第78回桃李9月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:月(季題)、月(キーワード)、月(不言題)

秋の句 雑詠または題詠

今月の題詠は、「月」尽くし。
季題としての「月」は、すでに昨年10月に出しましたが、もう一度チャレンジしましょう。
キーワードとしての月は、季節と無関係な「月」を詠んでください。
(月並みの月、月日の月、なども可)
不言題としての月は、「月」という文字を使わずに、月を詠んでください。

9月15日(日)投句受付開始
9月22日(日)24時 投句締切、翌日選句開始
9月29日(日)24時 選句締切、翌日MLで合評開始
10月 1日(火)披講    

投句: 芳生、旅遊、巴人、元気、素人、英治、四万歩、鞠、郭公太、馬客、七梟、ぽぽな、冬扇、やんま、水、木菟、伊三、葉子、晴雨、眞知、梵論、柊、愛子、香世、庚申堂、登美子、旻士、徳子、素蘭、顎オッサン、省吾、明子、丹仙
選句: 柊、巴人、郭公太、英治、顎オッサン、蘇生、芳生、やんま、香世、葉子、旅遊、冬扇、鞠、水、伊三、ぽぽな、馬客、梵論、四万歩、旻士、涼、悠久子、木菟、省吾、素人、晴雨、登美子、眞知、愛子、庚申堂、明子、素蘭、丹仙

披講

・15点句

母の膝たたみて薄し良夜かな  愛子
<柊(人)>


<蘇生(天)>
母と子のほのぼのとした情景が・・、母を思いやる気持ちをこめて。

<伊三(地)>


<悠久子(地)>
老いた母の膝。穏やかな月の光。
作者の想いが伝わります。

<眞知(天)>


<素蘭(地)>
昭和ヒトケタ生まれの我が母は概ね達者・留守がちのイマドキ老人(?)ですが
身近に接すると昔よりひとまわり以上小さくなっているのにドキリとします
ということは、必然的に自分自身の老化(!)の自覚にもつながるわけで
このしみじみとした親子の交流の内にもそういった複雑な心境の投影を感じます

<丹仙(地)>
「たたみて薄し」に万感がこもっています。


・11点句

背に月を纏ひて帰る湯治かな  丹仙
<顎オッサン(天)>
少し言い過ぎの感じもしますが、良く解る景です。

<香世(天)>
かっこいい!!!

<冬扇(地)>
月を背にまとって湯から帰るという表現が面白い。いかにも湯治らしい。

<梵論(地)>
うーん、部屋に帰って早く一杯やりたいけれど、この逍遥も乙なもの。

<四万歩(人)>
「月を纏ひて」という表現が効いています。


・10点句

子の塚へ影さしのべて夜のすすき  馬客
<柊(地)>


<英治(地)>
しんみりとさせられる。拉致されて死んだと言われる異郷の子供たちに重なる。

<梵論(人)>
静かな、優しい心情と読ませていただきました。

<木菟(地)>
 哀切きわまりない。

<登美子(天)>
子に先立たれるほど辛いことはありません。
墓石にすすきの影がかかるのさえ、
「さしのべて」と感じる。
切ないですね。


・9点句

月並みの人生で良し赤のまま  素人
<顎オッサン(人)>
好きな感じの句です。

<芳生(地)>
季語「赤のまま」が効いています。

<葉子(天)>


<冬扇(人)>
そうだそうだと賛意。俳味のある句と思います。

<素蘭(人)>
「人並みの人生」と月並みの人生」
何かしら乗り越えるものがあったということでしょうか

<丹仙(人)>
「月並み」の句はたくさんありあしたが、この句、「赤のまま」がよいですね。


・7点句

もの思ふらし子は月に窓閉ざす  登美子
<馬客(天)>
五七五のリズムは失いたくないのですが。
こうも上手につくられてしまうと。

<眞知(人)>


<庚申堂(天)>
今月は点を入れたい句が多かったのですが、天はこの句です。ちょっと時代がかっているかもしれませんが、かぐや姫の頃から現代まで若き故の悩みは多いものですね。

満月や皿洗ひ機のひとりごと  香世
<芳生(天)>
題材の取り合わせがよい。現代の最先端のものと古典的な「月」と。

<やんま(人)>
何か分からないところで共感しました。

<涼(地)>


<悠久子(人)>
皿洗い機は、黙って洗ってくれる、そういう意識を持ってはいます。
でも、たしかに相当な時間を音立てているんですよ。
私もひとりごとを言っている彼女(彼かもしれない)が好きです。


・6点句

灯消し目をつむりても十三夜  鞠
<郭公太(天)>
屋根の下にいても、月の存在を感じる。目を閉じていてもなお・・・。

<省吾(天)>


照らされて銀に染めらる蕎麦の花  素人
<悠久子(天)>
先ごろ蕎麦の花の遠景を見たところです。
それは昼間でしたが、月夜にはきっと銀色に輝くに違いないと思います。
美しい句です。

<明子(天)>
青白く冴えわたる高原の夜の美しさ。凄みまでも感じられます。

たっぷりの水を硯に良夜なる  旅遊
<ぽぽな(天)>
その光で字を書くことができるほどの明るい十五夜の月。それも墨と筆とは素敵です。「たっぷり」がとてもふくよかな月とゆったりした書き手の気持ちを思わせます。4)の風景も好きでした。

<旻士(天)>
硯に浮かぶ月。それが墨により徐々に表情を変える。
見事な一句だと思います


・5点句

指先に銀波遊ばせ秋の湖  愛子
<素人(天)>
美しい句。詩情豊かで句意が広がります。ロマンチストですね。

<登美子(地)>
湖畔のお月見、すてきですね。
さざなみに遊ぶ白い指先が見えて美しい。

旋盤の故障直らず月今宵  冬扇
<郭公太(地)>
仕事に夢中になっているうち夜になってしまった。共感しました。

<英治(人)>
月に煌煌と照らされている町工場、不景気に意気消沈の町工場の並ぶ一帯の雰囲気がよく出ている。

<晴雨(地)>
月は修理されてまん丸。旋盤の句は初めて読む。
新みのある句だ。

月齢は佳し甘鯛の潮満ちる  やんま
<巴人(天)>
キーワードの「月例」の句として快心の一句。 

<素人(人)>
季語は不明ですが、季節感に富むと思いいただきました。

<明子(人)>
月の満ち欠けと潮の干満は関連があるのですね。
万葉の歌を思い出しました。

すれちがう湖畔の道や赤蜻蛉  省吾
<旅遊(天)>
初秋の頃は、赤とんぼも山にいて、山の湖の湖畔ではその飛ぶ姿がたくさんみられます。その光景がよく映し出されていると思います。

<ぽぽな(地)>
赤とんぼと「すれちがう」というのがいいです。

金色を池に入れたり月今宵  伊三
<香世(地)>
単純にして明解。そして美しい。

<冬扇(天)>
金色を池に入れたと云う表現が面白いと思います。天の月と池の月の双方を楽しんでいるのが目に見えます。


・4点句

戦中の青春縷々と寝待月  鞠
<旅遊(地)>
「寝待月」が全体の雰囲気をよく出していると思います。「戦中の青春」は私もその仲間。この句は良くわかります。

<眞知(地)>


長き夜のどう直すとも月並句  芳生
<やんま(地)>
面目ない。私の句の事ですね。

<晴雨(人)>
御苦労がしのばれる。しかし一句成立。

<登美子(人)>
もう文句なしに共感!
でも作者はその状況を
ちゃっかり(失礼^^;)句にしてらっしゃる。
オヌシ、ナカナカヤルナ。(笑)

宵闇の一塊の黒宮の杜  芳生
<やんま(天)>
そこだけ時間と空間が切り取られている。今か幽かな月影からも切り取られて静まっている宮の杜。

<馬客(人)>
鎮守って居る様は昼間でもちょっと
こわい感じ。まして「一塊の黒」。


・3点句

歳月の重きに沈む秋思かな  愛子
<四万歩(天)>
過ぎし日をかえりみる深く思い感慨があらわれています。

秋の夜にさやかに影をたまはりぬ  明子
<素蘭(天)>
「月影さやかに」ならばありきたりですが
「さやかに影をたまわった」のだという把握は新鮮です
タゴールの詩に通じるような安らぎと心映えの美しさを感じる句です

秋の夜や語り尽くして天仰ぐ  眞知
<芳生(人)>


<旻士(地)>
こういう沈黙いいですね。秋宵値千金です。

秋日和ちと恨めしや月曜日  ぽぽな
<涼(天)>


色褪せし絵のない絵本月仰ぐ  明子
<巴人(地)>
何かしら郷愁のようなものを誘う一句。

<旅遊(人)>
「絵のない絵本」を持ってきたのがよい目のつけ所というか。これでしまった句になりました。それが「色褪せた」というのは。思い出は大切にしたいものです。

失ひし恋は映さず秋鏡  登美子
<木菟(人)>
 同感です。

<省吾(地)>


幼子の薄しつかり持ち帰る  柊
<鞠(天)>
身の回りに自然がいっぱい在った昔、お月様に供える薄を採ってくるのは、子供の役目であった。今の子供はどこで薄を探すのだろうか?

月極と大書されたる秋の空  梵論
<晴雨(天)>
「月極め」は俳句にしにくい。それを大きく切れ良くうたわれた。(キーワード)を上手に料理された感じ。

月草に一露空を活けるかな  顎オッサン
<丹仙(天)>
月草はありふれたものですが、その青い小さな花の露が大いなる空を活けるという意匠が面白い。ミクロコスモスがマクロコスモスを映し出すというのが活け花や俳句のおもしろさ。

月島へ秋灯明かくバス渡る  英治
<鞠(人)>
かつての月島は、銀座に程近い場所なのに、まるで別世界のような郷愁を誘う土地であった。ウォーターフロントと言われる昨今の月島は、変容著しいけれど、明々と灯したバスの行手はやはり懐かしい。

<馬客(地)>
上京すると勝鬨近辺によく泊まります。
月島・秋灯・渡る、と見事に調和。

歯の麻酔醒めゆく気配九月来る  明子
<英治(天)>
さあ、そろそろ痛みが来出した。9月になり、秋風の身に沁みる頃も・・。

病棟の窓に溢るる夜半の月  徳子
<愛子(天)>


二日月眉描くときは背を向けて  登美子
<鞠(地)>
化粧の中でも眉を描くのは、なかなかデリケートな作業で、会心の出来という日は少ない。人に見られながらでは、一層手元が定まらない。

<庚申堂(人)>
情景的にもストーリー的にも非常に好きな句です。ルール違反かもしれませんが私も思わず1句「眉を描く 鏡に映る 二日月」。それにしてもこの人これからどうしようとしているんでしょうね。

満月やうさぎアポロの靴を履き  顎オッサン
<伊三(天)>


名月や人それぞれにけふの影  英治
<葉子(人)>


<四万歩(地)>
月はひとつであるが、それを眺める人は数限り。そして、それぞれの人には、それぞれの歩んできた道がある。ということが暗示されている一句。

秋の湖闇の孤舟の灯が点る  巴人
<木菟(天)>
 一言、ただ美しい句と言っておきます。

妖精のお喋り止まぬ三日月夜  郭公太
<柊(天)>


バスを追ふ月や釦の取れ掛けて  冬扇
<梵論(天)>
ふとしたはずみで車窓から月を見つけたときの心の弾みが楽しい句です。

マッチの火借りて香焚く秋彼岸  香世
<水(天)>
墓地には、りっぱな表札(?)がかかっているのに、彼岸の墓参のときでも、お隣りづきあいは疎である。借りるには小さい勇気がいる。ライターではなく、マッチの配役がよい。
「すみませんが、タバコ一本ください」と見知らぬ人に平気でおねだりし、マッチを擦ってもらえた世相がなつかしい(昭和30年頃?)。 貧しい時代だったが。


・2点句

提灯のいらぬ夜道や鹿ぞ鳴く  庚申堂
<素人(地)>
煌々と照る満月の夜道に鹿の声を聴く、この風情、好きです。

癌病棟赤き月見る柘榴の実  伊三
<庚申堂(地)>
手術中の癌の赤、赤い月、石榴の実の赤とよくも並べました。よくわかりませんが不気味さが感じられます。同じように意味はよく取れませんが[14],[24]、[33]、[43]等印象に残りました。みんな言葉使いが鋭いのでしょう。

歌人の手垢まみれし秋の月  庚申堂
<水(地)>
俳人は?  チクリの味もよい。

夢煌煌かぐや姫より落し文  やんま
<顎オッサン(地)>
天にしようか迷いました。
ちょっと甘い感じですが、むしろ
ペーパームーンを思い出します。

酔ひ眩むグラデーションの月明り  梵論
<伊三(人)>


<ぽぽな(人)>
いい気持ち。面白いです。

月天心帰りそびれし吾を見る  素人
<葉子(地)>


ひとりただ独り居て見る夜半の月  木菟
<愛子(地)>


はなすすき雲に漕ぎゆくひかりあり  梵論
<明子(地)>
月の不言題ですね。
雲のうえを渡ってゆく月の姿を想像させます。

望月の影踏みをする子供かな  柊
<蘇生(地)>
満月の夜の、あの黒々とした影を追いかけ、踏みっこした昔を思い出させてくれる。外灯が照らしていては黒々とはならないが・・。


・1点句

クロワッサン朝餉に食べるおかしさよ  葉子
<旻士(人)>
クロワッサン(三日月)は夕暮れ寸前に白く浮かぶもの。
そのクロワッサンが朝食になる。いい着眼点ですね。

ミシン踏む足止め仰ぐ望の月  芳生
<省吾(人)>


満ちずともすでに満ちたり月見酒  省吾
<愛子(人)>


無月よし立小便の夢さめて  水
<涼(人)>


名月の裏は見るまい目玉焼く  水
<蘇生(人)>
何かしら可笑しみを感じさせてくれる句。

写生帳買ひに出でたる良夜かな  旅遊
<巴人(人)>
平明なさりげなさに惹かれる一句。

竹取の翁となりぬ良夜かな  顎オッサン
<香世(人)>
私は、かぐや姫になりたい。

中秋の名月なればと酒買いに  葉子
<水(人)>
字余り気味の「と」が意味深である。恐妻家の酒飲みにとっては。