第86回桃李3月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:水温む、涅槃、中東和平(不言題)

春の句 雑詠または題詠

兼題1(季題): 「水温む」
兼題2(キーワード題): 「涅槃」
兼題3: (不言題):「中東和平」  

 3月15日(土)投句受付開始
 3月22日(土)24時 投句締切、翌日選句開始
 3月29日(土)24時 選句締切、翌日MLで合評開始
 3月31日(月)披講     

投句: 伊三、やんま、鞠、浮遊軒、ぽぽな、雛菊、清子、芳生、四万歩、願船、馬客、夜宵、木菟、梵論、眞知、川蝉、顎オッサン、葉子、旻士、七梟、素蘭、徳子、英治、明子、愛子、童奈、丹仙、宏太郎、庚申堂、柊、径、晴雨
選句: 柊、顎オッサン、浮遊軒、雛菊、葉子、英治、鞠、夜宵、ぽぽな、宏太郎、徳子、伊三、四万歩、旻士、願船、木菟、素蘭、やんま、芳生、梵論、馬客、童奈、清子、香世、愛子、庚申堂、水、径、明子、晴雨、丹仙

披講

・22点句

戦争の遠くにありて種を蒔く  柊
<顎オッサン(人)>
耕人のもくもくと働く様子、これは
戦地でも同じだった。

<英治(天)>
ミレーの絵の雰囲気も感じられる。牧歌的で平和の尊さが良く表現されている。

<ぽぽな(天)>
平和への希望の種。

<四万歩(人)>
またはじまる戦争を遠くに聞いて、やれやれと思いながら、それでも、新しい命の種をまく、そうした気持ちがあらわれています。

<やんま(天)>
おなじ空が下の人の営みである。

<童奈(天)>
平和の種を。

<径(天)>
収穫のときを楽しみに種を蒔いているいまこの瞬間も、
戦いが続いている地域がある。
白昼夢のように遠い出来事だけれど。
かの地にも早く収穫の喜びがもたらされるよう
祈らずにはいられない。
そんな思いを感じ、心を打たれました。

<明子(天)>
結局のところ、こんな淡々とした句のほうが強く訴えてくるのですね。
種を蒔く がいろいろなことを考えさせます。

<丹仙(地)>
中東の混沌とした戦乱の模様が新聞やテレビで連日報道されていますが、今回は、中東和平を不言題にしてみました。この句は、数多くの投句の中で、もっとも地に足のついた感じがします。「種を蒔く」こと、それは平和の時の営みであり、戦乱とはかけ離れていますが、そうであるにもかかわらず、平和のきたることを沈黙のうちに祈っているかのようです。


・9点句

太陽へイルカのジャンプ水温む  宏太郎
<鞠(地)>
 水族館のショーであろうか。「太陽へ」が早春の弾むような明るさにぴったり。

<ぽぽな(地)>
「太陽へ」ジャンプに春の躍動感があります。大きなスプラッシュも嬉しい季節、元気な笑い声が聞こえます。

<願船(地)>
場所は水族館のプール。水面から飛び出したイルカが太陽に向かって躍動する。調教を受けた動物の行動ではあろうが、イルカの命が宇宙の根源である太陽を目指して飛躍する姿はまさに水温む季節の歌である。明快で力強い一句。

<芳生(天)>
「太陽へ」の表現で大景と躍動感が出ています。

水温む窓開けがちに閉めがちに  清子
<雛菊(人)>
 気温が定まらないからね、この時期。私も、窓あ開けがちに閉めがちに暮らしてます。

<英治(人)>
三寒四温の頃の生活を良く表している。北窓を開ける日があったかと思うと・・。

<四万歩(天)>
少しずつ暖かさがましてくる微妙な季節の移りがうまく描けています。

<旻士(天)>


<願船(人)>
「窓開けがちに閉めがちに」外界の空気に光りが見える季節。窓を自然に向かって開放する。窓を閉めて部屋の暖かさを確保する。表面はそのような行動を歌っているが、その奥には春の兆しに感応して、何だかそわそわする作者の心の傾きを感じさせる。窓を心の象徴として受け取るとき、この一句から作者のそのような愁い心の詩を感じるのだ。

水温む掌にやわらかき厨ごと  木菟
<浮遊軒(人)>
これは実感でしょうね。共感します。小生も厨房に立っているものですから。

<宏太郎(人)>
辛い冬の台所仕事から、厨全体が優しくなってきた事が伝わります。

<馬客(天)>
「水温む」には多くの、親しみの持てる
お作が有りました。
妻が一病を得てより「厨ごと」の真似事
もするようになった身としては、やはり
この句でしょうか。

<愛子(天)>


<丹仙(人)>
「厨ごと」が良いですね。温水給湯の完備したモダーンな台所では、この実感はでませんから。平明な句ですが自然なリズムに共感します。


・8点句

嫁のはや厨のなかま水温む  英治
<柊(地)>


<徳子(天)>
若嫁さんもしあわせ!!

<晴雨(天)>


涅槃図の片隅に鬼坐りをり  浮遊軒
<木菟(天)>
ほんとにありそうな感じだけど、なくてもこれはこれで何とも新鮮な感じです。

<素蘭(天)>
淡々とした詠みくちに含蓄を感じました
釈迦の入滅を菩薩や仏弟子とともに鬼畜類も嘆くという涅槃の考え
東洋の叡智に改めて気づかされます

<童奈(人)>
釈迦入滅を鬼さえも嘆く。まさに慈愛。

<明子(人)>
鬼のいる涅槃図、私もどこかで見たような・・・


・7点句

堰をつと離れし一葉水温む  晴雨
<雛菊(地)>
 春の暖い日差しに水も温んで、はっぱもチョットお出かけしたくなったかな?

<葉子(地)>


<芳生(地)>
些細な光景ですが、水温むをよくあらわしていると思います。

<愛子(人)>


つぶらなる眸泣かすな春の塵  馬客
<顎オッサン(地)>
じわっと反戦が解ります。
反戦としなくとも色々考えさせる味がありますね。

<夜宵(地)>
「泣かすな」という言葉に惹かれました。

<宏太郎(天)>
子供達のためにも中東和平を祈らないわけには行きません。
直接的な物言いではないが、胸に訴えるものがあります。


・6点句

涅槃西風遅れて動くキリンの首  宏太郎
<馬客(人)>
もう何十年も本物のキリンを見ていません。
すこしは暖かくなったし、動物園にでも
行って見るかとの気を、この句は起して
呉れました。

<香世(人)>
遅れて動く、という表現がいいですね。長い首なので、体幹とは、動きがずれているでしょうね。同じだと、キモワルイ♪「右向け右!」

<庚申堂(天)>
なんとなく解りますね。89番の象も良いと思いました。

<径(人)>
「遅れて動く」・・長いキリンの首の動きが
ユーモラスに的確にとらえられていますね。

不器用に傘畳む子や水温む  やんま
<芳生(人)>
子供はなかなか上手に傘が畳めないものです。

<馬客(地)>
「63」と「67」はそれぞれ優しい視線の
主体と客体がものした句。
「63」が普遍性においてやや勝るか、と
思います。

<童奈(地)>
きっと来年の春には上手にたためるようになっているのでは?

<水(人)>


水温む恋は鏡となりにけり  清子
<顎オッサン(天)>
春の水面に映る影は穏やかです。
水面に影を見ているなら、
「恋は」は「恋の」のほうが良い気がします。

<願船(天)>
古来わが国の鏡は人思う女の心を象徴するものだと考えられてきた。季節は早春。
自然の中には風や水に春の動きが見えはじめ、人の魂は宇宙の生命に溶けこもうとして疼き振るえる。作者は揺れ動く恋を鏡の中に見ている。それはやがて消えゆく幻影の恋なのか、焦点を結ぶ恋なのか。なぜか気になる一句でした。

涅槃図を見て滔々の大河かな  径
<清子(天)>
釈迦の偉大さそのものが、とうとうの大河。

<丹仙(天)>
涅槃図を見た後で、大河の等々と流れる様を見たという意匠ですが、そういう実景だけではなく、その景の中に秘められた理念に共鳴しました。この大河は、悠久の歴史の流れの象徴。この涅槃は歴史を超越する涅槃(往相の涅槃)ではなく、不住涅槃(還相の涅槃)と理解します。涅槃に安住することなく、歴史のただ中に還り、そこにおいて衆生と共に苦しみをともにし、捨身で活動してきた無数の仏教者たちの歴史を感じました。


・5点句

ドレッシング替えてみようか 水温む  雛菊
<香世(地)>
つぶやっ句。さらりといいですね。胡麻垂れドレッシングから、フレンチドレッシングへ。春だもん。

<水(天)>


つちふるや希ひきしもの見失ひ  明子
<柊(天)>


<庚申堂(地)>
「つちふる」がとてもすてきな季語です。中東和平に結びついています。


・4点句

犬ふぐり子等は子等なり掟持ち  宏太郎
<葉子(人)>


<梵論(天)>
…にしても、諍いは絶えませんねえ。

野の花に烈火の紅さ涅槃西風  顎オッサン
<浮遊軒(天)>
むづかしい題ではあるが、これはなかなかの出来と思います。私は、時事的な題はどうも苦手ですが。

<晴雨(人)>


水温む人影差せる隠れ沼  柊
<木菟(地)>
該当する沼を探すのも一苦労だが、あったらその中に身を置いて見たい。

<明子(地)>
ふだんは誰も見向きもしないような小さな沼。でも野を歩く人も増え、水面をのぞくことも
・・・・春はもうすぐです。


・3点句

義母となるひとの笑顔や水温む  夜宵
<鞠(天)>
 実母に対して、継母・養母・配偶者の母を義母と言い、どうしても緊張を伴う
関係である。それゆえに笑顔の義母は慕わしく、季語の斡旋が絶妙。

おばあちゃん外着うれしや水温む  ぽぽな
<夜宵(天)>
ほのぼのした情景が浮かんできました。ほっこりする一句。

涅槃図の声なき慟哭耳聾す  柊
<葉子(天)>


血しぶきのまた飛び火して虻たかる  旻士
<伊三(天)>


つぎつぎと解く花の荷水温む  明子
<鞠(人)>
 次第に暖かさが増すと、花の入荷も殖えて、カラフルな春がいっぱい。

<梵論(地)>
句一杯に春が溢れています。

予測可能防御不可能遠雪崩  径
<夜宵(人)>
すべて漢字の力強さとゴロがいいですね。

<愛子(地)>


赤子喰う恐竜プッシュ薔薇の棘  伊三
<雛菊(天)>
 この句は、丸木夫妻の「原爆の図」の絵を想いおこす。この句は、
おどろおどろしい程の恐怖を描いた現代版戦争絵図だ。

バンコクや御堂いっぱいの涅槃像  鞠
<香世(天)>
バンコクや、と、外国の地名に切れ字「や」がついて、楽しく思いました。涅槃像も伸び伸びとお昼ね中。


・2点句

聖地あるゆゑのいくさや春の月  英治
<伊三(地)>


水温む吾娘へ買ひ足す紅ひとつ  芳生
<宏太郎(地)>
娘さんへのあたたかな愛情が感じられました。

水温む明日来る文待っている  伊三
<素蘭(地)>
なんか春らしく初々しい弾んだ気持が伝わってきます

髪を解き放ちたまふや涅槃西風  素蘭
<英治(地)>
春のエロチシズムが感じられる。ボッチチェリの「春の三美神」の絵を思った。

水温む背鰭を見せし錦鯉  浮遊軒
<晴雨(地)>


傷口のやうやく癒えし涅槃かな  芳生
<四万歩(地)>
我が身にまつわりついていた大いなる気掛かりが失せてゆく快哉の気持ちは、例えれば、涅槃のような境地?

天幕に起き伏す子らや砂塵巻く  葉子
<浮遊軒(地)>
現地ではこんなことなのでしょうね。弱者にむごいのが戦争というものです。思いやりの心を失った指導者は、本当に指導者の資格があるのかと疑問です。

便りなきものに誰彼涅槃西風  英治
<径(地)>
いつの間にか便りの途絶えた誰彼を思い出す、
春昼のややもの憂い雰囲気に惹かれます。

梅ほつほつ茶色の戦争始まりぬ  丹仙
<旻士(地)>


ゆるやかに鼻伸べ象の水温む  願船
<やんま(地)>
この様にゆるやかに生きられたらどんなにいいだろう。

涅槃絵や作者も吾も大根も  丹仙
<清子(地)>
この世の全ての物の帰るべきところが涅槃絵の中である。

涅槃絵や蛇も一つの命なり  庚申堂
<徳子(地)>
涅槃絵とか涅槃図の良い句が多かった。じっくり見たことが無いので今度しっかり丁寧に見てみようと思った。

襟巻は 庭に一泊 水温む  雛菊
<水(地)>



・1点句

鳥雲に涅槃は望むべくもなく  梵論
<やんま(人)>
愛するものは雲の彼方に消え去って。

菜の水温み夕餉の人を待つ  顎オッサン
<庚申堂(人)>
いそいそと家族を迎える様子が出ています。廚を詠った句も多くありましたが、これを取りました。

未来てふもの在る無しや涅槃西風  徳子
<梵論(人)>
とりあえず、今晩の飯はある(と思う)。

水温む麻布十番老舗街  徳子
<清子(人)>
麻布十番と言う地が水温む季語を立ち上げている。

ものの芽の中に戦争ナビ動く  晴雨
<木菟(人)>
ナビゲ−タ−のことだろうか。そんな感じ方があっても心に留めておきたい。

空の色まろやかに映し水温む  四万歩
<旻士(人)>


戦争が秩序を保つ万愚節  夜宵
<素蘭(人)>
本当に万愚節であってほしかったと思います

春雷や妻に云えないこともあり  庚申堂
<徳子(人)>
妻に言えない事?貴方は大戦中第一線で戦った人?

路線バス乗らず山路の梅見かな  丹仙
<伊三(人)>


涅槃図に声なき嘆き幾重にも  明子
<柊(人)>