第85回桃李2月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:冴返る、梅、白魚

初春の句 雑詠または題詠

兼題1:  冴返る
兼題2:  梅    
兼題3:  白魚         

 2月15日(土)投句受付開始
 2月22日(土)24時 投句締切、翌日選句開始
 3月 1日(土)24時 選句締切、翌日MLで合評開始
 3月 2日(月)披講 

投句: 顎オッサン、七梟、鞠、清子、巴人、葉子、芳生、伊三、蘇生、願船、英治、浮遊軒、夜宵、ぽぽな、馬客、晴雨、宏太郎、素蘭、四万歩、徳子、童奈、やんま、梵論、水、庚申堂、木菟、径、愛子、川蝉、柊、明子、丹仙、海斗、李花、省吾、頼髪
選句: 巴人、浮遊軒、やんま、葉子、顎オッサン、芳生、鞠、水、剛、柊、香世、旻士、伊三、清子、願船、徳子、宏太郎、馬客、木菟、四万歩、童奈、梵論、英治、梨花、庚申堂、海斗、素蘭、愛子、径、明子、ぽぽな、頼髪、晴雨、丹仙

披講

・13点句

冴返る五体に癌をちりばめて  英治
<徳子(天)>
何方の句か知りませんが一日生き延びれば良い薬が生まれてきます。
一個でも消えますように。

<木菟(天)>
転移癌というものは、絶望的に散らばってしまって、どうにも手の着けようもないことが多い。こんな哀しい句を初めて見ました。

<素蘭(人)>
死を射程におさめた生き方がより良い生き方のような気がこの頃しています

<径(天)>
なんとも言葉がありません。
少しでも穏やかな日の続くことを祈るのみです。

<丹仙(天)>
病身の身に冴返る時節はことさら厳しいもの。ガンの転移した身体を、外部の時候の戻りとともに詠み壮絶な印象を与えます。

白魚の腹一物もなく透ける  径
<巴人(人)>
白魚の句として、この「腹一物もなく」の把握に惹かれた。「腹一蔵もなく」
で諳んじていたが、この「選評」を記載しながら、「腹一物」としていること
に気がついた。「腹一蔵」でも選句している。

<顎オッサン(地)>
自然体を感じます。

<剛(地)>
「腹一物もなく」が良い。

<清子(天)>
作者の心像を白魚の目を通して客観視している

<木菟(人)>
臓物が透けて見える、小魚はたしかに美しい造化の妙だ。勿論腹に一物もなくても。

<明子(天)>
白魚の目を詠んだ句は多いと思いますが、逆に一物もなく透けるという表現は
新鮮に感じられました。

<丹仙(人)>
「腹一物もなく」に俳味があって、古俳諧のような面白さを感じました。


・12点句

探梅の夜の衣を脱ぎにけり  清子
<願船(天)>
一瞬『ぬぐやまつはる紐いろいろ』のイメージが脳裏をかすめた。しかしすぐ待てよと思った。紐いろいろは花衣の季節だから成立する。この句の場合は梅の夜の衣だ。紐は無い。あるのは梅のほのかな香りであろう。何という清楚でまた余韻の艶かしい句であろうか。

<宏太郎(人)>
妖しい雰囲気が漂っています。

<英治(天)>
梅見のひと日の心地良い疲労感。整った語調。

<素蘭(天)>
なんとも艶な句ですね
梅の移り香に室にも艶な空気が立ちこめてきそうです

<径(地)>
花衣のような華やかさはないけれど、
凛とした艶っぽさが素敵です。


・9点句

梅仰ぐ一輪ほどの孤独かな  顎オッサン
<巴人(地)>
梅の句は他にも選句したい句が多かったが、嵐雪の「本句取り」の、この句
をとりたい。本来、俳句というものは、こういう世界のものという気がする。

<徳子(地)>
ほんの少しの孤独なのですね。よかった。

<四万歩(天)>
梅の一輪と我が身の孤独を結びあわせて「一輪ほどの孤独」と感慨を詠う。その孤独を楽しんでいるようなこころばえ。

<英治(地)>
たしかに、こんな場面で、ちょっとした孤独感を覚えることがある。

梅咲きて老舗の大戸下りしまま  馬客
<鞠(天)>
 梅は春告草とも言うけれど、梅の咲く頃は未だ余寒が厳しい。老舗の大戸の開かないのは、不況のあおりであろうか。

<水(天)>
桜咲くころには、景気の窓が開いてほしいが・・・

<梵論(人)>
絵のような情景ですが、現実にもまま見かけます。心うたれました。

<頼髪(地)>



・8点句

こんな日に落第もよし梅真白  丹仙
<剛(天)>
落第というつらい経験の句ですが、どこか救いがあって勇気づけられました。

<願船(人)>
春浅き日の光に輝く白梅。それに相対するは単位不足で落第した一学生。彼は梅の力強い生命力から未来に向けて生きて行こうとする勇気を貰った。落第してよかったなという境地に高まった気持ちが伝わってくる。

<童奈(天)>
見事な梅。心も白紙に、さっぱりと再スタート。

<径(人)>
ああ、その通りですよね。
落第なんて大したことじゃないです。
春はこれからですものね。

をちこちの梅を巡りて郵便夫  やんま
<水(人)>
バイクではなく、自転車でしょうか。

<柊(天)>
忙しい郵便夫の余裕ある風流心に感心いたしました。

<馬客(地)>
郵便物を受け取る人と配達人との
町内梅状況の立ち話が聞こえてくる
ようです。
まっすぐな良句であると思います。

<英治(人)>
季節の移り変わりを感じつつ、「山の郵便配達」が今日もゆく。

<明子(人)>
山懐の小さな梅の村。郵便屋さんの赤いバイクが梅から梅へ斜面を縫って行くようすが
俯瞰できるようです。


・6点句

鳶の輪のまた戻りくる白魚舟  芳生
<馬客(天)>
自分の句も含めて「白魚」は驚くほど
類想の句が出ました。
歳時記には常日頃から良く目を通し、
柔軟な発想をもって作句せねばとの
反省を得つつ鑑賞致しました。

<童奈(地)>
広い景。ゆっくり時間が流れているような。

<庚申堂(人)>



・5点句

小梅咲く小町ゆかりの化粧井戸  浮遊軒
<やんま(地)>
何処にありますか。駅名を教えてください。

<梨花(天)>
懐かしい!私の育った近所の梅です。私にとって、梅といえば随心院の梅。
子供の頃、よく遊びに行きました。化粧井戸、文塚、梅園、はねず踊り・・・。
遅咲きの梅なので、まだまだ咲いていないでしょうが、子供の頃見た梅と夢が心の中で広がりました。

梅見んと無住の寺の門くぐる  願船
<愛子(地)>


<ぽぽな(天)>
普段は決して訪れない場所にも誘う梅の魅力を言い当てていると思いました。

夭折の画家のアトリエ冴返る  明子
<浮遊軒(地)>
季語の選択がうまい。句に深みを与えることになった。俳句は季語によって決まるという実例のような句。

<願船(地)>
夭折の画家のアトリエが制作中のまま残されているのであろう。そこには未完成のカンバスあり、絵具で彩られたパレットあり、という風景が見える。今人気なき早春のアトリエには鬼気迫る冷氣が淀んでいる。まさに冴え返る現場を表現した。

<頼髪(人)>


白魚やヨーコの行方?知らねえな  童奈
<やんま(人)>
はい、知りません。魚民あたりで訊かれたらいいと思います。

<香世(地)>
あは。ヨーコは、横須賀の白魚かな。ちょっと不良っぽい白魚のような色白の痩せた女の子。粋な江戸っ子に食べられたんだって。

<清子(地)>
思い切りの酔い斬新的な感覚


・4点句

冴え返る風を孕んで鷺は地に  径
<柊(地)>
白鷺の優雅な姿が目に浮かびます。

<海斗(地)>


冴返る夜の瀬音の山の宿  巴人
<四万歩(地)>
谷川の瀬音を耳にしながら、いっそう冷え冷えとした感じがあふれでる、それがよく詠み込まれています。

<丹仙(地)>
古今会の「冴返る」の題詠、人情からみの句が多かったのですが、掲句のような純粋な叙景句にも惹かれます。冴え返るの季題が生きていますね。

冴返る炎静かや不動尊  童奈
<やんま(天)>
暖かいと思ったら急に寒さが戻って一層身が引きしまる。なんだか不動様の炎も冷たい気がしてきた。

<柊(人)>
炎が静かと詠まれた所に感心いたしました。

心急く紅い鼻緒の冴返る  願船
<伊三(天)>


<清子(人)>
紅い鼻緒のドラマの始まり

バス停に並ぶ猫背や冴返る  梵論
<葉子(人)>
なにげないスケッチ。老いも若きも寒さには無意識に背を丸めてしまう様がうまくとらえられている。

<旻士(天)>
お見事。「冴返る」状況の描写では一番かと思います。

盆梅の値札を隠すほどに咲き  水
<鞠(人)>
 値札というものは、花を愛でる気分に一寸そぐわないこともある。微妙な心理を
捉えていると思う。

<香世(天)>
父の遺した盆梅があります。いつも庭の梅(元気が無く花数も少ない)に先駆けて、満開の白い花をつけます。この句の盆梅は精気に溢れています。

夢いつも奇想天外鳥雲に  径
<宏太郎(天)>
季語との取り合わせが効いています。

<海斗(人)>


白魚の酔ふて鎮まる気配かな  梵論
<梨花(地)>
以前、「酔っ払い海老」というものを食べたことを思い出しました。
老酒の中で最初は怖いくらいに跳ねていた海老が、蓋をしてしばらくすると眠ってしまったのか全く音を立てなくなりました。まさに「酔ふて鎮まる気配」だと思いました。
残酷。だけど美味しいんですよね。

<素蘭(地)>
踊り食いは個人的には苦手な食べ物ですが
早春の食材である白魚のあえかな気色を戴きます

風閑か梅ひと株の辺りのみ  梵論
<葉子(天)>
無風のなか梅の香りが静かに立ち上ってくる感じ。

<旻士(人)>
そういう古木がありますよね。


・3点句

潮の香を身にまとひける白魚汁  四万歩
<海斗(天)>


白魚の朝日の網に跳ねにけり  川蝉
<芳生(天)>
白魚と朝日の取り合わせがよいと思います。

白魚の小さき未練を呑みくだす  英治
<葉子(地)>
千咲
小さき未練という擬人化がうまい。白魚の未練を思いつつも
人は食欲に勝てない。

<徳子(人)>
白魚と未練の組み合わせが面白かったです

白魚やかさなり合ふて網軽し  頼髪
<梵論(天)>
「網軽し」の響きに早春を感じました。

天神の絵馬に白梅悠々と  丹仙
<愛子(天)>


白魚の眸の黒々として盛らる  馬客
<顎オッサン(天)>
白魚の句は佳句が有りました。
眼や目でなく「眸」ですか。
何を見ていたのでしょうか。
「黒々」が生の生々しさを凝縮しています。

春立つや脚もどかしく退院す  明子
<浮遊軒(天)>
脚もどかしくとはいうものの、退院のうれしさがよく出ている。季語とはこれほどの力があるものかと、いまさらながら認識した次第。

沖と言ふはるかすぎるもの冴返る  清子
<巴人(天)>
「沖と言ふはるかすぎるもの」と「冴返る」との取り合わせが絶妙。多分、
作者としても快心の作であろう。

老い母の経に張り有り庭の梅  伊三
<芳生(人)>


<梵論(地)>
庭石のような漢字とかなの配置も面白いですね。

澪つくし白魚くろき眼せり  顎オッサン
<庚申堂(天)>
あまり経験ありませんが、ほんと黒い目をしていますね。

聡き児の寝息ただしく冴返る  馬客
<頼髪(天)>


紅白の梅に勝ち負けなかりけり  素蘭
<晴雨(天)>
選句も作句同様楽しいものだ。いつも百句内外の句をプリントして5回6回と詠む。するとだんだん絞れてくる。この句「勝ち負け」から広がり梅に帰する段階が楽しい。

紅梅や空気清しき五六間  海斗
<剛(人)>
ぴたりと決まった感じが好きです。

<伊三(地)>



・2点句

白魚の生命力と対峙せり  宏太郎
<旻士(地)>
白魚の踊り食いを主題とした句の中では、一番味があるかなと。

梅林をかがんで歩く雨上がり  李花
<鞠(地)>
 雨上りの梅の香は少し淡いけれど、その風情は一入。梅の枝の横張りの強い様が
「かがんであるく」によく表されている。

恋猫の鞄に眠るチョコレイト  夜宵
<明子(地)>
ひょっと角を曲がった猫がなにげなくニ本脚で立ち、肩掛カバンをかけて歩いて行く。カバンのなかにはバレンタインにもらったチョコレイト。さあ彼女の所へ・・・楽しい句です。

節くれて魔女の杖めく梅真白  晴雨
<木菟(地)>
ハリ−ポッタ−じゃないが、近頃こんな映像が幅を効かしていて、おとなしやかなものはつい気圧されてしまう。

白魚のとほりて透けり咽喉仏  海斗
<晴雨(地)>
最近、阿部しょう人著「俳句」を詠み直している。半分位進むと頭が混乱して来るから不思議だ。そんな混乱がこの句にあるのも不思議だ。

助六の粋な鉢巻春隣  浮遊軒
<芳生(地)>
鉢巻に注目したところがよいと思います。

あはゆきにあはき影添ふ老紅梅  巴人
<水(地)>
淡い陽光のなかの淡雪かな? 老の孤高と春愁。

梅ひと枝かすむ羅漢の大頭  愛子
<庚申堂(地)>
春のおぼろにかすむ羅漢が浮かびます。

ランナーの大また小また梅の道  英治
<ぽぽな(地)>
梅の魅力でいつもより走るのに時間がかかりますね。

白魚の一列にゆく忘れ潮  やんま
<宏太郎(地)>
今回の白魚の句の中でも好きな句です。運命的なものも感じさせてくれます。


・1点句

冴返る判官館の杉の鉾  芳生
<童奈(人)>
類句もあろうが、静かに寒さが染み渡る。

早春や出窓で揺れるやじろべえ  浮遊軒
<晴雨(人)>


空や地やモノクロームに冴返へり  蘇生
<愛子(人)>


白魚のあはれ眼の黒きこと  素蘭
<四万歩(人)>
たしかに、透き通るような白魚の目がそのように訴えています。

”実も赤い”質す子ありや梅の花  庚申堂
<顎オッサン(人)>
親の子の探梅の風景画とても
よく解る句です。
「実も赤い」のほうが良いでしょう。
作者はどう答えたのでしょうか。

梅の枝撓めて尾長飛び立ちぬ  葉子
<梨花(人)>


柔肌のされど冷たき細き指  木菟
<伊三(人)>


突堤に反戦集会冴返る  鞠
<馬客(人)>
自衛艦の出航阻止集会でしょうか。
趣味の句作りとは言え、時事問題
には鋭敏でありたいです。

黒柚の皿に白魚清きこと  葉子
<浮遊軒(人)>
黒釉と白魚との対比が美しい。白魚の目が黒いならありきたりの句になったであろうが、これは目のつけ所が違った。ただし、柚は釉の誤り。

どちらともなく誘ひ合ふ梅見かな  宏太郎
<ぽぽな(人)>
これが「花見」ではないところに、2人の微妙な関係が見えるようです。

紅梅の恥じらふ色を撮りにけり  清子
<香世(人)>
梅の観賞に行ってきました。カメラ持参の方が大勢おられました。中には、花の心の底を撮りたいと思うがごと花に接写されていました。そうですか、恥じらいの色を撮っておられたのですね。