第91回桃李8月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:冷夏(夏寒)、盆、終戦日

晩夏または初秋の句 雑詠または題詠

兼題1: 冷夏(夏寒)
兼題2: 盆
兼題3: 終戦日

8月15日(金)投句受付開始
8月22日(金)24時 投句締切、翌日選句開始
8月29日(金)24時 選句締切、翌日MLで合評開始
8月31日(日)披講       

投句: やんま、浮遊軒、まよ、雛菊、芳生、顎オッサン、ぽぽな、鞠、素蘭、東彦、英治、願船、馬客、香世、四万歩、梵論、葉子、徳子、人真似、庚申堂、素人、愛子、柊、川蝉、水、康、晴雨、明子、好鵡、若芽、旻士
選句: 芳生、英治、香世、顎オッサン、鞠、東彦、柊、やんま、人真似、素人、まよ、好鵡、雛菊、浮遊軒、馬客、梵論、葉子、木綿、康、庚申堂、素蘭、水、愛子、願船、川蝉、旻士、四万歩、晴雨、明子

披講

・16点句

トーストに山盛りのジャム終戦日  明子
<芳生(天)>
終戦日を迎えるたびに現今の日本の豊かさを思い知らされる。何もなかった戦中、戦争直後との対比がよい。

<英治(地)>
戦中、戦後のひもじさに今も腹が立つ、と言った感じか。

<やんま(天)>
食糧難の往時、米軍のジャムは垂涎の的であった。今は山盛りのジャムも日常である。

<馬客(人)>
「山盛りのジャム}は平和とその継続の象徴。

<木綿(天)>
トーストに山盛りのジャム、まるで50年代のアメリカ映画の朝食風景。しかし今日は終戦記念日。戦争がなかったら、ご飯とお味噌汁の朝食だっただろうか?

<康(天)>
山盛りのジャムが、今日はなぜかさみしくなるのである。

<願船(人)>
八月十五日の朝の風景だろう。子どもたちはトーストに好きなジャムをたっぷりのせて楽しそうに食事をしている。みんなが飢えていたあの頃のことを黙って回想している作者がそのなかにいる。


・13点句

地下鉄に走り込みたり盆の僧  浮遊軒
<芳生(地)>
素材が面白かった。

<東彦(人)>
お盆の日掛け持ちで忙しく動き回る僧のユーモラスな様子を買いたい.

<雛菊(地)>
僧と地下鉄のミスマッチが時代をとらえている。

<葉子(地)>


<木綿(人)>
猫の手も借りたいくらい忙しい盆の僧。お盆は分刻みのスケジュール、僧も飛び乗りするんですね。シニカルにとりました。

<康(人)>
初秋の「師走」。お坊さんの汗の首筋が見えてくるようだ。

<水(人)>
駅まではバイクで。ケイタイで時間の調整をしながらの多忙。

<川蝉(天)>



・9点句

終戦日やさしく抓る嬰の頬  芳生
<柊(天)>
戦争体験のある大人が平和を祈る気持ちがよく出ていると思います。

<素人(天)>
しみじみと平和のありがたみを実感している様子が良く伝わってきます。
こんな風に表現する方法もあったのだと眼から鱗の落ちる思いをしました。

<愛子(天)>



・8点句

上を向いて歩きませんか。終戦日。  旻士
<鞠(人)>
終戦か、はたまた敗戦か。上を向くか、俯くか。

<まよ(天)>
季語が暗示する「アメリカ」「民主主義」「悲劇」が阪本九の歌で表現されています。

<雛菊(人)>
終戦日に痛恨の思いを抱く人は多い。それを超えてこの句に平和な未来を託したい。下を向いて考えるのではなく上を向いて前を向いて未来を見据えて。

<庚申堂(地)>
他の終戦日の句と視点が異なり、ユニークな句ですね。

<晴雨(人)>


川岸に人立ってゐる冷夏かな  願船
<顎オッサン(天)>
「対岸」ではお盆になるので・・「川岸」がいいですね。
不思議に「祈り」を感じる句です。

<まよ(地)>
この川はなにを流しているのでしょう。
何も言っていないので余計に気になります。

<明子(天)>
川岸に立っているのは農民でしょうか。寒い夏、たんぼの稲を守るために人間ができることはほとんど無いのです。せいぜい田に水を深くはるぐらいしか出来ません。
呆然と水の流れを見ている後ろ姿の肩が落ちています。

荒びゆく世の一隅の盆用意  英治
<顎オッサン(人)>
所謂一般の方々はこのように生きている。
世の常ですね。

<馬客(天)>
小生もまたこの世の一隅を照らす者の一人
として、感銘を受けた一句です。

<素蘭(人)>
荒びゆく世といいながらこればかりは昔とさほど変わらぬ光景でほっとします

<四万歩(天)>
荒びゆく世であるからこそ心の平安を求める気持ちが一層強くなる。その思いがよく出ています。


・7点句

ところてん喉もと酸っぱい冷夏かな  好鵡
<願船(天)>
からし酢のきいたところてんを啜った作者は喉もとを通る酸っぱさから今年の冷夏を思った。太陽が死んで万物に力が漲らない夏と酢の感覚がどこかでつながっている。

<四万歩(人)>
とこてんの喉越しの感触がいつもより酸っぱく感じられる。これも冷夏のせいかと思わせる。

<晴雨(天)>
季語2つですが俳句の心があります。

畦道をただオロオロの冷夏かな  素人
<東彦(地)>
ちょっと作りすぎかとも思うが、天然自然の絶対的な現象には、人は抗し難いものがある.冷夏に被害が少ないように品種改良を繰り返してきても、最期は天の意向による.祈るのみ。ただ、人間が作ってきた環境への侮りの結果である天候異変のような気がする.

<雛菊(天)>
今年の冷夏は農家の方達には死活問題でしょう。ただオロオロというところに実感こもっています。晴天が続くことを祈りましょう。

<庚申堂(人)>
最近コメ作りをはじめた友人もきっとおろおろしていることでしょう。

<旻士(人)>
 結構好きです。この句。
 

冷夏なり布団の重さなじみをり  東彦
<梵論(天)>


<川蝉(地)>


<旻士(地)>
そうそう、今年はタオルケットを使わなかったな。
ずっと肌布団が放せなかった。

  普段なら布団なんか着ないで寝る夜が今年はなじんでしまう。
  いい句ですね。

年々に里遠くなり盆の月  芳生
<まよ(人)>
友人の句ですが「父母の知らざる土地に門火焚く」というのがありました。
この句の作者もそうなのでしょうか。まだ元気な間は故里の墓参りも出来ますがいつかそれも難しくなります。

<浮遊軒(天)>
実感ですよね。誰しも身につまされる句です。

<馬客(地)>
お盆に帰省して、身内の誰彼と共に仰ぐ月、なれど…
の思いが深く伝わってきました。

<梵論(人)>



・6点句

旧かなの父の文焼く終戦日  やんま
<素人(地)>
終戦記念日に、平和のありがたみに想いをいたして感慨無量といったところ。お父さんを戦争で亡くされたのかもしれません。時が経って、不要なものの処分をしていて、亡父の筆跡に出会う。ふうーっとタイムスリップする。暑い夏の日の一こまです。

<好鵡(天)>
戦後も50年経て父の残した遺品を少しずつ処分するのにふさわしい日といえば、終戦の日…かも。

<愛子(人)>



・5点句

をさなごの提灯揺らし魂迎ふ  明子
<やんま(地)>
次々と来るもの。次々と去るもの。この世は出会いの交差点。

<庚申堂(天)>
しっとりとした、好きな句です。

雑草の更地を覆ひ冷夏なり  鞠
<梵論(地)>


<旻士(天)>
  雑草が更地を覆ったところで冷夏ではない。いつもの夏の光景である。
 しかし、続く不況の仕業と考えた場合、寒々とした冷夏は何も気候だけではな  い。景気が好転し始めたと、マスコミが声を上げて見ても、やはり不況なのだ。
 (今日なんか茨城県の漁協連合が民事再生法だしたものね)
 気候的な冷夏も踏まえて寒々とした平成15年の夏を映し出した句だと思います。

タクシーのラジオに流る終戦日  まよ
<香世(天)>
終戦日が、遠くなったことを的確に表していると思いました。
終戦日の玉音放送と響きあい、かつ、現代の日常であるタクシーのラジオかで聞いている終戦記念番組。

<木綿(地)>
忙しい毎日の中で 乗合わせたタクシーのラジオから今日が終戦日とはじめて知る。手を合わせるわけでもなく、ラジオから流れる音と同じように日常の生活が流れている者にとって終戦ははるか遠くになっているかも知れない。


・4点句

終戦日夕餉は常の芋雑炊  葉子
<東彦(天)>
終戦を忘れぬ為の芋粥を今年も食べている.原体験につながる事で薄れ行く過去の過ちを思い起こす行事となっている。おそらく戦争を知らぬ子供や孫と一緒に食べていて欲しい.老夫婦2人だけでは寂しすぎる.

<好鵡(人)>
戦争の体験を忘れないためにも、その日はいつも芋雑炊を食べるというのでしょうか。

あをきまま揺れもせぬなり冷夏の穂  梵論
<浮遊軒(人)>
早場米地帯でも、稲刈りはずいぶん遅れているらしい。それとも、きちんと稔ってくれるのだろうか。

<水(天)>
冷害。 やるせなさ、身にしみます。

焙烙に雨浸みとおる盆迎え  馬客
<人真似(天)>


<葉子(人)>


語れずに骨となりけり敗戦忌  晴雨
<四万歩(地)>
戦いのなかで死んでいった者にはとめどなく語りたいことどもがあったにちがいない。そのことを敗戦の日にあらためて思いかえす。その気持ちがよくあらわれています。

<明子(地)>
戦争を知っている方がどんどん少なくなってきている。
簡単なことではないと解ってはいるが、最後にもっともっと声を上げてほしい気がする。
これからを生きる子供たちのために。

猛者男逝って冷夏の続きけり  徳子
<香世(地)>
原因と結果であるはずがないのに、納得しました。哀悼の句として、頂きたい。

<水(地)>
猛暑の夏祭が よく似合う男だった。 


・3点句

言葉無く親子それぞれ盆の月  柊
<葉子(天)>


縁側の冷夏の客の長談義  英治
<やんま(人)>
この環境の急変を延々と憂いている。孫の話など交えながら。

<浮遊軒(地)>
冷夏だからこそ客の話も長くなる。暑かったら話などしておられない。

重治の書斎の錠や夏寒し  康
<素蘭(天)>
8月24日が中野重治の忌日なのですね
ひんやりと錠のさされた書斎の机に在りし日のごとく向かい
主は何を考えていたでしょう

胸の傷知られずにすむ冷夏かな  ぽぽな
<鞠(天)>
水着に紛うような露出度の高い夏のファッションは見るだけ……。

湯の町をぬけて大阿蘇芒原  水
<英治(天)>
いかにも大阿蘇。雄大な景が浮かぶ。

後髪引きて日傘の点となる  顎オッサン
<英治(人)>
別れの辛さ。もっとも当世の日傘は白くないので、ちょっと困る。

<柊(地)>



・2点句

遠ざかりまた近づきし終戦忌  庚申堂
<好鵡(地)>
年々遠くなる終戦の日がまた…あの日々の思いがよみがえってくる。

信濃路や冷夏に傾ぐ西瓜売り  好鵡
<人真似(地)>


夏寒し式神こぞり来たるかな  素蘭
<晴雨(地)>
「式神」を連れて来たので地位。

夏寒し踏み踏み向ふ草千里  やんま
<愛子(地)>


敗戦忌歴史にIfのなかりけり  素蘭
<顎オッサン(地)>
もしも・・誰しも心に浮かぶ言葉でしょう。
少しマイルドに「・・・歴史はifのなかにをり」
なども面白いと思いますが。
Ifよりifのほうが解りやすいでしょう。

素潜りの達人もゐる盆の客  康
<願船(地)>
盆供養のために集まった人々のなかに素潜りの達人がいる。もちろんその他にもいろいろの道楽を持っている人も混じっているはずだ。お互いの会話が弾んで今は祖先の霊を迎える盆の客としてひと時を過ごしている。

水飲まぬことと決めをり終戦日  浮遊軒
<素蘭(地)>
思いの深さの違いにたじろぎます

秋草や接写の吐息にゆらぎをり  水
<素人(人)>
共感する句です。さもありなん です。

<川蝉(人)>


ご先祖の絵姿掛けて盆仕度  人真似
<鞠(地)>
しきたりがしっかり守られている家、盆の賑わいが偲ばれる。

昭和さえ遠くなりけり終戦日  水
<康(地)>
まだ14年しか経っていない。もう14年も経った。・・・のか。


・1点句

遠花火置いてきた子の年数へ  葉子
<柊(人)>


盆がきて陋屋声の華やげり  素人
<香世(人)>
帰省してきた子供達や孫で賑やかです。明け放された座敷から、嬌声が近所にも聞えています。あの世からもお迎えしましょう。

びしょ濡れの犬うづくまり夏寒し  明子
<芳生(人)>


アロハシャツ昔の不良老いにけり  香世
<人真似(人)>


鈍行の片隅に座し終戦日  愛子
<明子(人)>
終戦記念日、鈍行の速度が今の自分の気持にいちばんぴったりだと感じている。