の伝統的な父親の姿を、母や娘の目から見た句として読みました。
唯我独尊とステテコの取り合わせが良いですね。

<東鶴(人)>
唯我独尊とは、たぶん妻子を帰省させて、ただひとり畳の部屋で
大の字に寝そべっている様を詠んだものでしょう。「ステテコになずみ」
の句に暑中休暇の実感がこもっています。


・5点句

短夜の主婦のたつきに帰るらむ  木菟
<松(天)>
普通がいい。天土の動き出してはたまるものかわ。

<重陽(地)>
また同じような一日が始まる。そんな物憂げな感じが伝わってきます。「たつきに帰る」がいいですね。


・4点句

殺すには 足らぬ女よ 遠花火  雲外
<葉子(人)>
それでも諦めきれないらしい。遠花火は不思議と恋を思わせる

<心太(地)>
殺すに足らぬって、初めから憎しみはなかったのかな。
殺し足らぬ女よ これは愛憎がふかすぎるかな。

<風人(人)>
女の人にすげない扱いを受けたのでしょうか。
己の心うちの鬱憤を花火の破裂音にのせて納得させているのでしょう。
しかし、このような下世話な常套句も俳句に作ってみると面白いですね。

遠花火 別れ話も 纏まりて  雲外
<松(人)>
そうそう、所詮別れてしまえば他人。

<碁仇(地)>
昔の情熱も、今は遠くに聞える花火の音のようなもの。
昔は、近くで見る大輪の花火のようだったこともあるのでしょう。
少し寂しい、それでいてほっとしたような、微妙な気分を感じ取る
ことができます。

<悠久子(人)>
穏やかな別れ話なのか、クールな別れ話なのか。
遠花火を見る余裕のある二人が美しく想像出来るのです。


・3点句

言い訳にすぎぬ 夜の蜘蛛  心太
<暁星(地)>
おや、自由律俳句まで来ましたか!
やはりこうした句はインパクトが強烈ですね。

<はる(人)>
この句、夜の蜘蛛の不吉な感じ、吐き捨てるように
言い切った上の句に呼応して、強烈な印象でした。男性的なものを感じました。
(花火の有言俳句になっていないのがチョット気になりますが)

サングラス失せて真昼の闇のなか  東鶴
<はる(天)>
哲学的、内省的な句と思いました。掛けているサングラスは、外の人から
その素顔を闇に隠してくれます。そのサングラスが失われ、
闇と光は騙し画のように逆転して明るい日の光が、かえって闇の世界を産みました。洞窟の住人が、実在するものを見ることが出来ないように。

星流れおののきひとつ過りけり  風人
<葉子(天)>
世紀末の不安に生きる者の感慨か。作者はどこで星を見ているのだろう。

喜劇人根性のある花火かな  暁星
<風人(天)>
夜空につぎつぎと弾ける花火、そのサービス精神溢れる盛り上がりぶりを
喜劇人根性とはいいえて妙。花火を見る人の心のありよう次第で花火もこ
のように見えるでしょう。悲しみを誘う時もありますが。


・2点句

明けぬ梅雨厨房の瓶さざめきぬ  はる
<ひとし(地)>
今年は梅雨があけない内に秋になりそうだ。異常気象を俳にしたところが
手柄。


・1点句

盆ちかし不孝を侘びて昼手酌  ひとし
<勝美(人)>
いろいろ想像をしてしまう句です。
盆近いのに、ふるさと親のもとに帰省しない。出来ない。
なぜ、夜でなくて昼なのか。単純に休日とは思えない。
昼に手酌で飲む酒は苦い。失業中かもしれない。

綿飴のふうわり溶けて盆の月  はる
<碁仇(人)>
盆の月を、綿飴の溶けたようなといったところが秀逸。
「ふうわり」という修辞もよく効いていると思いました。

夏の朝肯定も否定もしない  心太
<暁星(人)>
何を「肯定も否定もしない」のかは不詳ですが……
このえもいわれぬ味のある中七以降、好きです。

夜もすがら青簾さえ疎ましき  重陽
<心太(人)>
夜もすがら青簾さえ疎ましき
そういえば蚊帳も暑かったなー

短夜やサボテン薫る強き酒  東鶴
<雲外(人)>
旅先の一齣をスナップ写真のように句にするのは、たとえ秀句でなくても、

想い出のよすがにはよいものですね。