第6回句会桃李九月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:煙草(有言)、鉛筆(有言)、懐かしい(不言)

秋の句(雑詠)または題詠
(一句は題詠とする)
有言の題詠(その言葉を使う)は 「煙草」 または「鉛筆」
不言の題詠(その言葉を使わずに、心を詠む)は、
「懐かしい」です。

投句締切は9月18日(金)
選句締切は9月28日(月) 
選句締切と同時に直ちに披講となります。

投句: 重陽、楽千、葉子、心太、勝美、洛介、はる、悠久子、雲外、安寿、東鶴、ひとし、あきこ
選句: 重陽、楽千、松、雲外、はる、東鶴、ひとし、心太、木菟、暁星、若翁、安寿、勝美、悠久子、洛介、楽人

披講

・9点句

ありたけの鉛筆とがらす夜長かな   勝美
<重陽(天)>
鉛筆のみを詠み、心象の伝達に成功している。「ありったけ」とすればもっと厳しく、「とがらす」と呼応したように思いますが・・。

<心太(人)>
夜中に鉛筆ばかり削ると、ほら押し入れから
あいつがでてきますよ。

<安寿(天)>
文をコンピュータで入力したり、紙に書くにもシャープペンシルを
使うことが多くなったこの頃ですが、何かの景品やおみやげに
もらったりと、いろんな素性の鉛筆が結構ある。一つ一つのエピ
ソードを思い出しながら鉛筆を削っていくのは、いかにも秋の
夜長。「とがらす」が平仮名なので、「なあんとなく」という感じが
出ています。

<楽人(地)>
これは実際にありますね。
私は、削ったあとの木の香りが好きなので、鉛筆を使ってます。

秋思の夜煙草の箱を潰しけり  葉子
<楽千(天)>
吸い尽くす煙草一箱。来し方行く末への思い。
おりしも秋の夜はしんしんと更けゆく。

<東鶴(天)>
下五の潰された煙草の箱が、前半の秋思の静けさを、その沈黙の
状態のまま、心の内で破り捨て、ハットさせます。なかなか
巧みな表現と思いました。

<若翁(人)>
新しい煙草を、引き出しから出そうか。
でも買い置きがなくなっている。
これからスタンドに買いに行くのは億劫。
そんな風に感じました。

<安寿(地)>
何かあって考えたあげく決心したのでしょうか。
「潰す」という印象の強い言葉が、意志の強さを象徴している
ようです。


・8点句

百までも生きるよ僕はチチロ虫  はる
<雲外(地)>
あまりにも短い一生。配偶者を求めてか細く鳴く蟋蟀に、
男は自らの生への執着を対比して戯けてみせる。
俳句以外では出来ない感興表現の芸。

<東鶴(人)>
チチロ虫は蟋蟀の別名。どういう状況か、いろいろと想像させますが、若くして
なくなった友人か兄弟を悼む気持ち、自分一人が取り残された苦い思いのような
ものを感じます。呟きが、そのまま俳句になっているようなところが良い。

<心太(天)>
蟋蟀に生き抜く決意を語るペーソス。

<勝美(地)>
寿命の短いチチロ虫。
そのチチロ虫をからかっている軽妙さと、反対に励ましも感じます。
僕はチチロ虫、か、生きるよ僕は、かでイメージが大きく変わります。
どちらにしても楽しい句です。


・5点句

銛を背に勇魚泳ぐや無月の夜  はる
<雲外(天)>
暗い海に巨体がうねり、声もない悲痛が。銛を撃った人間も必死だったのだ。
17文字による短編小説の世界。

<東鶴(地)>
現実の捕鯨の情景と言うよりは、なにかシュール・レアリスティック
な手法で書かれた絵画のような幻想的なものを感じました。
俳句でこういう物語りめいた事柄を表現するのは珍しい。

色鉛筆色無き風に色染めて  心太
<木菟(天)>
鉛筆画でしょうか。もともと色のない風に色を付けて存在を示す。経験ありません
が、たぶんそうなさって居るんでしょうね。何でもないことのようで、ちょっと気
が付かない新しさがありますね。

<悠久子(地)>
スケッチしているところでしょうか。スケッチをしているつもりでしょうか。
「色」を3回使ってあることでリズミカル。爽やかな句ですね。
「色なき風」の方が好きです。

嬰児の眠りて遠き彼岸花  東鶴
<はる(天)>
眠っている赤ちゃんを連れながらお母さんが
お墓詣りをしている情景。
「眠りて遠き」が、この世とあの世との距離を暗示し
嬰児の安らかな寝顔に、亡き人の面影を感じました。

<洛介(地)>
重たい句だけれども、なんとなく、映画のシーンの様に情景が浮びます。
彼岸花が効いていると思います。

青蜜柑ふるさとの海碧く在り  悠久子
<松(地)>
今年は蜜柑は不作の由、友よりの手紙に海の香りをきく。

<楽人(天)>
ちょうど旅行で、萩のまだ青い夏みかんと日本海を見てきたばかりなので、
思わずこの句を選んでしまいました。


・4点句

栗御飯くりくりくりとモンブラン  あきこ
<重陽(人)>
心良いリズムと、何度も読むと母と子(限りませんが・・)の楽しい情景までが、浮かんでくる。

<はる(人)>
楽しい作品ですね。坪内ネンテン先生の俳句みたい。
栗御飯の感じが、軽いのりで、良く出てますね。

<暁星(地)>
中七の「くりくりくりと」がいい味を出してますね。今月の巻軸候補。


・3点句

ポイ捨ての煙草拾ひて新学期  東鶴
<松(天)>
捨てたのは生徒、拾っているのは教師。やれやれ、又授業のはじまり。人として見るなら、捨てる方じゃなくて、ひらう方になろう。

秋袷かすかに母の香して  葉子
<悠久子(天)>
母の着物の色までが浮んで来ました。
母の声も聞こえて来るような感じです。
「懐かしい」が、そのまま素直にあたたかく出ている句。

彼岸花ぷかりと煙草の輪をふたつ  楽千
<勝美(天)>
のどかで好きです。晴天の日に、お墓まいり。
一仕事おえて、そばの石に腰をおろして、一服。
禁煙キャンペーンなんぞクソくらえ!

朝顔の数えし日々の過ぎにける  重陽
<ひとし(天)>
小生の偏見と独断に過ぎないが、
この句、「朝顔や数えし日々の過ぎにける」と
上五に切れ字を入れると句姿が良くなると思う。下五は「ける」のままが良い。
(「けり」では強すぎる)

鉛筆の鋭き数本あり師の心  東鶴
<若翁(天)>
厳しかったけど、優しかった恩師を思い出しましました。
きちんと角張って削った鉛筆なのでしょうね。
エッセイを書くのでしょうか、俳句を?
静かな夜の虫の声が聞こえてきそうです。

イガグリとウニはとってもそっくりね  あきこ
<暁星(天)>
この句の詠人は恐らく女性でしょう。
俵万智女史の所謂「サラダ短歌」に通ずる詠みぶりがイケてます(^^)

猫三匹かたまり眠る台風裡  悠久子
<ひとし(人)>
丁度、颱風の最中で、この選句評を書いているせいか
この句が気に入った。猫はやはり三匹か(親子ですかな)

<若翁(地)>
猛烈な雨風、雨戸を閉め切っての部屋の中。
親子なのでしょうか、それとも別々の猫なのでしょうか。
どんな思いなのでしょうね。目を閉じて寝ているのでしょうか。
それとも、じーっと流れに身を任せているのでしょうか。
なんとノンキなのよ、の声が聞こえそうです。

地に息をひそめて咲くや時鳥草  洛介
<ひとし(地)>
「ほととぎす」が空を飛ばずに、地に息を潜めているという所に
俳味を感じた。これは、「飛ぶ」の枕詞だから。

<悠久子(人)>
時鳥草はそんな咲き方をします。言われてみて本当にそうだと思いました。
「息をひそめて」が素晴らしいです。

君一人私も一人秋時雨  はる
<洛介(天)>
ストレートな表現だけれども、それだけに伝わるものも多い気がします。
共感出来る句です。

こと終えて 紫煙を吐けば 鉦叩  雲外
<重陽(地)>
「こと終え」と「吐く」と「鉦叩」の配合の妙が、憎い。もしかして・・。

<木菟(人)>
上五は、言わぬが花でしょうね。むかし麻雀の時に、「テンパイ煙草」をよく吹か
したものですが、それとは全然違いますよね。強いて共通点をあげれば、「満足感
」というところでしょうか。


・2点句

敬老の日なるや席を示されて  ひとし
<木菟(地)>
新しい祭日がふえて、休んでいても何の日か忘れていることが良くありますね。上
席に座らされて、そういえば今日は敬老の日か、そして自分も老人なのか、と改め
て気付く。侘びしいような、くすぐったい気持ちが良く出ています。

大試験 鉛筆落下 大音響  雲外
<暁星(人)>
五七五を分かち書いたところが秀逸ですね。漢字のみの構成も好感。

<楽人(人)>
名詞が並んでいるだけというのが、かえって面白いと思います。
大試験、大音響とちょっと大袈裟なのも気に入りました。

鉛筆の尖れる先の鰯雲  楽千
<雲外(人)>
片目をつむって鉛筆をスケールに遠山の高さを設定する。
その芯の先に広がる鱗雲の空。絵心の快い緊張感が伝わってきます。

<安寿(人)>
夏休みが終わって学校祭もすんだし「あ〜あ、あとは中間試験
かぁ」なんて、授業中にぼんやりと窓の外を見ていた頃を思い
出しました。

新月を探りあてたる煙草かな  安寿
<心太(地)>
天文学でいう新月は無月だが、ここでいう新月は、二日の月あたりか
たばこの煙でさがしあてる、うーん。
虚構としての面白さ

巻煙草書斎に嗅ぎし亡父の影  ひとし
<はる(地)>
煙草やパイプの匂いに、亡き父親の姿を重ねるという経験は
私にもあります。特に、書斎だと、その薫りが、しみつきますよね。
たぶん、この巻煙草は、ゲルベゾルデとか、特に薫りの高い
製品で、お父様が愛用されていたのではないでしょうか。

長き夜や鉛筆ばかり尖らせて  葉子
<楽千(地)>
他にも3句鉛筆を尖らせているが、
中ではこの一句。


・1点句

叢雲にさやかにそよぐ野菊かな  重陽
<洛介(人)>
純粋な写生句で、とても良いと思います。情景が見える様です。
正しく写生する事も実は案外難しいと思います。

虫時雨ふと鳴き止みて外を見る   勝美
<楽千(人)>
その闇の深さ。
寂寥の中に虫の音の余韻は続く。

秋深更 色鉛筆らの 私語  雲外
<松(人)>
物には物の命有り。

ゆるやかに風に波打つ秋の雨  洛介
<勝美(人)>
たしかに、風に波打つ雨があります。鋭い視点ですね。
ただ、このような雨は、強く激しい風と思いますが。