桃李歌壇  目次

無言館

連作和歌 百韻

2201 > 無名者の声なき声にあふれしむ無言館とふ哀しき器 
(素蘭)
(716 2243)

2202 > 構造を改革せむと口々にその言の葉の今は虚しく 
(重陽) 
(717 0924)

2203 > 新しい道を拓いた人々も今は主流で寝ているだろう
(元気)
(717 1259)

2204 > 〈新しき村〉にたまねぎ・かぼちゃなど眠りし人とともに育つや 
(素蘭)
(718 0023)

2205 > 新しき風も吹かぬかいくらでも出て来る埃もううんざりだ
(登美子)
(718 0610)

2206 > 参議院選挙熱弁ふるふより仕事のできる涼しきひと欲し 
(紀)
(718 1054)

2207 > 算木院・祝儀院とや加齢臭よどむ魔殿は鬼門に等し 
(堂島屋)
(718 1210)

2208 > クーベルタン男爵の遺志ほど遠き五輪貴族の集へる館 
(素蘭)
(718 2014)

2209 > 糾へる縄の如しとすべからく思ひて沿はぬ日々を見遣りぬ 
(重陽)
(719 0514)

2210 > 塞翁が馬の連れ来し暴れ馬乗るか乗らぬか決めかねてゐる 
(素蘭)
(720 0040)

2211 > 暴れ馬がすなはち優駿とも言へず手綱さばきを間違えぬよに
(登美子)
(720 1741)

2212 > ぬばたまの夜毎身を焼く篝火に手綱とられて潜ける鵜はも 
(素蘭)
(721 1242)

2213 > 夜毎身を燃やす蛍のまたたきのあひ見ぬままに消ゆるもあらむ
(登美子)
(721 2046)

2214 > なまぬるき風に吹かれてそぞろ歩く逢へぬ今宵に二星またたく 
(素蘭)
(721 2336)

2215 > 暑気残る夜の浜辺で若者は眠るを忘れ時を盛りぬ 
(重陽)
(722 1647)

2216 > はかなげに闇に開きてわが心妖しく惑はすからすうり花
(登美子)
(722 2255)

2217 > いなづまの蒼き光は闇を裂き心惑はす花火にも似て 
(素蘭)
(722 2341)

2218 > ぬばたまの黒髪重く掌に受けて水泡と消ゆべし人魚の恋は
(登美子)
(723 2239)

2219 > うたかたの恋たまゆらの命とやはかなごとのみ思ひいづる夜 
(素蘭)
(724 0000)

2220 > 長かれと願ふにあらねどかげろふの夕を待たぬも一生(ひとよ)なりとや
(登美子)
(725 0541)

2221 > 白亜紀の樹々の涙のアモルファス琥珀は虫のタイム・カプセル 
(素蘭)
(725 1926)

2222 > 十年のときは琥珀の酒醸し妻恋ふをのこを静かに泣かす
(登美子)
(725 2250)

2223 > 吾嬬の弟橘のゆかりなる嬬恋村に乳の道見ゆ 
(素蘭)
(726 0111)

2224 > ささ百合の蘂を秘めたる峠道わが嬬も立つ天地のあはひ  
(紀)
(726 0646)

2225 > 瀧道やなづみて行けば笹百合に雲雨湧きいづ万緑の中 
(堂島屋)
(726 1202)

2226 > 雲海に大日輪の沈みゆき色なくしゆく空の寂しき   
(しゅう)
(726 1648)

2227 > 天空の恒河なりしか夕闇に黄道光のはつか流れて 
(素蘭)
(727 0014)

2228 > われここに在りと名乗りて夏の夜の闇待ちて咲く花の香高し
(登美子)
(727 0631)

2229 > くらもちの皇子も求めし優曇華の花逢ひがたき夏の夜の夢
(紀) (727 1038)

2230 > 夏の夜はつれなく更けて蚊遣り火の燃ゆる思ひも灰がちとこそ 
(堂島屋)
(727 1215)

2231 > 隣から大きな嚔筒抜けて聴こゆ厨の西日さす窓  
(しゅう)
(727 2135)

2232 > 大夕焼かたへに絹の雲生れて季たゆみなく移りつつあり
(登美子)
(727 2259)

2233 > 茜さす酸漿ふふみ遊ぶ児の夕焼け空に焦がれゆく夏 
(素蘭)
(729 0119)

2234 > 灼熱の百夜を焦がれて百日紅蒼穹いよよ深かれと咲く
(登美子)
(729 0643)

2235 > 灼熱の太陽浴びて向日葵の黄は焦がれゆく 今日ゴッホ忌と 
(素蘭) 
(730 0058)

2236 > 果てまでも埋め尽せる向日葵は焦がれし如く黒々として
(重陽)
(730 1139)

2237 > 太陽を追いて悔い無き向日葵の覚悟のほどの黒き立ち枯れ 
(しゅう)
(730 1413)

2238 > 悔いのなき半生なりしやと問ふよりも終の日までを悔いなきやうに
(登美子)
(730 2244)

2239 > 今生のいまが良けれといふひとの卯波のごとき半生も良し 
(素蘭)
(731 0101)

2240 > 何となく心波立つ日はいっそ女のさがに徹してみむか
(登美子)
(731 2201)

2241 > 生命の起源は海の微生物ゲノムは昏き海を忘れず 
(素蘭)
(81 0041)

2242 > エエテルは宇宙羊水爛々と巨星末魔のフレア吐きあぐ 
(堂島屋)
(81 1215)

2243 > ウルトラの故郷といふM星雲 薔薇・鷲・帽子見れど飽かざる 
(素蘭)
(81 1955)

2244 > SML服のサイズが年齢とともに変はるをいかにせば良き
(登美子)
(81 2205)

2245 > 若女・万媚・深井と面打の暴く加齢の宜なりけるを 
(素蘭)
(81 2348)

2246 > 幾度も死相失せよと打ち直す技神に入る面師夜叉王
(登美子)
(82 1907)

2247 > 過熱する都会に百鬼夜行して眠れぬ蝉がひとしきり鳴く 
(素蘭)
(83 0003)

2248 > 午前四時波のまにまに限りなく蒼くまたたく夜光虫群 
(重陽)
(83 1824)

2249 > 沖つ海眩しき蒼き漁り火のほの揺らぎゐて澪を照らしぬ 
(素蘭)
(84 0109)

2250 > 川波にほの揺らぐ灯を映しつつ流す灯篭天に至れよ
(登美子)
(84 2000)

2251 > 夕茜あかあか燃えて八月の空に挽歌を蝉歌ふらむ 
(素蘭)
(86 0007)

2252 > 患ひし目にはかたしき青空の忘れ難きは終戦の日の 
(重陽)
(86 0447)

2253 > 父母語る耐乏の日は遠けどもなほ精神は拒食症病む 
(堂島屋)
(86 0815)

2254 > あやまちを繰り返しつつ人類の歴史はつひにあの八月に
(登美子)
(86 1525)

2255 > 日本史は大正までかと思つてゐた歴史教育〈我等の時代〉 
(素蘭)
(86 2157)

2256 > 日本の近代史なり絶妙に生きたる叔母の小さき骸   
(しゅう)
(87 1608)

2257 > 入院中痛さと消耗その中で教科書を読み試験に備う
(元気)
(87 1759)

2258 > からからと笑ふ骨すら残らない8月6日の石の階 
(素蘭)
(88 0010)

2259 > 原爆を正義と教ふる倒錯の世に住むことを忘るなよゆめ 
(堂島屋)
(88 1850)

2260 > それぞれに唱ふる正義は異なれどをみなはひたすら平安欲す
(登美子)
(88 2148)

2261 > 如己堂に綴りし文の褪せぬがに今日長崎の鐘は鳴るらむ 
(素蘭)
(89 0042)

2262 > ロザリオに祈りをこめてうち鳴らす長崎の鐘永久に響けよ
(登美子)
(89 1858)

2263 > 廃棄物の処理受け入れし六ヶ所は短い夏の万緑に謐す  
(しゅう)
(89 2158)

2264 > 敦賀へと単身赴任しゆくきみ危険手当の高さ呟く 
(素蘭)
(89 2309)

2265 > 澄み渡る敦賀の海に影投げて原発無心にわが勤め為す
(登美子)
(810 2134)

2266 > あまも生ふ小暗きかげよりちぬいでて光の粒を吐きて過ぎゆく 
(素蘭)
(811 0036)

2267 > 北極の氷に守られクリオネのニンフの舞は見るに笑まるる
(登美子)
(811 0621)

2268 > 透きとほるもののいとしさスケルトン時計支ふる歯車の営 
(素蘭)
(811 1322)

2269 > 3掛ける7変速の自転車を押して坂ゆく歯車見つつ 
(重陽)
(811 1728)

2270 > 銀輪の抜きつ抜かれつ野に消ゆるミラーグラスのアスリートたち 
(素蘭)
(812 0130)

2271 > とりどりの夏着のままに自転車で地の老人が釣りに集まる 
(重陽)
(813 0435)

2272 > 縁台におじさんおばさん集まって帰省の我をちゃん付けで呼ぶ
(登美子)
(813 0631)

2273 > ちやん付けでわれを呼ぶ友ばかりゐてほぐれてゆきぬ同窓の宴 
(素蘭)
(813 1953)

2274 > 絡みついた糸がほぐれてゆくやうに犬も食はない喧嘩終結
(登美子)
(814 0622)

2275 > 本質を問はぬ論議の幕切れを終結とやいふ先送りとや 
(素蘭)
(814 1954)

2276 > うやむやに先送りしてそのあげく終ることなき重荷負ひゆく
(登美子)
(815 0723)

2277 > 御遺訓のほろほろ苦く甦る勝つことばかり良しとする世に 
(素蘭) 『東照宮御遺訓』
(815 1152)

2278 > いと辛き歴史を遺訓として永遠に平和よ続け終戦忌けふ
(登美子)
(815 1322)

2279 > 歴史とは愚行に学ぶことだらういつか来た道歩まぬやうに
(素蘭)
(816 0038)

2280 > 後悔をせずに生きると決めてより清しきものかこころ自在に
(登美子)
(816 1811)

2281 > 道化師の自在に繰るるトランプのトラップトリック騙し絵の国 
(素蘭)
(817 0052)

2282 > ガリバーがアリスがさまよふ幻の国よりも不可思議なるは現し世
(登美子)
(817 1637)

2283 > 草深き児童公園ふらここに置き忘れたる夢を探しに (堂島屋)
(817 1746)

2284 > 哀しみはたとへば真昼ゆやゆよんとふらここ揺らす道化師とゐる 
(素蘭)
(818 0008)

2285 > 大の字の三画の尾ののびやかに真闇を焦がす京の送り火 
(重陽)
(818 0418)

2286 > 火の儀式今始まれり妙法の二字を夜空に唱ふる題目  
(紀)
(818 1830)

2287 > 白煙の赤らみゆくを分けいでてまなうら焦がす今日のほむらは 
(堂島屋)
(818 2019)

2288 > 篝火はほのか揺らぎて夕顔のあだし夢へとわれを誘ふ 
(素蘭)
(819 0129)

2289 > あだし野に露光る頃夕顔のはかなく消えし影偲ばるる
(登美子)
(820 0827)

2290 > 夕暮れて千燈萬燈ともさるる石の仏は秘めて語らじ 
(素蘭)
(821 0019)

2291 > 千波万波とどろき寄するを受けとめて大岩港を守るがに立つ
(登美子)
(821 1354)

2292 > 濁流はこんな間近に来てゐたとのちのち思ふ決壊の夜 
(素蘭)
(821 2354)

2293 > 外堤に高波くだけ鳴動しそそり立ちたる潮の大壁
(重陽)
(822 0525)

2294 > 大波の切っ先砕ける瞬間をボードに捉へサーファー 飛翔す
(登美子)
(822 1711)

2295 > 防波堤かろがろ越ゆる荒波に高ぶりてゆくわれもまたゐる 
(素蘭)
(823 0042)

2296 > 津波とは時速700`あまり 見えたら既に逃るべからず 
(堂島屋)
(823 1216)

2297 > 言霊のさきはふ國に夜ごと夜ごとサザンの唄の流れけるかも 
(素蘭)
(823 2254)

2298 > 言霊の汝は愛しきと告るとみてやがて覚めたるあかときの夢
(登美子)
(824 0643)

2299 > 旅僧の問はず語りにもの狂ふ胡蝶なるべしあかときの夢 
(素蘭)
(824 1959)

2300 > 花のもとに死なむ願ひをただひとつの煩悩として旅行く法師
(登美子)
(825 0619)