第54回句会桃李一月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:新世紀、注連飾、初湯(不言題)

新年の句 雑詠または題詠
有言の題詠(その言葉を使う)は「新世紀」または「注連飾」
不言の題詠(その言葉を使わずに、心を詠む)は、「初湯」です。
1月15日(月)投句受付開始
1月22日(月)投句締切、翌日選句開始
1月29日(月)選句締切、翌日披講

投句: 絵馬、葉子、旅遊、灯心、素蘭、重陽、洗濯機、木菟、暁生、省吾、晴雲、愛、夜宵、富章、明子、頼髪、しゅう、あずき、十夜、登美子、香世、悠久子、やんま、冬月、七梟、星麿☆、若芽、とびお、めだか
選句: 葉子、とびお、星麿☆、夜宵、あずき、千両、旅遊、木菟、香世、灯心、頼髪、晴雲、七梟、重陽、やんま、暁生、省吾、明子、登美子、めだか、洗濯機、冬月、十夜、しゅう、悠久子、若芽、絵馬、素蘭

披講

・9点句

寒晴の白い鯨の跳ねるかな  十夜
<暁生(天)>
いい絵ですね。

<めだか(天)>
壮大で、おめでたい。カーンと晴れた冬の海を、波しぶきをあげて白い鯨がジャンプする。ただそれだけのことかしら、とも思ったのでしたが、「跳ねるかな」は感動です。青と白と、赤もちらちらするのは、たぶんまだ現れない鯨たちがゆったりと水中を遊泳している時の、赤でしょうか。

<しゅう(天)>
「白い鯨」はメルビルの「白鯨」を裏に持っていると思った。寒晴の空はどこまでも青く気持ちの良いものです。ぽかあんと吸い込まれるような青空に、大きな白い雲がぽっかりとあり、長閑にそれを眺めているのだが、そこはかとない焦燥感も抱いているというふうに解した。「寒晴」の寒と「かな」の詠嘆が余韻のように焦燥感を呼び起しているように思いました。爽やかな中の焦燥感、現代の不安定感がうまく詠まれているのではないでしょうか。ただ全体に少し無重力な感じがしますがそれがこの句の魅力的な点であり、物足りなさでもあるように思います。

偕老のにぎはひさりし注連の門  重陽
<木菟(天)>
 いささかクラシックですが、格調の高さにひかれました。

<灯心(地)>
普段の静穏なる日常も、正月ばかりの賑わいの時も、ともに仕合せの只中に在ると感じました。

<晴雲(地)>
正月実家に帰られて、老親の一人暮らしを詠まれたのでしょうか。

<七梟(地)>
偕老という言葉に惹かれました年老いた仲の良い夫婦、田舎のじいちゃん、ばあちゃんが孫にお年玉あげたり、一家団欒楽しい正月を過ごして田舎に帰っていった
そんな正月のほのぼのとした感じがしていただきました

新世紀明けてなほ棲む焦がれかな  木菟
<晴雲(天)>
世紀を跨ぐ情熱的な恋心。ないものねだりで選びました。

<重陽(天)>
世紀は区切れても人の心は連綿と・・。

<素蘭(天)>
新世紀を迎えたからといって、閉塞した状況や心の渇望が解決されるわけではない。自分の心を満たし癒してくれる何かを求めて、今日も心の旅を続けるのでしょう。


・8点句

雪降りて小声覚へし少女かな  とびお
<千両(天)>
雪野原、今年は駆け回らない……。少女が大声でさわぐ少年を横目で……。

<洗濯機(天)>
空から妙なものが降ってくる,白くてフワフワして,手に触れると冷たくてすぐ消えるもの.
少女は何を知りそめたのか,孤独か,家族やおもちゃ以外の何者かの存在か.
いつもとちがった声が出てしまったことに驚くヒマもなく,次々に雪片が舞い降りる.

<しゅう(地)>
雪が降ると決っておおはしゃぎしていた子が、「雪が降っているんだ」と何かセンチメンタルにつぶやいたので、どきり、大人になったんだと気付かされたというものでしょう。「小声覚えし」が感情過多に落ちて無くて、少女との距離が良いなって思いました。


・7点句

除夜の鐘いま鳴る仕舞湯の妻よ  灯心
<とびお(天)>
句のようなやりとりが先祖の時から代々あったのだと思います。時の先端で連れ合いに語りかける声が、かつて祖父の祖母に掛けた声、そのまた昔の声を連想させます。時の先端に妻とふたりでいる作者の小さくたしかな大切な瞬間を味わいました。

<あずき(天)>
仕舞湯に入っている妻への優しくて、少し複雑な思いがこもっている。

<絵馬(人)>
作者の妻に寄せるいたわりの気持ちが率直に感ぜられました。
「除夜の鐘いま鳴る」と現在形で表現したあたり、なかなか上手いですね。
妻は最後にふろに入るものと相場が決まっていた昔とは違って、21世紀は、
女権拡張の結果、亭主が仕舞湯にはいることになるかもしれませんが.....

沈黙の予期せぬ長さ悴める  明子
<やんま(地)>
お互いの阿吽の呼吸、歯車が時として合わない。

<登美子(天)>
沈黙の予期せぬ長さ・・心まで悴んでしまいますね。
でも「悴める」って言葉、なんだか可笑しさを含んで
いるような気がするのですが。
本当は深刻な沈黙なのでしょうか。

<素蘭(地)>
ふと会話が途切れお互いに黙り込んでしまう時、気まずさからくる精神的な冷気と、現実に立ち戻ることで甦る実感としての寒気が身に沁みてくる。日常体験する心情をよく捉えていると思います。

年始客帰りしあとの桶の音  葉子
<旅遊(天)>
元旦の昼か夕方か。風呂は昼間に入りたいもの。うらやましい句です。

<頼髪(人)>
奥さんが入っているのでしょうか。お疲れさまでしたという労いの気持ちでしょうか。

<絵馬(天)>
初湯の不言題で、桶の音をさりげなく出したところに惹かれました。
こういうふうに、「湯」とか「風呂」とか「初」とかの言葉を顕わに出さない
不言題詠が奥ゆかしいですね。


・6点句

去年今年詫びて亭主は風呂磨く  絵馬
<あずき(地)>
亭主殿の一年分の妻への思いやりが、おかしみと共にある。bS2を書かれた方と同一人物だったら、面白いな。

<千両(地)>
ひとのよさそうな亭主の姿が浮かび上がってきました。それから、なぜ詫びなきゃ
ならないのか?
 と、興味が沸いてきました。

<洗濯機(人)>
いったいどのような罪を御亭主はつくられたか.衝撃的に,身につまされます.
磨くといえば,歯を磨くか,せいぜい男を磨くしか芸のない小生なれど,
「去年今年」どころか,「昨日今日」,風呂場から,台所の隅の水切りまで磨かずば.

<素蘭(人)>
ピカピカになった初風呂を浴びて、女房殿はさぞご機嫌麗しくあられたことでしょう。願わくばご亭主殿にはその風呂掃除、末長くまた頻回にお続けくださいますように…。

寒空の空気の刃透き通る  十夜
<木菟(地)>
 「しばれる」と言う北国の言葉を連想させました。今年は寒いですね。

<暁生(人)>
突き刺すような寒さは、まさに透明な刃ですね。

<冬月(天)>
率直に言って、今回の選は消去法で選んだ。もし、選句したい句がない場合、選をしなくてもよい、という選択肢があってもいいのではないでしょうか。気が進まないのに講評を書いては失礼になると思うので。自分の句を棚に上げてなんですが。

この句の感覚は「空気の刃」に凝縮している。鋭利な冬の大気が上手く表現されている。「寒空や」と切れを入れた方が俳句らしくなるのではないか。

新世紀まずバイバイを覚えし子  香世
<重陽(人)>
21世紀はこの子の時代ですね。

<登美子(地)>
おさなごネタに弱いのです。
作者に代わって私がバイバイをされているようで
頬が緩みっぱなしです。

<めだか(人)>
新世紀にバイバイしてどこに行くの? 連れてって。

<洗濯機(地)>
「バイバイ」は,向こう側からは,不在,または死によって,存在を際だたせる手段.
こちら側からは,未だ外部なる存在を,自分の内的世界に取り入れる手段.
新世紀の,何が,そのような身振りをしたのであろう.あるいは,何に.

紅溶いてさっと刷いたる寒茜  登美子
<頼髪(天)>
よく観察されて、うまく表現されていると思いました。

<十夜(天)>
白い雪の中にぼんやりと、それでいて鮮やかでみずみずしい赤い色がふっと浮かんできました。


・5点句

湯上りにあわせ雑煮の三つ葉結う  とびお
<灯心(人)>
女性ならではの行き届いた心配りをこの句で堪能しました。

<頼髪(地)>
家族揃って新世紀を迎えた幸福と少しの緊張を感じました。少なくとも我が家のようにダレてはいないようです。

<重陽(地)>
ほのぼのとした元旦の風情ですね・。

風邪の熱少し残して初昔  灯心
<葉子(天)>
初昔という季語が効果的。季語の勉強をしなくては、と思わせられた。

<絵馬(地)>
「初昔」という季語を使ったこの句が一読してまず目に付きました。
掲句の場合、旧年の風邪を新年に持ち越したという意味で
その感覚は、時の断絶よりもむしろ連続性が強調されているようですね。

なぜすぎさった年を「初昔」というのでしょうか。普通は「初もの」 は現在ないし
未来のほうを向いていますが、ここでは過去を振り返って「初昔」と云っている。
 語源的に考察すれば次のような事情があったのかもしれません。
「初昔」とは、もともとは、3月21日に摘んだ新茶のこと。それ以後の茶が「後昔」
(昔という字をバラすと廿一日となる)そこから時節の変わり目、推移を表す用例
が生まれ、それが次第に「宵の年」などと同じく、新年の季語として転用されるよ
うになったようです。(西鶴の俳諧に、そういう用例がありました)

子午線をめぐりて今朝は新世紀  あずき
<夜宵(天)>
新世紀って騒ぐけどただの年明けでしよ、って冷めたフリもしたくなるんですよねー。でも、やっぱり100年に一度の新世紀っ。地球もいつもよりはりきって、ぐるんって一回転したんだろうなぁ。

<若芽(地)>
新世紀は、どこから新世紀というのだろう、と不思議に思っていました。そうだ、子午線からだった。

妻ふせり長女が仕切る三が日  省吾
<星麿☆(地)>
やればできる。立場変われば言うことも変わる。
長女も大人になったなーと娘を見ている父親の嬉しいような淋しいような顔がうかんできます。
うーん、もしかして奥さん以上に口煩いしきりだったのかも?

<夜宵(地)>
新年、やっぱり新しい発見があって、何かがかわって、きっと成長していくんですよね。なんだか人生を感じる一句でした。

<木菟(人)>
 ほほえましい心暖かな、作者の心情がしのばれます。

湯を出でて現し身の重さ知り初むる  あずき
<葉子(地)>
日頃我が身の重さを嘆いている者として共感しきり。

<七梟(天)>
年が変われば自分も改まった感があるが、実際は変わってない
私なんか酒漬けの食っちゃ寝で太っちゃいました
初湯の雰囲気が良く出ているのでいただきました


・4点句

新築のピンクの家の注連飾  香世
<明子(天)>
きっと若い御夫婦の建てたお家なのでしょうね。
あんまり似合わないけどまあ一応つけてみました、という家主の思いが
見えてたのしいです。

<しゅう(人)>
「注連飾」の古風なイメージが一掃されていて面白いと思いました。


・3点句

閉店の扉見事な注連飾  悠久子
<旅遊(地)>
町を歩いているとよく見かける光景ですが、それが句に出来るか出来ないかが問
題です。写生などとということばでは説明出来ないなにかがあるのでしょうか。

<香世(人)>
最後は、豪勢にいきたいのも。さあ、次いこうか!明日は明日の風邪が吹く。

新世紀目まで浸かって生きる理由  しゅう
<やんま(天)>
はーい。蕗の塔とタラの芽が食べたいからです。

雪もいい朝湯ぽつんと湯気もいい  七梟
<省吾(天)>
ぽつんとがいい

旅の朝我が家恋しい雑煮かな  七梟
<晴雲(人)>
そう言われてみたい願望句。「亡き姑の雑煮の味に近づいて」

<省吾(人)>
何かに付けそう思う

<若芽(人)>
少し長く留守をしていらしたのでしょうか。 旅にも疲れたし、雑煮だってうちのが一番、そんな気持ちがよく伝わります。

磯の子のささふ一竿冬うらら  重陽
<若芽(天)>
こんな、うららかな冬の一日を私も過ごしてみたいです。

水仙や祈りのやうに香しき  葉子
<灯心(天)>
気品ある水仙の姿とその香。祈りのように芳しいとは…。

柏手にねがいを込める新世紀  暁生
<星麿☆(天)>
いいことがありますように??いや、悪いことがありませんように???

ティンパニー響き新世紀の初明り  明子
<悠久子(天)>
トランペットでもない、太鼓でもない、ティンパニーであることが、いかにも新世紀を迎えるに相応しく感じました。そして初明りですから。

初春の富士山立ったり屈んだり  めだか
<香世(天)>
心にひっかかる句である。素晴らしい初春の富士山を背景にして、写真を撮る。そこで、皆が立ったり 屈んだりしたのであろうか。または、富士登山で、疲れて、立ったり屈んだりしたのであろうか。
しかし、これは富士山を擬人化して、富士山が、立ったり屈んだりしていると考えるほうが楽しい。雲の流れで、立ったり屈んだりして見えたり、暖かい日は、大きな手を広げて欠伸している富士山。さすがに足はないようですが...


・2点句

注連飾り赤い朝日に染まりけり  やんま
<悠久子(地)>
注連飾りを赤く染める朝日の美しさ、輝かしさ。
今年であるからこその意味も。

注連縄も虚飾剥がされ灰となり  晴雲
<冬月(地)>
何かに対する批判的な姿勢が残っていることは買える。俳句で難しいな、と感じるのは批判を行うと川柳になってしまう点で、この句がそれをクリアしているかどうかは微妙なところだろう。

新世紀地雷を食べるバクテリア  晴雲
<めだか(地)>
ついでに放射性廃棄物も食べてください。なんかこわいなぁ。水道管は食べないでね。21世紀は、ヒトとバクテリアの戦いも…。ぎくっとした俳句でした。

冬籠る日射しを少し受け入れて  やんま
<とびお(地)>
日射しをコントロールする、というところがおもしろいと思いました。

酒漬けの魂無垢になずな粥  七梟
<省吾(地)>


注連飾付けてる車見ないなあ  素蘭
<千両(人)>
まったくです。今年は景気が悪いのでしょうか? ほんとに注連飾りの付いた
クルマ。見ませんでしたね。

<やんま(人)>
はい、私のプリウスもすっぴんでした。

アパートの扉にそっと注連飾  愛
<暁生(地)>
家人の新年への願いが伝わってきます。

新世紀古びし家のすきま風  葉子
<明子(地)>
新世紀とは言うけれど、毎日きこえてくるニュースは前世紀から
引きずってきたあれやこれやのほころびばかり。
すきま風が冷たく感じます。

ひゃくやっつ除夜の音数える湯船かな  夜宵
<香世(地)>
きっと子供といっしょの入浴。去年今年を湯舟で......。

飛鳥路やもぬけの殻の墓凍てる  登美子
<十夜(地)>
寒さのせいで時間までが凍りついたかのような印象を受けました。


・1点句

成人が絶えし国での成人祭  冬月
<夜宵(人)>
成人式、ニュース見てると今年は盛りだくさんだったようで・・・。いやはや。「成人が絶えし国」は若者世代には耳が痛いお言葉ですが、ほんとに大人ってなんだろう、って思いますね。

春を待つ蛹の中の新世紀  やんま
<葉子(人)>
人のみならず、蛹にも新世紀はきた。目のつけどころがうまい。

それぞれの春着揃えて湯あみかな  明子
<登美子(人)>
昔、お正月には肌着や下駄(!)を新調してもらったことを
なつかしく思い出しました。
弾むような迎春の気分が感じられます。

短日や雑巾絞っている鴉  しゅう
<明子(人)>
一瞬、ねじり鉢巻きで掃除をしている鴉を想像して笑ってしまいました。
暮れの家の掃除、手伝ってもらいたかったなあ。

ふわりあそぶ使わぬ納屋の注連飾り  とびお
<星麿☆(人)>
実際、家の近所でも見ている景色なんですけど、自分では言葉にできなかったものですから・・・。納屋が効いてますよね。注連飾りを付けても都会ではダイオキシン問題などで「とんど」や「左義長」ができなくなっているので後の処理に困る訳で、納屋のあるような少し田舎、でももうそこでも農作はしてなくて、納屋は使われていない様子。それでもやっぱり注連飾りはしてる。そんな片田舎という感じがしましたが??いつかは無くなってしまうのかなー注連飾りの習慣も。藁も少なくなってる?
69の閉店の注連飾りもよかったなー。どっちにするか迷いました。

大寒や目覚ましの鳴る次つぎに  頼髪
<七梟(人)>
この季節は本当に起きるのが辛いですね

青き茶の青さを愛でて新世紀  絵馬
<旅遊(人)>
なにげないことをなにげなく句にすることの難しさ。今回の句会でではこのことを
学びました。

闇汁に思ひ切ったる箸さばき  旅遊
<悠久子(人)>
闇汁、私は中学生の頃友達と楽しんだことが何度かあります。
こんにゃく一枚そのままなんて。
この箸さばきは大人の男性ですね。

新世紀迎える瞬間背筋伸び  星麿☆
<十夜(人)>
年越しの瞬間というのは何故だか知らないけれどもドキドキとしてしまいます。ましてやそれが世紀を越える瞬間だったら……妙に畏まってしまうのでしょう。

門松の飾り落ちてるパチンコ屋  富章
<冬月(人)>
観察は面白いと思う。そのまま句にするのではなく、この観察をもっと生かした作品にできるのではないか。

七日粥手にもの云はぬホームレス  旅遊
<とびお(人)>
この「ものいわぬ」にたくさんの言葉を感じました。

新世紀さういふ梨があったやら  愛
<あずき(人)>
世紀はいつでも新しい、というユーモアを感じる。