桃李歌壇  目次

イカロスの翼

連作和歌 百韻

2101 > イカロスの翼は溶けて落つるとも焦がれてやまず神の領域
(登美子)
(622 0626)

2102 > 「でうすえくすまきな」機械じかけの神々にとりまかれたる百鬼夜行図 
(堂島屋)
(622 1028)

2103 > 一対の角を具えし鬼出でて能楽堂にしわぶきも消ゆ
(重陽)
(622 1348)

2104 > 時にみずから心を鬼にしてゆけり光だけでは辿れない道 
(萌)
(622 2323)

2105 > 検証を厭ひ叙情の微温湯につかりしわれを冷めて眺むる 
(素蘭)
(623 0051)

2106 > 天城越え道なき恋に迷ふともさめぬ微温湯火照るこのみよ 
(月下美人)
(623 1344)

2107 > 懸鶉の聖者路傍につらつらと恋の道ゆき眺めてをりぬ 
(堂島屋)
(623 1926)

2108 > 北国に遅き春告ぐ白玉のつらつら椿つらつら愛し 
(素蘭)
(623 2133)

2109 > 夏椿すこし頼りなげなる花 山の気帯びし寺に咲きたる 
(萌)
(624 0031)

2110 > おほかたの寺宝焼けぬと慶長の役を語りし韓の法師は 
(堂島屋)
(624 1939)

2111 > 古唐津の碗に描きて偲びしか海に隔たる野辺の八千草 
(素蘭)
(625 0019)

2112 > 栗の花の匂へば思ひだす街の三角公園青いシーソー
(たまこ)
(625 1935)

2113 > 三角に残る中洲を安住の地として百鳥ゆふべ戻り来
(登美子)
(625 2032)

2114 > 閑適の歌うたふらむ老鶯は恋も悩みも忘れしに似て 
(堂島屋)
(625 2125)

2115 > 緩やかにうねりてつづく山道を夏鶯を聞きつつゆけり 
(萌)
(625 2247)

2116 > いにしへの恋物語追ひながらたどる古道に鶯を聞く 
(素蘭)
(626 0023)

2117 > モバイルのアンテナ渡り鶯は朝のお勤めわがもの顔に 
(重陽)
(626 0640)

2118 > 土手道の行く手はばみて蔓性の草はびこりぬわがもの顔に 
(素蘭)
(627 0045)

2119 > わが行く手はばむものあらばはじめから遠回りするすべ身につきぬ
(登美子)
(627 0746)

2120 > 側線を持つや円転滑脱に苦海を遊ぶ君が才覚 
(堂島屋)
(627 1751)

2121 > 支線へと入れば線路ぎわの草の丈高まりて草の香のなか 
(萌)
(627 2334)

2122 > 西国の満願寺へといく鉄路廃れしのちに草や覆へる 
(素蘭)
(629 0013)

2123 > ティールームに和の雰囲気をとり入れし竹の絵柄の壁紙やさし 
(萌)
(629 0013)

2124 > もくもくと雲のわきたる壁紙を貼りめぐらせし小児病棟 
(素蘭)
(629 0022)

2125 > 梅雨雲が眼下に見ゆる機窓から遥かに湧きし夏雲も見ゆ 
(重陽)
(629 0928)

2126 > 天の原かけてあらぶる雷鳴を下に聞きつつ富士の高嶺は 
(堂島屋)
(629 1118)

2127 > 中伊豆の最上階の富士見の湯真向かうはだか我は卑しき  
(しゅう)
(629 2134)

2128 > 一日の山旅なれどいただきに富士を見しかば心足らへり
(登美子)
(629 2319)

2129 > 富士の嶺の秀麗な姿いつの日か終わりが来るというも必然 
(萌)
(629 2335)

2130 > みちのくの旅の終はりに眺めしは雪いただかぬ伊吹霊峰 
(素蘭)
(630 0033)

2131 > 眼下には陸と海との二色が見え隠れしつ襟裳へ向かう
(重陽)
(630 1314)

2132 > 機影ただ魚影のごとくまつぶさに観るはラララの宇宙人かな 
(堂島屋)
(630 1744)

2133 > 魚影追ひ静寂の波にたゆるとき魚眼レンズのわれとなりたき 
(素蘭)
(630 1821)

2134 > 補陀落へ急ぐともなく欠伸するおほきくらげと我はならまし 
(堂島屋)
(630 1837)

2135 > 外国航路かつて行きかいし港のんびりとくらげ浮ける真昼間 
(萌)
(630 1926)

2136 > 原子炉の熱排水を吐呑してくらくらくらげくらげ犇く 
(堂島屋)
(630 1933)

2137 > バーチャルの世界に集へばただよへるくらげのごとき恋もあるらむ
(登美子)
(630 2013)

2138 > バーチャルの吟行なれど母川にきみと蛍を追ふも楽しき 
(素蘭)
(71 0033)

2139 > 点ひとつただよふごとき蛍火が真闇の宙にやがて止りぬ 
(重陽)昨夜の蛍狩
(71 0502)

2140 > 蛍狩り迷子となりし吾が記憶ただすに母は「いさ知らず」とふ 
(堂島屋)
(71 1818)

2141 > 幼き日の記憶はときに交錯や螺旋を描き闇に消えゆく
(登美子)
(71 1840)

2142 > ゆっくりと螺旋描きてとぶ蛍水道局の敷地に消えぬ 
(萌)
(71 1923)

2143 > ふるさとの小川に舞いし蛍火よ今はホテルの眺め物なり 
 
(月下美人) (71 2042)

2144 > くろぐろと水を湛へし奥つ城のたまづさなれば蛍恋ふらむ 
(素蘭)
(71 2213)

2145 > 蛍狩り無灯火バスに迷ひ入る蛍ひとつに歓声の湧く 
(堂島屋)
(71 2302)

2146 > 夕闇にひとつ光れるほうたるを追はば真闇へ迷ひ入りなむ 
(素蘭)
(71 2333)

2147 > 蛍こいこちらの水はあ〜まいよ麻酔医のようつつ闇の空 
 (しゅう)
(71 2339)

2148 > 夕闇に消えがちになるウィンドウの灯はユニクロでないカジュアル店 
(萌)
(72 0013)

2149 > アンタレス・マースふたつの赤星が消ぬがちに見ゆ 不穏なる空 
(素蘭)
(72 0127)

2150 > ほうたるの妖しき光 天昇る 流星ふたつ太古の昔 
(伊三)
(72 0241)

2151 > 天に昇り星となりたる神々は現世のままの物語持つ
(登美子)
(72 1543)

2152 > 神様はこんなに近いくるひなく天道虫に星を印して
(たまこ)
(72 1912)

2153 > ときめきのような天道虫の模様に感動しつつ朝がはじまる
(萌)
(72 2137)

2154 > 七つ星背中にしよへる天道の陰陽となり時は廻らむ 
(素蘭)
(73 0014)

2155 > 七つ星昔の人はたどりつつどんな願いを空に託せし 
(萌)
(73 2237)

2156 > 園児らの飾りし竹の短冊に今様事の願ひ多かり 
(素蘭)
(74 0101)

2157 > 織姫の焦がれて待つらむその一夜をのこ刹那に燃やさむとすや
(登美子)
(74 0735)

2158 > 「人は空ばかり見てる」と歌姫の喝破するあり『地上の星』聴く 
(堂島屋)
(74 2046)

2159 > 歌姫のコンサート聞く星まつり 雷にたたられた夕べに 
(萌)
(74 2339)

2160 > 凍て空に愛でし昴もビーナスも消ぬる夏空月の耀ふ 
(素蘭)
(75 0026)

2161 > 酔眼をふと挙げたれば卵黄のやうなる月が出てゐる家路 
(堂島屋)
(75 1814)

2162 > くすり指の爪の半月・白い星 なんの兆しか夏の来る前
(たまこ)
(75 1941)

2163 > 大腿部骨折癒えてカルシウムぬけし十指の爪の陥没 
(堂島屋)
(75 2020)

2164 > カルシウム抜けたるような月食は霞の幕の向こうで進む 
(萌)
(75 2327)

2165 > 酸性雨日常化してカルシウム日々溶かさるる日本列島 
(素蘭)
(75 2355)

2166 > 朝なさなカルシウム剤嚥下せる妻癒さまく骨粗鬆症 
(重陽)
(76 0747)

2167 > カルシウム筋肉体操有酸素運動ああ忙しき老後   
(しゅう)
(76 0855)

2168 > 羊羹の如き骨格筋を持つマグロ食はうよレクター博士 
(堂島屋)
(76 1854)

2169 > とどまるは即ち死といふ回遊魚 しばしは憩へ 人なる君は
(登美子)
(76 1920)

2170 > 銀色のアルノ流るるフィレンツェの街回遊する若き旅人 
(素蘭)
(77 0052)

2171 > 東雲のはるか夏海を凝視せる若き男は身じろぎもせず 
(重陽)
(77 0756)

2172 > ひとときの梅雨の中休みにありて真夏の表情見せている海 
(萌)
(77 0823)

2173 > 選ばれた人という意識悲しく海の画像の蒼きを閉じる 
(しゅう)
(77 2228)

2174 > 葦の海分かれし壁を預言者の閉づるもあはれファラオの民に 
(素蘭)
(78 0150)

2174 > 葦の海分かれし壁を預言者の閉づれば水もあはれファラオの民に 
(78 0140)

2174 > 葦の海分かれし壁を預言者の閉づれば水もあはれファラオの民に 
(素蘭)
(78 0140)

2175 > 夏海の水禍の子らの痛ましき高波巻ける遠き台風
(重陽)
(78 0821)

2176 > 台風の遠くにありて列島にひと足早き真夏呼びたり 
(萌)
(78 1825)

2177 > 蒸す夜の長屋の路地に繋がれて小犬眠りし’60年代 
(堂島屋)
(78 1833)

2178 > 60年代わが青春の手探りに安保闘争触れもせざりき
(登美子)
(78 1857)

2179 > 闘争の季節過ぎたるキャンパスにアンノン族の跋扈始まる 
(素蘭)
(78 2028)

2180 > 時流れ今の子らはという吾も虹をかけんと駆けし時あり 
(重陽)
(78 2049)

2181 > 虹薄れ あせり・あこがれ・あきらめの三叉路に立つ 不惑目前 
(堂島屋)
(78 2119)

2182 > 果無の熊野古道の道半ば路傍に小さき墓しづもれり 
(素蘭)
(79 0105)

2183 > 風化してまなざしやさしき石仏を旅の路傍におろがみて行く
(登美子)
(79 0818)

2184 > 腰越の浜みる露地の小仏に弔ふ花のたれか手むけむ 
(重陽)
(79 1854)

2185 > 雪方の遥かに在れし安曇野に3A顔の夫婦野仏  
(しゅう)
(79 2052)

2186 > 安曇野に湧きいづる水涼やかに渓潤せり花山葵咲く 
(素蘭)
(79 2340)

2187 > 渓水に喉潤しぬここからはひたすら登らん虚空目指して
(登美子)
(710 0629)

2188 > なみなみと“KOBE WATER”汲みて航く 出船 入船 黒船 赤船 
(堂島屋)
(710 2346)

2189 > 思い出の神戸は昼の日の光夜の灯りと輝きのなか 
(萌)
(711 0003)

2190 > 離島までワンデイ・トリップ甲板に浴びる陽射しを怖ぢけざるころ 
(素蘭)
(711 0107)

2191 > セスナ機は無事着水できるという言葉を信じて初めての空の旅 
(萌)
(711 2341)

2192 > 今天女迦陵頻伽の衣まとひでんぐり遊ぶ宇宙空間 
(素蘭)
(712 1003)

2193 > 宇宙とは人が認識することができる範囲の現象と思う 
(萌)
(712 2336)

2194 > コンパス座ぼうえんきょう座南天は航海時代の名残に満ちて 
(素蘭)
(713 0105)

2195 > 連れ立って父と母とが夕焼野人生航路のはての平安
(登美子)
(714 0627)

2196 > いつの間に小さくなりし父母が目を見開きて吾を送りぬ 
(重陽)
(714 1108)

2197 > 〈訂正〉掌中に慈しみゐる玉繭のからころからと唄響(とよ)もして 
(素蘭)
(715 0124)

2197 > 掌中に慈しみゐる玉繭のからころからと唄を響(とよ)もす 
(素蘭)
(715 0024)

2198 > 私たちの世代に「玉ねぎ」は武道館の屋根の略称、歌にもあった 
(萌)
(715 2221)

2199 > 六本の尖塔聳ゆコーランの聲あふれくるブルーモスクに 
(素蘭)
(715 2357)

2200 > 胸内に常に声なき声流れ夏は祈りに満たされてゐる
(登美子)
(716 0708)