桃李歌壇  目次

ほの白き月

連作和歌 百韻

701 > ほの白き月を櫛に花飾り わが背の君はいづこにいます (吉美) 
(8
10 2257)

702 > 我が君に捧げしえだは蓬莱の 月の宮より今宵かえらむ(月下美人/月影) (811 1613)

703 > 宵風は水のごとしも流れゆく雲に桂の円葉さやさや (堂島屋) (811 1759)

704 > ながらへて花に涼しき風ふけば ほの揺らぎけり雲の峯々  (吉美)   (812 1454)

705 > 峰ゆかばさやかにかほるまつの風 仰ぐそらにはくもが旅せり (たき) (814 2347)

706 > わが懸けし埴摺りごろも今もかも吾を待つらむか濱松が枝に (堂島屋) (816 1246)

707 > 松が枝の香りを今に残せるかパシフィックホテル跡のマンション (志織) (816 2248)

708 > はるかなる海の潮の音聞こゆるか目覚めの朝をひろげて見ゐる  (吉美) (817 1204)

709 > 空耳にひとり覚めたりけふけふと待つは赦しの舟の櫂の音  (堂島屋) (817 1227)

710 > 空耳と思えど風に鳴き渡る南の便り熊蝉の声 (志織) (817 2256)

711 > 恩師ありき授業も夢の学舎(まなびや)は蝉のしぐれの通奏低音  (吉美) (818 0708)

712 > 大學は一宇あまさず焼くべしと唱へし君は教授となりぬ  (堂島屋) (818 1249)

713 > 冷や奴うち崩したる卓のうへ父はまもなく焼かれゆくなり   (吉美) (818 1439)

714 > 入道雲うち崩したる姿にて平和な里の夕暮れとなる  (志織) (818 2024)

715 > 夕立の里を掠めて往きにけりひとふき風の頬をぬらして   (吉美) (820 2033)

716 > 頬ぬらすものは夕立だけでなくつれなき言の葉にてもあるらむ (志織) (820 2050)

717 > 虹淡く淡くたなびく夕空へ昨日の君が浮かびては消ゆ  (堂島屋) (821 1740)

718 > 虹というは虫のしわざとそのかみの伝説思う雷過ぎしあと (志織) (821 2316)

719 > 蜘蛛の巣の破れ残りし糸の端に白露かかるネックレスのごと  (小梅) (822 1339)

720 > 白玉の露に宿れる月影をかへりみすれば蝕はじまりぬ (堂島屋) (822 1827)

721 > 祇園会に三日月となる夜のふしぎ南蛮屏風飾る座敷も  (吉美) (822 1842)

722 > 三日月の船そのかみの南蛮船救いに出でよ海底の悲劇 (志織) (822 2242)

723 > 敷島の大和島根に打ち寄せる一つひとつの波も悲しく (紫水) (823 0003)

724 > 大和路の歴史を映す青空にまばゆきばかり百日紅炎ゆ (志織) (823 2143)

725 > LEAN & SLIM 1945の皇軍兵士 百日紅のやうな手足を反らせ (堂島屋) (824 1301)

726 > すめらみことの人となる朝は凍れる寒紅の遊女の唇 (幸夫)   (824 1517)

727 > 国境の川を越ゆるという朝の寒紅こころもち濃く引きぬ (志織) (825 2305)

728 > 歩む人絶えたる朝(あした)音もなくただしんしんと降り積もる雪 (小梅) (826 1552)

729 > 雪印工場出荷再開しなお濃くのうぜん百日紅の花 (志織) (826 1821)

730 > マグマ荒れ日本列島揺れ動き地震情報しきりと流る  (小梅) (826 2147)

731 > 何事もなくすじ雲の流れたり大和しうるわし安らぎの国 (志織) (827 1825)

732 > ひいふっと扇射ぬきし鏑矢の音よ戦記のかくうるはしき (堂島屋) (827 2018)

733 > 軒先の尺余のつらら夫ともに敵艦撃沈痛ましきかの日 (小梅) (827 2225)

734 > 指先を滴り落ちる血を見れば思い出したり子供の頃を (たき) (829 2343)

734 > 日盛りの外の暑さを知らぬげに富士氷穴に太りゆくつらら (志織) (828 2321)

735 > コメカミに滴り落ちる冷水の染み入るかほり目じりの滝     (耽空) (830 2124)

735 > キャベツの葉指に触りてキャベツと云ふ丸き形を知らぬが故に (小梅) (829 0730)

736 > 菜を洗ふ手のぬくもりに返り見る 夫は写真にほほえみてあり (小梅) (830 2203)

736 > 甘藍を飽くまではみし記憶もち胡蝶息づく吾が指さきに  (堂島屋) (829 0933)

737 > 夏休みの写真の中に句読点のような蜻蛉を舞わせていたり (志織) (830 2247)

738 > 写真にも残らぬ友の何となくいつも泣き顔なりし心地す  (堂島屋) (831 1252)

739 > あと数時間命保つか露草は朝日浴びつつ紫の濃し  (小梅) (831 1524)

740 > 色づかぬあじさいの花日の差さぬ片隅にありて生命永らう (ごろう丸) (91 2155)

741 > 秋風の生まれてきたる切通し忘られしごと残る額の花 (志織) (91 2229)

742 > 盛り上がる入道雲も見ず過ぎてはや虫すだく秋は来にけり  (小梅)(92 2043)

743 > 入道雲育たぬうちに流されて秋雲のひとつに混じりたり (志織)(92 2356)

745 > 野も山も熱ひくがごと澄みきりて高々仰ぐけさの絹雲  (堂島屋)(94 0931)

746 > ちぎれ雲白く尾を曳き消え去りて群青の空果てなく続く  (小梅)(94 1020) 

747 > 果てもなき流竄の旅のつれづれに詠み捨てし歌なり吾が歌は  (堂島屋)(94 1257)

748 > 橋桁に杖ひく人の寄りかかり群がる鴨にパン屑投げおり  (小梅)(94 2055)

749 > 気がつけば友と呼ぶべき者もなく多感の五十路を一人迎えぬ  (ごろう丸) (94 2256)

750 > 音読を繰りかえしつつひたすらに険しき旅せし芭蕉をしのぶ  (『奧の細道』を読みて 小梅)(95 1237)

751 > ばなな輸入卸を業とせし祖父はつねに問ひにき芭蕉好きかと  (堂島屋)(95 1927)

752 > ほっかりと目覚むる朝のひと時は夢の名残か祖父の背見えて (小梅)(95 1942)

753 > 起き抜けに鍾子期の名呼ぶ三年の年月を経てなお君を呼ぶ (伯牙)(95 2309)

754 > 起き抜けに夢の中にて見しはずの噴火を紙面に見つけ驚く (志織)(96 0020)

755 > 起き抜けの夢にニュースの紛れつつオットー・フランク逝去すと聞く  (堂島屋・回顧)(96 0931)

756 > また一つ語る人去り戦争も 夢の話と変わる日近き (かおる)(96 1113)

757 > シュタウフェンベルグの夏も酷暑なるや戦記戦史は黙して語らず (ごろう丸) (96 1943)

758 > 極暑の海深き淵より叫びたる声とどかぬか この平成の日に (吉美)(97 1245)

759 > 昭和知らぬ子はすくすくとなよ竹の世を渡りゆけ吾が見ざる世を  (堂島屋)(97 1806)

760 > おのが背を遙かに越ゆるリュック負ひ海の家へと孫旅立ちぬ  (小梅)(97 1825)

761 > リュックからはみ出している北限の雑草という確信犯よ (志織)(98 2354)

762 > 雨足は俄につのり窓撃てば雀飛び立ち押し戻されぬ (小梅)(910 1800)

763 > ちちのみの父と思ひぬ降り出した雨のにほひに交じる潮騒(ぽっぽ)(910 1814)

764 > 爽涼の崎へだつとも小波に君をばゆかし思ふはやわが(重陽)(910 1821)  

765 > 爽涼の崎は時折り大波を交え噴火の島と向き合う (志織)(910 1829)

766 > この島は空の島なり鳥渉る茜の雲に出船入り船(ぽんち)(910 1858)

767 > つやつやの大きなトマト切りかねて過ぎゆく夏を惜しむこの朝 (小梅)(911 1329)

768 > こきこきと缶切り開けて伊太利亜の完熟トマト潰してをりぬ  (堂島屋)(911 1849)

769 > スパゲッティ茹でゐる孫の傍らに並べば伸びたる丈に驚く  (小梅)  (911 1953)

770 > 知らぬ間に丈高くなる裏庭の草色あせて秋の花咲く (志織)(911 2337)

771 > 花畑君みかけたし夢だにも楽園の人や思ひ止む (春秋)(912 0217)

772 > 楽園を遠み遥けみ物思はずけふの一日を足らはむと欲る  (堂島屋)(912 1525)

773 > 待宵やしぐるる空を憂いつつあともうすこしそのバスストップ(春秋)(913 0013)

774 > DVDソフトフォーカスで再現すマリリン・モンローの煌めく涎 (ぽっぽ)(913 1004)

775 > マリリンに会いたいという映画あり珊瑚礁の海がとても懐かしき (志織)(913 2351)

776 > ハチ公と待ちつづけること20分青山の人とてもなつかし(春秋)(914 0211)

777 > 颱風に水増せる河は故郷の流されゆきし人々悼む  (小梅)(914 1532)  

778 > 流されて渋谷青山六本木浮草旅情気のむくままよ (旅情)(916 1116)

779 > 流されてタヒチハワイの岸辺へとボトルメールのつたなき英語 (志織)(916 2327)

780 > 百年の波もゆららに流れ来し壜に詰められゴッホの素描  (堂島屋)(917 1611)

781 > 熟成のワインごくごく飲みくだす巴里のプチブル革命前夜  (旅情)(917 1745)

782 > 陶酔を余儀なくさるるごと独り言葉の一気飲みを楽しむ (志織)(917 1841)

783 > 蹴球や仏蘭西じこみ日本の益荒男一気にゴールきめけり  (旅情)(918 1820)

784 > ゴールまでまだ日があるというごとく大きく跳ねし鮭は網の中 (志織)(919 0024)

785 > 囚はれしうつくしき人ギロチンへ恐怖の泡沫アンゴルモアや(春秋)(919 0148)

786 > ギヨティンの刃に油塗り終へて刑吏は眠る藁床のうへ  (堂島屋) (919 0843)

787 > 藁蓑の頭巾纏いて牧草を暗きサイロで黙々と踏む(重陽) (919 1503)

788 > アルプスの少女のように牧草の中に体を投げ出してみる (志織) (919 2345)

789 > 牛飼ひがまろめて積める干草に湯気立てり見ゆ牧寒みかも  (堂島屋) (921 1315)

790 > 湯気立てて出で行く団地行きバスの少し古びしボディーの白線 (志織) (923 2135)

791 > 雛壇の古き団地の秋風に響く槌音二世代普請  (重陽) (925 1418)

792 > 渦まいてアリンコ車忙しなく響く風神めまい某号。       (耽空) (925 1736)

793 > 空谷は響き惜しまず枝をかれて紅葉色なき風を追ひゆく  (堂島屋) (925 1836)

794 > ままごともすこしとくべつな日のにおいもみじのおさらにくりをかざって (志織) (925 2351)

795 > 恥らいてとくべつな日の富士の山雲間に見ゆる初の白雪  (重陽) (928 0749)

796 > 何事もきのうと変わらぬ線路越しはっと目をひく冠雪の富士 (志織) (929 2317)

797 > 江ノ電のレトロ車両の窓に寄る若き二人の瞳燃えけり (重陽) (103 0523)

798 > 架線より火花こぼれしその刹那くちづけ交はす停電の闇  (堂島屋) (103 1546)

799 > 停電に悪夢の灯火管制のトラウマ払いゆとりもて待つ  (重陽) (103 2046)

800 > 停電を幾度も重ね二十九時間のしつこい秋雷に耐ゆ (志織) (103 2310)