第64回句会桃李9月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:曼珠沙華、国、テロリズム(不言題)

秋の句 雑詠または題詠

兼題1(季題) :「曼珠沙華」
兼題2(キーワード題) : 「国」
兼題3(不言題) :「テロリズム」(その言葉を使わずにその心を詠む)

 9月15日(土)投句受付開始
 9月22日(土)24時 投句締切、翌日選句開始
 9月29日(土)24時 選句締切、翌日MLで合評開始
10月 2日(火)披講    

投句: 徳子、七梟、蓼艸、彰、伊三、旅遊、ぎふう、鞠、梵論、顎オッサン、りこ、省吾、旻士、晴雲、素蘭、葉子、英治、香世、明子、冬月、しゅう、頼髪、ゆきふね、水、めだか、樂子、洗濯機、愛子、ぎを、絵馬
選句: ぎふう、水、七梟、蓼艸、鞠、伊三、旅遊、葉子、香世、りこ、剛、冬月、梵論、英治、徳子、ゆきふね、ぎを、素蘭、しゅう、頼髪、洗濯機、明子、愛子、涼、暁生、晴雲、樂子、旻士、めだか、絵馬

披講

・21点句

命もていのち毀つや虫の闇  明子
<水(天)>
NY忌。 核兵器、化学兵器、生物兵器にくわえて、複合兵器の登場;なんとよぶべきか。 昔は「肉弾」なる言葉があった。

<鞠(天)>
台風の直中、リアルタイムで見せられた大惨事、自然現象の台風と違い、テロは全く人為の所産、有史このかた争いの絶えぬ人類は、共食いを止められぬ生物なのであろうか。

<伊三(天)>
同感です。されど、闇の中にうごめくものは自分の業です。

<葉子(天)>


<剛(地)>
たぶんニューヨークでは虫は鳴かないと思うから、これは日本での句だろうと思う。命もて命を毀つ、というところに共感した。

<梵論(天)>


<英治(人)>
テロリズムを自然界における命の攻防に合わせて考えさせる句。「闇」が良い。

<素蘭(地)>
一人勝ちする大国アメリカと戦乱や貧困のただなかにある小国
また歴史的背景を考えると何となく獅子と虫のような関係で、闇が暗示的です。

<しゅう(人)>
私としては「虫の闇」が付き過ぎていて、「命もていのち毀つ」を大きく膨らませていないので、季語の選択を一考頂きたいと思いますが、「毀つ」という言葉が深くって頂きました。


・12点句

国引きの出雲へ飛びし穂絮かな  りこ
<ぎふう(天)>
「国引きの出雲」が光っています。実に巧みな句だと思います。俳句を読んだという気持ちになりました。

<七梟(地)>
国引きの出雲へ私も行きたい

<梵論(地)>


<洗濯機(地)>
穂絮はすすきの絮ですか.秋の風というのは,連綿として,あらゆるものを
どこかに連れていくような感があります.
それはなんと,国引きの出雲の国であった!
景が大きくていいですね.

<絵馬(天)>
穂絮が飛ぶ実景から神話的世界への飛翔が楽しい。出雲の国の風土記に
「高志の都都の三埼を、國の餘ありやと見れば、國の餘あり」と詔りたまひて、童女の胸鋤取らして、大魚の支太衝き別けて、波多須々支穂振り別けて、三身の綱打ち挂けて、霜黒葛闇耶闇耶に、河船の毛曾呂毛曾呂に、「國來、國來」と引き來縫へる國は、三穂の埼なり」
とあるに依拠した句ですが、俳句と云うよりは、出雲に縁のある地で巻かれた俳諧連歌の発句と言った趣がありますね。


・11点句

そのかみの自爆要員敬老日  鞠
<蓼艸(地)>
嘗て自分も特攻隊の要員として本当なら死んでいる筈だった。それが運良く間一髪
で助かって今日の私がいる。その私も老いた。今日は敬老の日で御祝いを頂戴し
た。ああ、あの時、若くして敵に突っ込んで行った友達もいるというのに、申し
訳が無い様な気がする。しかしこれも前世からの定めかも知れない。
友達に心の中で詫びながら甘受しようか。

<りこ(地)>
敬老日が付き過ぎの感じもするが、自爆要員の前を素通りすることはできなかった。

<剛(人)>
自爆要員であったひとが本当に投句されたのかどうか分からないが、実際にそういう人が敬老日を迎えることはあると思う。今回のテロをどんな風に見たのだろうか。

<明子(天)>
作者(御自身のことではないのかも知れませんが)の心の中にわき上がる思いは、とても
言葉では言い表せない程のものだろうと思います。

<晴雲(天)>
今回のテロ惨事に神風という言葉が見え隠れ、どんなお気持ちでしょう。戦争の生き証人の方々から、とりわけ強いメッセージをいただく昨今です。


・9点句

回廊を渡る逢瀬や曼珠沙華  愛子
<旅遊(地)>
曼珠沙華にこんな使い方もあるとは知りませんでした。不吉な花という思い込みが
あるものですから。

<英治(天)>
平安朝の幻影を見る思い。逢瀬につきものの「月」「闇」でなく、曼珠沙華が良い。

<素蘭(天)>
日常から遊離して美の回廊に降り立った意識がいにしえ人と対話を始める。
そんな辻邦生あるいは塩野七生的世界を想像します。

<頼髪(人)>
私はこういう濃い?季語は難しいと感じています。
どうしても常識的なイメージに捕らわれてしまう。
この句は曼珠沙華をうまくつかっていると思いました。


・7点句

曼珠沙華一筆書きに里を染め  顎オッサン
<蓼艸(天)>
蔓朱沙華は一晩のうちにぱっと開くと聞く。其の場所に行って見れば昨日まで何
でもなかったのに今日は里を染める様に咲いている。一筆書きという表現が当を
得ていて見事だ。

<伊三(人)>
絵になっていて、古里の絵です。綺麗です。

<しゅう(地)>
「一筆書き」とはすばらしい写生の詠み取りだと思います。先日、神奈川県の日向薬師へ、曼珠沙華の自生地を見に行ってきましたが、方々の畦に曼珠沙華がかたまり咲いていました。その自然な繁殖はいかにも「一筆書き」という印象を持ちました。

<絵馬(人)>
曼珠沙華の句の中ではこの句が印象に残りました。「一筆書きに」というところが良いですね。もっとも、この一筆書きは「朱筆」ですから、なにかまわりの風景とは異質な気分をも漂わせていますが。

月仰ぐ百歳翁のくしゃみかな  水
<ぎを(地)>
百歳翁は文字通りの意味でいいのでしょうか?いずれにしてもユーモラス。

<樂子(天)>
きっと 男性だろうと思います。
いろいろな事が去来したのでしょうね。

<めだか(地)>


曼珠沙華女の謎を纏ひけり  香世
<葉子(人)>


<徳子(人)>
曼珠沙華の花は簪です。女の謎を纏っているって上手いと思いました。確かにこの花から殿方は連想出来ません。

<暁生(地)>
曼珠沙華と女と謎、いいですね。

<旻士(天)>
そう、そうなんですよね。
曼珠沙華に惹かれるのは女性の色香をみせるからでしょう。
艶のある句です。


・6点句

狐雨きらきら土手の曼珠沙華  りこ
<七梟(天)>
狐の嫁入りに土手の曼珠沙華、黒澤映画のようで

<旅遊(天)>
不思議な句です。なにか童謡の世界にいるような。それとも民話か。

地に打たれはらわた曝す石榴かな  愛子
<冬月(天)>
この句は、テロリズムの破壊性、残酷性、そして飛散した血液さえも髣髴とさせる。今回のような大事件は、時間の経過とともに身体に湧き上がってくる何かがあるに違いない。それを熟成させることも重要だと思うが、瞬間的・直感的に事態を把握することもあり得る。その場合、他の文学形式よりも俳句は向いていると思う。

<ゆきふね(天)>
テロの悲惨さを見事に表現していると思います。


・5点句

南無阿弥陀仏なまんだぶやで彼岸花  旻士
<梵論(人)>
哀しみと可笑しさがない混じった、なんともとぼけた味を感じます。

<徳子(天)>
故郷を離れて暮らす私には彼岸の墓参もままにならない。「悪いなあ」と思っているのだけれど。この句にはハッとさせられた。ご先祖様ごめんなさい。

<ぎを(人)>
うーん、「ありがたや」の一言です。

咲ききそひながら淋しき曼珠沙華  素蘭
<りこ(天)>
曼珠沙華の異称は死人花・天涯花・幽霊花・捨子花等々・・・暗いイメージがつきまとうその花を、<咲ききそい>といいとめたところが手柄。

<旻士(地)>
曼珠沙華は何百本群れ咲いても淋しい。
そこがこの花にヒトが思い寄せる本質でしょうね。

葛に座しこの尺四方をくにと見つ  梵論
<葉子(地)>


<香世(人)>
国を今座っている場から、遠く広がっていく視点が素晴らしいと思いました。

<愛子(地)>


泡立草ビル一瞬にして崩れ  りこ
<旅遊(人)>
泡立草がよく効いているのでしょうね。素直に理解できました。

<ゆきふね(地)>
泡立草を持ってきたところが光ります。ただ私ならすぐ後ろに「ビル」とは続けないかもしれません。

<絵馬(地)>
この句は、必ずしもニューヨークで起きたテロリズムを詠んだものと解する必要はありません。むしろ世界各地で多発している都市部でのゲリラ攻撃や戦乱を念頭においた方が良いのかも知れません。個人的には、コソボ紛争や内乱の続いたアフガニスタンのカブールの廃墟と化した町並みなどに思いを馳せました。

雨粒の精子のごとき野分かな  彰
<しゅう(天)>
野分の雨滴を「精子のごとき」という比喩が面白いと思いました。一度に三億とも言われる精子が卵子への出会いへ突き進んでゆく運動を言っているのだと思いました。熱帯性低気圧の暖かさが「精子のごとき」という措辞にあると思います。

<涼(地)>



・4点句

旅一日延びたらどつと曼珠沙華  鞠
<ぎを(天)>
確かにちょっと目を離すと、どっと咲いていますね、連中は。まったく油断できない(笶)。

<旻士(人)>
曼珠沙華って、なぜか一斉に咲くように感じるんですね。
なんか旅路を見送ってくれるのを待てったようで嬉しいですよね。

掌に球の重さや水蜜桃  めだか
<洗濯機(人)>
「球の重さ」,重さが球状をしているというのが,いい発想と思うが,
句の言葉としては,もっといいのがあるかもしれない.
他の果物もチェックしてみると,柿などは小さく,梨などはそれに近いが,
毛むくじゃらが,見た目は球を感じさせないのに,手にしてみた感じとの,
ギャップが意外で,桃が,この句意には,必然であるように思われる.
「掌」の肉体感覚に比重をかけて,「水蜜桃球の重さや掌(たなごころ)」
というのもあり,かな.

<愛子(天)>



・3点句

曼珠沙華大きく吸って吐いて吐いて  しゅう
<めだか(天)>


曼珠沙華躁病の文来たりけり  蓼艸
<香世(天)>
曼珠沙華はなんとも華やかで心が騒ぐ花である。躁病の人の文は長くてとりとめない。制御しがたい思いがほとばしっている。季語がよく合っていると思った。

曼珠沙華油分滲みし蔵書印  明子
<晴雲(地)>
読書の秋、書物の後ろに押された蔵書印、その油分が滲んだ感じにイメージされる曼珠沙華。窓の外にはハッとするような曼珠沙華の花が咲いているのかも知れません。季語との距離感、感心致しました。

<樂子(人)>
ひょっとして、お父上の第一句集?

国六つ国を囲みて秋深し  英治
<洗濯機(天)>
「四面楚歌」という言葉があるが,おそらく彼の国であろうこの内陸の山国は,
岩だらけの荒蕪の地であり,極端な昂揚と,最低限の命をつなぐだけという
生活感が,恐ろしいくらいの落差で同居しているのであろうか.
秋の風は,ただちに,冬の嵐である.

新月の瓦礫露はや尋ね人  絵馬
<剛(天)>
テロの犠牲者を捜す作業は実際に新月の頃だった。街角には行方不明者のビラが張り出された.イスラムのシンボルである月も限りなく暗い。

鬼子母神柘榴の味を彼等にも  旻士
<暁生(天)>
全くそのとおりです。

癌病棟 赤き月見る 柘榴の実  伊三
<涼(天)>


灯を消して部屋に取り込む虫の声  省吾
<ぎふう(地)>
灯を消してぼんやりと、ただぼんやりとしている作者の姿が見えます。いかにも秋という一句です。

<水(人)>
灯をともすと、虫を誘い; 消すと、声をさそう。 詠んでみたい好きな句意。 が、ややきはずかしい。

母国語の我には一つ鱸釣  めだか
<頼髪(天)>
和気あいあいとした国際交流の場面でしょうか。

「母国語」に少し無理がある気もしますが、「国」を入れないと
いけませんからね。
軽くはなるけれども「日本語の」よりは面白い。


・2点句

山国の百戸の村や虫時雨  ぎふう
<樂子(地)>
村人と虫達の共存

秋草や伊予の峠の国境  頼髪
<徳子(地)>
伊予の峠と秋草が妙に合っています。山賊の出る峠では無いでしょう。

秋雨や土鍋のやつと並びをり  彰
<水(地)>
お待たせしました、 点火をどうぞ。 海の幸、山の幸。

ひとつずつ記憶の糸や曼珠沙華  七梟
<明子(地)>
繊細な曼珠沙華の蕊を見ていると、一本一本の先に普段はほとんど忘れているような
小さな思い出がゆれているような気がします。

病む人の視線の先に彼岸花  葉子
<英治(地)>
彼岸花の「付き過ぎ」が、この場合、「しまった、障子をしめておけば・・」の気遣いを感じさせる。

祈りと祈りつないでくれよ秋の空  頼髪
<晴雲(人)>
こんな素直な句が読めればと、現実に句に表現されている世界であって欲しいと念願して。21世紀は固有の文化を認め合う寛容の世紀と謳われていたはず。

<めだか(人)>


真直なる国境線に星流る  素蘭
<ゆきふね(人)>
流星と真っ直ぐな国境線の対比は鮮やか。中東の砂漠地帯を連想しました。

<暁生(人)>


グラス手にバッハに酔ふも秋意かな  旅遊
<頼髪(地)>
酔ふも秋意 がいいと思いました。

稲妻や円空仏に頬の傷  旅遊
<ぎふう(人)>
稲妻の一瞬の光の中にうかぶ頬の傷。円空仏の荘厳な姿に精神がきりっとする感じです。「円空仏に」ではなく「円空仏の頬の傷」としたいなと私は思ったのですが、いかがでしょうか?

<蓼艸(人)>
稲妻が光った瞬間円空佛の頬の傷が見えた。一種凄愴な感じがした。作者はそんな
不気味な感じを狙った様な気がする。そしてそれは成功していると思う。

いさかひの後虫の音と影法師  旅遊
<伊三(地)>
過って自分にもこんな光景が有りました。

一本の道をはさんで芋嵐  蓼艸
<鞠(地)>
左右の畑には、強風に煽られる芋の葉、その表と裏の緑の濃淡が波のようにうねっている。真ん中を貫く一本の道は、浄土往生を願う清浄な信心を表す二河白道をも想わせる。

白煙の罹る半月なほ削られし  絵馬
<冬月(地)>
テロのような事件を俳句に詠むことは非常に難しい。選句基準にしたのは、どちらの側にもコミットしていない点と、テロという事件をはずして一句として自立するかどうかだった。この基準で見たとき、この句は字余りながら、作品として自立し、しかも事態を的確に捉えていると思う。

無念の死かぞへていくつ鉦叩  英治
<香世(地)>
テロリストの題詠からひとつを選ぼうと思った。わたしにはどうしても詠めなかったからである。時事的なニュ-スを俳句にするのは難しい。しかし、この俳句は、みごとにそれをクリアしている。

目には目を合わせ語らん月の宴  晴雲
<素蘭(人)>
「目には目、歯には歯」のような不毛の連鎖ではなく
視線を合わせて対話できる関係のあらまほしきかな、という願望ですね。よく分かります。

<明子(人)>
あまりの出来事についつい言葉が厳しいものになってしまいますが、このゆとりが
うれしいです。


・1点句

きちきちや愛国少年まあだだよ  ぎを
<りこ(人)>
ちょっと説明に困るが、調子の良さに惹かれ、奥に何かが見えてくる。

秋桜や少年少女の国訛り  徳子
<七梟(人)>
秋麗な感じがとてもよい

曼珠沙花後ろ手にした吾子の詫び  晴雲
<愛子(人)>


ゆらゆらと地の霊となる白曼珠沙華  絵馬
<冬月(人)>
強い印象を受けた。白い曼珠沙華は見たことがないが、この作品は正当性なき死を死んだ死者たちが大地に宿る霊へと浄化され、鎮められてゆく状態を想起させる。今回のテロ事件の鎮魂句のようにも思えた。

秋深しインタ-ネットで詩集買ふ  香世
<鞠(人)>
インターネット上には、いろいろな通販が在るけれど、秋の夜の買物には、詩集
こそふさわしい。