第51回句会桃李11月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:時雨、鴨、大統領選挙(不言題)

冬の句 雑詠または題詠
有言の題詠(その言葉を使う)
は「時雨」または「鴨」
不言の題詠(その言葉を使わずに、心を詠む)は、「大統領選挙」です。
11月15日(水)投句受付開始
11月22日(水)24時投句締切、翌日選句開始
11月29日(水)24時選句締切、翌日披講

投句: 天藤志織、旅遊、重陽、灯心、葉子、香世、素蘭、夜宵、省吾、頼髪、登美子、星麿☆、暁生、悠久子、晴雲、木菟、洗濯機、とびお、一蟷、絵馬
選句: 葉子、灯心、夜宵、とびお、晴雲、暁生、頼髪、重陽、千両、星麿☆、旅遊、木菟、香世、素蘭、愛、洗濯機、一蟷、省吾、悠久子、登美子

披講

・12点句

日向ぼこ猫のとなりで爪を切る  省吾
<灯心(人)>
小春日の平和な日常。そして、一抹の淋しさ。――この読後感が好きです。

<晴雲(天)>
小春日の陽だまり、暖かい場所の暖かい猫のとなりにいる、この句のあたたかさが好き。猫や犬は夏でも冬でも、一番気持ちのいい場所をよく知ってますね。

<暁生(天)>
この時期にピッタリのいい光景です。

<頼髪(地)>
ちょこんと座った猫はあまりの心地よさに目を閉じている。
パチン、パチンとうるさいニャーと思ったらご主人さまが爪を切っている。
「あー、爪は切ったらダメニャー...、ムニャ」

<重陽(地)>
何ともいえない俳味があります。

<香世(人)>
上手い句かどうかワカリセン!
でも、私のことです。さては見てたな!めっ!


・11点句

死に遅れなどと云うまじ冬の虫  旅遊
<葉子(人)>


<晴雲(地)>
冬の虫は、特養老人ホームになかば植物状態で横たわる大勢の老人が浮かんでしまって。寿命は神の意志という単純な気づき。

<頼髪(天)>
「今まで人生いろいろとあったけど、考えてみると俺も結構頑張ってきたよな」
薄い日差しの中でそんなところへ想いは行きつく。

<重陽(天)>
自然の厳しさに耐えている姿、それに対する感慨。
強い感動を覚えました。

<星麿☆(地)>
冬の虫が効いていると思います。


・9点句

時雨忌や六腑に沁みる梅の粥  絵馬
<木菟(天)>
時雨忌や六腑に沁みる梅の粥
 天地人と分けましたが、どの三句も格調高い、古典的な句で、甲乙付けがたいと
思いました。
 惜しむらくは、これらの句に対抗できる、現代的な句が見つからないということ
でしょうか。

<愛(天)>
芭蕉の良さというのは丁度、長い間外国で生活して、久しぶりに日本に帰ってきて
食べた梅の粥のように、五臓六腑にしみわたるような、懐かしいふるさとの味に似ているのではないでしょうか。

<登美子(天)>
芭蕉翁をしのびながら粥をすする作者は風邪気味なのでしょうか。
「六腑に沁みる」にしみじみと幸せをかみしめている気持が感じられます。

鴨の曳く水脈に触れゆく渡し舟  天藤志織
<とびお(地)>
人生で何度こういう水面を見たことでしょう。そしてこれから何度見るでしょう。
情景の確かな句と思いました。

<重陽(人)>
「曳く」「触れゆく」の説明には少しばかり残念な感じが残りますが、
とても良い句です。

<木菟(地)>
鴨の曳く水脈に触れゆく渡し舟

<省吾(人)>


<悠久子(天)>
日本画の静の水脈とも、あるいは日本映画のワンシーンのゆるやかな動きとも。


・7点句

次の手を打てぬ小春の碁盤かな  悠久子
<旅遊(人)>
小春の情景にぴったりです。猫がとなりであくびをしているような感じさへします。

<香世(地)>
アメリカの大統領選挙の混乱ぶり。
世界で一番IT革命が進み、危機管理の名人がねえ、と思うと嬉しくなる(?)程可笑しい。
単純な足し算が出来ないなんて...この混乱ぶりを囲碁で比喩したのはお見事です。
次の手は、まだまだのようですよ。

<愛(人)>
碁を打っているそばで、ラジオなどが選挙の結果を報じている光景ととると面白い
と思いました。

<洗濯機(人)>
囲碁名人戦三勝三敗の最終局,つくって,黒の半目勝ち.ところが白方の座布団の下から
黒石がひとつ出現.碁石投げ合う大騒動.件の石の指紋判定まで.ただし,こうとると,
「次の手を打てぬ」のは対局者ではなく,立会人・主催の某新聞社になりますが.
「藪・碁蛙」も,なにやらザル碁の様相.彼の地も, indian summer ですか.
「碁盤かな」がいいですね.

<登美子(地)>
なるほど。こう詠めば傍目には愚かしいとも映るあの騒動も
余裕をもってながめることができますね。
ゆっくり成行きを見守りましょうか。


・5点句

小春日や入院仲間みな高鼾  絵馬
<愛(地)>
小春日の射す病室の窓、元気ならば外に出られるのに、入院患者は皆、いびきをか
いて寝ている。重い病気の人もいるのかも知れませんが、どこかゆとりのある
ユーモラスな感じに惹かれました。「仲間」という言葉に、病めるものの連帯感の
ようなものを感じます。

<洗濯機(天)>
この患者さん,御亭主絵馬先生と特定し,快癒を願い, grinding sesame .
相部屋ならどのみち軽症,いずれは退院.
ポカポカすれば,後の心配があろとなかろと,つい高鼾.
「擂胡麻の香りも高く天入れる」.ハズレだったら,お笑い.

老杉の木立しぐれて塩の道  葉子
<旅遊(天)>
塩の道を歩くとこんな場面に遭遇するのですね。良い句です。感じ入りました。

<素蘭(地)>
箱根街道でしょうか。樹齢を重ねた杉の大木としての歴史と街道としての歴史が、初冬のしみじみとした風景にオーバーラップして情趣ある句と思いました。

柿落葉抜き足差し足猫戻る  香世
<千両(天)>
 猫と人間の関係が、かさこそと聞こえてきそうで……、
柿落ち葉というのも、残照をイメージできた。

<洗濯機(地)>
猫族は本来狩猟の性,忍びの足.柿の葉はニスを塗った紙粘土の細工物.
踏めばガサゴソ音も盛大.猫は敏感.足音を消さずには帰れない.
とすれば,あるいは,この猫,「頭の黒い猫」か?

数えても合わぬ石碑や神の留守  天藤志織
<夜宵(天)>
神の留守。なんだか好きです。ほんと集計のやり直しのゴタゴタで某国の民士主義神話がくずれちゃった感じ。(もともと崩れてたのかなぁ)

<旅遊(地)>
神の留守という季語は扱いが難しく、句には出来ないと自分で決めていますが、こ
れは私の確信を打ち砕きます。このような句が自分でも詠めたらと思います。


・4点句

着ぶくれた祖父着ぶくれた孫連れて  とびお
<夜宵(地)>
母や祖母ではなく、祖父。そこがいい味だしてると思います。情景が目に浮かびますね。微笑ましい。あったかくなれる一句。

<千両(地)>
着ぶくれた祖父と孫が出かけてきたのか、出かけて行くのか?
どちらにしても、見ているものは、やれやれ。……という気持か?
 取り残されたのか?

朝しぐれ湯屋の高窓乾きをり  洗濯機
<とびお(天)>
しぐれ、というとなんだろうとずっと考えていました。
湯屋の高窓、ああ、しぐれそのときにぴったりするのは湯屋の高窓だと知った次第です。言葉以前の共通の感覚を取り出して示されると、まいったーとなります。俳句の醍醐味ですね。

<木菟(人)>
朝しぐれ湯屋の高窓乾きをり

軒借りて会釈交はしぬ初時雨  灯心
<暁生(地)>
軒の主との心のふれあいを感じます。

<省吾(地)>



・3点句

浮寝鴨縁談ひとつ流れけり  悠久子
<灯心(天)>
恬淡として味わいのあるいい句だと感心しました。

宿り木のオブジェや青き冬日和  重陽
<素蘭(天)>
すっかり葉を落とした広葉樹の美しい樹形、その幹に寄生し青々と葉を茂らせている宿り木、人工物めいた対比が冬の澄み切った青空を配することでより鮮明となり、オブジェという表現に凝縮されているように感じます。

寒灯の途切れそこから男坂  灯心
<葉子(地)>


<星麿☆(人)>
何かそこから物語が始まりそう。

櫨落葉一匹の蟻動かざる  重陽
<千両(人)>
櫨落ち葉がわからないのだが、冬の小道、秋の日暮れ、
収まるものが収まって静寂を感じる。
 櫨は最後まで葉を残す落葉種なのでしょうか?

<一蟷(地)>
あえて余韻の残る言い方をして、落ち葉のかげにいる蟻の「静」と「これから来る動」を表していると思います。

歯形ある干し柿ひとつ盆にあり  葉子
<香世(天)>
楽しい想像のできる句である。歯形が残って、そのままおいてある干し柿。
ということは、不味かった?しかし、捨てることをしなかった。
途中で、呼ばれて盆においたのか。後で食べようとして。しかし、干し柿くらい
一口で(?)食べようと思えばできる。だから、やはり不味いから置いた。
しかし、歯形の残った干し柿を、他の人が食べるだろうか?
「もう、おじいさんたら。食べるなら食べて!いらないんだったら捨ててよ!」
という、声が聞こえる。いや、あるいは、孫がちょこちょこと....もしかしたら、ネズミ?

奥琵琶の山に行きつく時雨かな  頼髪
<葉子(天)>


なみだ目に鴨のならんで尻をふる  頼髪
<省吾(天)>


時雨るゝや一語発せぬ顔まぢか  洗濯機
<星麿☆(天)>
何となくいい感じ。いろいろ想像させられます。


・2点句

病院を出でて正午の真鴨かな  とびお
<灯心(地)>
入院見舞いの帰りだろうか、己が診察の帰りだろうか。真昼の静寂の中、鴨が水脈を引いて時の流れを証明している。「正午」が利いている。

フロリダに弁護士走り冬に入る  素蘭
<頼髪(人)>
そうか! この手があったか。 発想の勝利。
大統領選挙、さんざん悩んで結局出来なかった私としては、やられたという感じ。
ただ、「走り〜入る」は少々切れが甘く、惜しい気がします。

<悠久子(人)>
この不言題は難問でした。フロリダに走る弁護士というのが軽妙で頂きました。

桐の実の激しく揺れし別れ哉  旅遊
<悠久子(地)>
桐の実の揺れは、そのまま別れの心情の揺れでしょう。


・1点句

初時雨君の手を借る下山道  素蘭
<夜宵(人)>
あたたかい感情が奥にあるような気がします。寒さも悪天候も、人と人とを近づけてくれるなら、よいものかも。

ゴアさんの八年前の顔が好き  晴雲
<素蘭(人)>
大統領選挙を詠んだ句は面白い句が多かったですね。この句を選んだ理由は「ご同慶のいたり」ということで…。

寒々といさかひ続く世紀末  登美子
<暁生(人)>
まさに世紀末の感です。

しぐるるや讃美歌遠く遠く聴く  悠久子
<晴雲(人)>
時雨という語に、あまり新鮮味がないなか、遠くかすかに聴こえる賛美歌をとらえた心の静さに共感しました。

時雨去り山は黙して大夕日  晴雲
<一蟷(人)>
コントラストのある一瞬を、凝縮した言い方をして表していると思います。

「善」も「美」もなく過ぎにけりランボー忌  絵馬
<とびお(人)>
ランボーと善と美、作者の場所がすっきり見えておもしろいと思いました。

松明にいのち燃やせり鞍馬山  旅遊
<登美子(人)>
「いのち燃やせり」・・せつないですね。
おとなの秘めたる恋でしょうか。