第59回句会桃李6月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:蛍、腕、ベースボール(不言題)

夏の句 雑詠または題詠
兼題1(季題):「蛍」
兼題2(キーワード題):「腕」
兼題3(不言題):「ベースボール」

投句: 碁仇、やんま、七梟、于論茶、香世、海斗、素蘭、徳、康、夜宵、暁生、葉子、頼髪、明子、旅遊、木菟、登美子、洗濯機、涼、悠久子、めだか、旻士、ゆきふね、しゅう、絵馬、顎オッサン、とびお、冬月、晴雲、若芽
選句: 葉子、顎オッサン、夜宵、七梟、旅遊、徳、とびお、登美子、于論茶、やんま、暁生、木菟、康、香世、頼髪、旻士、明子、碁仇、晴雲、涼、めだか、冬月、しゅう、悠久子、洗濯機、素蘭、若芽、省吾、絵馬

披講

・12点句

ミットより熱砂へ伸ばす指二本  海斗
<とびお(人)>
野球をよくご覧になり、またよくなさっているのだと思います。

<于論茶(人)>
サイン交換の一瞬、野球の真剣味を巧みに捉えた。投手の決断を促す捕手の強い意志が伝わってくる。

<康(地)>
ミットの下で出すサイン。ナイターなどでなく甲子園の熱い砂ですね。
大観衆の中のふたりだけのしずかなシグナル。一瞬を捉えて妙。

<頼髪(地)>
夏の甲子園でしょうね。センターカメラからのアップの映像。
いや、ピッチャーの視点か。
キャッチャーの指が熱気に揺れています。

<晴雲(地)>
37の内角高目の句と最後まで迷いましたが、炎天より熱砂が新鮮でした。

<涼(地)>
「天」に入れようか、迷ってしまった句でした。
不言題ということから考えても、かなりよく出来てる句だな
と思ってしまいました。

<若芽(地)>
2アウトでしょうか。 炎天下でリードするキャッチャーの様子が目に浮かびます。

蛍籠ラジオは長き恋の歌  洗濯機
<とびお(天)>
いいですね。昭和30年代頃の流行歌と読んだのですが。ゆったりとした叙情と物語があった頃の時間の流れ方と蛍籠がぴったりです。
なにより、一読していきなり、日本家屋の畳の湿度のあの感じを、その畳を踏んでいる素足の女性を、そのまわりの闇と、その頃の経済などもわっと感じることができて、俳句とはすごいものだなあと思いました。

<頼髪(天)>
あっさりしているようですが、名詞が利いていてしっかりしている。
説明がないので雰囲気がでます。

<碁仇(天)>
恋の歌と蛍だけでは「恋蛍」という季語が有るぐらいだから、なんということはない。だが、ラジオという小道具をもってきたことで句がぐっとしまった。

<省吾(天)>



・8点句

豆飯を親しき羅漢に供へけり  旅遊
<登美子(地)>
羅漢さんと親しいとは!
普段から喜びも愚痴もみんな聞いてもらっているのでしょうね。
心が温かくなりました。

<香世(天)>
親しき羅漢、は、楽しいですね。いろんな羅漢さんがおられるのでしょうが、その中に親しく好もしく感じている羅漢さんがいる。きっと、誰かさんに似ているのでしょうね。

<めだか(天)>
お近くの羅漢と親しくされているのですか、羨ましいです。運ばれていく豆飯がすごくきれい。

紫陽花や色定まらず黄昏れり  やんま
<旅遊(地)>
まさに言いとめたという感じです。

<涼(天)>
七変化の過程で終わりの頃の様子だと思うのですが、
その色を下五のように描写したところに惹かれました。
ただ、中七だけが若干説明的なような気がしました。

<冬月(天)>
今回はいい句がなかった。したがって、消去法で選んだ。積極的に天ではない。「色定まらず」という中7がよくわからずに気になった。全体としてなんとなく雰囲気は分かる。

増殖の梵さんが「句会」批判を行うことがあるが、低調な句ばかりだと、そういう気分も分かる気がする。


・7点句

父の手に残る蛍の臭いかな  若芽
<やんま(人)>
子の為に父が捕まえて、見せてくれた蛍。今は懐かしき父の思い出。

<旻士(天)>
「蛍の臭い」っていいですね。
あまり香りはなかったと思いますが、句には露草の香りが立っていますね。
子供に見せようとして、蛍を捕まえ、「さあ、逃がしてあげようね。もう短い命だから」と蛍を放ち、その残り香。いい風情です。

<しゅう(天)>
父俳句らしくない父俳句ですね。父を詠むとどうしても甘くなりやすいでですが、それほど甘くなく、べたべたもしていないところが良いですね。蛍に匂いがあるとは思えないが、匂いを感じている、そこは父への親愛さなのだろうと思います。

獣道昏みて翔ちし昼蛍  めだか
<洗濯機(人)>
昼螢が珍しくて,とりました.
疑問は,螢が住んでいそうな水辺に,獣道があるのだろうか?ということです. 

<素蘭(天)>
前登志夫の短歌を思い出します。

  暗道のわれの歩みにまつはれる蛍ありわれはいかなる河か

獣道から飛び立つ蛍も、生の暗道をゆく作者の心を投影したものと思いました。

<絵馬(天)>
昼蛍と獣道の配合が印象的でした。ただし、「昏みて」というと、
「夕暮となる」という意味なので、「昼蛍」が矛盾した印象を与えます。
「獣道昏みて翔ちし蛍かな」のほうが文法上は自然ですね。
また、「くらみて」と平仮名にして、「眩みて」の意味を含ませた方が面白いかもしれませんね。まだ蛍は光りませんが、その存在が、「夜の闇」を予感のように呼び寄せる、そんな感じがいたします。

聴覚のない妹と居り蛍見る  涼
<夜宵(地)>
蛍の飛ぶ夜は、音がすべて無くなっているような不思議な空間(私はまだ蛍を一度しかないので、余計そう思うのかもしれませんが…)。聴覚のない妹さんとなんの違いもなく一緒に並んでいられる、そんな気がします。

<若芽(天)>
妹さんと居る夏の夕暮れ。 蛍の光で静けさが増しているよう。

<省吾(地)>



・6点句

逆縁の父おとなひし蛍かな  于論茶
<登美子(天)>
亡き親が訪ね来るというさえあわれなのに、まして逆縁。
どんな思いで蛍を見る父であろうか。
さらっと詠んであるだけに胸が痛む。

<悠久子(天)>
私の父のことを思いました。きっと、こういうこともあったでしょう。


・5点句

草矢放つ腕しろき子も混じりゐて  康
<葉子(天)>


<碁仇(人)>
省略の妙。「腕しろき子も」といったことで、そこにいる大部分は日焼けしたたくましい子だということが分かる。都会から遊びに来た子がいたのだろうか?

<しゅう(人)>
これは少し類想感があるように思いますが、今回の投句の中にはあまり惹かれる句がなかったので頂きます。

山笠の下には腕腕腕腕腕  ゆきふね
<夜宵(人)>
まず目で見た時の「腕腕腕…」の並びが、すごくインパクトあって、視覚で選んでしまいました。印象に残る句。

<徳(天)>
腕一本分字余りがこの句の力強さを出していると思う。凄い着眼点に脱帽です。

<康(人)>
こちらの目線のあたりにはたしかに腕腕腕ですね。祭りが肉感的にとらえられていると思いました。

今誰か何ぞ云うたか誘蛾灯   旻士
<徳(地)>
日常の会話に何度となく出てくる言葉そのまま句にしてピッタリの季語を付けてしまった。これつぶやっ句?

<やんま(天)>
ぼうーっと見とれていた誘蛾灯。誰かに呼ばれて吾に帰った。
もっとも私など常時妻に「あなた聞いているんですか!」と言われている。

乗り継いでとろり海入る西日かな  香世
<于論茶(地)>
江ノ電の車窓から富士を借景に相模灘に沈み入る西日を連想したいところだが、実際には日は山際に沈む。でも西日はとろりと沈むがよし。

<冬月(人)>
工夫次第では面白くなる。今のままでは、上5と中7、下5がばらばらである。中・下を一つの意味のまとまりにするなら、上句を工夫した方がよい。主語が二つあるように思えてしまう。

<絵馬(地)>
「とろり海入る西日かな」は面白い言い回しです。上五の「乗り継いで」は
帰省するために列車を乗り継いだという意味でしょう。そうだとすれば、この海に入る西日には、長旅に疲れて眠くなった気持ちと共に、懐かしい故郷に帰って安堵した作者の気持ちが重なるでしょう。

地下鉄の女卯の花を口遊み  めだか
<于論茶(天)>
無季にして無機、地下鉄に象徴される季節感無き都会の喧騒を一瞬静寂で切り取ったかのような「夏は来ぬ」のメロディ。それが若い女性の唇の形までを連想させる「卯の花の匂う」が如き秀句

<洗濯機(地)>
「地下鉄の女」とはっきり限定してしまわないで,「地下鉄や女卯の花を..」とか,
「地下鉄やひとり卯の花を..」とか,状況と人物を「や」で切られた方が面白いのでは.
地下鉄という縁うすき人々が乗り合わせる場所で,「卯の花のにおう垣根に」という
触れあう共通の琴線が存在するという状況が現実なら,大きな救いがあります.
昨今のごとき荒れた地下鉄になったのは,共通の「歌」がなくなったから.
地下鉄に一回だけ乗ったことがある私はそう確信します.たぶんこの句の作者も.

母の腕引っ張っていく夏祭り  徳
<七梟(地)>
母の腕と夏祭りがいいですね

<明子(天)>
光景がいきいきと目に浮かびます。
キーワードの<腕>がとても自然に使われていると思いました。


・4点句

蛍降り生命線の明滅す  旻士
<香世(地)>
カメラのシャッター時間を長くしておくと、蛍の光の筋が細くはかない曲線として映像にとらえられる。そして、また、死を直前にした人の心電図のモニター画面の曲線もはかない曲線である。いずれも、はかなさが映像的。
蛍を叙情的にとらえない句として鑑賞しました。

<明子(地)>
手のひらで明滅する蛍を見つめ、すべての命に思いをはせている
作者の心が伝わってきました。

桜桃忌男の甘え疎みけり  葉子
<明子(人)>
太宰の作品を読んだ後に感じる、どこかもどかしい気分を思い出しました。

<冬月(地)>
あまりいいとは思っていない。「桜桃忌」と「男の甘え」が近すぎて交響にふくらみがない。

<悠久子(人)>
男の甘えと太宰、いかにも。

アーチ追う選手孤独な夏草よ  とびお
<夜宵(天)>
きっととても大事な場面なんでしょうね。高く上がったフライを一人追いかけて行く外野手。「孤独」という言葉に、静かな緊張感や使命感が伝わってくるような気がしました。

<若芽(人)>
ホームランになりそうな打球を必死で追う外野手の孤独。 ここで止めねば、の気持ちが痛いほど伝わります。

チャンス到来緑陰走り出てしまふ  登美子
<めだか(地)>
野球好きは、燃えるとこうなりますね。監督、選手になりきってしまう。この句は、ゲームでなくたって通じるのではありませんか…

<悠久子(地)>
私はこの不言題を作れませんでした。
思わず緑陰を走り出てしまう応援の人、そうでしょうね。動きがあります。

ほうたるを見しより闇も懐かしく  明子
<葉子(人)>


<康(天)>
蛍が眠りについたあとの闇ですね。とり残された闇、しかしひそかに息するもののいる濡れた闇を思いました。


・3点句

アイスティー右手碧の腕輪かな  悠久子
<暁生(天)>
お目にかかりたいなあ

内角高目捕手炎天に頷けり  海斗
<徳(人)>
夏の甲子園高校野球の風景と思った。まだまだ幼顔の捕手の真剣な眼差しやっと頷いた。投手も汗だくであろう。違ったかな?例えプロ野球だったとしても大好きな瞬間です。

<碁仇(地)>
不言題(ベースボール)の句では一番気に入った。難しい題で、説明しがちになりやすい所を、三振の一シーンだけを見事に切り取ったと思う。

あの声はあきらちゃんなり蛍の夜  登美子
<七梟(天)>
はしゃぐ子どもの声が聞こえてくる蛍の夜は何か気分が高揚しましすね

見出しにはイチローがよし梅雨の晴  絵馬
<旅遊(人)>
イチローの活躍はすばらしい。野球はアメリカに限る。巨人が勝つと喜んでいる
おめでたい人にはわからないことであろうが。梅雨晴れ間の季語が良い。

<暁生(地)>
同感です。

弟を姉ゆえしかる蛍の夜  康
<葉子(地)>


<顎オッサン(人)>
蛍はみるだけよ、解ったね。

覚えなきあざ夏服の二の腕に  登美子
<やんま(地)>
そうそう、あざって本人に許可なくでるんですよね。

<木菟(人)>
 あのときはともかく夢中だったから、何にも覚えていないんだが。

麻酔医の呼びかけのよう蛍追う  しゅう
<洗濯機(天)>
ご自身の体験なのか,妙な reality があります.螢の呼び声に「麻酔医」が
登場するのは珍しいのではありませんか.我か螢か,判然としない世界,
この世界と冥暗の世界とのはざまに,おーいおーいという声が聞こえます.

帰省子を待つや腕にも縒りをかけ  晴雲
<顎オッサン(天)>
良く解る母の愛。かつてそうだったな。実感します。

蛍や俺も光ってみせるから  頼髪
<晴雲(天)>
蛍の句の中で、この句が一番ひかってみえました。

原つぱがグラウンドだつた遠い夏  素蘭
<木菟(天)>
 野球といえば、私も真っ先に連想するのは、草野球です。あの時代に帰れたらどんなに嬉しいか。


・2点句

ほうたるやひとつ光りて追へば闇  素蘭
<木菟(地)>
 蛍の美しさは、こんなはかなげなところに、最大限発揮されるように思われます。

求愛の着メロ鳴らす街蛍  夜宵
<旻士(地)>
そういや最近のケイタイのアンテナは光りますよね。
着眼点と本物の蛍の「求愛」行為と掛けているのが秀逸。

竿先を離れし恋の蛍かな  碁仇
<しゅう(地)>
「竿の先」にその恋がどんな恋なのか想像させてくれます。何か懐かしい、平生の生活の中で芽生えた恋なのではないか。例えば、幼馴染が恋に変わったとか、そんなことを想像します。句の中にこちらの想を膨らませてくれる句が好きです。

蓮開く華清の池に貴妃の像  旅遊
<素蘭(地)>
長恨歌に謳われた華清宮、あでやかな蓮の花、楊貴妃の像という取り合わせが、
いかにも大陸的な妖艶さを漂わせて美しい句ですね。

女自立す美しき蛾のすむ二の腕  絵馬
<とびお(地)>
白いニの腕にtatooの蝶。元気でくったくのないそのニの腕の持ち主を「女自立す」と見るその視線の深さやさしさ柔らかさに脱帽。

鮎のごと跳ねて逃れし腕のそと  木菟
<登美子(人)>
「鮎のごと跳ねて」・・乙女の初々しさがよくあらわれていますね。
恋人としての歴史はまだ浅いのでしょう。
青春を思い出させてもらいました。

<晴雲(人)>
この鮎は養殖じゃなく、スリムな天然もの。しなやかな身のこなしに若き恋を彷彿いたしました。

汗落ちてロゴの濃紺蘇る  康
<顎オッサン(地)>
努力する清々しさが良く解ります。
青春を感じますね。


・1点句

窓うすし蛍なだれうつ蛻村  洗濯機
<絵馬(人)>
破調ですが、印象に残りました。作者は何処でこの情景を見ているのか。
過疎の村を旅行客として遠くから見ているという状況なのか、それとも
もぬけの殻となった村に、何かの事情で宿泊し、窓越しに蛍を見ているのか
「窓うすし」と切れると、どうも後者の方が良いような気もします。
ただ、この破調、やはり気になりますね。「蛻村」という語も面白いけれども
すこし凝りすぎかもしれません。
「過疎の村窓に蛍はなだれうつ」くらいに纏まった方が、私としては自然な
気がします。

南吹く敵の人借り大接戦  めだか
<頼髪(人)>
わいわいがやがや、楽しそうな草野球の風景が浮かびます。

子規一高除外三人夏嵐  ゆきふね
<旻士(人)>
ベースボールはどうも僕はできなかったんですよ。
どうしても「野球」に句がなってしまって・・・・
で、ベースボールなら野茂・新庄・鈴木(二人とも)になっちゃって。
しかし、しかし身近におられましたね。俳人に。
子規は盲点でした。子規か、子規がいらっしゃいましたね。

早世の善き人の生初蛍  冬月
<めだか(人)>
シンプルすぎるような気がしましたが、何度か読んでいるうちに、「初蛍」が、この世にいない「善き人」にふさわしいと思えてきました。

夏椿白きかひなを思ひだす  素蘭
<七梟(人)>
白きかいなは、母、初恋の人、沙羅の花のような美女かな

白球を探して暮るゝ夏の草  木菟
<素蘭(人)>
今でもそうなのかどうかよく知りませんが、控え選手ほど炎天下で声を嗄らして、球拾いに追われて、暗くなるまで白球を探し回って…、よくやるなぁと感心して眺めていた記憶があります。

ビリ予想当たる予感や六月尽  徳
<香世(人)>
誰かさんの句かな♪
わたしは、予感でなくて確信です。こんな句も座として楽しい。まだ、6月なのに。

蛍の夜星ふる夜と思ひけり  葉子
<暁生(人)>


蛍火や水車しづかに廻りをり  絵馬
<涼(人)>
ストレートに、よかった。と感じました。