第97回桃李二月定例句会披講

選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:下萌、埋れ木、夕陽(不言題)

兼題1(季題):    「下萌」   (明子さんの出題)
兼題2(キーワード題):「埋れ木」   (潮音さんの出題) 
兼題3(不言題):   「夕陽」      (素蘭さんの出題)


披講

・18点句

下萌や猫やわらかくよこぎりぬ  馬客
<英治(天)>
「猫やわらかく」が下萌をゆくうれしさのようなものが描けている。

<顎オッサン(天)>
恋猫の足裏のの柔らかさと芽を出した草の
取り合わせがなんとも早春を感じます。

<まよ(人)>
絵が浮かびます。

<葉子(天)>
猫のしなやかな動作がよくわかる。やわらかく、がよい。

<童奈(地)>
これから始まる猫の恋。

<四万歩(人)>
下萌のやわらかさが伝わります。

<康(地)>


<素酔(天)>
下萌なんてわかるのかわからないのか、それでもなにかおそるおそる歩く様子なのでしょうか、猫というのは不思議な動物ですね。猫好きの人間からは、猫の動きを読んだ句のように受け取りました。


・10点句

埋れ木に鬼の尿する花の宴  欅
<佳音(地)>
なんだかこわくて愉快。

<梵論(地)>


<童奈(天)>
弱肉強食の世界を見事に艶な句に仕上げていると思います。

<丹仙(天)>
埋もれ木、花の宴、鬼という印象の強い素材を山盛りにしながら、統一を保っていられるのは、ひとえに「尿」という俳言を入れたおかげですね。明暗の対比がお見事。

下萌や走り根太き土塁跡  径
<芳生(天)>
観察が行き届いています。

<梵論(人)>


<愛子(地)>


<願船(天)>
遠い日の古戦場の跡であろうか。松の走り根が時代の変遷を語っている。今年も草の芽が萌えはじめた。長い時間と今の対照が鮮やかである。

<丹仙(人)>
今月は観念的な句が多かったせいもあり、この写生に徹した句が新鮮でした。


・9点句

埋れ木の沈香となる春の宵  潮音
<鞠(人)>
埋れ木が沈香に化す歳月の長さ、春宵はその伽羅の香を聞くに相応しい。

<柊(天)>
優雅な雰囲気が感じられます。

<梨花(天)>


<丹仙(地)>
「埋れ木」という負の心象を「春の宵」の情趣に転換する媒体として「沈香」がよく付いています。

学校に行かなくてよし下萌ゆる  丹仙
<素馨(地)>
寒い冬から春の兆しが出始め、地面の下から、植物が一斉に頭を覗かせるころ。
学校なんか行かなくていいよといってるのは、親ではなく、孫に向かっての祖父母でしょうか。
伸びていく若い芽が、決まりや勉強でスポイルされていくのを、ちょっと痛ましく思いながら見つめている気持ち。
暖かさがにじみ出ているような句だと思いました。

<潮音(天)>
夏休みよりも心浮き立つ春休み。それとも卒業の句か。ことばの響きが実に快く、喜びを噛みしめる気持ちが鮮やかに表現されている。わたしは小学校・中学・高校と皆出席であったが、卒業して社会に出てから「病」欠が大好きになってしまった。「[80]だるまさん転んだ先に草萌えて」と本句のどちらに「天」の票を投じるか最後まで迷った。

<素酔(地)>
「学校に行かなくてよし」というはしゃぎそうな解放感を、「下萌ゆる」という静かな喜びが微妙に宥めるような、押しとどめるような、なにやら嬉しい感覚に満ちている気分にさせられました。

<願船(人)>
春休みになった生徒が言った言葉ではないだろう。不登校か自分の考えで学校を休んだ者が自分に言い聞かせているような感じがする。あたりは早春。草の芽が命を噴出している。そんなときには学校に行かないくていいのだ。

<明子(人)>
行かなくてよしと言い切った言い方と下萌が良く響きあっていると感じました。


・8点句

多喜二忌の残照の川渡りけり  康
<芳生(人)>


<ぎふう(天)>
「残照の川渡りけり」が虐殺された小林多喜二と微妙に照応して、ちょっと大袈裟かも知れませんが「生命」を考えさせるような味わいの深い作品になっていると思いました。

<葉子(地)>
自分にも思い屈することがあるのだろうか。のが重なることがちょっと気になる。

<馬客(人)>
2月ともなれば「多喜ニ忌」で一句よみたくなる。
夕陽〜多喜ニ・残照と巧く構成したところえ一票。
中七下五をそのまま読むのか、なにか暗喩を探る
のか解りません。

<素馨(人)>
昭和30年代始め、官憲によって虐殺されたプロレタリア作家、小林多喜二。
忌日は2月20日ということです。
残照の川を渡りながら、その血のような赤い色に、多喜二の短く燃焼した生涯を思ったのでしょう。
心にしみます。


・6点句

赤々と親子を染めて春の土手  素人
<ぽぽな(天)>
夕陽に照らされる親子の姿がうかびます。流れるように自然な句。

<夜宵(天)>
ほのぼのあったかい句

野火移るごとくに空の燃えてをり  まよ
<四万歩(天)>
春の夕焼けが目に見えるようです。まこと、「野火移るごとく」に感じられることがあります。

<柊(人)>
野火の赤と夕日の赤を結び付けた上手な句だと思います。

<晴雨(人)>
今月は佳句が多いようです。選句者を悩ませた月間と云えましょう。
他を制したのは大景を詠まれたからです。

<愛子(人)>


埋れ木の抽斗そっと春の雨  ぽぽな
<雛菊(天)>
抽斗にしびれました。柔らかい細い雨ですね。

<康(天)>



・5点句

沖歔くや赤光吸ひ込む海女の笛  潮音
<梵論(天)>


<梨花(地)>


下萌ゆる埋め戻さるる遺跡かな  眞知
<香世(天)>
鑑定が終わって、また埋め戻されたのでしょうか。季語と切れ字がぴったりと決まって、いい句です。

<東彦(地)>
地方の遺跡発掘調査は、年明けの寒い頃に始まり1-2ヵ月で発掘を終わり、地域の住民に遺跡の説明会を開き、遺跡は又埋め戻される。説明会の場所にはもう春がきざしている。この遺跡が世にあったときも春は下萌えから始まるのだ。大自然の営みは営々として変わらない。それにしてもいつも年度末なんですよね。

稜線の残雪紅く昏れのこり  愛子
<まよ(天)>
冬山を知っている方が羨ましいです。

<素人(地)>
夕陽に染まる残雪、春スキーの醍醐味でした。

ぶらんこや涙振り切るために漕ぐ  柊
<晴雨(地)>
「せつせつと目まで濡らして髪洗ふ」節子
を思い出しました。切実にそんな時期があるものです。

<水(人)>
その涙は、くやし涙? それとも...?

<径(人)>


<虹子(人)>


埋れ木や羅府の二世の墓朧  欅
<やんま(地)>
「羅府」が分からない。
勝手に中国あたりの美女の名と想定してみました。
虞美人・楊貴妃・西施・羅府?

<愛子(天)>


下萌に雀の貌の見えてをり  願船
<佳音(天)>
日の照ってあたたまった地面にふっくりと雀、春ですね。

<香世(地)>
きっとそれぞれの草に、憧れの貌(顔のほうが、わたしには馴染みますが..)の雀もいるのでしょうね。寄り目が可愛いとか...♪

埋れ木の尖地を破りひこばゆる  芳生
<ぎふう(地)>
「尖地」の意味が分かりにくかったのですが、句全体が醸し出している、未来への希望を感じさせる雰囲気がとても気に入りました。何だか元気をもらったような気がします。

<木菟(天)>
実際に見られたら感激でしょうね。

残照の富士あかあかと葛湯かな  芳生
<英治(地)>
よい眺めですね。宿のベランダか。語調が決まっている。

<鞠(天)>
冬夕焼に映える富士を仰ぎつつ、熱々の葛湯を啜りながら耐える寒気。

鷹化して鳩の埋れ木職終へる  ぎふう
<素蘭(地)>
その埋れ木から野の花が咲きますよう…

<頼髪(天)>
もともと鳩なんです、作者は。
会社で「やっこらせ」と鷹の着ぐるみを身に付ける。
若いときは正に鷹になりきっていた。時には会社を
出ても鷹のままだった。
けれども職を終える今はもうその必要はない。
ちょうど着ぐるみが重くなってきた頃だ。
鳩は鳩のまま。埋れ木と言いながらも、納得して
かなり満足もしている。おつかれさまでした。

西山の端の輝きや麦を踏む  馬客
<ぎふう(人)>
京都の田舎の風景画を見ているような気持ちになりました。今日も静かにゆったりと日が昏れてゆく、そして明日もまた素晴らしい日となるに違いない。

<童奈(人)>
静かに当然のこととして春を迎える気持ち。

<径(天)>
古き良き時代の残像のようです。


・4点句

見目よりも声で勝負の猫の恋  柊
<芳生(地)>
猫の恋はまさに声で勝負です。

<欅(人)>
そうだ!見た目は問題じゃない!!!!!力説してどうする。すいません。

<葉子(人)>
人間もこれで勝負だ、という何かがほしいもの。

満員の車内の余白春めける  径
<顎オッサン(人)>
電車内に春の日差しが差したのでしょうか。
ただ「春めく」の動詞はあるのでしょうか?
普通は「春めいてくる」ですね。
内容が良かったので採りましたが。

<素馨(天)>
人と人とがビッシリと重なって、隙間の無いような満員電車。
でも、春はそんなところにも、確実に訪れる。
実際には、わずかな空間も無いようなところでの、春になった気持ちのゆとりを、「余白」と表現したところがいいと思う。

俳諧の道は埋れ木落ち椿  丹仙
<旻士(人)>


<素蘭(天)>
実は私も北村季吟の『俳諧埋木』で句を作ろうとして頓挫。
勉強になりました。

鴨足のまずは知りたる四温かな  顎オッサン
<佳音(人)>


<虹子(天)>


下萌へ道路鏡から光の輪  鞠
<雛菊(人)>
下萌へは下萌やと切れ字で区切ったほうが光の輪の世界が広がる感じがしましたがいかがでしょう。

<明子(天)>
光の春という言葉がありますが、まっ先に春を感じさせてくれるのが光の変化です。
明るい反射光と下萌、心がだんだんほぐれていくようです。

草萌ゆるここが崩落現場です  素蘭
<ぽぽな(地)>
事件発生からの時の流れ、自然の逞しさを思わせる句。文語と口語の混ざりも面白し。

<水(地)>
悲劇の場に、新しい生命の誕生。


・3点句

埋もれ木が野火走らせてゐるのかも  康
<水(天)>
電流のように、すばやい走り; 「火流」を走らせる「火線」があるのかな、と思いたくなることがありますね。

埋れ木に寄り添いあつて雪割草  海月
<東彦(天)>
努力しても報われないが、それでも矜持をもって生きてきた人生を支えてくれたのは、清楚な奥さんである。奥さんに心底感謝しているが、口には出せない埋れ木の心。

草青む己が影見て旧校舎  佳音
<庚申堂(天)>
先週母校を訪ねました。いい物ですね。句も素敵です。

サクラサク少し重たき肩に風  顎オッサン
<やんま(天)>
春愁極まれり。稀にみる秀句。
しかし、二月に詠むかなあ。

下萌やけふの道草黄帽子  英治
<潮音(人)>
季節柄か、二月句会では学校を詠んだ佳作が目立った。「学校に行かなくてよし下萌ゆる」といい、本句の「道草」といい、どうしてこう怠け者のわたしにとって魅力的な言葉ばかりでてくるのだろう。「[107]山肌にあれ!牛女草萌ゆる、[49]下萌に重心すこし高くする」など、二月句会は「下萌」の兼題の句が豊作。

<径(地)>


埋れ木を揺り動かして雪解水  眞知
<晴雨(天)>
「純文学」があるように、この句は「純俳句」です。
年に一句浮かぶかどうかの天恵の句だと思われます。

下萌や早く出てこい初孫よ  雛菊
<顎オッサン(地)>
待ちわびる心が良く表れています。

<夜宵(人)>
人生の春も待ち遠しい感じがします

だるまさん転んだ先に草萌えて  海月
<馬客(天)>
なにかホンワカとして春らしくて。

菜の花や同行二人鐘の音  海月
<素人(天)>
友人が今遍路に出ています。この句のような情景の中をひたすら歩いているのでしょう。

日没や赤子の足裏染めにける  素馨
<旻士(天)>


陽は落ちて梅の紅さを残したり  童奈
<香世(人)>
私がもっとも苦手とする詩情です。だからこそ、選句させていただきました。

<柊(地)>
日没の静かな様子が感じられます。

日は西に卒業の教師一礼す  潮音
<欅(地)>
自分も今日で定年の教師が卒業の生徒たちを送り終えて落ちる日に一礼。いいですね。

<素酔(人)>
この先生は何に一礼しているのでしょうか。中学校のころを思い出しました。そのときも厳かなような不思議な思いをさせられましたが。

山肌にあれ!牛女草萌ゆる  庚申堂
<欅(天)>
牛女ってなんですか?作者さま。中年女が草の萌える坂にねそべって春の香をかいでいるのかな?想像するだけでオソロシイ、いや、面白い。

下萌に重心すこし高くする  梨花
<英治(人)>
少し高いハイヒール。みじかめのスカート。ちょっとすーすーするけど、もう春。

<明子(地)>
寒さのためについつい背中を丸めて歩いていたけれど、気がつけば足元に小さな緑が
・・・・そうだ、もうすぐ春。顔を上げて、胸を張って・・そんな瞬間が見えました。


・2点句

埋れ木といふ茶房あり春寒し  やんま
<四万歩(地)>
「埋れ木といふ茶房」と「春寒し」がぴったりです。

片言の日本語混じる苗木市  柊
<まよ(地)>
移民の方達が日本に根付かれるのが珍しくない時代がくるように思えます。

下萌にうつ伏せ丸き雲となる  願船
<旻士(地)>


民話聴き笑む痴呆の人よ茜色  雛菊
<潮音(地)>
「痴呆」を句にするのは難しい。一歩間違うと差別や大失敗作(十一月句会
拙句)になるが「痴呆の人」に六字を敢えて投じた本句はそうではない。この無季の「五・二・七・五」の句が成功作かどうかは意見が分かれようが、痴呆の高齢者が笑った瞬間を見事に捉えた作品と評価したい。

「芽吹きましょ」庭木を誘いて下萌ゆる  旻士
<雛菊(地)>
いわさきちひろの絵本を見ているような。なぜか黄色やピンクの色彩が広がります。まだ下萌ですのに。

下萌や砂のお城の完成す  虹子
<鞠(地)>
早春の暖かな情景、サ行音の連続が快い。

検針日猫は下萌嗅ぎてをり  梵論
<願船(地)>
水道の検針に来た人がメーターを点検している。猫が一匹そのあたりの草の中に現れて何かに鼻を突きつけている。早春の一こまが鮮やかに切り取られている。

下萌や眼だけで語りあふことも  明子
<馬客(地)>
「語り合う」って程ではありませんが
老生夫婦でもよくやってます。
季語が良くあっていいですね。

涅槃西風爛熟の日は墜ちながら  素蘭
<木菟(地)>
若々しい、これで決まりといった句です。

埋れ木となりきれぬ身や春浅し  馬客
<庚申堂(地)>
気持ちよくわかります。

埋もれ木と誹られながら賞を取り  葉子
<夜宵(地)>


春浅し埋れ木に彫る名を持たず  梵論
<虹子(地)>


下萌や自転車漕いでまた漕いで  やんま
<頼髪(地)>
土手の端っこに、所々に緑が見えてずっと続いている。
橋をくぐって向こう側に出るとまた続いている。
どこに行くって決めてないけれど、次の橋あたりで
引き返そう。風が少し冷たくなってきた気がした。


・1点句

図鑑にはないないないの草萌える  水
<康(人)>


埋れ木や意固地の俺に佐保姫が  雛菊
<ぽぽな(人)>
「埋もれ木」と「意固地」に共通した感覚を顕在させ新鮮。「俺」「佐保姫」の言葉の出会いも印象的。

卒業の式終え語らう長い影  夜宵
<梨花(人)>


埋れ木や恐竜も見し春の夢  虹子
<頼髪(人)>
そう、埋もれ木には恐竜!
子供のころ、山を削る造成現場から木が出てきた。
石炭になりかけているような黒さでずしりと重い。
先生に見せようと思って学校に持っていく。
「へー、だいぶ古そうやな」
すでに頭の中で恐竜が走っていた。

草萌のことに芭蕉の矢立の碑  芳生
<やんま(人)>
枯野を駆け巡る夢の跡に今下萌える。

下萌に鼻うごめかす子犬かな  四万歩
<木菟(人)>
よく犬連れて散歩に行きますが、ほんと可愛いですね。

春の暮のれんをあげて文を読む  素酔
<東彦(人)>
仕事を早仕舞いして帰ってくる。待っていた手紙が来ている。一刻も早く読みたくて、暖簾を上げて明かりを取る。その一瞬の心の高ぶりが、暖簾を上げてに表されている。

埋れ木や偕老の居の春めきて  愛子
<素人(人)>
穏やかな人生ここにきわまれりですね。

春の風邪寝所にかほど夕明り  英治
<庚申堂(人)>
お上手。

春潮や手をメガホンにバカヤロウ!  ぎふう
<素蘭(人)>
ご一緒に唱和したいキブン…バカヤロウ!