桃李歌壇  目次

花ならば

連作和歌 百韻

2901 > 花ならば満開の前に妹は逝きたり遺影に花のごと笑む
(たまこ)
(323 1942)

2902 > 初花を差すをさなごの指先の紅く透けたる朝のさ庭辺
(登美子)
(324 1708)

2903 > 振り返りふりかへりわれに振りし掌が風に舞ひ散る木の葉に見えし
(たまこ)
(324 2202)

2904 > ふりむくをわれ厭ふれど去年の花思へばともに見し人恋し
(ぎを)
(325 0259)

2905 > 過去に続く道の長手を焼き滅ぼし飛び立つべしと地に花は満つ
(登美子)
(325 1046)

2906 > げに長くわが寝つるかもむめ櫻こきまぜて咲く春に目覚めつ 
(堂島屋)
(325 2214)

2907 > 花冷えの庭に目蓋を閉じたまま動かぬ蛙なにを占ふ
(たまこ)
(325 2325)

2908 > 目つむれば落花流水おろかなる迷ひといへども花はえ忘れじ 
(ぎを)
(326 0150)

2909 > 街川の水面を流るる桜花 追つてはかなし海へ着く夢
(たまこ)
(326 0913)

2910 > ただ1羽黄金の舟のゆりかごに揺られて月夜の海のカナリア
(登美子)
(326 1905)

2911 > ソプラノの悲恋のアリア唄いしがプリマドンナはいかにおわすや
(茉莉花)
(326 2246)

2912 > 過ぎし日のふと浮かびくるさえあるも何処か深く出で来ぬもあり 
(重陽)
(327 0859)

2913 > うたかたの浮かぶも消ゆるも行く川の流れのままに鴨は水脈引く
(登美子)
(327 1245)

2914 > 赤信号の前に溜まりゆく人間の藁くずにも見え泡沫にも見え
(たまこ)
(327 2013)

2915 > 波の底にめでたき都の候ふと幼帝抱きまゐらす尼君
(登美子)
(328 1849)

2916 > 琵琶法師の声かと聞きぬ晩夏(おそなつ)の寂光院のひぐらしの声
(たまこ)
(329 0617)

2917 > 如月のこよひ望月花満ちていにしへ人の偲ばるるかな
(登美子)
(329 1657)

2918 > 転生を何にねがひゐし君ならむ満月の夜を鳴く木の葉木菟
(たまこ)
(330 0943)

2919 > 逃れ得ぬDNAを負はされて立ち上がらんとすクローン牛は
(登美子)
(331 2138)

2920 > クローンてふ怖ろしきもの聴きし夜に挿木匂へる沈丁の花  
(丹仙)
(331 2240)

2921 > 空豆の莢からでるのは空豆で当然といふことは退屈
(たまこ)
(41 2118)

2922 > ワイはオトコでおまえはオンナ呵々大笑の姥桜  
(丹仙)
(42 1136)

2923 > 花の下に乱反射する笑ひ声たのしい時も精一杯に
(たまこ)
(42 1819)

2924 > 大いなる夢追ふ男の挑戦に胸迫り見るプロジェクトX
(登美子)
(42 2159)

2925 > アラスカの雪を頭に野天風呂地の軸廻す吾此処にあり 
(丹仙)
(43 0855)

2926 > 砂の海越えて火の山なほ越えて去りにしひとのゆくへ知らなく
(登美子)
(43 2324)

2926 > 真面目すぎは疲れるだけよ地軸だつて「休め!」の角度に傾いてゐる
(たまこ)
(44 0002)

2927 > ねぇ少し休みましょうか足元に小さな花がほらこんなに咲く
(登美子)
(44 2251)

2928 > たんぽぽの穂綿の白いミニ宇宙 小島の廃屋跡をうずめる
(たまこ)
(45 2310)

2929 > 火の山は長閑に眠る白銀の煙たなびく行方知らずも  
(丹仙)
(46 0838)

2930 > やすらけく眠るがごとし不尽の山覚むれば烈しき裁きの日かも 
(ぎを)
(46 1322)

2931 > けはひする錦ヶ浦の花のころ花にたゆたふ浦は好まし 
(重陽改め蘇生)
(46 1912)

2932 > 日々を新たに生きむ花の浦けふ白冨士の生れて麗し  
(丹仙)
(47 1220)

2933 > 好ましき春はこの春花の春好きいでたちに春は熟れゆく 
(蘇生)
(47 1831)

2934 > 春の夜のかくも激しく降る雨をためらひもせで君が来ませる
(登美子)
(47 2056)

2935 > 戀すてふ我眼を洗ふ春の雨つもれば千重の波とはなりぬ  
(丹仙)
(47 2116)

2936 > わが心ふりみふらずみ春の夜の迷ひの雨に濡れゆけるかも
(ぎを)
(48 0105)

2937 > 柿若葉の緑きらきら滴してわたしの庭は雨上がりです
(たまこ)
(48 1259)

2938 > 鎧戸を繰れば若葉はきらきらと復活祭の朝の鐘の音 
(丹仙) 
(48 1726)

2939 > 美しく彩られたる染め卵異国に在りしイースターの思い出
(茉莉花)
(48 2229)

2940 > 忘れえぬひと日にならむ浜大根の花咲く道を岬へあるく
(たまこ)
(49 0851)

2941 > 二人して岬の虹を仰ぎけり十字を切りて祈る吊り橋  
(丹仙) 
(49 1857)

2942 > 海峡を渡る吊橋夜を灯しフルムーンの旅迎へくれたり
(登美子)
(49 1934)

2943 > ぬばたまの闇より列車の現はれ来て窓べに悩む若き顔や我
(ぎを)
(49 2345)

2944 > ひた走るシベリア横断鉄道に虜囚となりし人ら思いて 
(茉莉花)
(410 0002)

2945 > こくりこの野をひた走る恋のひと心のつばさに吾は天翔る
(登美子)
(410 0715)

2946 > 花びらの皺のばしつつ罌粟がさく神のノックの少し早すぎて
(たまこ)
(410 0800)

2947 > 緋の色の大地を渡る西風にジャンヌ・ダルクは馬洗ひをり  
(丹仙)
(410 0929)

2948 > 花色の大地を走る駿馬らも霞みかすみて野にゆららぎぬ
(やんま)
(410 1038)

2949 > 若者が奔馬となりし世はすでに歴史の色をまとふひとこま
(登美子)
(410 1742)

2950 > 昔むかしをもう語りません一世紀生きたる鰐は脱力状態
(たまこ)
(410 2049)

2951 > 進化てふ文字頑なに消し去りて種の起源読む春炬燵かな  
(丹仙)
(411 0926)

2952 > マンボウのご先祖はフグ 尾を捧げ大海にでる夢を叶へた
(たまこ)
(411 2247)

2953 > 世のことの夢のとぼしき境涯にあふれし夢の昔をおもふ 
(蘇生)
(412 0455)

2954 > 花冷えの路上に積もる塵芥も見果てぬ夢を追いて足掻かん
 
(綺澄) (412 0519)

2955 > 叶はざりし夢のむくろを積み重ねくれなゐ深く牡丹花咲く
(登美子)
(412 0546)

2956 > 散りてなほ花の昂ぶりおさまらず卯月二十日のやはらかき雨
(丹仙)
(412 0935)

2957 > 帰らうよ子取りがくるよ菜の花の野原の果てに月も浮かびぬ
(たまこ)
(412 0949)

2958 > 菜の花の群だち咲ける川原べは懐かしきかな眼も晴れぬ
(ぎを)
(412 1457)

2959 > 海原をかける光のやはらかき好ましきかな春の磯辺は  
(蘇生)
(413 0446)

2960 > 朝焼けに 煌く海の 眩しさに 寒さも忘れ 白砂踏みけり 
(綺澄) (413 0719)

2961 > ともに見るはずなりし一人を思ひをり波照間島の海の朝焼 
(たまこ)
(413 0820)

2962 > 一輪の深き淵なり朝顔は閉づることなき汝が夢の跡 
(丹仙)
(413 0941)

2963 > 暁の小暗き夢路に見しひとのおもかげ去らぬ夕まぐれかも
(登美子)
(413 1833)

2964 > 散りはてし桜の老樹に風わたり狂ほしき夢のあとのやすらぎ
(たまこ)
(413 1954)

2965 > 戯言と知りて睦言交わしては射す日を憾みもらす繰言 
(綺澄) (414 0025)

2966 > くり言もたはぶる言もいつの日か重ねかはすや真言と成らむ 
(蘇生)
(414 0532)

2967 > 真実を知りさへせねばかの王妃も毒リンゴなど作らなかつた
(たまこ)
(414 1043)

2968 > ある晴れた日に突然に吾に渡す汝の林檎は輝きにけり  
(丹仙)
(414 1054)

2969 > 何もかも放り出したい昼下がり青いりんごをかりりとかじる
(登美子)
(414 2232)

2970 > 日常を抜けむ私の窓として真昼に開く世界地図帳 
(たまこ)
(415 0928)

2971 > 日常は即終末と定まりぬ地図捨て去りしヨルダンの西 
(丹仙)
(415 1004)

2972 > 終わり無き世の海泳ぐ誰も皆慰めに咲くひとひらの花 
(綺澄) (415 2358)

2973 > 季うつり山笑むさまも好ましき朝の斜光に破山一笑  
(蘇生) (416 0510)

2974 > 湘南の光の朝の美しきかな弥生卯月は山も運歩す 
(丹仙)
(416 0903)

2975 > 萌えるとはどんな感じぞ大椋の総身よりちくちく若葉萌え出ず
(たまこ)
(416 1836)

2976 > この胸のかすかなゆらぎは恋の芽の萌ゆるにやあらむ畏れつつ抱く
(登美子)
(416 2008)

2977 > ため息とつのる想いは昇華して立ち上りしは恋の陽炎 
(綺澄) (417 0558)

2978 > 人は皆背に翼持つイカロスとなりて旅たつ父母の家より  
(丹仙)
(417 1125)

2979 > 春の駅に電車を待てばわれの手の青春切符を風のさらへり
(たまこ)
(417 1940)

2980 > 夏野菜の植付け済めば名古屋から青春切符で横浜へも来よ
(しゅう)
(417 2122)

2981 > 鈍行の夜行列車に傷心の一人旅したあの頃のこと
(茉莉花)
(417 2148)

2982 > 去るものは追はじと決めて安き身に紅の牡丹の崩れゆく音
(登美子)
(417 2247)

2983 > 口紅の色ことさらに濃くさせば迷えることも決まる気がして
(茉莉花)
(417 2348)

2984 > 行く行かぬ迷ひて見れば風なきにかそけく揺るる鈴蘭の花 
(ぎを)
(418 0008)

2985 > つと触れし茅花の綿毛が飛んでゆくわたしの夢を叶へるために
(たまこ)
(418 0857)

2986 > 少年よ大志を抱けクラークの碑に鈴蘭の匂ふ学び舎 
(丹仙)
(418 1535)

2987 > 裏山に風光るころ志ならずといへどいざ帰りなん
(登美子)
(418 1933)

2988 > 裏富士の大きく深く抱くように霧湧き立つや山中湖畔 
(しゅう)
(418 2201)

2989 > 湖のほとりをめぐる夜2人月が照らすは逡巡の恋
 
(綺澄) (418 2351)

2990 > よきことのうれふることのめぐるなむ人恋ふことのせつなきことの
(蘇生) (419 0435)

2991 > 春の夜にひそかにゆきしその人のおもひ枝垂れて花にまつはる 
(丹仙)
(419 0959)

2992 > さなきだにおもひ多かる春の日をいかに過ぐせとひとは旅行く
(登美子)
(419 1944)

2993 > 多摩川の鉄橋渡るとき鴨の漂う見ればさすらいにけり 
(しゅう)
(419 2146)

2994 > 車窓より見える河原の大きな木その名が知りたい、ああ旅ごごろ
(ぎを)
(420 0029)

2995 > ワンルーム片付け終えて振り返る長き旅より今帰りなん 
(綺澄) (420 0244)

2996 > 冠雪の黒姫山が見えてきぬあとひと駅で故郷の街 
(たまこ)
(420 0557)

2997 > 塀の外地に重なりし赤椿長き旅路か開かぬ雨戸に  
(蘇生) 
(420 0611)

2998 > 加賀の寺つひの旅路や現身は黄泉に墜つるも侘助の花 
(丹仙)
(420 0933)

2999 > 圧倒的な菜の花のなか窒息をしそうでわたし歌詠うなり 
(しゅう)
(420 1442)

3000 > 美しきやまとことばのあやなせる桃李の苑に集ふさきはひ
(登美子)
(420 1725)