第53回句会桃李12月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:鍋、クリスマス、忠臣蔵(不言題)

冬の句 雑詠または題詠
有言の題詠(その言葉を使う)
は「鍋」または「クリスマス(聖誕祭)」
不言の題詠(その言葉を使わずに、心を詠む)は、「忠臣蔵」です。
12月15日(金)投句受付開始
12月22日(金)24時投句締切、翌日選句開始
12月29日(金)24時選句締切、翌日披講

投句: 灯心、冬月、旅遊、素蘭、重陽、十夜、頼髪、明子、悠久子、葉子、やんま、香世、しゅう、絵馬、晴雲、登美子、洗濯機、星麿☆、めだか、若芽、夜宵
選句: 富章、香世、葉子、旅遊、十夜、頼髪、妹見、やんま、素蘭、悠久子、夜宵、しゅう、愛、明子、冬月、灯心、晴雲、重陽、暁生、絵馬、洗濯機、星麿☆、とびお、めだか、登美子、省吾、若芽

披講

・14点句

湯豆腐や逆らわずに生き退職す  香世
<素蘭(天)>
つつがなく定年退職なされた方なのでしょうね。
古き良き時代だったかもしれませんが、長い会社人生を淡々と誠実に勤め上げてこられた生き方には、湯豆腐の淡泊でありながら滋味深い味わいが確かにふさわしいと思います。

<冬月(天)>
ペーソスがある。定年後に湯豆腐をつつきながら、過ぎし日のことを回想し、幾分の苦みとともに自らの生き方を振り返っている。さまざまな事情で逆らえなかった人の感慨は深い。

<晴雲(地)>
ご自身のこととじゃなくどなたかのこと? 湯豆腐のイメージと宮仕えをまっとうされたことで、誠実な方にお見受けしました。

<重陽(人)>
何かほのぼのとして、又とても切なく響きます。

<絵馬(天)>
定年退職なのか、あるいは、勤め先のリストラでやむなく退職したのか、状況によって、句の情感が微妙に変わりますが、とにかく味わいのある句ですね。
 リストラなら雇用者との軋轢もあり得た状況だったのかもしれない。しかし、作者は、その状況を甘受してどこか苦い思いもかみしめながら、一人で湯豆腐を前に酒を呑んでいる図が浮かびます。
 定年退職の場合は、「逆らわずに生き」の「生き」が効いて来ます。この湯豆腐は、家族で鍋を囲んでいる場景なのかもしれません。家族のために実直に勤め上げた自分の半生を回顧した句となるでしょう。

<省吾(地)>
永い間じっと耐えて来られたのでしょうか。
その反動が来ないことを祈ります。


・12点句

恋文は手袋はずして投函す  夜宵
<香世(天)>
そうか、そうですよね。両手で暖めて、そっと投函する。
メールではどうなるのでしょうか?

<葉子(地)>
思いがどうかとどきますように、と手袋を外して投函するというあいらしさ。若さとはよいものです。

<愛(天)>
良く分かります この気持ち....

<冬月(地)>
したことはないけれど、この感覚はなんとなく分かる。こういう感覚を維持する人も今後少なくなると思える。ネットが社会のコミニケーションの主役になれば、恋文も電子メールになるだろう。それにつれて、コミニケーションの在り方や恋愛感情も変化してくるのではないか。万葉集の時代のような深い情愛は今はないし、あっても不自然である。この句は、古き良き時代に人間が持っていた人間的な感情を想起させる。

<暁生(人)>
その想いは、きっと届いたことでしょう。

<若芽(人)>
ありました、私にもそんな日が。もう一度、戻ってこい。


・9点句

会堂に堅き木椅子や聖夜劇  明子
<葉子(天)>
子どもたちが一心に演じる聖夜劇を見る時、椅子の固さなど
思わず忘れていることがよくある。さて今年はどうであろうか。

<旅遊(人)>
教会の椅子はどうしてあんなに固いのか。これはヨーロッパへ行ってもそうなの
だからいたしかたのないことかもしれません。そこで聖夜の劇を見るというのは、
この日だけは宗教的な鍛錬というものになるのでしょうか。

<素蘭(人)>
チェロのアンサンブルにつられて近所の教会のミサに参りましたので、身にしみる一句となりました。

<愛(人)>
堅い木椅子って感じがよく出ていますね。豪華なクリスマスパーティより
こういう場所の方がクリスマスらしいです。

<洗濯機(天)>
本来なら,宗教の神聖な夜.救い主生誕の再現劇なら,まして,
赤ら顔の千鳥足サンタは罰当たり.冷たく堅い木椅子こそ,この夜にふさわしい.
不平をたれる者などいるはずもない.「会堂」が中下句とややダブリか?
教会と限定せずに駅のベンチとでも読ませるようにして,イメージを広げる手はいかが.
聖夜劇の意味も変わりますが.


・8点句

鴨鍋やをんな同士の気安さも  悠久子
<明子(地)>
鍋を囲んだ女性達のくつろいだ楽しそうな様子が見えてくるようです。

<暁生(天)>
なるほど。
オトコ同士の気兼ねなしも有ります。

<省吾(天)>
どんな状態か何となく想像できる。。。。。

魚屋が手酌で過ごす聖夜かな  洗濯機
<富章(地)>
クリスマスってお魚やさん暇そうですねぇ。
なんか笑ってしまう。

<十夜(地)>
 「クリスマスなんて……」と啖呵を切ったけれども本当は少し羨ましく思っている魚屋さん。頑固そうでもお茶目なおじさんが思い浮かびます。

<しゅう(人)>
「魚屋」と「聖夜」の着眼点が面白いですね。聖夜なんか関係ないと背を向けている、粋な初老の魚屋さんを思い描きます。

<明子(人)>
ちょっと斜に構えたような感じが面白かったです。

<めだか(地)>
昼間てきぱきと魚をさばいている姿もみえてきました。ひと仕事終えた聖夜、手酌をしている魚屋さんの手。動と静。クリスマスは、やはり魚の売り上げは落ちるのかしら。


・7点句

テームズやひたと目のあふ冬鴎  葉子
<頼髪(地)>
横なぐりの雪がコートに張り付いていく中、ひとりテムズ河畔を歩いている感じ。
鴎まで余所者を見る目だ。

<やんま(人)>
冬鴎。ひたと目があうんですよね、これが。

<重陽(天)>
河の流れ、鴎、そして人との静と動が「ひたと目のあふ」の修辞で見事に
詠われている。

<洗濯機(人)>
冬鳥の眼がすきなもので.眼が側面についているので,まともに目が合う,ということは
ないと思いますが.そんな風に感じることがあります.イギリスの冬はきびしいのでしょうね.
このカモメは純白のフカフカコートをまとったオネエチャン,というのは妄想ですが,
「ひたと」には,そんな色っぽさも感じます.

モジリアニの店や飾らぬ聖誕祭  洗濯機
<頼髪(天)>
飾らない店とモジリアニの相性は良さそう。イエローオーカーのイメージの絵にハロゲンランプのスポットがあたっている。
掃除が行き届いていて整然とした店舗、派手な飾り付けをしない分、店主の商売を抜きにしたクリスマスへの気持ちが伝わって来るようです。

<悠久子(地)>
そういうお店へ行ってみたいものですね。飾らなくともモジリアニはある!

<重陽(地)>
クリスマスに対する敬虔なお気持ちを詠まれたものと思います。


・6点句

人ごみに溶け行く吾のクリスマス  星麿☆
<夜宵(天)>
情景が浮かびました。クリスマスの人ごみってやっぱりいつもとは違う雰囲気がして、その中一人で歩いてると、淋しいんだなぁ。

<明子(天)>
世の中はお祭り気分だけど、私のクリスマスもこんな感じで
過ぎてしまいました。

はじめての あみもの教室 クリスマス  夜宵
<香世(地)>
彼に送るクリスマスプレゼントは、マフラー?セーター?
あみもの教室の先生もきっと応援してます。

<星麿☆(人)>
彼氏でもできたのかなー。
NHKの編み物の先生男性だけど、お化粧などして結構面白いですね。ご本もたくさん出されているみたいで。

<めだか(天)>
ああ、いいな、と思いました。あみもの教室に通いはじめる、うれしさとちょっとした緊張感、折りしも街はクリスマス。編み物は、心が落ち着きますよね。いま人気の広瀬光治さんのサイトにいってみました。のんびり、あせらず、根気よく、が編み物上達のコツなんですって。

皆黙る時もまた良し鮟鱇鍋  冬月
<旅遊(地)>
鍋をみんなでつついているといっても、みながふと押し黙ってしまうときもある
ものです。それがまた良いという心にくい句です。

<やんま(天)>
ひたすらに食せ。何も言ふこと無し。

<悠久子(人)>
いかにも鮟鱇鍋らしい雰囲気だと思いました。


・5点句

誰ひとり欠けることなく鍋囲む  若芽
<十夜(人)>
 年末に故郷に戻ってきたおじさんたち。本当に世知辛い世の中になってきたけどもこうしてみんな元気でいられた。この先もどうなるかは分からないけれど、今は再会を喜ぼう。そんな情景が浮かびます。

<妹見(人)>
家族が全員揃うってよいですよね。

<晴雲(人)>
幸せの縮図。

<星麿☆(地)>
うん、やはり家長的存在の人がしっかりして、優しい人でないとダメですよね。

木枯しに掴みそこねし言葉かな  明子
<素蘭(地)>
「木枯しに」の「に」で、これはどういうシチュエーションなのか、いろんな状況を想定してみましたが、景が思い浮かび過ぎて困りました。
ただ何れの場合も、底流には漂泊願望があるように感じましたが…。

<灯心(天)>
木枯らしが消し去った言葉は何か大切な言葉だったかも知れない。
巧みさに思わず唸りました。


・4点句

止まり木や肩触れ合うも一人鍋  晴雲
<旅遊(天)>
この情景は思い当たる節があります。一人だからといって、必ずしもさびしいわ
けではないのですが、それでもなにかわびしいというところが、この句から読みと
れます。

<とびお(人)>
お鍋というのは集いながらもやがてなんともだるい感じ残ります。
こういう一人鍋もいいなあと思いました。

看護婦の花子受胎すクリスマス  香世
<しゅう(地)>
このクリスマスの句は新鮮でした!「受胎」と生誕の「クリスマス」では普通付き過ぎ感が出ると思いますが、この句にはそんな感じがしませんでした。「花子」が面白い味わいなのでしょう。

<登美子(地)>
花子さん、クリスマスに受胎がわかるなんて
すてきなプレゼントですね。
弾むようなよろこびが感じられます。

無沙汰の士ふぐの上座にしたり顔  重陽
<晴雲(天)>
湯気の向こうのしたり顔はなんだかほほえましい。

<めだか(人)>
なにか可笑しい。無沙汰の士の顔がみえるよう。少しお太りの方?
天地人、3句えらぶのは、むつかしかったです。これを選ぶとあれが選べない。

子ら去りて聖夜の闇の深きこと  葉子
<十夜(天)>
 クリスマス会が終わって子供たちが帰ってしまうと、今まで賑やかだった反動でいつもよりも一層静かな夜。しんみりとした印象を受けました。

<灯心(人)>
賑わいの後の静寂。味わい深き句と思った。


・3点句

うんちくの尽きて鍋の出来上がり  頼髪
<富章(天)>
「うんちくの」ってところが非常に賑やかで暖かい情景を想像させますね。

おでん鍋にごりて空となりにけり  めだか
<しゅう(天)>
純粋に事実の具象なのですが、深い味わいを感じさせてくれる。空は「から」「そら」「くう」に響く。

クリスマス神持つ者と連れ添うて  やんま
<登美子(天)>
「神持つもの」は作者の妻でしょうね。
(作者は男性だろうと思われます)
世間の喧騒とかかわりなく、敬虔なクリスマスを迎えているのでしょう。
静かな調べに私の気持ちも落ち着きました。

聖誕祭産声近き新世紀  夜宵
<悠久子(天)>
20世紀最後のクリスマスと近づく21世紀を、五七五で見事に。

点滅のバッカバッカひとりクリスマス  しゅう
<星麿☆(天)>
面白く楽しい句ですね。作者は面白く作った訳ではないかも知れませんが。

馬刺あり碧き眼みはる桜鍋  絵馬
<妹見(天)>
馬肉ってたしか西洋人は食べないと云う話です。
馬の刺身とか、桜鍋なんかにカルチャーショックを受けたそんな感じですね。

ひとり食う楽しき鍋やチンの音  やんま
<とびお(天)>
自然で健やかな感じと、「チン」がおもしろいと思いました。湯のたぎる音にも聞こえますし食器の音にも聞こえました。

熱燗や何を喰ふてもさまになり  旅遊
<若芽(天)>
飲んべえの気持ちがよくわかります。

祝ひても祈ることなき聖夜かな  旅遊
<省吾(人)>
そうなんですそれが疑問なのです。

<若芽(地)>
クリスチャンでもないのに、クリスマスの時期になると、なんとなく周りの風潮に合わせてしまう自分の気持ちを代弁してもらったよう。


・2点句

呼べば鈴鳴らし来る猫冬夜更く  灯心
<頼髪(人)>
ちょっともたついてる感がありますが、外の寒さを感じない部屋の暖かさを感じます。電球色の暖かさ。猫も呼んで欲しかったのですね、きっと。

<登美子(人)>
冬の夜更けに猫を呼んで、いっしょに眠るのでしょうか。
昔の私がそうでした。
ほのぼのとしたあたたかさに惹かれました。

灰色の大気を裂いて冬の鳥  十夜
<やんま(地)>
夏は囀り、冬はその姿、空に鳥ある嗚呼不思議。

更年期男はくさい冬至粥  しゅう
<とびお(地)>
ユーモラス。冬至粥、がいい感じだと思いました.

吉良殿もついでに祀る義士会かな  絵馬
<愛(地)>
義士会というのは、赤穂浪士を祭るためのものでしょうか。吉良をついでに祭るというのは、ひょっとして怨霊の祟りをおそれるということかも。仇討ちの仇討ちの防止かなぁ。

落葉焚く神の御前をくゆらせて  登美子
<暁生(地)>
あははは! 愉快です。

聖誕祭その羊飼ひたりし吾子  悠久子
<妹見(地)>
ああ、これは羊飼い訳で出たって事ですね。羊の役よりは良かったかしら!!

冬木にも灯り花咲くクリスマス  若芽
<夜宵(地)>
イルミネーションを「灯り花咲く」というところがいいですね。「もみの木」の歌思い出しました。

マンションの間合いまちまち聖樹の灯   重陽
<洗濯機(地)>
微細な観察です.これをどうとるか.悲しいととるか,喜ばしいと,か.
仏典では「赤色赤光・白色白光...」(阿弥陀経)などといっておりますが.

朝焼けに鴉の鳴くやクリスマス  十夜
<灯心(地)>
鴉とクリスマスの取り合わせの妙。

テレビには背を向けてをり毎歳忌  素蘭
<絵馬(地)>
忠臣蔵の不言題、「背を向けてをり」と吉良を詠んだ所に俳味を感じました。
忠臣蔵はなかば伝説となった物語り、史実を見る限り、吉良の殿様は領民にとって
は浅野とは比べものにならぬ名君だったようです。


・1点句

囲む皆一家言ありなべの味  明子
<冬月(人)>
当方は、松戸市に住んでいますが、この街の料理店は美味しいところが少ない。小生の説は、味に一家言ある市民が少なくて、クレームを付けないからだというもの。この句のように、皆で味について何か話しながら食べるというのは楽しいと思う。自分で作った場合、いろいろ言われると腹が立つこともありますが、食べた人が唸った場合の快感は格別。

新鋭の作家が仕切るキムチ鍋  しゅう
<香世(人)>
新鋭の作家は、いま、心がピッカピカでしょう。
まわりの皆も、元気をもらいましょう。
まさに羽撃く人との出逢いは嬉しいのもですね。

ぐつぐつと愚痴も煮え立つおでん鍋  素蘭
<葉子(人)>
暮れともなれば一年の間のあれこれをぐちりたくなるもの。煮え立つおでん鍋の音にことよせてつぶやくさまが目にみえるようでおかしみあり。

聖夜生まれベストギフトの吾子二十歳  晴雲
<絵馬(人)>
聖夜に生まれたお子さまこそ、天よりの恵み。「ベストギフト」とは面白い表現ですね。
もっとも、親には有り難い授かりものでも、子供さんには、誕生祝いと
クリスマスプレゼントが重複して面白くないかもしれませんが。
その子も、「二十歳」、成人した吾が子を心強く思う親の気持ちがよく出ています。ただ、
(1)聖夜に吾子を授かったという喜びと
(2)その子が今夜二十歳になった、という感慨
の両方を一緒に詠み込んだために、俳句としては盛沢山に過ぎる印象も与えます。
一句で二句分を詠んだ感じですね。

寄鍋の大にぎわいを今朝の袖  重陽
<夜宵(人)>
飲み会の次の日のあのにおいっ。わかります。あの匂いと気だるさを引きずって次の日出社するんですよね。にやりとしてしまう句でした。