桃李歌壇  目次

ねがはくは

連作和歌 百韻

2301 > ねがはくは心静かにおもむきて枯るるがままに黄泉路たどらむ
(重陽)
(825 1620)

2302 > 法師蝉つくつく語る愛宕山連歌のえにし今に偲ばむ 
(素蘭)
(826 0051)

2303 > 好き嫌ひ好きで終はってコスモスの花三輪は風に散りゆく
(登美子)
(826 1943)

2304 > 散らすまへに数えてしまふ束の間の予定調和のなかにゐたくて 
(素蘭)
(827 0019)

2305 > 凌霄のこぼれる朝に露ありて散り敷く門に暫し吾あり 
(重陽)
(828 0434)

2306 > あかあかと赤き鎖の燃ゆるごと凌霄花吐く男のありぬ 
(堂島屋)
(828 1157)

2307 > ぬばたまの黒髪は死語茜さす君らが髪を嘆きつつ見ゆ 
(素蘭)
(828 1902)

2308 > 茶髪子も禿頭なりしいつの日か地黒き髪を懐かしむらむ 
(重陽)
(829 0704)

2309 > 五メートル四方満たざるエレベーター茶髪金髪錦綾なす 
(素蘭)
(830 0038)

2310 > 裾前に錦織りたる留袖の絹の静かな重みをまとふ
(登美子)
(830 0617)

2311 > 絹ずれのさやかに聞こゆ法堂を巡る維那の息白くして 
(堂島屋)
(830 1800)

2312 > 定型といふコスチューム翻し放たれてゆくファントムがゐる 
(素蘭)
(831 2323)

2313 > 定型に組み込まれてゐる安らぎをある時不意に壊したくなる
(登美子)
(91 1629)

2314 > ハンマーに打ち壊さるる壁がある心の壁は越えがたかるも 
(素蘭)
(91 2320)

2315 > 岩穿つハンマーの音滝谷に響きてクライマー垂直に挑む
(登美子)
(92 2134)

2316 > 山峡に語りわたらふ人の絶え巨きダムへと貢がれてゆく 
(素蘭)
(93 0046)

2317 > 山峡の今は静けき巨大ダムロマンをかけし男たちの碑
(重陽)
(93 0425)

2318 > ダム底に沈む運命を救はれて老樹ふたもと枝さしかはす
(登美子)
(93 1958)

2319 > ふたもとの桜に遅速ありぬべし咲くも散れるも果ては枯るるも 
(素蘭)
(94 0110)

2320 > 亀が生きる亀の一生兎には兎の生きざまゴールはひとつ
(登美子)
(94 2046)

2321 > アキレスと兎の駆けつこあやかしの話術巧みに忘れがたかり 
(素蘭)
(95 0059)

2322 > ほろ苦き思ひ出なつかし運動会のかけっこいつもビリから数へ
(登美子)
(95 2253)

2323 > ほろ苦き思ひ出ぽろぽろこぼれくる掠れ掠れのハモニカの音 
(素蘭)
(96 0048)

2324 > ふらんすにたつ友と酌む泡盛は遥かうなさか越えて来し酒 
(堂島屋)
(96 1955)

2325 > ふらんすの野のこくりこの火の色の思ひにそまる歌をしぞ思ふ 
(素蘭)
(97 0114)

2326 > 秋深み酒かむ村の山畑の標めし葡萄は熟れつつをあらむ 
(堂島屋)
(97 1214)

2327 > 早暁の霧払われし丘陵の遥かシャトウに葡萄連なる
(重陽)
(97 1341)

2328 > ひとしずくずつ滴るを掌にうけて啜るがごとく歌詠み継げり
(登美子)
(98 1008)

2328 > 言葉ひとつ選りて歌詠むひつそりと醸されてゆくワインのやうに 
(素蘭)
(98 0001)

2329 > つれづれに聞く虫の音の絶ゆるとき雫こぼるる真闇と思ふ 
(素蘭)
(99 0023)

2330 > 菊の葉の露滴れば長命を言祝ぐ慈童妙観世音   
(絵) 重陽さんへ
(99 1436)

2331 > 重陽の御名のいはれ尋ねしも露のひととせ誕辰祝ふ 
(しゅう)
(99 1448)

2332 > 重陽のいはれ尋ねし孫たちはスリーナインは銀河鉄道の夜と 
(重陽)・これからもよろしくお願いいたします
(99 1651)

2333 > フォーナイン SWISS BANK のインゴット余命しづかに文鎮として
(堂島屋)
(99 1939)

2334 > 座右には何置かるらむ九夜を過ぎて筑波の道をゆく君 
(素蘭)
(910 0049)

2335 > 鉄漿をつけ化粧の母は横乗りに裸馬にて来たる十三夜かな
(詠人知らず)
(910 0934)

2336 > 菊坂の路地の暮れかた一葉が匂ひたつやう十三夜の月 
(素蘭)
(911 0039)

2337 > 匂ひたつ醸しところの息おもふ月を祭りし御酒捧げゐて 
(重陽)
(911 0738)

2338 > うなゐ髪そよろに揺らし月待つと縁に坐したる古思ほゆ 
(堂島屋)
(911 1257)

2339 > かはたれの野に蛇苺満ち満ちてまだ相聞の嫂は来ず
(蓼艸)
(911 1854)

2340 > 弁明の言葉選ぶか無花果の果肉つきたるくちびるのまま 
(堂島屋)
(911 1923)

2341 > 蛇穴をいづればアダムとイヴ達がうすくれなゐのヴェールをまとふ 
(素蘭)
(911 1950)

2342 > ヴィーナスの裸身にヴェールをまとはせて春の目覚めは真珠貝色
(登美子)
(911 2207)

2343 > 黄塵のヴェールまとひてありたたす銅の女神の血涙は見つ 
(堂島屋)
(912 1218)

2344 > 恒河沙となりて降りくるもののした眠れぬ夜に抱かれて眠る 
(素蘭)
(912 1906)

2345 > 燭満つる汝が双眸や聖誕の今宵こそいざ抱かせ給へ
(蓼艸)
(913 1146)

2346 > 常ならぬ身体髪膚かりそめの影と思へど惜しまざらめや 
(堂島屋)
(913 1224)

2347 > 逆縁の子のまたあまた生まれけむ言葉とどかぬ君を淋しむ 
(素蘭)
(913 2016)

2348 > 逆縁かブラウン管に音もなく崩れゆくなり摩天楼二つ
(重陽)
(914 1841)

2349 > 憤りに言葉もなきや父よ母よ子よはらからよ何ゆゑの死ぞ
(登美子)
(914 2201)

2350 > 溢れ出づる涙拭はず帯屋町駆け抜けるなり母は死んだり
(蓼艸)
(914 2311)

2351 > ひとりづつひとりのしづもるかげ連れて疾走してゆくMYSTERY TRAIN 
(素蘭)
(915 0003)

2352 > 疾駆するそびらたたたたたたたたと被弾あるいは冤枉の人 
(堂島屋)
(915 1714)

2353 > 濡れ衣のうわさを背で聞き頬染めてあの胸はまだ遠いと思ふ
(登美子)
(916 1824)

2354 > 濡れ衣もいつしか渇くそのときに賽はいずれにふられしことか
(重陽)
(916 1855)

2355 > THE DIE IS CAST せつなく澄める秋空に狼煙ひとすぢ立ちのぼる見ゆ 
(堂島屋)
(916 1952)

2356 > THE DEATH IS CAST?せつなく澄める秋空に煙草の煙が拡散していく
(虫)
(916 2313)

2357 > 既視感のなかの映像日常がルビコン河を渡りはじめる 
(素蘭)
(917 0049)

2358 > いつの間にか撤収されし海の家いま砂浜は自然のままに
(重陽)
(917 0437)

2359 > 人もなき浦の荒磯にここだくも鴎遊べり秋たけぬらし 
(堂島屋)
(917 1203)

2360 > 夕暮れて川面に群るるかげろふの生けるかぎりのいとなみ見つる 
(素蘭)
(918 0034)

2361 > 篝火の燃え盛りつつ花の奥増(ぞう)の面(おもて)の出を待ちゐたり
(詠人知らず)
(918 1131)

2362 > 待ち合わす階を違えてはぐれけり流しにあらず流して歩く 
(しゅう)
(918 1735)

2363 > 君見ずや電網浄土いはけなき偶然童子の流言と蜚語 
(堂島屋)
(918 2130)

2364 > 語られぬ言葉のあはひおのづからあらはるるあり何を語らむ 
(素蘭)
(918 2351)

2365 > 語り得ぬ思ひ抱けばふと洩らす吐息をひとよとがめたまふな
(登美子)
(920 0609)

2366 > 雄弁な人まず避るべく処すはいつしか我に具わりし術 
(しゅう)
(920 1628)

2367 > ひとりづつひとりの主張さはあれど言葉尖れば居づらくなりぬ 
(素蘭)
(921 0024)

2368 > 妻ととる夕餉にふっと違いては酒肴のうまき味は戻らじ
(重陽)
(921 0359)

2369 > たまさかのいさかひ過ぎて割鍋に綴蓋夫婦のいつもの夕餉
(登美子)
(921 1650)

2370 > 初秋刀魚柚子をしぼればしんしんと深夜帰宅の厨の夕餉 
(堂島屋)
(921 1814)

2371 > 雄弁は疎し多弁の人はトタンの屋根に雨落つやうに哀しき 
(しゅう)
(922 0619)

2372 > 不興なる羽音うとみて蠅打てばたくましき卵しらじら笑ふ 
(素蘭)
(922 1504)

2373 > 不興とて打てど遁れしいく粒のいのちが抱く冷たき炎
(登美子)
(922 2251)

2374 > 秋茜群れ飛ぶ野辺のほむらだちさねさし相模の恋はかなしも 
(素蘭)
(922 2357)

2375 > 曼珠沙華ほむらとなりぬ生涯を逢はぬと決めしおもかげ埋めて
(登美子)
(923 1620)

2376 > 緋の色を並めてさびしき曼珠沙華暮れなづみゆく海を見てゐる 
(素蘭)
(924 0059)

2377 > 南国の海に光は満つるらむ父を守るはどの岩陰ぞ
(登美子)
(924 1653)

2378 > 黒潮を越えし人らは四肢痩せてまづうら枯れし浜木綿に逢ふ 
(堂島屋)
(924 1856)

2379 > 海上に道はありけむ干瀬(ひし)が彼方虹たつ朝のほがらに見ゆる 
(素蘭)
(925 0016)

2380 > 初雪に威を正したる不二の嶺紅の入日にほんのりとして
(重陽)
(925 0503)

2381 > 利尻富士仰ぎて礼文かしこまる桃岩荘は健在なりき 
(素蘭)
(926 0011)

2382 > 生きている証明に書く掲示板アメーバ的連帯として 
(しゅう)
(926 1750)

2383 > 預言者は異常プリオン魂のたとへば劇的結晶作用 
(堂島屋)
(926 2011)

2384 > 神話とは虚構なりしかパンドラの匣放たれて災ひ満てり 
(素蘭)
(927 0032)

2385 > 太古より争ひ絶えぬ愚をなどて人のうちなる神や救はぬ
(登美子)
(928 0624)

2386 > ときじくのかくのこのみの恐くも誰が手にあらむ誰が手に取らむ 
(素蘭)
(928 2356)

2387 > 夜々満ちてゆく月とどめむすべを無み嘆き重ねて十日が明けぬ
(登美子)
(929 0637)

2388 > 藻塩やく浦のとまやの萱の間ゆ漏れていとどを照らす月影 
(堂島屋)
(929 2007)

2389 > 満ちて欠く月のならひに生れしより身ぬちをめぐる月の幾許 
(素蘭)
(930 0056)

2390 > 日常に小さき華やぎもたらしてまた巡り来る結婚記念日
(登美子)
(930 0648)

2391 > しみじみと来し方見つむ日も良かれ金木犀のかをりたつ朝 
(素蘭)
(930 1248)

2392 > おしゃべりな妖精たちが秋の日をさんざめくよに咲く金木犀
(登美子)
(101 0940)

2393 > 金もくせい銀もくせいと零しゆく風はめぐりて頁繰りつつ 
(堂島屋)
(101 1206)

2394 > あきらめの和みきたりしわが生にぼろぼろ零る木犀の花 
(しゅう)
(101 1745)

2395 > その昔投げキッスして別れたる吾妹(わぎも)は今も今も眼交(まなかい)
(蓼艸)
(101 1911)

2396 > くもりなき月あらはるる今宵にぞ昔をとこのまなかひに顕つ 
(素蘭)
(102 0056)

2397 > 今は昔あづまをとめが恋をして鈴鹿嶺わたる月を見るかな
(登美子)
(102 1756)

2398 > 十六夜の月あきらかに薄野は銀の笛もて童子がさやぐ 
(素蘭)
(103 0045)

2399 > 有り明けの雲むらさきに茜さすまだきにうすき十六夜の月
(重陽)
(103 1543)

2400 > 寝待月はつかに見えてよもすがら文書きわびしそのまめ男 
(堂島屋)
(103 1744)