桃李歌壇

目次

詩よ 目にみえない景色よ



嵐よ ! 未知と畏敬の対象を運びたまえ !
透明な空間に明確な輪郭をもつ あの声の姿を !
嵐の夜に言霊を宿し 激しく私の心を荒ぶり続けるものを !
詩よ 歓喜に満ちた経験よ !

詩よ 目にみえない景色よ (私に聞こえるのだろうか ?)
すでに木々は風に音を立て 空に向け枝を広げている
おまえが何者でもいい 木上に震え嵐にうたいつつみがかれゆくおまえを 私は空におこう
どのようなものにも抗して揺るがない すべての高みの位置に
そして我々の頭上であらゆるものを浄化し 記した者の存在さえ踏み越えてゆくがいい

詩よ 嵐の過ぎたあと 高らかに行と連の間隙に響く鎚音が (-----聞こえるか ?)
我々の手で切り拓く農園に かぎりなくおまえを実らせよう
そこでおまえが何者であるのか見定めようではないか
詩よ 実りゆく果実よ
桃よ レモンよ 無花果よ




この雑々とした実世界の中で おまえは世界を中断させているかのようだ
耳にとどく景色は すべての湖面のもつ静寂にまさり
漂う息づかいのひとつひとつを反照しながら
つねに変容の中に身をおく月明かりのようだ
じっと聞き入る景色は 謎めいた姿で駆けめぐり
私の中を一巡して ようやく面を上げたときには中空へと消えてゆく

しかしひとたび目を瞑れば 私は再び湖面に揺られる
私の内部に満たされた 印象の世界との交渉は
湖岸にくりだされたさざ波にもにて
静かに立ち上がる小さな起伏のように
はてしなく かぎりなく

いつかこの波の生まれた場所をさがしに行こう
漕ぎ出すボートの上で遠景に目を瞑り もう一度おまえをさがそう
鳥達の翼にのって 潜りゆく魚の背びれにのって
吹きだした風に渡り 感情の懐に潜り
月と太陽と星々が沈みゆくところに立とう
すべからく 世界を中断して




いくつもの連なる内面に取りまかれ
丘の上にそよぐ 一本の木よ
さししめす空は宇宙へと続き
さらに私たちを取りまいてゆく
ああ 実るのは詩 人々の声

かぎりない詩よ
もっともかぎりあるこのひとときを
もっともかぎりなくする詩よ
私は目を閉じてみつめている
結ばれゆくいくつもの情動に幹はしなり
たわわにふくよかに
抱えきれないほどの世界が萌え出るさまを

  おお 呼応の木よ 応えるがいい
  応えてかぎりなく 高らかにうたうがいい
  いくつもの情熱がこの木の上にともってきたことを
  いくつもの涙がこの木を育んできたことを

木よ 我々の詩の世界を緑なす生命のありかよ
根はすでに大地に深く 枝は星々の領域を貫き
果実はこうして旅人のこころを潤してゆく

私はここにひとつの実を結ぼう
やがて訪れる人々のために
私がこうして分かち合ったように
世界がこうして呼応の内に繋がり創りあげらてゆくように
詩よ 呼応の木よ
私の目にみえないもっとも美しい木よ
応えるがいい