桃李歌壇  目次

八十葉茂れる

連作和歌 百韻

3001 > あめつちの開けし前の光あり八十葉茂れるこの神の苑 
(丹仙)
(420 2039)

3002 > 光あれと誰かの声を聞きながら闇のトンネル出れば出生
(ぎを)(421 0054)

3003 > 世に出るは俺の好みじゃないんだと河童の声が聞こえてきそう
(茉莉花)
(421 1128)

3004 > 面壁もはや七年の僧なれば物音たてず胡瓜食せり 
(丹仙)
(421 1458)

3005 > 雪舟の達磨も慧可も弱り目で人は巌にならぬが仏
(ぎを)
(422 0032)

3006 > 門前に「立入謝絶」の札掛かり若い禅僧の庭掃くを見ゆ 
(しゅう)
(422 0602)

3007 > 栗の毬ころがる備中宝福寺わんぱく小坊主雪舟の寺
(たまこ)
(422 0936)

3008 > 墨色に花描く筆の鎮まれば老師微笑み我は会釈す  
(丹仙)  
(422 1302)

3009 > 豁然と墨痕迷ひを断つ如し峙つ巌は雪舟の禅
(ぎを)
(423 0028)

3010 > ゆく春の墓標のごとし黒き雲を映して今朝の高層ビルは
(たまこ)
(423 0639)

3011 > 暁の幾重にもなる紫雲見てまだ見ぬ今日を思い描かん
(綺澄)
(423 0747)

3012 > 窓拭きの眼と眼の遭ひし春のビル彼方に低き紫の冨士 
(丹仙)
(423 0911)

3013 > 目を合はすことさへなくて片恋の終はりし春のゆふべ忘れず
(登美子)
(423 1643)

3014 > 掛け違った釦のように青春は新宿東口喫茶らんぶる 
(しゅう)
(423 2121)

3015 > 青春は離れて分かる騙し絵か見えた図柄に騙され生きる
(ぎを)
(424 0023)

3016 > わたしのことお前なんて呼ばないでよと新宿雑踏響くソプラノ
(茉莉花)
(424 0112)

3017 > 信号機雑踏見つめ何思う軽やかに舞う人々の群
(綺澄)
(424 0201)

3018 > 「白てんを抱く貴婦人」の清らかな知性の前に雑踏の芥 
(しゅう)
(424 0620)

3019 > 街路樹の下に積まるるごみ袋 雨を弾きてたのしげな音
(たまこ)
(424 0815)

3020 > 雨弾く音もあやしや序破急の急に至るも名残惜しまず 
(丹仙)
(424 1013)

3021 > 終章に向かひ旋律高まりてをののく胸をかき抱きをり
(登美子)
(424 2314)

3022 > 楽の音は水の身体を執拗に責める千手の愛撫のごとく
(ぎを)
(425 0042)

3023 > 旗袍(チーパオ)の少女唄へば華清池に往にしへ偲ぶ春の夕焼 
(丹仙)
(425 1001)

3024 > 金柑の熟実の入る白粥を食みつつなぜか楊貴妃きぶん
(たまこ)
(425 1113)

3025 > なんじやもんじや降りつむ雪と見まがひてこの花やはりなんじやもんじや
(ぎを)
(425 2304)

3026 > 熱き風に綿の木の花白く流れ故郷をかたる日系一世
(たまこ)
(426 1021)

3027 > 弥終の海を照らすや皐月には故郷の花ぞ崖を雪崩るる 
(丹仙)
(426 1239)

3028 > 久方の光あふれる食堂にゴールデンウィークが始まると記事 
(しゅう)
(427 1706)

3029 > 渋滞のニュース流れるテレビ消しさて連休は書き入れ時ぞ
(登美子)
(427 1719)

3030 > 夜流るる光の川はきらきらと渋滞忘れしばし眺めん 
(綺澄)
(428 0053)

3031 > 誰にとも言われるでなく出ニッポン、モーゼ在さず導かれ行く
(茉莉花)
(428 0801)

3032 > 脱出の書を携へよ新月の夜は洞窟の獅子を危(あや)めむ
(丹仙)
(428 1128)

3033 > 英雄を歴史はふたたび欲しゐて過去より迎ふ流人の帝王
(登美子)
(429 0532)

3034 > この國のかたちは失せぬエディプスの王の眼洗ふ夕立のごと 
(丹仙)
(429 2341)

3035 > この国を統ぶるは蠅の王なるか招霊の花甘く匂ふも
(ぎを)
(430 0011)

3036 > うつろひの季をかざりし花々の盛りしときをはや忘れめや 
(蘇生)
(430 0506)

3037 > 風露草を教へてくれた君だからこれから先も近くにゐたい
(たまこ)
(430 1918)

3038 > 汝とありし時さながらに風露草とほく白馬の影宿しをり 
(丹仙)
(430 2020)

3039 > うっすらと夢路の霧は晴れゆけど五月の朝に君はいまさず
(登美子)
(51 0911)

3040 > いつだつて振り向いてみて草の実の弾けるやうなわたしがゐます
(たまこ)
(51 1048)

3041 > 一日の旅を終へむと辿り来し尾根道振り向き谷筋に入る
(登美子)
(51 1929)

3042 > ふと見ればモネの日傘の舞うように初夏はとりどり谷(やと)の風道 
(蘇生)
(52 0624)

3043 > 初夏(はつなつ)の光はまぶし日傘もて若き娘となりし妻描く 
(丹仙) 
(52 1021)

3044 > 産みをへし身を横たへて見てゐたり風にきらめく五月のみどり
(たまこ)
(52 1023)

3045 > 気の早いセミの鳴き声ころころと緑に響きツツジも笑う
(綺澄)
(53 0233)

3046 > わが肩に君がはじめて身を寄せし熊ん蜂とぶ白き藤棚
(やんま)
(53 0304)

3047 > 熊ん蜂の羽音はづみて茅の葉の毛虫も風に光る初夏
(たまこ)
(53 0827)

3048 > ひひるの子いつ旅立つや今朝はこの茅の葉魂をちからと為せり  
(丹仙)
(53 1735)

3049 > 花めくや笑みにすべてを包みても眉間(まゆま)に浮かぶ徒し心は 
(蘇生)
(53 1924)

3050 > いとほしと思へどひとの徒心つれなし顔の根競べして
(登美子)
(53 1951)

3051 > 孤高なる赤富士はるかフジ子聴くにぎはふ浜にひとり楽しむ 
(蘇生)
(54 0932)

3052 > 西海子(さいかち)の実ひとつ落ちてピアニシモ カンパネルラの鐘の音を止む
(丹仙)
(54 1057)

3053 > 耳元にささやくごときピアニシモ佐藤美枝子のルチア絶妙
(茉莉花)
(54 1131)

3054 > われよりも上手でありし妹を偲びつつ弾く今日は「雨だれ」
(たまこ)
(54 1949)

3055 > 今もなお心に残る旋律は淡い想いかピアノのみ知る
(綺澄)
(55 0007)

3056 > 熱情のリズムに揺るる旋律の時めくごとし琴の音妖しく
(ぎを)
(55 0125)

3057 > その音は億年の時をさかのぼり今宵目で聴く新星(ノヴァ)の響きぞ
(ぽぽな)
(55 0145)

3058 > 三博士導く星は地に墜ちて井戸の底より聖母見上ぐる
(丹仙)
(55 1511)

3059 > 母の手を離れて高き夏の樹の枝間に白き吾子の足裏 
(小梅)
(56 2244)

3060 > 足裏でありつつ淋しい土踏まず中途半端に草を感じて
(たまこ)
(56 2329)

3061 > リハビリの老父の散歩に寄り添ひてはつ夏の草きらめく径ゆく
(登美子)
(57 2013)

3062 > 七歳の父が贈られし地球儀の海うすれつつも未だに青し
(たまこ)
(57 2329)

3063 > どんどんと地を踏み鳴らし天仰ぎ心はマチス ダンスの鼓動
(ぽぽな)
(58 1008)

3064 > サバンナの風に吹かれてホホホホホ踊るネイティブ過客のわれら
(たまこ)
(58 1032)

3065 > 魔女ランダ憑かれし君は共通の感覚忘れタヒチへと往く 
(丹仙)
(58 2114)

3066 > 我が善と汝の悪とがせめぎあひ間にあまたの亡霊が哭く
(登美子)
(58 2308)

3067 > どうしても汝の善は吾の悪解なき式に哭き伏す聖地
(ぽぽな)
(59 2025)

3068 > つきつめて責め合ふこともなくなりぬすこし淋しい以心伝心
(たまこ)
(59 2026)

3069 > 火より火を受けつぎ点す万灯の孤心を照らす連作の和歌 
(丹仙)
(59 2335)

3070 > 渡されるたすきは汚れてしまっても心は白く子らへ伝えん
(綺澄)
(510 0154)

3071 > 眼差しは真を射んとして暫しまたゆっくりと目蓋を伏せり 
(蘇生)
(510 0455)

3072 > 男には涼し過ぎるのあなたの目そんなに見ないで泣きたくなるわ
(登美子)
(510 0641)

3073 > 好きだよといへばくすくす笑ふだけモネの日傘の風に舞ふやに 
(蘇生)
(510 0807)

3074 > 「好きなの」と言ってるつもりの五七五「カミさんがね」とはぐらかすひと
(茉莉花)
(510 0843)

3075 > イレギュラーバウンドしつつそこここへ伝つてゆく昨日の言葉
(たまこ)
(510 1044)

3076 > 非日常に遁れんとして阻まれし人らに落つる現実の闇
(登美子)
(510 2104)

3077 > 現実を逃げ出し夢に立てこもる肌で感じる闇のぬくもり
(綺澄
) (511 0134)

3078 > 夢の世にまた夢を説くそれもよし銘酒さはやか朝の目覚めよ 
(丹仙)
(511 1132)

3079 > 抜栓のコルクに想う星霜を生きしワインをいざいざ飲まん 
(蘇生)
(511 1905)

3080 > 発酵の年月ありなむ芳醇の香ぞ漂へるワインも、人も
(ぎを)
(511 2212)

3081 > やはらかにやみよのもりにやどるのはやまのこきふとやそのかみさま
(ぽぽな)
(511 2240)

3082 > 窓外の雨上がりなる透明にグラスを満たすレッドワインで 
(蘇生)
(512 0614)

3083 > 我が生も葡萄酒色に染みにけり殉教者丘(モンマルトル)の街の裏壁 
(丹仙) 
(512 1321)

3084 > めいめいの白皿にふる薔薇の種わが百たびの花をそだてん
(枇杷)
(512 1411)

3085 > めいめいの白い懐紙にのせられてちまきの匂ふ五月の歌会
(たまこ)
(512 2243)

3086 > めいめいと広がる空の海原に龍門目指す鯉のひらめき
(ぽぽな)
(512 2320)

3087 > 群竜はラピュタへの門、少年と少女は忘我の奈落へ墜ちぬ
(ぎを)
(513 0159)

3088 > 真をば求めんとして迷ひたり返し迷ひつ真はここに
(蘇生)
(513 0448)

3089 > 真偽さえ飲み込み今は身を焦がすうたかたの恋もう少しだけ
(綺澄)
(513 0528)

3090 > 恋故に命を懸けし時代あり枷なき今の恋は薄味
(茉莉花)
(513 1213)

3091 > はじめての口づけ想ふたんぽぽの綿毛ふうふう吹く吾子の口
(たまこ)
(513 1620)

3092 > 口づけが眠りの呪文をほどく一瞬(とき)少女はふわりプシュケになりぬ
(ぽぽな)
(513 2013)

3093 > 誘ふ風あらば翔たんと鷲の子の虚空を見つむ眼鋭く
(登美子) (513 2016)

3094 > 風速しそらの高みに父の声飛べば眼下は母の大地よ
(丹仙)
(513 2158)

3095 > 天空の極みに立てる生命の樹の根やうやう地球を解く
(ぎを)
(513 2335)

3096 > 悠々と宇宙に円をえがく球(たま)渦巻くいのち目映く青く
(ぽぽな)
(514 0918)

3097 > 山頂に風うけてわれは帆のごとし此処が地球の舳先と思ふ
(たまこ)
(514 1938)

3098 > ふうはりと糸瓜の揺るる無月かな地の裏側に生れし竜巻 
(丹仙) 
(514 2102)

3099 > ふうはりと揺れてみたかろ瓢箪のひさごとなりても酒を満たせる
(登美子)
(515 1651)

3100 > つつじ花つぼみの炎にほい立ち曇天照らす風潜む朝
(ぽぽな)
(516 0201)