第98回桃李三月定例句会披講
選句方法:天地人方式(各3、2、1点)
兼題:春塵、変、感謝(不言題)
雑詠または題詠
兼題1(季題): 「春塵」 馬客さんの出題
兼題2(キーワード題):「変」 欅 さんの出題
兼題3(不言題): 「感謝」 径 さんの出題
披講
・14点句
沈丁花心変わりを悟られる 素人
- <香世(地)>
- 沈丁花の香るあの場所。しかし、もうその時には戻ることは出来ない。さようなら。
- <芳生(地)>
- 天知る、地知る、沈丁花知る、というところですか。
- <静影(地)>
- 「悟る」ことに沈丁花の香りの冴えがこわいくらいに効いてます。
- <康(天)>
- 沈丁の香りの夕暮れを想像します。その奥の奥をわかってほしいという思いがその薄闇のなかに溶けていくようです。
- <童奈(天)>
- 沈丁花の怪しげな香を感じます
- <明子(地)>
- 沈丁花の香りにはどことなく人を不安にさせるところがあるような気がします。
この句は沈丁花できまったと思いました。
・8点句
野遊びに夢中の子らの変声期 夜宵
- <葉子(人)>
- このような牧歌的な子どもの時代もあった。世界がもう取り返しのつかない破滅に直面しているとき、それは黄金時代だった、といえるだろう。
- <顎オッサン(地)>
- いつかくる大人への入り口として
変声期があります。
しかし「青さ」の入り口は本人には
解りにくいものかもしれません。
- <やんま(天)>
- 日々変りゆき、かく年老いてゆく。
- <鞠(地)>
- 春風に誘われて、戸外の遊びに熱中する子供達、中身は未だ充分幼いけれど、
あの透き通るようなボーイソプラノは、もう聞かれない。
日変はりのランチにわらび付く果報 英治
- <雛菊(地)>
- 定食屋さんの日替わりランチに蕨の小鉢がついてたら私も嬉しい。一足先に春の味を思い出させてくれた蕨に一票。
- <冬扇(天)>
- わらびが付いたのが果報だと素直に喜んでいるのがいいですね。
- <静影(天)>
- 昼の明るさとわらびの爽やかさ。街に日々を送りつつも山の春を知る幸い。毎日が楽しみになるような句ですね。
春の塵光は速度ゆるめけり 潮音
- <ぽぽな(地)>
- 春の塵が光の粒となりゆうるりと揺れています。主観としての真実、「けり」の言い切りが美しい。
- <庚申堂(天)>
- 春の長閑さをちょっと理屈ぽく。こういう感覚好きです。
- <欅(人)>
- <馬客(地)>
- 射光の中に浮遊する塵、その有様を
自分も詠みたかったのですが出来ません
でした。
なるほど、の一句です。
・7点句
春来れば春の部屋なり鍵に鈴 ぽぽな
- <英治(地)>
- 鍵の鈴が鳴る。部屋に入ればもう、冷え冷えとした冬のそれではない。
- <庚申堂(地)>
- 自然に合わせて行きましょう。
- <潮音(天)>
- 下五「鍵に鈴」がすべて。涼風の通り過ぎるような読後感。不言題「感謝」でこの句を詠める作者の人柄を感じる。
変声期あぐら決まらぬ春の宵 海月
- <ぽぽな(天)>
- 変声期の少年のぎこちなさをうまく紡ぎ出しています。句の姿にぎこちなさは全く無く、春の宵もばっちり決まっています。
- <素人(天)>
- 大人になりかけの戸惑いとぎこちなさが巧く捕らえられていて、吾が青春の遠き日を思い出していました。
- <ぎふう(人)>
- こんな時期もありました。
送り出す荷の春塵をぬぐひをり 明子
- <まよ(地)>
- 送り出すのは、夫でしょうか、子供でしょうか。春は別れの季節。
- <素蘭(地)>
- 春塵をぬぐうさりげない行為に
情愛の深さと淋しさを感じます
- <素酔(天)>
・6点句
転変の世は世ながらに朝寝かな 芳生
- <ぎふう(天)>
- この朝寝、気に入りました。
- <素蘭(天)>
- うらやましい
露座仏のふくよかな御掌春の塵 芳生
- <佳音(天)>
- やはらかそうで、あたたかそうで。
- <四万歩(地)>
- 露座仏のやわらかな御掌が印象的です。
- <童奈(人)>
- 鎌倉大仏の春の感じがよく出ていると思います
・5点句
今朝覚めて我在り桜咲いている やんま
- <馬客(天)>
- 不言題「感謝」の諸作句中、いちばん
共感をおぼえました。
上が文語調、下が口語体で、破調なのに
なにか面白く響きあっています。
- <丹仙(地)>
- 動詞が三つもある破調の句ですが、感謝の不言題としては、それが却って飾らない実感を与えます。
変人の勇退の日の花吹雪 やんま
- <まよ(天)>
- 付和雷同を嫌い自分に正直に生きた人のような気がします。退職後には過去の肩書きなどを人に言う事もなく全く新しい生き方をなさるのでしょう。
- <素馨(人)>
- 変人と言われながらも、この人は好かれていたのではないでしょうか。
花吹雪が、餞となっているようです。
- <素酔(人)>
春塵や学校長のモーニング 佳音
- <やんま(地)>
- 入学式も卒業式も厳粛なるもの。校長のモーニングに出番多し。
- <明子(天)>
- 卒業式の一場面。都会の学校ではなく、おそらくこじんまりした小学校でかなり
お年の校長先生のように感じます。大切な日に着るちょっと色がやけたモーニング。
きっと気取りのない子供が大好きな先生なのでしょう。春塵の季語からそんなイメージが
拡がりました。
春塵や火屋に煙のたたぬ日々 英治
- <梵論(天)>
- <ぎふう(地)>
- ほっとする日々。
・4点句
ながらへて畏れかみしむ田螺和 ぎふう
- <やんま(人)>
- 今年また生きて春を迎えた。
- <丹仙(天)>
- 田螺和が良いですね。三月の節句、遙か昔にこれを食した素朴な味、郷愁を誘いつつ、現在を感謝する心持ちを感じます。
くぐもれる母犬のこゑ春の闇 明子
- <東彦(天)>
- 母犬が子犬に話しかけている感じが「くぐもれる」に良く現れている。
- <静影(人)>
- 夜が、深く暖かいものになる季節です。なにか出てきそう。
嫁ぐ子の何も言えずに桃の花 素人
- <冬扇(人)>
- いいですね。何も言えないところがいいですね。
- <鞠(人)>
- 出逢いも別れも軽やかな当節からみれば、少々古典的な情景ではあるけれど、
時代を超えて、しんみりさせられるものがある。
- <佳音(地)>
- そのままなのですが、でも好き。
家具の位置変へて戻して暮れかぬる 素馨
- <鞠(天)>
- 春めくと無性に部屋の模様替えがしたくなるが、所詮限られたスペースの中、
ここが工夫の腕の見せ所なのだけれど……。
- <馬客(人)>
- 上五が少し硬いかな、とも思いましたが。
「変えて戻して」に遅日の気分がとても
よく表れています。
河馬かくも早く走るる水の春 顎オッサン
- <素馨(地)>
- 河馬が速く走るかどうかわかりませんが、多分そうだろうと思わせるようなものが、春にはありますね。
- <欅(地)>
・3点句
ひつそりと独り在りても春埃 鞠
- <径(天)>
- 静謐な心境に惹かれました。
冬の間戸を開け放つこともなく、ひっそり暮らしていたのに、
明るさを増した光に薄い埃が見えて来て,春を実感したのでしょう。
「独り在りても」このフレーズ、いつかわたしもつぶやくような気がします。
きっと蒼うららの日付変更線 佳音
- <ぽぽな(人)>
- 「きっと蒼」が潔いです、新鮮です。「59「心変わり」も好きでした。「変」のサ鑑賞は楽しかったです。作句も。
- <庚申堂(人)>
- 私は薄桃だと思います。
- <径(人)>
- 旅行の計画を立てている最中にも心はすでに機上のひと。
もうじき日付変更線を越えるわ♪
そう、きっと蒼い線が引かれているに違いない。
こんなうららかな日に旅行しようとしているのだもの。
メルヘンチックですね。
春塵の運ぶアジアの憂いかな 庚申堂
- <顎オッサン(人)>
- 鳥インフルエンザなど
色々な憂いがありますね。
- <素人(人)>
- 杞憂とばかりは言い切れないですね。といって護る術もなさそう。
- <丹仙(人)>
- 「アジアの憂いかな」が良い。一昨年、北京に行きましたときに、公害によって、青空の見えぬ春先の空を見て、この国の経済発展はめでたいが、その末に現れる環境破壊はどうなるのか、そんなことを思い出しました。
春塵と酒色の芥払ひけり 晴雨
- <顎オッサン(天)>
- 飲まないとやってられませんか?
人なれば。
生きていくことの一面を上手く表現しています。
少年の木乃伊の夢や春の塵 欅
- <葉子(地)>
- ミイラとなって眠っている少年は何を夢見ているのだろうか。なぜ夭折してしまったのだろう。遠い昔の世界が思われて切ない。
- <梵論(人)>
春塵もまた光なり麻崖仏 やんま
- <雛菊(天)>
- お彼岸のせいか仏様の句にひかれました。103の露座仏のふくよかなる御掌の春の塵もよかったのですが春塵もまた光なりの表現に静謐なものを感じたのでこちらに。
春塵や後部座席に新キャベツ 素酔
- <香世(天)>
- 春塵の中、バスを待っている。田舎のバスは運行回数が少ない。ようやく来たバスに乗ってみると、乗客は数人。奥に進んでいくと、後部座席に青々とした新キャベツが篭に一山積まれている。持ち主は、知り人に出会ったのか、前の座席で話が弾ませている。
有明となるまでふらここ月乗せて 径
- <葉子(天)>
- 何か思うことがあるのか、有明まで月を友にブランコに乗っているのは孤独感なのか、それとも逆に大きな喜び?いずれともとれるところが面白い。
春塵や百円ショップの老眼鏡 香世
- <英治(天)>
- 春の塵も指に触れて知る老いと・・。超安物の老眼鏡でも役に立つ。
松明が火竜となりしお水取り 葉子
- <東彦(地)>
- 類句がありそうですが、惹かれます。
- <四万歩(人)>
- お水取りの光景が目に浮かぶようです。
うららかや変換キーが呼ぶ漢字 ぽぽな
- <康(人)>
- 変換キーはたしかに漢字を呼んでいますね。「うららか」な一刻だからそんな擬人化もうなづけます。たのしい句です。
- <童奈(地)>
- 果たしてどんな字が現われたのでしょうか
鳥交る変異組み込むゲノムかな 潮音
- <欅(天)>
貝寄せや応へて唸る変電所 冬扇
- <芳生(人)>
- <径(地)>
- 春の強風と変電所が呼応しているという見方、とても新鮮に感じました。
砂漠掘る井戸思いたり水ぬるむ 庚申堂
- <素馨(天)>
- アフガニスタンで、井戸を掘っていたお医者さんのことを、読んだことがあります。
春になり、水の暖かさを感じながら、砂漠の人たちのことを思う、暖かみのある句だと思います。
髪の色変へむ北窓開け放つ 明子
- <芳生(天)>
- 「北窓開く」の季語に面白い取り合わせ。
白木蓮悲母観音に合掌す 東彦
- <四万歩(天)>
- 白木蓮と悲母観音のとりあわせがうまく融合しています。
・2点句
抜き出せし蔵書に薄き春の塵 径
- <冬扇(地)>
- 古い本には春塵がよく似合います。
辛夷いま盛りなるかな謝恩会 童奈
- <素酔(地)>
春塵やイラクに向かふ靴の音 素馨
- <素人(地)>
- 時事句でかつ詩情も十分。それにしても人間は知恵が無い。万物の霊長などとは程遠いですね。
春うらら上見る習ひいつか失せ 英治
- <潮音(地)>
- 上を見て生きていくのは、とても辛い。この句が「感謝」不言題詠であることが一層の含蓄を。
春の宵変装の妻現れぬ 素酔
- <康(地)>
- 春宵はどこか人を艶やかにするようです。そして変身への思いも。びっくりしてそして、ほっとした作者の顔がうかびます。
師のゆびをまぢかに見をり梅ひらく 康
- <梵論(地)>
・1点句
言わないが言えないけれど春の川 海月
- <明子(人)>
- 春の川で作者がとても満たされていて感謝している気持が伝わります。
でも、たまにはほんの一言でも口に出して言って上げて下さいね。
祖父母父母あり我のある涅槃西風 四万歩
- <素蘭(人)>
- そして恩返しとは次の世代を育てていくこと
佐保姫の我にしなだる異変かな ぎふう
- <香世(人)>
- 作者あてクイズ。誰かな?男性?女性?
桜咲くバッハの響く曇り空 静影
- <東彦(人)>
- 曇り空の下の桜はバッハのあの荘重さに似ているかもしれない。
卒業子母と並んで撮る笑顔 香世
- <まよ(人)>
- 振袖姿の娘の卒業式。喜びと感謝の笑顔がありました。
考える人は全裸や春埃 ぽぽな
- <英治(人)>
- まさに全裸だ。でも、これからは気候も良くなるし・・。
春塵の軽きに惑ふサキソフォン 顎オッサン
- <佳音(人)>
東風吹けば変なおじさん踊りだす 欅
- <雛菊(人)>
- お花見の場では踊る変なおじさん勘弁してちょーだい
春の雨あがりて恩師逝きたもう 馬客
- <潮音(人)>
- 一読、なんということのない句かと思ったが、繰り返し読むうち、作者の慟哭が聞こえ、一語一語が胸を搏つように迫ってきた。このかなしみを乗り越えよ、という作者への恩師の言葉が聞こえるようである。