第93回桃李10月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:後の月、夜寒、葡萄

雑詠または題詠 秋の句

兼題1: 後の月
兼題2: 夜寒
兼題3: 葡萄

 


披講


・26点句

さりげなく耳は子を待つ夜寒かな  童奈
<青榧(地)>
共感、愛

<葉子(地)>


<鞠(地)>
煩がられるのを百も承知ながら、子の帰宅するまでは眠られない親心に共感。

<芳生(天)>
親の愛情が読み取れます。

<東彦(天)>
まだ帰らない娘の帰宅を母が待っている。布団に入っても気になって眠れないでいる母心がさりげなく歌われている。夜寒の道を帰る娘を気遣う母。

<ぽぽな(天)>
なにをしていても、耳は全神経となっているのでしょう。「母とふたり妹を待つ夜寒かな」を思い出しました。

<旻士(天)>


<庚申堂(地)>
私にも年頃の子がいます。

<水(天)>
心配していながら、事情があって(父親は威厳のため?)、さりげなく平常心をよそうのはむつかしい;耳は待つ がよい。

<明子(天)>
耳は子を待つという表現に惹かれました。
母親の気持がよく伝わって来ます。


・12点句

独り身は嘘だと云へず十三夜  晴雨
<鞠(人)>
少々危ない情景かも……。

<顎オッサン(地)>
この野郎、でしょうか!
いや女性かも。

<伊三(天)>


<ぽぽな(人)>
やってしまいましたね。そんなあなたを見透かすように今宵の月。
3)の「秋桜」もとてもやわらかな佳き句でした。

<梨花(地)>


<愛子(人)>


<木菟(地)>
勘違いをしてくれたのを良いことに再婚したことを隠しとおしてきてしまった。


・10点句

山ぶだう鳥になりたき日もあらむ  梨花
<童奈(地)>
この感覚がすばらしい。

<素蘭(天)>
鳥に食いつつかれている山葡萄にご自身を投影されているようです
鳥になれたら…どうなさいますか?

<馬客(天)>
山葡萄に感情移入している作者の
心境をどう読みましょうか。

<旻士(地)>



・9点句

後の月少し骨張るひざ頭  愛子
<まよ(天)>
余計な事は言っていなくて余情が拡がる句です。
男の方ならこそ詠める句だと思いました。

<やんま(地)>
空の月とひざ頭との対比。作者様が女性でありますように。

<童奈(天)>
十五夜ではない後の月の雰囲気を感じます。

<庚申堂(人)>
膝を抱えて月を見ているのですかね。


・8点句

一灯に足るる暮らしの夜寒かな  愛子
<英治(地)>
草の庵を終の住処に俳句ざんまい。贅沢は要らぬ。森羅万象己が身の内に・・。

<童奈(人)>
夫婦二人の静かな暮らしぶりが伺えます。

<晴雨(地)>
「一灯」にすべてを語らせた俳句の醍醐味だ。

<梵論(天)>



・6点句

母屋へと祖母の手をひく後の月  ぽぽな
<葉子(天)>


<鞠(天)>
隠居所から母屋へ、祖母と孫と、旧き良き日本の家の姿が懐しい。

宵寒や家苞にほふ昇降機  佳音
<愛子(天)>


<梵論(地)>


<素人(人)>
何をお土産にしたんでしょうね。マクドナルドのフライドポテトなどは良く分かります。


・5点句

聖堂の影黒々と後の月  浮遊軒
<芳生(地)>
湯島の聖堂でしょうか。よく分かります。

<晴雨(天)>
なぜか哲学堂を思い浮かべました。

夜寒し蒲柳の医者の背は丸く  潮音
<やんま(天)>
ご自身が身体が弱いのに患者を助けてうん十年。背も丸くなって夜がひとしお寒い。味わいがありますね。

<素人(地)>
医者の不養生か一病息災かは存じませんが、反省もしているんでしょうね。

小津観ては茶漬け喰ひたき夜寒かな  ぽぽな
<まよ(人)>
原節子が綺麗でしたね。
それとあのような住居がついこの間まであったんですね。
夜寒の茶漬け。しみじみと。

<顎オッサン(人)>
解ります。

<雛菊(天)>
小津映画の低いアングル、卓袱台に寄り添う家族 うーん私もお茶漬け食べたくなっちゃいます しんと冷えた秋には

機嫌買ふ土産を提げし夜寒かな  晴雨
<素蘭(地)>
サラリーマンの哀愁でしょうか
お風邪を召されませぬよう、終電で途中下車するはめになりませぬよう
お早くお帰りを…

<ぽぽな(地)>
それでも、最初の数分はご機嫌斜めでしょうね。そして、ほっ。

<雛菊(人)>
この句からは向田邦子の「父の詫び状」を思いおこします。折り詰めの寿司を持ち帰る父。寝た子を起こして食べさせようとする。妻がかわいそうだから寝させてやってと言うやいなや戸を開けて外に寿司をほおるシーン。雛菊は今回夜寒の季語から3つのドラマを楽しみました。


・4点句

秋桜女ばかりの足湯かな  香世
<英治(人)>
女性は足湯がお好き。たいがい、膝小僧まで浴衣をたくし上げている。コスモスとの取り合わせが面白い。

<佳音(天)>
足湯に女ばかり、華奢な骨の足ばかり。
桃色に染まった指をお湯の中ひらひらとと動かしてみたりする、遠慮なく。

妻とわれかくある不思議十三夜  四万歩
<伊三(人)>


<木菟(天)>
そういえば何時の間にか長い年月離れずに付き合ってきてしまったなあ。

葡萄食むフィンガーボールの細き指  素人
<東彦(人)>
細い指がそそとした美人を連想させる。フィンガーボールと細い指が無限に想像力を刺激する。

<四万歩(天)>
フィンガーボールが目に鮮やかに浮かびます。

翻訳のことば探しの夜寒かな  葉子
<青榧(人)>
共感、埋まらない隙間風

<香世(天)>
ハイクも世界的に愛好者があると聞く。作者と読み手の共同作業といわれる俳句文芸は、韻と季語も含めて、翻訳は難しいだろうな。


・3点句

砂漠から帰らぬ鳩の夜寒かな  伊三
<佳音(人)>
砂漠から帰らぬ鳩はどこから出かけたのか?きっと砂漠。
砂漠の中の小さな命の集落から大きな砂漠を見ている、今どこを飛んでいるのだろう、飛んでいるのだろうかと。

<馬客(地)>
国連さえ信じない人々が居る国の
現実えの暗喩か。

立待や来るくる来ないこない来る  庚申堂
<やんま(人)>
定型575の韻はすなわち音楽である。ついリズムをつけて読んでしまいました。
待ち合わせならすっぽかされませんように。

<素蘭(人)>
オノマトペ風の言い回しの最後を「来る」と締めることで
心中の動揺が伝わってきます

<梵論(人)>


バザールの原種に近き葡萄かな  明子
<潮音(天)>
素朴な写生句だがカリフォルニア(勝手な連想ですいません)の太陽を感じさせる佳作。実際、欧米のファーマーズマーケットに農家が持ち寄った野菜や果物の広大な原野で育った生命力には圧倒される。「原種の葡萄」ではなく「原種に近き」としたのもにくい。

玉入れのように葡萄喰う若い人  雛菊
<庚申堂(天)>
「玉入れ」の表現が出色です。

しゃぶしゃぶの肉の桃色十三夜  願船
<顎オッサン(天)>
イメージが膨らむ句です。
秋の日の男と女の世界はこうかもしれない。

病室の窓蒼く透き後の月  馬客
<梨花(天)>


葡萄熟る古き砦をめぐる道  英治
<浮遊軒(天)>
砦のあった場所は、山か丘か。今では、葡萄がよく稔るところとなっている。景がはっきりと目に浮かぶような。

ゆきずりに独言つ人後の月  鞠
<葉子(人)>


<水(地)>
特定の対象(パソコン操作など)に向かって、ひとりごつのは愛嬌があるが、不特定の森羅万象にひとりごつのは、異様に気味悪い。 不満のこともあり、恍惚もあろう。

葡萄食う二人の口の熟れてゆく  やんま
<英治(天)>
ユニークな着眼。雰囲気がある。口の中がだんだん渋くなってくるので・・・。

葡萄無き季節に母の逝きしかな  童奈
<青榧(天)>
共感、愛

忘れたきことあり葡萄せっせ食む  馬客
<素人(天)>
この気持ち良く分かる気がします。
一種の自棄食いなんでしょうがね。


・2点句

馬鹿なやつ父の呟く夜寒かな  素人
<雛菊(地)>
馬鹿なやつのところにドラマを感じました。こちらは小津映画ではなく倉本聡ドラマかな。田中邦衛がつぶやきそうな。

病室を出て頬に入る夜寒かな  はる
<潮音(人)>
病の句はつい採ってしまう。「頬に入る」という表現に評価はわかれようが、躰をやさしく蝕んでくる夜気を見事に描写したと軍配をあげたい。布団を出ることのできぬ病人の夜寒と病人が病室を出てからの夜寒。病室の「内」と「外」を表現し得た力量は流石。

<旻士(人)>


砂丘ゆく駱駝の列に後の月  素人
<四万歩(地)>
きっちりとした風景が絵になります。

鯛の骨はすかひに抜き十三夜  願船
<佳音(地)>
魚をおろすと、あちこちの骨を骨抜き(毛抜きの大きいの)で抜かなくてはならない。
はすかいに抜くのだからきっとこれは腹のあたり、頑丈な鯛の骨のなかでもすらりと長い、それが気持ちよく抜けた。窓外には十三夜月。

ぼやありて事情聴取の夜寒かな  雛菊
<香世(地)>
お気の毒様。お掃除をしないままに出したストーブの埃に火が飛んで......。

見過ごしし捨て犬の声聴く夜寒  庚申堂
<東彦(地)>
捨て犬に帰りに会ってしまったのであろう。その犬の鳴き声が良心の呵責と共にいつまでも耳につく。あの子犬も寒いだろうな。

立ち止まり立ち止まりして野紺菊  柊
<浮遊軒(地)>
繰り返しがなんともすばらしい効果をあげている。野紺菊なんて大した花ではないと思っていましたが、一度じっくり見てみたいと思わせます。それとも、これは、野紺菊を抱えている人のことか。

黒葡萄手抜かりのなき喉仏  香世
<愛子(地)>


ゆさゆさと葡萄実りて空蒼し  四万歩
<まよ(地)>
地中海の明るさでしょうか。句そのものまで明るい佳句。

投函の音がこつんと夜寒かな  やんま
<明子(地)>
それまでは手紙に気持が集中していたので気がつかなかった寒さ、投函して手を離れたら急に身にしみてきました。
手紙に託した想いの深さを感じます。

戯ればひゃうと鳴る笛名残月  佳音
<潮音(地)>
名残月には公達の吹く名笛よりも調子っぱずれの笛がよく似合う。
我知らず音をたてた笛に微笑んでいる作者の姿が目に浮かぶよう。
この句自体の音階は破調でなく雅な正調なのも面白い。

後の月暴走族がただひとり  潮音
<伊三(地)>



・1点句

薄雲を払ふ風待つ後の月  柊
<水(人)>
スローライフのしずけさ、ここちよさ。

弄りて墓穴に入らむ葡萄かな  愛子
<木菟(人)>
何だか怪しい雰囲気だけど読みすぎだろうか。

浜に沿ふ無人の駅の夜寒かな  英治
<四万歩(人)>
夜寒が実感できます。

ぶだう食ぶかくも屈託のなき子らと  顎オッサン
<馬客(人)>
「かくも屈託のなき」の表現に対する
評価は分かれるかも知れませんが。

最終の夜寒の駅の客一人  東彦
<芳生(人)>


コンビニの軒借り喰らう夜寒かな  馬客
<晴雨(人)>
身に染みます。

荒城に後の月見て旅終る  芳生
<香世(人)>
絵はがきのような風景という褒め言葉(?)も、ありますが、あの歌のような景色もありそうです。「旅終わる」が、決まっています。

読み止しの本伏せしまま後の月  青榧
<浮遊軒(人)>
さぞすばらしい月見であったことでしょう。本は後回しでいいですよ。

ギシと鳴る夜寒のベッド一人旅  芳生
<明子(人)>
ひとり旅の心細さがよけい寒さを感じさせるのでしょう。
結局、夜寒の句ばかりを選んでしまいました。

うるほひて葡萄は重したなごころ  素蘭
<梨花(人)>