第65回句会桃李10月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:月、和、愛(不言題) 

秋の句 雑詠または題詠
兼題1(季題) :  「月」 (有明、居待など、月に関連する語も可)
兼題2(キーワード題):「和」
兼題3(不言題):  「愛」(その言葉を使わずに心を詠む)

 10月15日(月)投句受付開始
 10月22日(月)24時 投句締切、翌日選句開始
 10月29日(月)24時 選句締切、翌日MLで合評開始
 11月 1日(火)披講 

投句: 頼髪、重陽、りこ、鞠、七梟、伊三、旻士、旅遊、蓼艸、巴人、顎オッサン、海斗、木菟、彰、梵論、英治、明子、やんま、葉子、香世、庚申堂、省吾、素蘭、徳子、冬月、康、洗濯機、登美子、ぎふう、水、しゅう、めだか、暁生、ぎを、晴雲、愛子
選句: 蓼艸、顎オッサン、頼髪、鞠、ぎふう、徳子、香世、英治、伊三、旻士、やんま、七梟、旅遊、暁生、海斗、愛子、晴雲、木菟、彰、省吾、まよ、明子、庚申堂、登美子、梵論、康、洗濯機、ぎを、涼、しゅう、水、素蘭、めだか

披講

・19点句

臥す老母に鏡合はせる今日の月  愛子
<ぎふう(天)>
病む母への愛情が伝わってきます。母が望んだのかも知れませんが、私は、作者がふと見た月があまりにきれいだったので鏡に写してやろうと思い立ったと読みました。それはただの「今日の月」です。「老母」を「はは」と読ませるのは少し無理があると思います。「臥す母」だけでその後のフレーズから老いは十分に感じられますから「老」の字は不要なのではないでしょうか。

<暁生(人)>
お母様は一夜一夜の月をどのような想いでご覧になっているんでしょうか・・。
お母様への愛情が伝わってきます。
月を見てお元気になられるといいですね。

<晴雲(天)>


<登美子(地)>
病を得ているとは言え、お幸せなお母様ですね。
遠く離れ住む両親をしきりに思うこの頃です。

<梵論(地)>
思い出話が途切れたとき、病室の古びた鉄枠の窓から昔と変わらぬ月を拾う。生きていてくれることのありがたさ。

<洗濯機(天)>
たぶん寝たきりであろうお年寄り.その方から乞われたか.
あるいは,あまりに見事なので,自ら見せてやりたいと思われたか.
手頃な鏡にお月さまを映してみせた.
「ありがたい」と,手を合わすことができる方なのか.
あるいは,光りをなくした瞳に月の光りだけが残る人なのか.
いずれにせよ,そのおふたりの姿を月光が静かに浸している.

<しゅう(天)>
作者はどうして「きょうの月」としたのか?は分らないですが、名月とか、十五夜、十六夜とかにしたくない気持ちが俳諧、寂び心だと思いました。「月」で充分、十五夜を思いました。
臥している母親に「月がとてもきれいですよ」と鏡に映して見せたと言うふうに解しました。爽やかな気持ちのいい佳句でした。
「老母」としないで「母」と、表記を読みと同じでもよいのではないかと思いましたが。

<めだか(地)>
お母様と作者と鏡が寄り合い、月に焦点があってもろもろが静止するまでの動きがいとおしい。


・12点句

更待の窓の下ゆく子守唄  りこ
<香世(地)>
更待月の夜、窓が少し開いている。そこを懐かしい子守唄を唄いながら親子が通り過ぎて行く....これは、昔のことを思いだした俳句でしょう。

<旅遊(地)>
子守歌ということば。久しぶりに聞いたような感じがするほど、世の中は荒れ果て
ています。それだけになおいっそう懐かしさを覚えて。

<木菟(地)>
 むかし何度か聞いたことがあるような、それほど人口密集していたところに住んでいた懐かしさが蘇りました。

<省吾(天)>


<康(天)>
静か。なつかしいメロデイが聞こえてきそうです。


・10点句

月今宵海に金糸の帯を解く  晴雲
<蓼艸(人)>
艶麗な句である。傍らに男性がいる気配無しとしない。しかし句は少しも下品ではない。それは輝く海、金糸の帯、月と取り合わせがいいからであろう。
恋の句が俳句にもっとあっても私はいいと思う。

<徳子(天)>
なんとロマンチックで美しい句でしょう。金色に輝く夜の海を見てみたい。

<伊三(人)>
写生の美しい句がたくさんあった中で、どれにしようかと迷ったが、リズムと色、好みで選びました。作は男性?女性?

<愛子(天)>
目の前に情景が広がりました 

<ぎを(地)>
妖艶な月ですね。


・9点句

子の歌に合はせまんまる月上る  りこ
<顎オッサン(天)>
愛です。理屈なく良い。

<彰(天)>
今時の子どもが歌うかなという思いはありますが。

<まよ(地)>
まんまるの月のまんまるが子供を育てている人の充実感を思わせる。

<登美子(人)>
文句無しに楽しい♪
♪まぁ〜るいまぁ〜るいまんまるい♪
昔わが家の子供たちも、こうして月の出を迎えました。


・6点句

あひ和して同ぜぬ日々の帰り花  英治
<伊三(天)>
老夫妻、良きに付け悪しきに付け。

<木菟(天)>
 「和して同ぜず」と言う言葉が、巧みに取り入れられて、秀逸と思いました。

名月や其角十五で酒飲みに  康
<やんま(人)>
感動せざるをえぬこの名月にして、其角を十五にして酔わさせてしまった。

<晴雲(地)>


<梵論(天)>
やたら酒が飲みたくなりますね。ほんと。


・5点句

十六夜やかつぽれ踊る老紳士  ぎを
<七梟(地)>


<暁生(天)>
思わず惹かれました

満月や上向く人とすれ違ふ  やんま
<彰(地)>
満月でなくても見上げる私ですが、同好の士はいないですね。

<水(天)>
作者は、ゆるい坂道を、月を背にして、自分の影を踏みながら歩いていた;月空を仰ぎながら歩いてくる対向の人; 反転の描写がおもしろい。

山峡の雲の道ゆく秋日和  ぎふう
<ぎを(天)>
「雲の道」、雲が生まれ出る道・・。

<素蘭(地)>
爽やかで悠然とした気持の良い句、開放感がありますね。
どこかへトレッキングに行きたくなります。

雪吊りやとらへて放つ月の船  洗濯機
<省吾(地)>


<明子(天)>
雪吊りの強い直線のあいだを三日月が西に移ってゆく様子ですね。
とらへて放つ、はおもしろい表現と思いました。

かなかなをきくことのなく過ぎにけり  彰
<英治(地)>
平易で、すーっと心にしみる。そう言えば、今年は蜩を聞かなかった気がする。

<素蘭(天)>
夏の終わりに美しい哀調の声で鳴く蜩
その声を聴くことなく終わってしまった季節に対する哀惜の念が、
輝きと活気に満ちた時代への哀悼の念にも重なって読めました。


・4点句

月影や鼻の欠けたる石仏  やんま
<彰(人)>
日のあるうちしか見たことはないのですが、月夜の情景はまた違うのでしょう。

<庚申堂(地)>
「鼻の・・・・」は、よくあるフレーズのようですが、整っていて一番好きな句です。

<涼(人)>


すぐに和す女三人紅葉狩り  登美子
<鞠(地)>
経験から考えても、同性の友情はペアよりトリオのほうが長続きするようである。
感情の齟齬を来した時、一対一だと抜き差しならず破局に至るが、三人組はその中の一人がうまく緩衝役に回って事なきを得る。

<明子(地)>
『・・しない?』『うん、賛成!』あれこれ説明しなくともすぐ話の通ずる友達は
ありがたい、大切な存在です。

十六夜に重き齢の背を流す  愛子
<登美子(天)>
ご主人の背か、老いた親か。
「重き齢」に波乱の半生がこめられ、
十六夜のまどかな月に今の平安が感じられ、
静かに心に通る句です。

<素蘭(人)>
一緒に風呂を浴び老親の背中を流すという身体的な交流から
心の交流が伝わってきて、ほのぼのとした静かな秋の一夜を思い起こしました。

月赤し吸い寄せられる依存症  伊三
<旻士(天)>
そういえば、最近田原元ジョッキーが捕まりましたが、これは幻覚症状者の句でしょうか?覚醒剤とか、アル中とか。
まあ、冗句はさておき、月への依存症なら素敵ですね。私もそうかもしれません。
詩が書けなくなると月が恋しくなる……ましてや赫い月ならば……

<明子(人)>
依存症の持つ一面をうまく言い表わしているような気がします。

憧れのままの諦め吾亦紅  鞠
<頼髪(天)>
a音のリズムが心地よい。

<康(人)>
上五中七に、直裁でない表現の工夫がややほしいと思いましたが、
心情は「吾亦紅」にぴったりです。

頂上の径見えてをり鵙日和  りこ
<旅遊(天)>
山歩きの途中の一風景。鵙日和になぜかほっとした感があります。

<まよ(人)>
情景が見える句、山登りの好きな方の句

新米は届いたかとだけ父の電話  登美子
<徳子(人)>
5・7・5になっていないけれど、不器用な父親の愛情を察したご褒美として「人」に選ばせていただきました。

<涼(天)>


目印に白萩折りて妻行きし  蓼艸
<香世(天)>
どんな情景を想像しましょうか。妻がなにかの事情で先に行ったのである。落ち合う先のお家の入り口に、萩の花をそっと目印に置いてあるのだろうか。

<愛子(人)>
逝きしなのか 行きしなのか迷いましたが 後から来るであろう者に残していったと信じたい気持ちを感じました

交りの輪に呆け同士秋日和  鞠
<やんま(地)>
黙って座しいる二人は、文句のない秋日和のただ中に居場所が定まっている。

<水(地)>
ひとり呆けではないことが、すくいである。あえてダンスの輪を想像しておきたい。しがらみを忘れえた、老人の理想郷、ともみなせる。介護する人にとっては、大変でしょうけど。


・3点句

和布団の敷かれしテント冬隣  晴雲
<康(地)>
路上生活者の方のテントでしょうか。やはり日本人は布団ですよね。
もう冬がすぐそこまできてるんでしょうか・・・。

<めだか(人)>
阪神大震災を思い出しましたがあれは真冬でした。晩秋のキャンプでしょうか、状況がよくわからないのですがテントと和布団、にひかれました。

秋の暮口に溶け行く和三盆  七梟
<英治(天)>
「三盆白」は上等の砂糖。昔、砂糖が配給になると、家族で等分に分け、一人当たり、飯茶碗に一杯ほどを舐めて夕食とした。こいつらこそ、アフガン攻撃に物申す資格あり。

秋まつり柔和なお面が落ちてゐる  ぎを
<めだか(天)>
なかなか拾い上げる人がいない。お祭りではこんなことがちょっと嬉しかったりします。あ、お面、落ちてる、なんて言って素通り、そこだけ人通りに穴があいて。柔和なお面はお月様の光でもあるかもしれないと思いました。

声変はりしはじめてゐる良夜かな  海斗
<庚申堂(天)>
子供の成長をこんな時に感じるのでしょうか。
また、月を見ていると、しばらく逢っていない近所の子供の声が聞こえてきた、とも取れます。

漁り火も消え入りそうな雨月かな  暁生
<やんま(天)>
いさり火と雨月の絶妙な交感。

鰯焼く みすゞの世界 ほろ苦し  庚申堂
<まよ(天)>
鰯焼くけむりがセピア色の金子みすずの世界に通じている。

枕頭に命刻むかかねたたき  葉子
<蓼艸(天)>
鉦叩きは実に小さな音で鳴く。今、父か母か近親者が死を迎えようとしている。
チンチンと鉦叩きが鳴く。作者は極力感傷を避けて句を詠んでいる。死と感傷、陥り易い罠である。陥ったら結果は無残と知るべきである。

俤のいつまで若き月の人  やんま
<七梟(天)>


栗を食む笑顔をつつむ笑顔かな  海斗
<頼髪(地)>
おばあちゃんとお孫さんかな?

<水(人)>
「つつむ」 がよい。 たかがクリ、されど一家団欒を拾う。

鳥おどし棚田に弾く分散和音  梵論
<鞠(天)>
棚田の耕作は機械化できないため重労働であるが、その変化に富む風景は懐かしく美しい。平地の区画整理された田圃と異なり、斜面の棚田では、鳥威もまた抑揚のある琵音を奏でる。

大和路や古墳のそばに実る柿  省吾
<七梟(人)>


<暁生(地)>
いい秋の絵ですね。

夕月のかたぶくまでを帰りけり  素蘭
<海斗(天)>
「夕月のかたぶくまで”を”帰りけり」
この句のキーポイントは、”を”です。”に”では平凡です。
韻文に変換できない語感です。
日本語学校の試験では罰点をもらいそうな、微妙な味わいがあります。
夕月が傾くまでは帰らないぞと言い張っているようでもあります。

ラブホテル左右に出でし文化の日  冬月
<洗濯機(人)>
「前後に出づる/入る文化の日」,「ならんで出づる/入るクリスマス」
いろいろバリエーションあって面白い.

<涼(地)>
私的には、「寂び」というカテゴリに入る。。

露地野菜猫も並びて菊日和  しゅう
<香世(人)>
路地の風景でもいいし、マンションのベランダにあるプランタ-の野菜でもいい。どちらも猫が似合います。菊の鉢も目に浮かびます。

<海斗(地)>
住宅もちらほらと増え始めた村のとある畑の前に掘建て小屋がある。
そこでは、元気の良いおばさんが朝摘みのやさいを売っている。
傍で猫が丸まって秋の日を浴びている。
畑の縁に咲いている野菊を見て、素晴らしい日和だと思った。
そんな情景が浮かんできました。


・2点句

祖母の顔幼女になりて無月かな  冬月
<旻士(地)>
死は終わりにして始まり。人生の無月に向けてだんだんと子供に戻る老女。
輪廻のイメージを孕んだいい句だと思いました。

居待月兵を語るも赤提灯  英治
<蓼艸(地)>
戦争に行かれた方ももう七十歳をとっくに越えられた筈。赤提灯は俳句としては
些か通俗で感心しないが、この際仕方なかろう。ただ上五も下五も名詞は山本山の
様で落ち着かぬ。字あまり覚悟で、赤提灯に兵を語れば居待月、は如何。

みはるかす風よ光よ竹の春  重陽
<愛子(地)>
体を通りぬけていく凛とした自然美を感じました

菊日和沈黙の碑の静かなり  彰
<顎オッサン(地)>
誰しも気になるが所があるんでしょう。
秋の物思いですか。

あるがまま胸に抱き止む草の花  明子
<ぎふう(地)>
作者の素直な心が感じられて好感が持てます。「草の花」がいいですね。

不整の寝息照らせり窓の月  水
<洗濯機(地)>
顔かたちが違うように,人の寝息もことごとく異なる.
荒々しい寝息,聞こえぬような静かな寝息.人間の巣を月の光が覗く.
ふぞろい「不整」は,「不揃い」の方が.「不整脈」みたいです.

飽和いろ二〇〇一年秋の空  めだか
<伊三(地)>
混沌とした新世紀。半ば醜く、半ば美しい秋。

相傘の老女はにかむ雨月かな  ぎふう
<しゅう(地)>
「老女」「雨月」となると怪奇なものを思ってしまいますので、はじめ、外していたのですが、何度か読んでいる内に、「雨月物語」の世界だけではなく、実景の、老妻との相傘とも取れて、味わい深くなりました。
相傘で濡れても、この頃は、まださして寒くないですよね。諧謔の効いた、老年のゆとりのようなものを感じ頂きました。

泥酔を許してくれる良夜かな  徳子
<頼髪(人)>


<しゅう(人)>
「許してくれる」と詠んだところにユーモアというか、ゆとりというか、があって良いですね。ゆったりとした時間が句に流れていて素敵だと思いました。

床の間の備前の壼の桔梗かな  香世
<徳子(地)>
日本のわび・さびの世界。備前焼の壺と桔梗がとても合っています。


・1点句

ぐい呑みは九谷雨夜の月見かな  旅遊
<庚申堂(人)>
飲んべえとして共感します。月があってもなくても、酒さえあれば。

ひつぢ田や渋茶をすする老夫婦  顎オッサン
<旅遊(人)>
本当の愛は年を重ねてこそわかるもの。これは年よりの繰り言ですかな。

そこここにこぼれ花散る野分あと  葉子
<省吾(人)>


星月夜算数のあはぬ兵戈かな  洗濯機
<梵論(人)>
絶えぬもの、それは戦争と詠歎と、満天の星と。

和やかな湖面は花野を抱きけり  顎オッサン
<晴雲(人)>


まもりして添寝の母や夜半の秋  素蘭
<顎オッサン(人)>
これもまさしく愛。

月を背に 心のぞかれ 目をそらす  庚申堂
<鞠(人)>
明るい月光を浴びながら私の心をのぞき込む人、幸い私は月を背にしているので、その暗さに紛れて目をそらしてしまう。

月をもて病みて生きるを切り落とす  愛子
<英治(人)>
きっぱりとした力感あり。「病む」のは心とも考えられる。

骨肉や紺きはまりて秋の天  蓼艸
<ぎを(人)>
「骨肉」ゆえの喜怒哀楽・・。

天高しオカリナに和す鳥の歌  明子
<海斗(人)>
オカリナの音色はとても神秘的です。
こころの澄んだ人にしか澄んだ音色が出せないと信じています。
(私は子供の頃、縦笛やハーモニカも吹けなかったので、余計にそう思うのか
 もしれません。)
そのオカリナに鳥の声が和しているところを覗いてみたい。
奏者は口髭を生やし、白髪混じりの長髪を束ねている中年の自由人が良い。

老猫の二匹縁にて秋刀魚喰う  梵論
<旻士(人)>
いい句だな。
そのままにとってもイイし、老猫を夫婦を例えていると考えてもイイ。
縁をそのまま縁と考えてもイイし、縁側と考えてもイイ。

夜学子の戻り厨に深夜の灯  英治
<木菟(人)>
 「深夜」に帰る、涙ぐましい努力を、若き日に重ね合わせました。 

幻月へ亡き兄渡る夢しきり  巴人
<ぎふう(人)>
「幻月」は月の両側に現れる光輝の強い点のことで月そのものではないと思います。「弦月」としてもこの句を損なうことはないのではないでしょうか。中七、下五のフレーズに惹かれました。