桃李歌壇  目次

更級の月

連作和歌 百韻

2401 > まめまめしき書はまさなけれ更級の月影飽かず眺めやる夜は 
(素蘭)
(104 0033)

2402 > 明け暗れの更級の野にしらじらと露光らせて蕎麦の花咲く
(登美子)
(104 2229)

2403 > 夜のほどろ小草に露の玉おきて物音なべて還り来むとす 
(素蘭)
(105 0119)

2404 > 朝露に浜砂しかと湿りゐて秋深まるを裸足の吾に
(重陽)
(105 0610)

2405 > 虫の闇おどろに深き山の庵に住みふりし人今を嘆かふ 
(堂島屋)
(105 1808)

2406 > しづもれる樹ゆゑとく知るくれなゐのまばらに見えて秋は闌けゆく
(素蘭) (105 1855)

2407 > 多感なりし我が幼年の罌粟月夜父母ひめやかに睦みゐたりき
(蓼艸)
(105 2232)

2408 > 十六夜の夕餉のあとの夫の眼を遣り過ごしたり二十歳のこころ 
(しゅう)
(106 1752)

2409 > たまかぎる夕さりくればかへり来む言葉の園に遊ぶたまゆら 
(素蘭)
(106 2332)

2410 > 言の葉に心を乗せて流しやる宮仕への枷多き日頃を
(登美子)
(107 0722)

2411 > ふるふると細笛聞こゆ犬島の無明(むみょう)の沖を父行くらむか
(蓼艸)
(107 1146)

2412 > いそのかみふるの中道なかなかに笛吹きすさぶ闇はしづけし 
(素蘭)
(108 0138)

2413 > 磯釣りの腕伏す日々の長かりき友陶然の石鯛ゲット 
(重陽)
(108 1758)

2414 > 海幸も己がさちさち牛食はぬ神代に生れて住むよしもがな 
(堂島屋)
(108 1820)

2415 > のどやかに草食む牛と思ひしがあひ食みあひて身をば食みたり 
(素蘭)
(108 2358)

2416 > 牛乳をコップに呷る朝なさな骨粗鬆症避けむと妻は
(重陽)
(1010 0554)

2417 > 冷害で米離れせし日本食牛肉離れとはならぬだろう 
(しゅう)
(1010 1339)

2418 > 将来もしECO‐CRIMINAL裁きなば肉食ふ吾も縊れ死にせむ 
(堂島屋)
(1010 1836)

2419 > 瑠璃色の勇気が裁く正義あり議定書離脱せし大義あり 
(素蘭)
(1011 0039)

2420 > それぞれの色に正義の旗掲げぶつかり合へば闇のひといろ
(登美子)
(1011 0600)

2421 > タックルのなかにボールは隠されてアメフトかくも戦争に似る 
(素蘭)
(1012 0116)

2422 > 待ちかまへ高く手をあげキャッチせるこの一球に戦ひ終はる
(登美子)
(1013 0610)

2423 > NO SIDE 恩讐消えし秋空に誰が手はなれし赤き風船 
(堂島屋)
(1013 1805)

2424 > 澄みわたるパティオの空に二人してバルーンに託す夫婦の誓い
(重陽)
(1013 1933)

2425 > さだめなき世はまさをなる空深く赤き風船とどまれよいさ 
(素蘭)
(1014 0100)

2426 > 犀ひとつクレーン次第に吊り上げて徐々に廻せり瑠璃紺の空
(蓼艸)
(1015 1153)

2426 > 持ち時間少ないけれどしばらくは生きられそうだと父は笑顔で
(登美子)
(1015 0645)

2428 > 角ゆゑに狩らるる犀と神ゆゑに狩りあふヒトといづれゐがたき 
(素蘭)
(1015 2341)

2429 > 回廊を鹿の髑髏でうめ尽す誉れ高かる貴族の館 
(重陽)
(1017 0518)

2430 > たくつぬ白き布のべ伯爵はカアヴィングナイフ優雅に使ふ 
(堂島屋)
(1017 1238)

2431 > 葡萄酒とパン分かちあふ聖餐に使徒書はいへり〈愛しあふべし〉 
(素蘭)
(1018 0023)

2432 > 汚れなきマルセリーノのいたづらを神愛でたまひき抱きたまひき
(登美子)
(1018 0616)

2433 > いたづらに時はへめぐり揺りもどり終末時計今何時だらう 
(素蘭)
(1019 0102)

2434 > 美髯もつお尋ね者も我が目には耶蘇の空似ぞ不敬といへども 
(堂島屋)
(1019 1753)

2435 > 門に貼る鍾馗の札や効能は魔除風邪除疱瘡除とぞ 
(素蘭)
(1020 0043)

2436 > おめかしの小さな紳士淑女らが千歳飴持ちついスキップを
(登美子)
(1020 2232)

2437 > 産土の神忘れたる我等なりとほき杜へと着飾りてゆく 
(素蘭)
(1021 1923)

2438 > 両親に祖父母二組七五三スキップする子のシックスポケット
(重陽)
(1022 0759)

2439 > 千歳飴折れてゐたるか小皇帝借り着の袴つかみいさちる 
(堂島屋)
(1022 1240)

2440 > 逃水の中を美童は一列に祭の笛を吹きつ過ぎるよ
(蓼艸)
(1022 2237)

2441 > 逃水の果てにあるもの追ふやうに空しくあがくひとりづつひとり 
(素蘭)
(1023 0048)

2442 > 蟷螂が虚空に斧を振り上げてむなしきあがきと知るまでの刻
(登美子)
(1023 1619)

2443 > 枯色の蟷螂ひとつ捨てかねし斧を杖つき巡礼のさま 
(堂島屋)
(1023 2006)

2444 > 巡礼のそびらに雪は降りつみてとけゆく夢は砂のごとしも 
(素蘭)
(1024 0054)

2445 > さらさらと秋の砂掌に受けながら残照褪せ行く海を見てゐる
(登美子)
(1024 1439)

2446 > 秋浜の誰が丹精の砂の家壁の小窓に夢がただよう 
(重陽)
(1024 1544)

2447 > あかれゆく棚無し小舟とどめむと鳴き砂に立ち君が領巾振る 
(堂島屋)
(1024 1844)

2448 > かへるみの手向けの幣も振る袖も時とふ旅を斎ひてゐるか 
(素蘭)
(1024 2349)

2449 > 月日たつ早さよと人言ふめれば雷われせめて夕立ちとせむ
(登美子)
(1026 1958)

2450 > 遥々のとどろく音に欹てて久しきことの秋雷と知る 
(重陽)
(1027 0922)

2451 > 雪起し鰤起しとや白山を鈍雲低く流るる向かう 
(素蘭)
(1028 1255)

2452 > かもめの声に鰊来るぞと湧き立ちし栄華の跡に雪虫が舞ふ
(登美子)
(1029 0802)

2453 > 向かひあつて「海賊サラダ」たべてゐるカモメの声も遠く聞こえて
(たまこ)
(1029 1847)

2454 > 蒼穹の果てに挑みしカモメありジョナサンきみはチャック・イエーガーか
(素蘭)
(1030 0901)

2455 > どこまでも翔んでゆくべし干竿に風をはらめる子供らのシャツ
(たまこ)
(1030 1102)

2456 > 久しきやかな三文字の詠人の明るき歌に弾む心を
(重陽)
(1030 1419)

2457 > かな文字の名のやさしさや求めゐし友に巡りあひたる心地す
(登美子)
(1030 1835)

2458 > 〈かくも長き不在〉といふ傷跡の残らぬ戦など無きものを 
(素蘭)
(1031 0126)

2459 > そこに在るだけでうれしいカウベルをドアーに吊す小さな茶店
(たまこ)
(1031 0859)

2460 > 濃く淹れし紅茶にミルクたなびきて夫は新聞うしろから読む 
(堂島屋)
(1031 1207)

2461 > 予定なき日曜の朝くつろぎは詩歌の言葉拾ひはじめる 
(素蘭)
(1031 2354)

2462 > 雨音にかさなり子猫が食べる音 今日は短歌のトーンもダウン
(たまこ)
(111 1942)

2463 > 足占する言葉はいつも来る来ない歩幅微妙に狂ふ気がして 
(堂島屋)
(111 2130)

2464 > はじまりは一個のボタンの掛け違ひふたりの視線が食ひ違つてゆく 
(素蘭)
(112 0047)

2465 > ボタンひとつ掛け違ひたる設計士わがやの改築図面を見せる
(たまこ)
(112 1056)

2466 > 設計図描くのが苦手で生きてきた出たとこ勝負も味なものにて
(登美子)
(112 1950)

2467 > 被曝者の寸断さるるゲノム地図読めねば身ぬち神迷走す 
(素蘭)
(112 2307)

2468 > シャンツエの如く途切れし新設路バーゲンの旗反対の旗
(重陽)
(113 1045)

2469 > 八幡宮の幟を風にはたはたと神輿が過疎の村をねりゆく
(たまこ)
(113 2108)

2470 > 嬉々として羽織袴の小公子本殿を背にガッツポーズを
(重陽)
(114 0622)

2471 > 村の子らの原景にならむ大公孫樹 鎮守の空の金のたて髪
(たまこ)
(114 1231)

2472 > 薨去より一千百年菅公のいとどしぬばゆ秋深みかも 
(堂島屋)
(114 1831)

2473 > み吉野のもみぢを幣と見るまでに散りつつあるか風のまにまに 
(素蘭)
(115 0055)

2474 > きざはしの乱れし息を呑み込みぬ菊花凛々しき湯島天神 
(しゅう)
(115 1913)

2475 > うつろへる色とかをりをまつらはす菊人形の眼にある虚空 
(素蘭)
(115 2309)

2476 > 山なみに利鎌の月は隠れ行き星辰揺れつつ虚空を満たす
(登美子)
(116 1845)

2477 > 月光の差し込む欅の虚(うろ)のなか昔話をねだる子リスら
(たまこ)
(116 2020)

2478 > ほ乳類齧歯目リス科またネズミ科つぶらなる目に変はりなけれど 
(素蘭)
(117 0051)

2479 > 哀しいほどに澄み透る牛の目のなかに吾が映りゐて恥(やさ)しくなりぬ
(たまこ)
(117 0719)

2480 > くるくるとよく動く目でをさなごが落葉の舞ふに合はせて踊る
(登美子)
(117 1035)

2481 > 女神またむなぢ露はに踊りてよ晦冥の世に日を仰ぐため 
(堂島屋)
(117 2200)

2482 > ひさかたの天つ少女が唐衣振る袖のなき新嘗の世か 
(素蘭)
(118 0117)

2483 > 水色の空に透けつつ浮く月を仰ぎつつ行く秋の野の路
(たまこ)
(118 1727)

2484 > 銀河鉄道いまどのあたりわが夢のプラットホームの明かりに停まれ
(登美子)
(118 2254)

2485 > 天空のオデュッセイアはメーテルの旅の途中の銀河鉄道 
(素蘭)
(119 0101)

2486 > 青虫の歯形ののこる菜を食べてどんな星より地球が好きだ
(たまこ)
(119 1928)

2487 > 歯固めを選ぶまなざしかつてわが若き母なる姿重ねて
(ジャスミン) (119 2325)

2488 > カウボーイハットの似合ふ男なりひとつ写象にこだはりをれば 
(素蘭)
(1110 0041)

2489 > 降る花をしとねと見立て惑乱の中に唇奪われている
(ジャスミン)
(1110 0053)

2490 > 枯葉ふるごとく落ちゆく爆弾は枯葉も見えぬアフガンの地に 
(重陽)
(1110 0622)

2491 > 国境という概念はいつからか造化の神の知恵ではなきを
(ジャスミン)
(1110 0823)

2492 > 物差しで引きたるごとき国境は二十世紀の恥の遺跡か 
(重陽)
(1110 0910)

2493 > イスラムもキリストもまた神在わす国造らん為や神とは何ぞ 
(しゅう)
(1110 0915)

2494 > 天界を人は恋ふべしあらがねのつちなる聖地なべて毀たば 
(堂島屋)
(1110 1541)

2495 > 月読みの男を君に例えればわれは嫦娥となりて一献
(ジャスミン)
(1110 2202)

2496 > 蔵はれる樹木の耳もなき渓を赤新月ののぼりゆかむか 
(素蘭)
(1111 0059)

2497 > 三日月を高空に揚げ三人の大人家族に夜の更けゆく 
(しゅう)
(1111 0708)

2498 > 釣磯へ絵島の橋をゆくわれに冨士を仰げと有明の月
(重陽)
(1111 1640)

2499 > 蓬髪の若きライダー高速のインターチェンジでふかす一服
(ジャスミン)
(1111 1958)

2500 > アメリカの自由の風は異端児を嫌ふと知つたベトナムの頃 
(素蘭)
(1111 2257)