第96回桃李一月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:繭玉、鏡、入学試験(不言題)

兼題1(季題):    「繭玉」   (願船さんの出題)
兼題2(キーワード題):「鏡」   (康さんの出題) 
兼題3(不言題):   「入学試験」    (東彦さんの出題)


披講


・15点句

餅花のつと揺れ座敷わらしかな  明子
<雛菊(地)>
こっそりお餅をつまみ食いするお子さんを座敷わらしとしたユーモアセンスにひかれました。つと揺れに座敷わらしを待つ作者の温かさをかんじます。 

<英治(人)>
東野の民話の世界。曲がり家の炉端にぼんやり坐っていると、そんなことも思うだろう。

<葉子(人)>


<径(天)>
旧家なのでしょうね。
餅花の揺れを座敷わらしのいたずらと見る。
心ゆたかなお正月模様ですね。

<晴雨(地)>
今回は天位が二句だ。
餅花と「わらし」の取り合わせ。万歳。

<眞知(天)>


<丹仙(天)>
東北の旧家の正月、もともと繭玉は神様に捧げるものですから、古い信仰の生きているところが似合います。座敷わらしというのが面白いですね。

寒雷やぐいぐいと進む内視鏡  潮音
<ぎふう(地)>
俳句の素材としてはあまり見かけない「内視鏡」を面白く句にしているので印象に残りました。ただ、中七の「と」が邪魔のように思えるのですが、いかがでしょうか。

<馬客(天)>
「鏡」のキーワードに「内視鏡」、意表をつかれました。
発想が柔軟です。俳諧味も充分。「ぐいぐいと」の「と」
は必要な「と」ですね。

<素人(地)>
先日の検査のときは安定剤(麻酔?)を併用されましたので眠っている間に終わってしまいました。また、最初のときは吐き気がひどく、この句のような余裕は全くありませんでした。この客観視に一票を投じます。

これは検査を行っている医師の側の句でしょうか。ならば選外だなあ。

<水(人)>
雷と病院が嫌いな私です。 ホラー俳句?  印象に残ります。

<悠久子(地)>
経験はありませんが、想像しただけで「寒雷」どころではないような。
こういう「鏡」もあることに改めて、なるほど、と。

<径(人)>
「ぐいぐい進む」の方が開き直った覚悟が読み取れるように思いますが・・
あちこち故障の出てくる世代にさしかかり、
他人事とは思えません。異常なしを祈ります。

<虹子(天)>
何事もなければいいですね。

<明子(人)>
寒雷と内視鏡の取り合わせはとても良いと思いました。
ぐいぐいと、のとがなければ天にいただいたと思います。


・12点句

落第の子が自転車をみがきあぐ  康
<英治(地)>
よい感じを与える句だ。失敗した者の気持が出ている。「みがきあぐ」は「磨き上ぐ」としたい。

<四万歩(天)>
再起をはかる一念が「自転車を無心にみがきあげる姿に」見事に出ています。

<素人(天)>
この気持ち良く分かるのです。30数年前の自分に重なって共感します。

<径(地)>
昨年もたしか落第の句に惹かれた覚えがあります。
成功よりも挫折が人間を作ってくれるものですよね。
ぴかぴかに磨き上げたとき、きっと気持も吹っ切れて、
次の試練に立ち向かうことでしょう。

<潮音(人)>
「落第」ということばはそれだけでも詩になる。類想句は多いが、青春の門出に既存社会からの手荒い洗礼をうけ、自分の世界に籠って捲土重来を期する少年のひとときを活写して余りある。技師であったわたしの祖父は、たまに仕事を「病」欠しては自宅で自転車の修理をするのが好きであった。

<丹仙(人)>
これは、作者の優しい心、しみじみとした情を感じました。

筆始吾子堂々と鏡文字  素蘭
<雛菊(人)>
堂々と鏡文字ですか。いいですね。子どもは成長がはやいからこの時期はわずかです。わが家は娘の鏡文字署名入りのクレヨン画がアルバムにはさまっていますよ。20年近く前のね。
 

<佳音(地)>
「鏡」から筆始、楽しいですね。

<ぽぽな(地)>
とても微笑ましい風景です。
「鏡」の句として、ほかに[27]:「寒雷やぐいぐいと進む内視鏡」の取り合わせの面白さ、[8]:「いま一度合はせ鏡や春近し」の品の良い艶も目を引きました。

<水(地)>
恥ずかしながら、「鏡文字」の意味を知らなかったので、辞書の世話になりました。左右が逆に書かれた文字。 「堂々と」がよい。

<梵論(天)>


<明子(地)>
ほんのひととき子供が書く鏡文字。周りから直されいつのまにか忘れてしまいます。
でも柔らかい頭の奥にはもう一つ違う世界もあったのでは・・・と思ってみたりもします。
子供の自信に満ちた笑顔が見える句です。


・11点句

手鏡を逸れし冬蝶見あたらず  康
<雛菊(天)>
普通は手鏡の中の世界をうたうものが多い中アングルをはずした見事さ。外への広がりを見せてくれました。素直な写生句と初めは思いましたがこれはもっと奥深いのでは?と感じました。  

<芳生(天)>
一瞬手鏡を過った蝶の行方。その様子が読み取れます。

<浮遊軒(天)>
一瞬の幻を見たような感じがよく出ています。

<丹仙(地)>
不在がかえってそのものの存在感を高めるということは一般にありますが、「鏡」という題で、「見えない」蝶を持ってきたのは「お手柄」です。


・10点句

皺深き母の掌寒卵  径
<佳音(人)>
宮尾登美子のエッセーで戦前戦後の農村の卵の話があったのを思い出しました。
ひとつおあがり、と母のぬくもり。

<葉子(天)>


<水(天)>
回想の俳句でしょうか。 昭和30年頃までは、卵はめったにありつけず、滋養食でしたね。 働きずくめだったお母さんが差し出された寒卵;ずばり深い愛。

<梨花(天)>



・9点句

鏡台の妻の残り香久女の忌  愛子
<芳生(地)>
「妻の残り香」が効果的です。

<童奈(地)>
類句はありそうですが。

<虹子(地)>
鏡 残り香 久女 妙に合っていると思いました。

<康(天)>
仄かな艶と久女(忌)の取り合わせの妙。感服いたしました。


・8点句

いま一度合はせ鏡や春近し  明子
<遊山(地)>
春近しの気持ちが伝わってきます。

<旻士(人)>


<梨花(地)>


<童奈(天)>
何となく浮き浮きとした心が「いま一度」によく出ていると思いました。


・7点句

尋ねられ繭玉で指す駒ヶ岳  ぽぽな
<遊山(人)>
「繭玉で指す」というのが新鮮です。

<浮遊軒(人)>
さりげない動作をうまく捉えている。

<庚申堂(天)>


<願船(地)>



・6点句

喪の明けて主変はりたる初鏡  冬扇
<鞠(地)>
  鏡は持主の思いが遺るもの。喪が明けても、初鏡を覗いてみれば、亡きひとが 見えるかもしれない。

<梵論(人)>


<愛子(地)>


<眞知(人)>


繭玉や振子時計の鳴りやみぬ  願船
<東彦(天)>
繭玉と振り子時計が日本の風景を作っている。それほど繭玉は遠い存在になってしまったような気がする。振り子時計のある風景にこそ繭玉が似合う。

<潮音(天)>
森閑とした薄暗い座敷のなかで唯一動いている振子時計をみて小学生のころ泣き出したことがある。繭玉を配置するのにこれ以上はない背景。「静と動、明と暗の対比」などという浅薄な解釈を寄せ付けない見事な一句。

眼鏡置きいざ初夢へ旅立たむ  童奈
<鞠(天)>
  寝入る様はかくありたいもの。眼鏡を掛けたまま、枕元の灯も消さず熟睡して しまい、初夢を見逃すことが多い。

<素蘭(天)>
「いざ初夢へ」という表現が愉快ですね
眼鏡が老眼鏡の方でしたらなお楽しい句


・5点句

二分前くしゃみこらえる試験官  水
<葉子(地)>


<素酔(天)>
試験場の緊張感と、くしゃみをこらえる試験管の困惑。おかしみとともに、なんとはない暖かさを感じました。

初鏡老女などとは言わせない  馬客
<冬扇(天)>
新年を迎えての心意気。いいですね。私も、爺ィなどとは言わせない。

<ぎふう(人)>
口語体だからこその面白さが出ていると思いました。「言わせない」という断定がいい。老女だから決まるのですね。これがジジイでは俳句になりません。

<虹子(人)>
きっぱり感に賛成。 キリッとした女性を想像しまた。

繭玉や児を抱く腕やはらかし  愛子
<童奈(人)>
腕は「やはらか」くないほうがいいのではないでしょうか。

<明子(天)>
友人に戦後すぐに未熟児で生まれた方がおり、保育器など無いなか真綿にくるまれて
なんとか無事に育つたと話してくださいました。この句を読んですぐこの話を思い出
しました。繭玉に込められた願いが伝わってきます。

<願船(人)>


繭玉の華やかなれば鄙めきし  童奈
<遊山(天)>
華やかと鄙めくの組み合わせが見事。

<馬客(人)>
手練れが、「繭玉」ですらっと作ればこんなものでしょうか、
と言ったような句。

<康(人)>


繭玉や病む子にみえるように挿す  馬客
<ぽぽな(人)>
情に訴えます。
「繭玉」の句としては、他に[13]:「峡晴れて繭玉囃す鳶の笛」の大きな風景もおもしろいと思いました。

<四万歩(地)>
繭玉に祈願する母の優しい思いやりがあらわれています。

<素酔(地)>
親心というものでしょか。

曙光いま霜の花にも及びけり  径
<英治(天)>
明け初めた光が地上のものにも及んでくる。「霜の花」が良い。景気の曙光も早く庶民に届いて欲しい。

<浮遊軒(地)>
霜の花は都会ではこの頃見かけませんが、子供のころの思い出か。


・4点句

悴みし手にキットカットの赤い色  明子
<鞠(人)>
  若い人々も、受験期には、色々と験を担ぐらしい。キットカットは「きっと
 勝つ」の縁起とか。

<愛子(人)>


<欅(地)>
表現の仕方や言葉遣いに「どうかな」と思う点がありますが(「悴みし」と過去形にしたところなど)、冬に良く似合うキットカットの赤い箱、それをしっかりにぎりしめる少女の決意を同級生のこころでよんだ良い句だと思います。作者様は十代の方でしょうか?

十三を数へし少女繭の玉  丹仙
<庚申堂(人)>


<願船(天)>


峡晴れて繭玉囃す鳶の笛  芳生
<梵論(地)>


<潮音(地)>
堂々と、朗々と、うたいあげた名句。一読、正月の山村の光景が読者の眼前にひろがる言葉の力。「繭玉」という決して簡単ではない兼題も実力者の作者にかかってはかくも鮮やかに料理されてしまうというお手本のような句。

ダンサーの背筋の伸びる初鏡  まよ
<香世(地)>
初鏡は、新春の楽屋。いいですねえ。

<四万歩(人)>
新たな年を迎えてのプロとしての意気込みがよく出ています。「背筋ののびる」がいいですね。

<素酔(人)>
背筋の伸びるところというのはいいですね。


・3点句

冬薔薇鏡の底の澱あをく  潮音
<欅(天)>
鏡の中の青い沈澱は空か海か。一輪の冬薔薇は虚の世界・実の世界のどちら側に咲いているのか。独特の沈んだ雰囲気をもつ奥行きのある句だと思います。

雨上がる物芽に宿る鏡かな  潮音
<愛子(天)>


一念をこめし答案春近し  四万歩
<ぽぽな(天)>
入学試験をうまくフレームに納め見事です。

繭玉や団子ほかりと帝釈天  ぎふう
<頼髪(天)>
自分の繭玉の印象はこんな感じ

繭玉や不意に振袖現るる  悠久子
<佳音(天)>
あわいろの夢のようで好きです。

寒昴子と仰ぎたる前夜かな  虹子
<素人(人)>
この句だけでは入学試験との結びつきは希薄かも知れませんが、私も娘の中学受験の前日、落ち着かず家族みんなで散歩に出てオリオンを眺めて励ましていました。

<素蘭(地)>
受験前日の父と子が並んで夜空を見上げている情景と読みました
「仰ぎたる」と過去形にするより「仰ぎみる」「仰ぎをる」のほうが
父親の言葉にだせぬ愛情の臨場感が伝わってくるように思います

繭玉や店に反物広げられ  柊
<香世(天)>
繭玉が現代の一番ふさわしい場にあって、あでやかな着物の柄が目に浮かびます。

この問に正解ありや冬ごもり  丹仙
<ぎふう(天)>
不言題「入学試験」の作品ですが、そこだけにとどまらず様々な「問」を考えさせてくれました。いくら探しても正解なんて見つからない、初めからなかったなんてことが世の中にはあるのです。そんなことを考えていると季語の「冬ごもり」もますます良くなってきた。

鏡より淑気目元にうつりけり  素酔
<晴雨(天)>
鏡より目元に。
新年のピーンと張った空気を表してバツグン。
感性ある作句者はどなた?

春暁の入試の夢に飛び起きぬ  東彦
<香世(人)>
私も、夢では、いつも間に合わないで泣いている。同じ方もあるんだ。

<旻士(地)>


餅花や見られて嬉しつまみ食ひ  佳音
<頼髪(人)>


<康(地)>
新年の華やぎを感じます。「うふっ」という独り言も聞こえてきそうな・・・。

茅葺きの繭玉揺るる炉のほとり  香世
<悠久子(天)>
繭玉の溶け込む場所だと思います。
「炉のほとり」での繭玉の揺れ方は優しいでしょう。

日向ぼこ鏡の映さぬかほいくつ  欅
<旻士(天)>


わが胸に降る雪君に降り積もれ  梨花
<人真似(天)>


初鏡嬉しき顔を作りけり  香世
<庚申堂(地)>


<欅(人)>
いかにも手馴れた詠みぶり。
ただ、プロが思わず放った凡打のような気も・・・・・


・2点句

真夜に洩る子の抱く一灯虎落笛  愛子
<眞知(地)>


初鏡年々母に似て五十路  鞠
<頼髪(地)>


春浅し鏡のなかの山の嶺  四万歩
<芳生(人)>


<東彦(人)>
鏡の中の山にはまだ雪が沢山あるのだろう。春を待つ気持ちがさりげなく歌われている。春浅しは動かない。

バックミラーの冬野に遠き地平線  径
<悠久子(人)>
広い冬景色もさることながら、「バックミラー」に感歎を。

<人真似(人)>


筆記具を忘れて行きぬ雪の朝  晴雨
<東彦(地)>
雪が降りそちらに気をとられて、筆記具を忘れていってしまった孫(多分)を気遣う雰囲気が良く分かる。親は子供の後を追いかけているのだろう。

凍月が地球鏡に髭を剃る  海月
<冬扇(地)>
ここまで言うと面白い。冬の月の翳のような部分は あれは髭だったんですね。

問一問二ストーブに遠き席  佳音
<馬客(地)>
「不言題」句では一番共感を覚えました。
七・五・五には異論のあるところでしょうが。

鏡越し背中見ながら毛糸あむ  夜宵
<人真似(地)>



・1点句

人知れずいだくストレス鏡割り  英治
<梨花(人)>


繭玉の孫の玩具となりにけり  冬扇
<晴雨(人)>
孫の年代にもどれました。

笛方は茶髪の少女里神楽  浮遊軒
<冬扇(人)>
茶髪はだめ、などと言ったら当節は巫女さんを集めることも出来ません。囃子方の少女もですか。笛を仕込んだ父親はいつごろ許したのでしょうね。里神楽の様子が目に見えるようです。

繭玉に思ひ托して釣にけり  東彦
<素蘭(人)>
繭玉にかぎらず行事や縁起物に託す願いでしょうね
あらたまの年の初めに飾りつける繭玉ならばなおのこと