桃李歌壇  目次

富士にかたぶく

連作和歌 百韻

1601 > 現世のうつろひわたることごとの冨士にかたぶくあしたへの月 
(重陽)
(314 1559)

1602 > スカラベは護符となりしやジンジャエラ太陽神の贄(にへ)となる間の 
(素蘭) 砂漠で発見された少女ミイラ
(315 0013)

1603 > スカラベを手に乗せ熱砂の風に立ち太陽神のめぐりを廻る
(たまこ)
(315 0707)

1604 > をちこちの御符を纏ひし青年の街をたばしる速便単車 
(重陽)
(315 0822)

1605 > 大念珠首に懸くるは死刑囚の作法と僧の教へくれしが 
(堂島屋)
(315 1247)

1606 > アメリカから死刑囚と云う投稿歌ぎゅうっとレモン絞って落とす 
(しゅう)
(315 1438)

1607 > 一粒の檸檬が卓に発光す窓を暗めて黄砂ふる日を
(たまこ)
(315 2001)

1608 > 黄砂降る山辺の寺に続く道 樹の花あまた咲き継ぎてゆく 
(萌)
(315 2334)

1609 > 万葉の歌碑辿りたし菜の花と桜彩る山辺の道 
(素蘭)
(316 0040)

1610 > この海の光りと風の戯むるをいにしへ人の残せし歌に 
(重陽)
(316 0546)

1611 > いち面に芥子菜の花咲く河原 遊ぶ三人子わたしの滴
(たまこ)
(316 0814)

1612 > 早春の山に遊びてゆくりなく出遭ひし源流いまに忘れず
(登美子)
(316 1600)

1613 > 山というほどの高さにあらねども森林浴に洗われし身よ 
(藍子)
(316 1631)

1614 > 森林浴すらも花粉の名のもとに気安くできぬ愁いの春よ 
(萌)
(316 2347)

1615 > 春は杉・檜・鴨茅次々とアレルゲンなる風媒花咲く 
(素蘭)
(317 0108)

1616 > 杉山よりわきたつ微塵の灰黄が弥生の風を染めて流るる
(たまこ)
(317 0811)

1617 > 一陣の風み吉野の花散らし弥生の空を染めて流るる 
(素蘭)
(317 1535)

1618 > 裏山にタラの芽生ふるふるさとに父母が畑うつ頃となりけり
(登美子)
(317 1659)

1619 > 春のキャベツ胸にかかへてあたたかし山の畑の媼がくれぬ
(たまこ)
(317 1812)

1620 > 岬へとうねりてつづく道ぞいにキャベツ畑の日を浴びており
(萌)
(317 1833)

1621 > なつかしき三浦大根輪に切りてザックザックと疾く頬張りぬ 
(重陽)
(317 1931)

1622 > 「ザックザックと小判が出てきました」とは錬金術は効かぬ政局 
(萌)
(317 2346)

1623 > 三月の道路走ればここかしこ工事ばかりで穴ぼこだらけ 
(素蘭)
(318 0129)

1624 > 声をあげ チャンバラをする 子供達 マウスをもつ手 今は声無し
(318 1251)

1625 > 杖を突く 母の手を引き 思い出す 若きし母の 遠いぬくもり  
(天女)
(318 1258)

1626 > 初めての 投稿にまで あたふたとする 名無しのごんべ 初心者メ-ル 
(天女)
(318 1344)

1627 > メールにて伝わらぬもの緩やかに過ぎゆく時の息づかいなど 
(萌)
(318 1915)

1628 > 薔薇・パンジー・すいせん・カトレア地下の花鋪に蝶蝶のこない時が流るる
(たまこ)
(318 2217)

1629 > 駅前の花舗に並びしカタカナの花の多きや杞憂の春に 
(萌)
(318 2356)

1630 > メキシコの森に紅葉の擬態してあまた舞ひたるオオカバマダラ 
(素蘭)
(319 0009)

1631 > 擬態とはかなしき仕草 ヒト属の我なるをもう認識できず 
(萌)
(319 0028)

1632 > 尋ねきて語りつがれし元禄の赤穂の志士の思ひやいかに 
(重陽)
(319 0747)

1633 > 早春の赤穂岬の浜に散る貝の白さや大石主悦
(たまこ)
(319 1114)

1634 > 浜辺行き貝を拾ひし日のことを思ひぬひとつ年重ねるけふ
(登美子)
(319 1447)

1635 > 生れくる子の名を二人はなしつつ並んで描きし三月の海
(たまこ)おめでとうございます。登美子さん
(319 1959)

1636 > 生(あ)れし日の雪の深さを聞きをれば闇より降れる雪を恋ふらむ 
(素蘭)
(319 2011)

1637 > 神秘なる雌雄の契り至高なる生(あ)れし赤子の神秘なるかな 
(重陽)
(319 2022)

1638 > 春の夜の神秘なるかな黒蝶は疼き孕みて真珠(たま)を生ませり 
(素蘭)
(319 2342)

1639 > 亡き父のまだ若き頃高尾山に虫捕りを我に教えたる夏 
(萌)
(319 2347)

1640 > ひみつめきて開きし子の掌にだんご虫のガラス細工のやうな殻あり
(たまこ)
(320 1032)

1641 > 葉にすがり殻脱ぎ捨てむとする蝉の透きとほる羽かすかにふるふ
(登美子) たまこさん、ありがとうございます。
(320 1642)

1642 > 春の朝かすかに聴こえしうぐいすの鳴き声日増しに軽やかなりて
(藍子)
(320 1653)

1643 > ちさき穴殻に穿ちて祝祭の卵飾(よそ)へり春待つ午後に 
(素蘭)
(320 2103)

1644 > 卵色のマフラーをして早春のまだやや冷たき風の中ゆく 
(萌)
(321 0001)

1645 > 衝動買ひせし訳が未だに続きゐて緋色のパシュミナ厭ひ始めつ
(たまこ)
(321 1049)

1646 > 晋山式いまし終はれり客僧は萌葱ごろもの裾ひるがへす 
(堂島屋)
(321 2028)

1647 > 軍服の白あざらけき原潜の艦長せめて真実を語れ
(登美子)
(321 2308)

1648 > 分岐する度に淋しい方を来てゆきあたりたる夢中山幻住寺
(たまこ)
(321 2308)

1649 > 支線への分岐を過ぎて心なし線路の声の高くなりたる 
(萌)
(321 2331)

1650 > 雪解けの水分かれゆく高原に水芭蕉咲く四月来たりぬ 
(素蘭)
(322 0031)

1651 > LessonのIを子供と読んでみる四月は心を素直にさせて
(たまこ)
(322 1321)

1652 > あいまいみい・ゆうゆわゆう・ひいひずひむとつづりしむかししぬばゆるかも 
(堂島屋)
(322 1905)

1653 > 老紳士ビュッフェのケーキ選びをり“Eanie meanie minie mo?”(どれにしようかな?) 
(素蘭)
(322 2008)

1654 > 銀座通り一歩入りしケーキ店昼間の行方不明を楽しむ 
(萌)
(322 2336)

1655 > 何処へと鳥帰るらむ黄昏に浜辺さまよふわれを残して 
(素蘭)
(323 0028)

1656 > 昨日は蛙・今日は燕がもどり来て夢の中にも戻りこぬ父
(たまこ)
(323 1826)

1657 > 飛ぶ夢を見つづけつひに覚めぬ君 生けりとや云ふ死ねりとや云ふ 
(堂島屋)
(323 1222)

1658 > 島つ鳥鵜の眼鷹の眼掻い潜り鵜の真似するは烏なりけり 
(元気)
(323 1712)

1659 > 何求め続けてきたのか鳥さへも空を自在に翔けるにあらず
(登美子)
(323 1759)

1660 > 鳥ならば羽の付け根のそのあたりに風が染むなり人生半ば
(たまこ)
(323 2120)

1661 > 救済を歌に求めし受刑者の三十一文字に自由あれかし 
(素蘭)
(323 2128)

1662 > 一万の自転車盗み一生を罪に彷徨え代償高し
(元気)
(324 1344)

1663 > 一台の自転車貴重なりし日の哀切描く『自転車泥棒』 
(素蘭)
(324 1543)

1664 > みんな何故?生きているのかその一生 花鳥風月そのまま在るなり
(藍子)
(324 1545)

1665 > 初花のほころべる日に西からの地震の便りに心傷みぬ 
(萌)
(324 1723)

1666 > 専制に虐げられた人々の身を思いやれ清き人々ぞ 
(元気)
(324 1753)

1667 > おぞましく朽ちし巨木に躍動す虫けらという尊き命 
(重陽)  
(324 2015)

1668 > 二本(ふたもと)の桜湖畔に花散らし実生の命育みてゆく 
(素蘭)
(324 2325)

1669 > もつともつと後ろへ下がれ千年の桜の全景を撮(と)るといふなら
(たまこ)
(325 0809)

1670 > をさな木の恥らふごとき初心なる青き蕾みにしばし心とどめむ 
(重陽)
(325 0906)

1671 > やはらかに若木の桜含(ふふ)まりてはつかに咲ける春を待つらむ 
(素蘭)
(325 1551)

1672 > 雨の中目立ちてふくらみて来たる桜に急ぐなと囁けり 
(萌)
(325 1836)

1673 > 凝らしても吾におぼろなむら雨をものの芽よろずしかと待ちける 
(重陽)
(325 1909)

1674 > 蒼き花野を海原に変えつらむ土筆坊やは波と戯る 
(素蘭)
(325 2033)

1675 > 春の野をひとり占めして摘むれんげ私はむかしの姫みこ気分
(たまこ)
(325 2119)

1676 > ふるさとに病得たるといふ父の心をさなき日を翔けてゐむ
(登美子)
(325 2337)

1677 > 病みしこと告げずに生きるその春に惑ひし心翔ける言葉は?
(春秋)
(326 0007)

1678 > 悲しみはまだ明けぬのか喪のあくる君よりこない賀状せつなし 
(素蘭)
(326 0038)

1679 > きはまれる悲しみ故に閉ざすらし固き思ひの睦るを待たん 
(重陽)
(326 0623)

1680 > 持ち寄りしお菓子の匂ふ歌会に境涯詠一首辛夷の白さ
(たまこ)
(326 0853)

1681 > 交はりをいとひて来しがwebてふ世界を知りて聞く花便り
(登美子)
(326 1055)

1682 > 交はりてはじめて知るや吾が成せる日々ことごとの色も匂いも
(重陽)
(326 1340)

1683 > 檻のなかに一頭なれば白熊の明日も今日と同じであらむ
(たまこ)
(326 1740)

1684 > うつつにはあらぬ夢路に漂ひぬわれを演じて疲れし夜には 
(素蘭)
(326 2313)

1685 > 夢路にも遠き黄砂の霞みたり桃源郷の大仏哀れ 
(萌)
(326 2320)

1686 > 叱つたり叱られたりして母とゆく桃源郷はカーンと晴れて
(たまこ)
(327 0753)

1686 > 石仏の跡形もなき岩窟のいにしえ人の祈りはあらむ 
(重陽)
(327 0753)

1688 > 天空に光奏でる交響詩恩寵のごとオーロラを見ゆ 
(素蘭)
(328 0002)

1689 > 天空ゆ今しミールの堕ちる時と校正室のさらに静もる
(たまこ)
(328 0931)

1690 > 春の空のくぐもる光りうけをりて毛細管にめぐる血をおぼゆ 
(重陽)
(328 1048)

1691 > 道の辺の草みな小さき花つけて地より享けたる青き血めぐらす
(登美子)
(328 1645)

1692 > スカーフのごとく広がり早春の中州は砂も緑をおびる
(たまこ)
(328 1831)

1693 > 早春の入り口にいてひと言の夢のようなる風を受けおり 
(萌)
(328 2321)

1694 > 早春の画廊に淡き色あふるパウル・クレーの油彩画ありて 
(素蘭)
(328 2350)

1695 > 淋しさの滴の垂るるやうな日は洲之内徹の『気まぐれ美術館』
(たまこ)
(329 0806)

1696 > 虚しさの淵をいでばやおりおりの絵と人間の『絵のなかの散歩』 
(重陽)
(329 0906)

1697 > エッシャーの画中に棲みてこがね鬚もつ鬱猫は翁さびたリ 
(堂島屋)
(329 1247)

1698 > 佐太郎の三四二のかの子の桜花ともに仰ぎて良き歌仲間
(たまこ)
(329 2019)

1699 > 雲閉じて今にも雨の来るらしき花に冷たき風も吹き初む 
(重陽)
(329 2040)

1700 > 天象の導きなるかわが生は星の宿りの静けさにゐて 
(素蘭) 『星宿』佐藤佐太郎
(329 2150)