第95回桃李十二月定例句会披講
選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:枯蓮、灯、イラク派兵(不言題)
雑詠または題詠 冬の句
兼題1: 「枯蓮」(季題)
季題2: 「灯」(キーワード題)
兼題3: イラク派兵(不言題)
披講
・12点句
枯蓮を雨脚白く通りけり 願船
- <芳生(天)>
- よく見えてきます。
- <英治(地)>
- 枯れ蓮を叩いてさっと通り過ぎる時雨。臨場感がある。
- <鞠(人)>
- 枯蓮の墨絵のような風景には、雨脚の白さが際立つ。
- <香世(人)>
- 枯蓮は、なんとも哀れさを誘います。しかし、その哀れさが、雨脚が白く見せたのでしょう。きれいな句です。
- <悠久子(天)>
- 日本画か、或いはモノクロの映像を見る思いがする。
- <丹仙(地)>
- 「白雨」という言葉がありますが、これは夏の明るい空から降るにわか雨。この句は、むしろ冬の寒さを感じさせますね。、「雨脚」の「白さ」が、枯れた蓮池のわびしさ
と響き合って印象的でした。
・11点句
塾の子のどっと出てくる冬灯 康
- <浮遊軒(地)>
- 冬の夜も塾通いとは、今の子は大変ですな。塾なんてない時代のやんちゃ坊主は同情します。
- <木菟(地)>
- こんな時代もあったと、いつか思い出す日がくるかも。
- <鞠(天)>
- 年が明ければ受験シーズン到来、冬灯の下最後の仕上げに励む塾の子ら。
- <馬客(天)>
- その一棟だけ遅くまで明明と灯が点っている、学習熟。
子供たちタイヘンダな。
「どっと・・・」でほっとする。
- <晴雨(人)>
- 選者の評が分かれる句です。「天」だと思いましたが、もう一人の私が違うと云っていました。
・10点句
寒灯の今日の薬を整える 東彦
- <童奈(地)>
- <ぽぽな(人)>
- ちゃんと働きますように。
- <香世(地)>
- 患者さんに現在服用中の薬を問うと、高齢者になると10種類以上というのも珍しくありません。この作者は、真摯に病気に立ち向かい、かつ経過が良いことを感じさせます。
- <馬客(地)>
- 大切な作業である。明日飲む薬を
朝、昼、晩の分に区分けする。
「寒灯」が動かない。
- <明子(天)>
- 年とともに薬の数が増えてゆくのは、仕方がないことなのかもしれません。
心のなかにある寒さが感じられます。
街の灯の滲みて低し雪もよひ 明子
- <英治(天)>
- 雪催の空の低さがよく感じられる。
- <頼髪(人)>
- 灰色の夜、高台から見下ろす街の灯りは黄色い霜柱のよう。
「滲みて低し」がいいと思いました。
- <馬客(人)>
- 「滲みて低し」が巧い表現。
- <梨花(天)>
- <庚申堂(地)>
- 冬の日の人通りの少なくなった夜の町。8番も好きでした。
十二月十四日壼割れにけり 香世
- <梵論(地)>
- <ぎふう(天)>
- これぞ俳句、そんな気がしました。見事な一句、としか言いようがない。
- <佳音(天)>
- 冷え冷えと熱い感じです。
- <虹子(地)>
・9点句
嘘を書くこと楽しくて日記買ふ 浮遊軒
- <雛菊(地)>
- 作者は後に高名な小説家になられるでありましょう。
- <冬扇(地)>
- 嘘を書く。みんなそうかも知れぬ。しかしそれが願望だったりする。
- <梨花(人)>
- <水(人)>
- 真実を書くのはつらい。公然と、みえみえの嘘を書ける人がすきです。
- <径(天)>
- ああ、日記って嘘を書くものなんですね。
これは目からうろこです。
楽しくて迷わず天です。
・8点句
鮟鱇や天井の灯に見下ろさる 素酔
- <顎オッサン(天)>
- 吊し切りの景を詠んだものですが、
今の殺伐たる人の世を暗示します。
骨になる前に「天井の灯」に早く気付くように。
佳句が多かったですが、ダントツに良かったです。
- <葉子(天)>
- <悠久子(地)>
- 鮟鱇鍋の中の鮟鱇なのだろうけれど、姿のままの鮟鱇が見えるような。
・6点句
枯蓮へなにか明るきものの飛ぶ 康
- <芳生(地)>
- 「なにか明るきもの」が効いていると思います。
- <潮音(天)>
- 不思議な魅力のある作品である。はずかしながら、わたしの解釈力不足で「なにか明るきものの飛ぶ」の解釈がついにつかなかったが、何が飛んだのか明らかにしないところがにくいまでの実力ということだけは、わかる。そして、情景についてあれこれと想像をめぐらせているわたしはすでにはるかに高い句境にいる作者の術中に嵌っているのである。
- <ぎふう(人)>
- せちがらい世の中ですが、そんな中でもちらと明るい未来を見出したようなホッとさせる一句でした。
その道が真かと問ふ去年今年 眞知
- <顎オッサン(地)>
- 除夜の鐘をどのような思いで聞くのでしょうか。
味わいがある句です。
- <葉子(地)>
- <旻士(人)>
- イラク派兵と切り離したとこで共鳴しちゃいました。
ついに不惑になり、絶対に半生は過ぎました。
「残り」をどこかで感じてきて、自分の道に自問する日々が増えました。
- <四万歩(人)>
- やはり問わずにはいられません
燈ともせばほとけの笑窪冬安居 潮音
- <東彦(地)>
- 座禅を組んでいるうちに夕暮れてきて、仏の顔もぼんやりとしてきたのが、灯をともすと、仏の顔に陰影が出来微笑んだように見える。心細さが消えほっとする一瞬を描いて妙である。
- <愛子(地)>
- <径(地)>
- 「ほとけの笑窪」がとても好きです。
古寺めぐりで出会った仏像のいくつかが思い浮かびます。
枯蓮の池にゆるりと鯉二匹 眞知
- <やんま(天)>
- 万物枯るれども、ゆるりと生きたし。
- <虹子(天)>
・5点句
雪しまき行者の燈のゆくけもの道 潮音
- <鞠(地)>
- 雪中の荒行の成就を祈りたい。
- <丹仙(天)>
- 雪風巻の直中を唯一人、行者が行く。つかの間の明るさの後、再び闇に閉ざされるであろう獣道という意匠に惹かれました。
ためらひて兵の背を押す十二月 英治
- <冬扇(天)>
- そう、派遣賛成の立場にある人たちでも、心の底にはためらいあろう。云い得て妙なる句ですね。
- <素酔(地)>
- 押してしまっていいものかと思いつつ、何もせぬままの自分に、押してしまう手の感覚を伴って自省させられるような句でした。
記憶の灯手繰り寄せあふおでん酒 虹子
- <雛菊(天)>
- 灯の季語で記憶の灯ときましたか。いいですね、男同士昔の思い出を語り合う。手繰り寄せ合うことで鮮明になりますね。
- <水(地)>
- ひとり酒ではないだろう。久しぶりに会えた、かっての同僚と酌み交わす屋台にしておきたい。すべての記憶が浄化されて語られる。
サムライはラストで宜し冬至風呂 丹仙
- <雛菊(人)>
- ラストサムライ観ました。ハリウッドが描く日本の武士道のかっこよさでした。ですが戦のシーンには閉口。戦はどんな大義名分があろうともかっこよくみえても人を殺し合うのでから。ラストで宜しのところに作者の非戦をみました。
- <遊山(人)>
- 「ラストで宜し」「風呂」の闊達な俳諧味。
- <愛(天)>
- ラスト・サムライという米国映画がありましたが、武士道が、米国追随の軍国主義に利用されるのでは困りものです。ラストでよろし、にきっぱりとした意志を感じました。
灯が恋し鴨と離れたばかりなる やんま
- <康(人)>
- 鴨との交情のあと、ふと現実へ傾く心のありようが非常にうまくとらえられていると思いました。
- <頼髪(天)>
- なぜか気になる句です。近所の川にも鴨がいます。いつもお気楽そうには
見えるのですが、その鴨たちも早い夕暮れに紛れていく。
- <丹仙(人)>
- これは野鳥の好きな方の句と直観しました。どうか焼鳥屋にだけはお入りになりませんように。
・4点句
過ちをまたくりかへし敏雄の忌 ぎふう
- <顎オッサン(人)>
- 「あやまちはくりかえします秋の暮」
「秋の字に永久に棲む火やきのこ雲」
などの敏雄の句を踏まえているのでしょう。
- <香世(天)>
- 「戦争と畳の上の団扇かな」言うことありません。毎日、平凡に暮らすひとりひとり。指導者は、意識的に目をそらしているに違いない。
木守柿母の願ひは無事帰還 柊
- <浮遊軒(天)>
- 木守柿という季語の選び方がうまい。
- <童奈(人)>
寒き夜は千人針で鎧はむか 木菟
- <水(天)>
- 昭和10年代の第二次大戦の銃後を錯覚する。この千人針の句は、 戦争へ傾斜しつつある、昨今の流れに対する痛烈な警告であり、アイロニーである。
- <愛子(人)>
窓拭きの手袋ぬがず冬の粥 水
- <浮遊軒(人)>
- 師走の忙しさがよく出ている。
- <冬扇(人)>
- 「窓拭きの手袋ぬがず」、いいですね。様子が目に見える。
- <遊山(地)>
- 年の瀬の実感ひしひしと。いい句です。
拳銃を抱く闇あり冬の星 香世
- <頼髪(地)>
- 手の中にあるただこの冷たい鉄の工作物が、自分の命と等価になる。
そして明日は人を殺してしまうことになるかもしれない夜。
- <梨花(地)>
朝寒や麒麟重たくまばたきし 葉子
- <潮音(人)>
- 十字路で冬のキリンが燃えている(片桐怜)。「その麒麟はいつも、ながい首をまっすぐにもたげ、どこかとおいところをじっとながめていました。」(加納朋子『ガラスの麒麟』)麒麟という動物は、何故かくも詩人の創作意欲を刺戟するのであろう。粉雪舞う空の彼方に疾駆する麒麟の姿をみた詩人はさぞ多かろう。いままた、本作という冬の麒麟の秀逸の一句に巡り逢えたことを大いなる慶びとしたい。
なお、折角の趣向であるので、せめて不言題詠より一句は選ぼうとしたが、わたしの力不足のために、十一月「七五三」・十二月「イラク派兵」と、遂に心惹かれる句を見つけ出せなかった。
- <佳音(地)>
- 麒麟は動物園にいるキリンと。寒い国に暮らしてあのばさばさと長い睫に露が降り霜が降り。
- <庚申堂(人)>
- アップで見ると確かに重そうですね。
・3点句
摩天楼の丈に隠るや冬銀河 遊山
- <晴雨(天)>
- 摩天楼のスケールの大きい十字架を出現させました。
アーリントンに絶えぬ灯のあり雪しまく 径
- <東彦(天)>
- アーリントンのローソクの火はイラクで亡くなった人とは限らぬが、戦いに倒れたことは同じであろう。戦争という不条理を淡々と描き情景が明確である。
玄関灯きれしままにて師走かな 雛菊
- <梵論(天)>
雑嚢に少年マガジン年用意 欅
- <英治(人)>
- 実家ではいつもの年用意が。「人道支援?」に出るあどけない兵の背嚢に・・。
- <やんま(地)>
- これがイラク派兵の背景世相。戦争する本気もなく戦地へ赴く。
一線を越えし日の後冬怒濤 素蘭
- <伊三(天)>
枯蓮の翳を結びて譜となりぬ 梵論
- <童奈(天)>
枯蓮の茎逆しまに踏張れり 丹仙
- <愛子(天)>
街路樹に灯の子ちりばむ聖夜かな 晴雨
- <ぽぽな(天)>
- あれは灯の子だったのですね。素敵です。教科書にのせて子供に読んでもらいたい一句。
枯蓮の半分ほどが掘られけり 素蘭
- <庚申堂(天)>
- 情景が目に浮かびます。
枯蓮や戦のあとは風ばかり 晴雨
- <木菟(天)>
- 不言題の句ともとれるが、このとりあわせは絶妙。
朝刊に軍靴の響き凍つるかな 芳生
- <康(天)>
- 朝刊の紙面から聞き取れる軍靴の響き。いくさはいつも少数の人の判断でおきる。その人たちの心の中をのぞくことができたときのような凍てつく寒さ。よくある句想ともいえますが切実さがつたわってきます。
狐火の見ゆる細道行き止まり 浮遊軒
- <素蘭(天)>
- 「通りゃんせ」の歌がバックコーラスで聞こえてきますね
天神様への細道のつもりが狐火に誑かされていたらしく行き止まりで立ち往生
引き返そうにも「帰りはこわい」
蕪村の句がさらに追い打ちをかけます
狐火や髑髏に雨のたまる夜に (与謝蕪村)
枯れ蓮や遠き戦火の音を聞く 葉子
- <四万歩(天)>
- 聞こえぬはずの戦火の音が聞こえてきます。
東に獅子吼ゆる国降誕祭 径
- <遊山(天)>
- 「獅子吼ゆる」:対象の偶然性に即した俳諧の妙。「東に」の旨さ。
冬銀河それでも地球にある未来 潮音
- <旻士(天)>
- そうです、それでも未来はくるのですよね。
もうしばらく、その未来に人類があることを願って
・2点句
遙かより比叡の鐘や枯はちす 芳生
- <葉子(人)>
- <愛(人)>
- 枯蓮というと、なにか歴史を感じさせるものが良いですね
枯れきつてやがて落着く蓮かな 虹子
- <ぎふう(地)>
- 思わずわが身を振り返りました。私もこうありたい。
枯蓮や王子が眠り醒ますまで 雛菊
- <ぽぽな(地)>
- 教科書に載せたい一句、其の二。絵本を書きたくなります。
一島へ続く橋の灯年の暮れ ぽぽな
- <四万歩(地)>
- いかにも灯りの感じがします
日の丸の進めや進め火の用心 顎オッサン
- <伊三(地)>
風紋はさびしきかたち海に雪 顎オッサン
- <伊三(人)>
- <やんま(人)>
- 風紋の海、そこへ雪では壮絶すぎます。
枯蓮の動かざるもの動くもの やんま
- <康(地)>
- 陽を浴びた枯蓮の静謐な状景がうまく詠まれていると思います。
子の部屋のがらんと寒き灯なりけり ぎふう
- <愛(地)>
- 子供がもう独立して出て行ったか、あるいは合宿か何かで留守にしているのか、とにかく、冬の灯の空白感が伝わります。
やがて皆灯のもとめざし年暮るヽ 眞知
- <潮音(地)>
- 京都八坂神社朮火を例に出すまでもなく、新年初詣の社寺ではあちこちで火が焚かれる。火のもつ原始的エネルギーとヒトのもつ遺伝子やら脳の奥底にある情念やらが相呼応するのであろうか。この句を読んでその事実に気づかされ、まさに瞳を抜かれる思いがした。作者の「灯のもとめざし」は、年を跨いで初詣に向かうひとびとの描写にとどまらず、もっと大きく温かいものを目指して生きている人間への鋭くも温かい視線があるのは勿論である。
若人へ一銭五厘の書く賀状 欅
- <素蘭(地)>
- 故花森安治の「一銭五厘の旗」を思い出しました
蓮枯れてわが影うすく曇りゐし ぎふう
- <明子(地)>
- 墨絵のようなモノクロの景色。
蓮枯れの弁天堂や暮れ残る 四万歩
- <晴雨(地)>
- 上野の不忍池でしょう。下五は作者の心情か。
蓮の骨せんなきことのぽつりぽつり 佳音
- <旻士(地)>
- なんか、しみじみと、学生時代に過ごした嵯峨野の池池を思い出しました。
・1点句
年つまる絶やさぬものに心の灯 虹子
- <芳生(人)>
- 「心の灯」がいいですね。
タモウナカレ晶子の嘆き冬の陣 水
- <悠久子(人)>
- 仮名書きの「タモウナカレ」が気に掛かり、不思議にそれが効果的。
枯蓮に御仏おわす日暮れかな 庚申堂
- <東彦(人)>
- 万物に仏はいるが、夕暮れ時に枯蓮に仏性が宿る。自然に頭が下がる。
置き去りにされし誓ひや虎落笛 明子
- <佳音(人)>
- そうですね。
チグリスの不毛の大地に霜の降る 東彦
- <木菟(人)>
- 行ったことないけど、イラクはこんなところかも。
ぬかずきて齢収むる蓮の骨 愛子
- <梵論(人)>
冬の夜みな灯火の中にをり 梨花
- <素酔(人)>
- この句を読んで「そうか、そうだな」と思わされました。何が「そうか」といわれると消えてしまいそうな感想ですが、普段とは違う見え方を教えてくれた句でした。
厨の灯替へクリスマスケーキ焼く 鞠
- <径(人)>
- ほのぼのとした雰囲気がいいですね。
ゆくりなく見定む我は枯れはちす 木菟
- <素蘭(人)>
- 地上ではすっかり茶枯れた蓮も地下に蓮根を太らせているもの
水が温めば「蓮植う」季節、夏にはまた美しい「蓮の花」に会えるだろう
そんな祈りもこめられているようです
無理といふ重き荷を負ふ年の暮 童奈
- <虹子(人)>