桃李歌壇  目次

出口なき門

連作和歌 百韻

2501 > 「労働は自由への道」と書かれたるアウシュヴィッツの出口なき門
(ジャスミン)
(1111 2314)

2502 > 吉原の180店のソープランド門門男立つ夕べ無風 
(しゅう)
(1112 0532)

2503 > ザル法とオスのサガにて維持されし世界最古のシゴト続きおり
(ジャスミン)
(1112 0750)

2504 > ラーマーヤナに描かれしといふ争ひの末法の世にさも似たるかな
(登美子)
(1112 0935)

2505 > 白線の内側で待てとアナウンス さうだあの世は地続きだつた
(たまこ)
(1112 1210)

2506 > 白線の外側に待つここちかな人員削減といふベタ記事 
(堂島屋)
(1112 1255)

2507 > ちっぽけな地域サークルの中にさえポスト巡って無言の軋轢
(ジャスミン)
(1112 1511)

2508 > 戦乱にはわが身の明日の実存をただそれだけを欲し求める
(重陽)
(1112 1946)

2509 > ゆらゆらと湯殿明るき日曜の老人腹の弾傷誇る 
(堂島屋)
(1112 2020)

2509 > 銃弾を込める指先かすかにも人を殺める迷いはあるのか
(ジャスミン)
(1112 2020)

2510 > ラ・フランス雨月のように芳しく地雷のように秘して完熟 
(しゅう)
(1112 2202)

2511 > 雨のごと抱き合いつつ雷神の窓打つ音におののいており
(ジャスミン)
(1112 2318)

2513 > 時じくそ目覚める兵士ありといふ間なくそ人の通える道に 
(素蘭)
(1112 2333)

2514 > いつの世も兵士を送る母の目は遠ざかる背に語りかけてる
(ジャスミン)
(1113 0002)

2515 > 背まろく小さくなりし母の手が日に照らされて白く大きく
( 重陽) (1113 0741)

2516 > 母の乳房舐る幼き妹をひそかに憎みし戦時下のこと
(ジャスミン)
(1113 0920)

2517 > 街路樹の枝打ちされし冬の街にねぐら無くしし親子の鳥よ
(たまこ)
(1113 1023)

2518 > さまざまの理由あるらん木枯らしに吹き寄せられし地下のホームレス
(ジャスミン)
(1113 1122)

2519 > 紙の家住むはいかなる人なれや古き地球儀と文庫本置く 
(堂島屋)
(1113 1210)

2520 > 官の手を拒みて五分の魂を貫き通す道選びしか(ジャスミン)
(1113 1253)

2521 > 白粉に口紅つけて捨てられた人形のよう浜のメリーさん 
(しゅう)
(1113 2154)

2522 > 人形の家をおほへる雪あらば夢のほどろにさめざらましを 
(素蘭)
(1113 2343)

2523 > いつか見た夢かとぞ思う鳩のごと熱き腕にくるまれている
(ジャスミン)
(1114 0946)

2524 > 枯れ落葉を踏みゆく鳩の赤い足きしきし淋しい心の赤さ
(たまこ)
(1114 1055)

2525 > 初冬の銀杏裸身の隠れなし山鳩まろくついゐてぞ鳴く 
(堂島屋)
(1114 1239)

2526 > 裸身と見まごう薄き衣装つけ氷上の美女霧らいておりぬ
(ジャスミン)
(1114 1443)

2527 > キューピーは裸んぼのまま笑ってる過去なんてものなかったように
(登美子)
(1114 1656)

2528 > はしけやしクピドの神のみとらしの弓のあなたに出で立つ吾妹 
(堂島屋)
(1114 1848)

2529 > いつの間に打ち込まれしか恋の矢の抜かずにおれば血潮あふれて
(ジャスミン)
(1114 1950)

2530 > 聞きしかな「好きなんだ」と言う言の葉の耳朶に残りて真赤な動悸 
(しゅう)
(1114 2133)

2531 > 恋知らぬ警部警部輔警視正課長店長監査役ほか 
(堂島屋)
(1114 2247)

2532 > 恋してる男子生徒はお土産のハートのクッキーラップに包む
 (しゅう)
(1114 2322)

2533 > 無理も無し打算効率出世欲いずれも恋とはクロスせぬこと
(ジャスミン)
(1114 2327)

2534 > 標なき三叉路ありぬ選ぶとはつひには捨つることなりぬべし 
(素蘭)
(1115 0048)

2535 > 来る来ないいつも待たせてはぐらかし、んもう、まったく、逃げてやるわよ
(ジャスミン)
(1115 0110)

2536 > フラれては許せないからフルのよと言はれし友は石部金吉 
(堂島屋) 
(1115 1203)

2537 > じやが芋のでこぼこ面を洗ひつつほのぼのと浮かぶ面影のあり
(たまこ)
(1115 1303)

2538 > 霧らひつつ離ると見えし面影のさだかならねどまたもたち来る
(登美子)
(1115 2132)

2539 > 新世紀なるべしタンカ、短歌にて恋愛談義電脳に咲く 
(素蘭)
(1115 2353)

2540 > 訥々と人の真実哲学を説きくれし師のすでに世になし
(ジャスミン)
(1116 0026)

2541 > きみのゐた皐月若葉はけざやかにいぬる霜月零れてやまぬ 
(素蘭)
(1116 2147)

2542 > 散る紅葉足裏に柔く踏みしめて文豪旧居訪ね歩ける
(ジャスミン)
(1117 1216)

2543 > 訪ひし寂光院に冬日さしみほとけすこやかにおはせしものを
(登美子)
(1117 1959)

2544 > 波の花みぎはの池にさかりなる桜紅葉の寂けき夕べ 
(素蘭)
(1118 0024)

2545 > 手をとりて老いの歩みをかばいつつ逝く秋惜しむ妻と夫と
(ジャスミン)
(1119 0000)

2546 > 天翔る獅子はのみどの奥ふかくおらびゐにしか 星の雨降る 
(素蘭)
(1119 0052)

2547 > 絵ノ島の明けもてゆける冷ゆ磯にあまたの星を驚きつみる
(重陽)
(1119 0448)

2548 > たてがみが揺るれば星のしづくたち放たれて燃ゆまたたきの間を
(登美子)
(1119 0938)

2549 > 胸に棲むその人の名を秘しおればときに炎と立ちて昇りぬ
(ジャスミン)
(1119 1257)

2550 > 秘めをれば炎はやがてしろがねの白き吐息となりて昇らむ
(登美子)
(1119 1654)

2551 > ひかがみのサボンを流す微温湯に初冬の陽のきらめきてをり 
(堂島屋)
(1119 1742)

2552 > 凪わたり磯の根見ゆる冬潮に銀鱗鈍き小魚の群れ
(重陽)
(1119 1915)

2553 > 白銀の鱗装束般若とふ智慧の面を授かるあはれ 
(素蘭)
(1120 0053)

2554 > 般若湯五臓六腑をとろかして鼻蠢かす禅智内供は 
(堂島屋)
(1120 1751)

2555 > 鼻の先暮れ残してや龍之介冬ざれの世に何見つらむか
(ジャスミン)
(1120 2140)

2556 > 蕭条とふれる漱石山房の一夜にきみは夢見つらむか 
(素蘭)
(1120 2258)

2557 > 遠山が闇となるまで見つめゐしかの一夜こそわが恋の果て
(登美子)
(1121 1031)

2558 > 触れもせず口にも出さず書きもせず私の恋は一方通行
(ジャスミン)
(1121 1124)

2559 > マントラのごとくかなしき名を唱へひとり野辺ゆく恋にもあるかな 
(堂島屋)
(1121 1216)

2560 > 蒼穹に吸はれゆくもの見つめゐつ風に吹かれて風に震へて 
(素蘭)
(1121 2312)

2561 > 木枯らしの吹きいる中を反戦のビラ配る若き頬の赤さよ
(ジャスミン)
(1121 2346)

2562 > 透きとおる十一月の夕まぐれほのかに富士は赤く聳える
(重陽)
(1122 0503)

2563 > あたたかき十一月を病む人の余命あかるく澄みわたりけり 
(堂島屋)
(1122 1212)

2564 > 人伏すも逝くも知らずにとき過ぎて賀状名簿を直す時期来ぬ
(ジャスミン)
(1122 1227)

2565 > くるこない喪はあくるともあかからぬ君ゆゑからき寿ぎの状 
(素蘭)
(1123 0107)

2566 > 行く道を己が意志にて決めたればプレイバックはもはやすまいと
(ジャスミン)
(1123 1012)

2567 > さはやかに老ひゆく道をめぐらせばわが歳月は夢にすくなし
(重陽)
(1123 1315)

2568 > 生涯に今日といふ日は初めてと八十翁の顔輝けり
(登美子)
(1123 1734)

2569 > 長き夜に卯波の小間のオフの会かねて親しき様に交わる 
(重陽) 
(1123 1812)

2570 > 耳たぶの甘咬みの紅拭いつつ出ずれば空に有明の月
(ジャスミン)
(1123 1852)

2571 > 暖簾(のうれん)を潜れば春の夢のなか真砂女の店に面影有れば 
(絵)
(1123 2046)

2572 > 秋闌けてひとり寝る夜のほどろにはみな美しく夢にたつ見ゆ 
(素蘭)
(1123 2053)

2573 > 心には修羅ありながら逢うときは化粧の顔に笑みを絶やさず
(ジャスミン)
(1123 2200)

2574 > 群れをりて鳴くやくぐもる夕鴉悲しきことの弔いなるか
(重陽)
(1124 0521)

2575 > 命日に墓参かなはず我が父の好みたまひし「冬の旅」聴く  
(絵)
(1124 0901)

2576 > ディスカウのバリトン柔く流れいてアウトバーンをひた走るかな
(ジャスミン)
(1124 0959)

2577 > ホセ・クーラのテノール歌ふ〈アイーダ〉と わがことならぬ悲劇ゆゑ美(は)し
(素蘭)
(1124 1842)

2578 > 吾が好む男はなぜかむかしからA型長男テノールなれり
(ジャスミン)
(1124 2047)

2579 > 吾子A型風呂場に唄ふテノールの声妖しくも魔笛となりぬ 
(絵)
(1124 2125)

2580 > もののけに奪われている閨のうち窓の外より凍る小夜曲
(ジャスミン)
(1124 2244)

2581 > 美しきもの見しひとよハンニバル勤しみなべて真紅の宴 
(素蘭)
(1124 2339)

2582 > うるわしき高き声域夢はるか今バリトンで第九を歌う 
(重陽)
(1125 0559)

2583 > 歳末はどこもかしこも第九なれど私は「荘厳ミサ」の方が好きだ
(ジャスミン)
(1125 0941)

2584 > 亡き祖父の生誕百年けふ思ふ征露の歌を習ひしことも 
(堂島屋)
(1125 1537)

2585 > 幼き日習いし歌はそれぞれに時代と思想映すものなれば
(ジャスミン)
(1125 1556)

2586 > かたはらにをさなき妹眠るまで絵本読みやるわれは十歳
(登美子)
(1125 1810)

2587 > 蓑虫を見つめて飽かぬ三歳の娘と今朝は哲学語る 
(絵)
(1125 1827)

2588 > 戦地なる父に手紙を書かせむと四歳のわれに文字教えし母
(ジャスミン)
(1125 1833)

2589 > 戦乱は過酷なれども思い出にわが人生は豊かなりけり
(重陽)
(1125 1909)

2590 > 抑留と流刑の地なるシベリアは母なる大地の別名を持つ
(ジャスミン)
(1125 2029)

2591 > シベリアの黒き太陽キャンバスにひろごりゆきて美しきかな 
(素蘭) 香月泰男
(1125 2358)

2592 > 子を残し身分財産切り捨てて流刑の夫追うデカブリストの妻
(ジャスミン)
(1126 0020)

2593 > ボウフラを花のお江戸に売り歩く月夜の利左のその後や如何に
(素蘭)
(11270013)

2594 > 朝なさな行き交う人で騒がしき駅をわが家と寝るホームレス
(重陽) (1127 0501)

2595 > 何を捨て何を持つかの選択は哲学ときに深き命題
(ジャスミン)
(1127 1142)

2596 > ハンマーで毀てぬ壁はshieldbarrierなるかそれも命題 
(素蘭)
(1127 2334)

2597 > ベルリンは瑕疵ぬぐひてや東独の往事の猛き若者は今 
(重陽)
(1128 0509)

2598 > 私にもそんな日があった60年安保のデモの群の中にて
(ジャスミン)
(1128 0949)

2599 > いつだってひとりだったわお祭の雑踏のがれる風船みたいに
(登美子)
(1128 1712)

2600 > 奉祝の紀元は二千六百年 断腸亭はいかが迎へし 
(堂島屋)
(1128 1853)