桃李歌壇  目次

沢蛍

連作和歌 百韻

3201 > 夢の世にまたも夢みむ沢蛍袋に満つる川波の影  
(丹仙) 
(611 1118)

3202 > 沢蛍を囲ふわが手を君の手が囲ひしかの夜が始まりでした
(たまこ)
(611 1934)

3203 > 包まれてゐる安らぎがせつなくててのひらの砂固く握りぬ
(登美子)
(611 2015)

3204 > 手をとりて砂浜歩みし日を憶へば白鳥(しらとり)ぞ なほ碧(あお)に舞ひたる
(ぽぽな)
(612 1022)

3205 > 手のひらにグラスの青を映らせて壮年を渉りゆく君の酒
(たまこ)
(613 0938)

3206 > 手造りと買ひしグラスは空の蒼あふるる雲にくちづけの宵
(かのん)
(613 1058)

3207 > 群青の宵はこの手も染めにけり残されしものクリスタルの灯
(緋燕)
(614 1306)

3208 > せいたかの向日葵畑を駈けゆくは きらりきいらりおさな子の声 
(ぽぽな)
(615 1022)

3209 > せいたかのひまわりの実の黒々とアンダルシアの果てなき地平を 
(蘇生)
(615 1417)

3210 > 夢の世に今も夢見む赤い城アルハンブラは故郷を想ふか
(ぽぽな)
(616 0324)

3211 > 明け方の雨に手足の冷えながら「夢ではない」とわれはつぶやく
(たまこ)
(616 0941)

3212 > 梔子の語らぬおもひ秘めかねて香をこそ放てさつきの闇に
(登美子)
(617 1023)

3213 > 行く先も何が待つかも知らぬまま香に導かれ闇の道行
(緋燕)
(617 1044)

3214 > 赤信号の度におもひはつのりつつ夜の海へと車走らす
(たまこ)
(617 2056)

3215 > 信号の三つの色の点滅にわが人生の来しかたを見つ 
(蘇生)
(618 0417)

3216 > ひたすらに石火打ちたるF1(エフワン)の猛るエンジン閃光の如
(ぽぽな)
(618 0436)

3217 > 真紅なるフラッグうねりてモナコ夏F1の火の揺るがす中に 
(蘇生)
(618 0524)

3218 > セナといふ天才ありきサーキットに神と出逢ひて召されしといふ
(ぎを)
(618 2323)

3219 > 峠には神坐すらしエンジンの低きうねりに笑みつ嘆きつ
(かのん)
(619 0949)

3220 > 夕立ちのしぶきにむせぶ高速に君をおもひてアクセル踏みぬ
(ぽぽな)
(619 1000)

3221 > 夏の雲にむかつてはしるドラえもんの四次元ポケットほしい二人は
(たまこ)
(619 1103)

3223 > 発ちたいと切に思えど足は地に案内の雲においてゆかれて
(緋燕)
(619 1835)

3224 > 草繁る地球に背中くっつけて水色宇宙に放つぞ心
(ぽぽな)
(620 1009)

3225 > 刻々と色を織りなす潮目をば魚の心で好むはやわが 
(蘇生)
(621 0957)

3226 > 鳥博士に恋する友のブローチのミミズクの目のつぶらなブルー
(たまこ)
(621 1626)

3227 > 小さな木に六羽とまりてスズメの木チュチュンチチチチもすこしあそぼ
(ぽぽな)
(622 0556)

3228 > 小鳥らの声はすれども欅の木わずかに揺れる枝のみ見せる
(緋燕)
(622 0920)

3229 > ポプラ並木の梢をわたりゆく風を追いかけてゆく光の粒子
(たまこ)
(622 2206)

3230 > 北国の遅々なる春を待ちきれず緑したたる初夏は来にけり 
(蘇生)
(623 0721)

3231 > 遥かなる君恋ふ思ひに乗らましかば すぐ会わましを光を抜きて
(ぽぽな)
(624 0728)

3232 > 名を問わば無きと答へむ君呼べば新たしき名の新たしき吾
(かのん)
(624 1143)

3233 > 三無主義と呼ばれて久し新しき波青く立てニッポン2002
(登美子)
(624 2310)

3234 > 早苗田のさみどりにふる細い雨がんばれがんばれおたまじやくしら
(たまこ)
(625 0742)

3235 > 村雨の一降りごとに鮮やかに石段照らせり紫陽花(あじさい)の花
(ぽぽな)
(625 1003)

3236 > 雨が好きそれは違うわ紫陽花は涙を紛らせたいだけなのよ
(登美子)
(625 1839)

3237 > きざはしの古きついりてしづけしく幾年ほどのついりを経るや 
(蘇生)
(625 1909)

3238 > 高き丘に君と登れば谷の夏山河光りて帰郷を祝ふ
(ぽぽな)
(626 2350)

3239 > 梅雨の雨にこもる谷間の赤い屋根のちひさな園舎にこどもらの声
(たまこ)
(627 2045)

3240 > 昨日まで差したる赤い傘干せば風のまにまに歓声きこゆ
(緋燕)
(628 1231)

3241 > 長城は蛇腹の如し くねくねと吾を迂回して ポーズする 后現代の中国娘は
(丹仙)
(628 1440)

3242 > 不可知(ブークォチ)謝謝(シェシェ)再見(ツァイツェン)歓迎(ファンニ)にわれらのことばの来しかたを見つ
(ぽぽな)
(629 0411)

3243 > 海の徳あつめて懐く白頭の翁なるかな大学に熱烈歓迎旗の靡く  
(丹仙)
(630 1831)

3244 > 湧き立ちし柿田の水の永久なるか不二なるものはゆかしき君か 
(蘇生) 
(630 1841)

3245 > 沢水に汗鎮めつつ辿る道槍の穂はるか雲上にあり
(登美子)
(71 2304)

3246 > 墓碑銘に雲に居ますと刻みたる友訪ね来し夏果つる日に
(やんま)
(71 2320)

3247 > 公園の丘に聳ゆる方尖碑(オベリスク)太陽神(ラー)の玉座をしっかと指さむ
(ぽぽな)
(72 0209)

3248 > 異境にも健気に立てど忘れ得ぬ故郷に何れの日にか帰らむ
(緋燕)
(72 1233)

3249 > わが地球FIFA一色の時過ぎて空中衝突の報せありたり 
(蘇生)
(72 1934)

3250 > 流されてゆくしゃぼん玉悔いのない別れといふができるだらうか
(たまこ)
(73 2014)

3251 > さへづりといふには切なき声をして空ゆく鳥よ西へ向かふか
(登美子)
(73 2141)

3252 > 西の果て美国と綴らるその国は独立謳ふやなほ高らかに
(ぽぽな) (74 0959)

3253 > 西の果てを思へば浮かぶ笑顔ありて「大丈夫だよ」と声も聞こえる
(たまこ)
(75 1128)

3254 > 西域の洋上はるか台風の余す高波に強きを推しぬ (蘇生)
(75 1213)

3255 > インド洋に吾が艨艟の働ける無事に戻れと日々祈りおり
(東夷)
(75 1417)

3256 > キッチンの窓から飛ばすしゃぼんだま弾けるならばわたつみの上
(たまこ)
(75 2343)

3257 > 潮風よな吹きそ吹きそ吾が涙隠す黒髪ああそのままに
(ぽぽな)
(76 0127)

3258 > 黒髪に露置くまでも待ちぬべしけふはな荒れそ天の川波
(登美子)
(77 1821)

3259 > 鵲の翼よ渡せ橋間より燈籠流す天の河岸  
(丹仙)
(77 2124)

3260 > 四面より山覆ふともみすずかる信濃の竜巻き乗れ風雲に
(ぽぽな) (78 0707)

3261 > 空限る墨描く如き夏富士は台風一過の雲を見遣りぬ  
(蘇生)
(78 0728)

3262 > 透きとおり輝く熱い風を受け緑の山は青空にあり
(緋燕)
(78 1050)

3263 > 山道にしたたる青葉くぐりたるあな夏暖簾あな日の光り
(ぽぽな)
(79 1000)

3264 > 白朧の平らき空をカンバスに梅雨夕焼けが紅さしはじむ 
(蘇生)
(710 1255)

3265 > 真夏日や美術学生運びたる裸体の像の羨ましきよ
(ぽぽな)
(711 0628)

3266 > ケイタイの電池の切れる金属音ああ暑い暑い夏になりさう
(たまこ)
(711 1538)

3267 > 火の鳥の羽根の色してカンナ咲くついて来るなら覚悟をおしよ
(登美子)
(711 1954)

3268 > 煮えたぎり覚悟を迫る我が血潮すべて敗北だったのだから
(緋燕)
(713 1040)

3269 > はかな立つ紫露草つぶやけり夕べの夢の消えて散るまで
(ぽぽな)
(713 2340)

3270 > 朝顔の閉づることなき夢もあれ葡萄酒尽きぬ婚宴の席 
(丹仙)
(715 2245)

3271 > 朝顔の音を聞かむとつとめてのあとずさる闇ひきとめもせで
(かのん)
(718 0900)

3272 > 歌思ふ心覚へて初夏は色の香味の音陶酔の峰
(ぽぽな)
(719 0645)

3273 > 沖目よりうねりてすだく高波の岩にくだける音ぞ百様 
(蘇生)
(719 2045)

3274 > ほとばしるそそぐあふれるわきあがる水は子達をとたんに開く
(ぽぽな)
(722 2210)

3275 > ほっそりと腕に搦んでひんやりと骨を冷やして夏の幸せ
(緋燕)
(723 1847)

3276 > 記録的な暑さ続きに駅前の欅の大樹の影ほそりゆく
(たまこ)
(725 1356)

3277 > 地下鉄の二駅のみの夕立哉ひたいの汗を風さらひ行く
(ぽぽな)
(726 0650)

3278 > 四五発の五臓六腑へ大花火たちまち夕べのしじまとなりぬ
(蘇生)
(727 0530)

3279 > 君の目に浮かびし色は紅の短夜に咲く打ち上げ花火
(ぽぽな)
(730 0152)

3280 > 片影の失せし十字で立止まり思い違わぬ人と見合いつ 
(蘇生)
(81 0815)

3281 > 真夏日のゼブラゾーンを渡りつつ影より薄い私と思ふ
(たまこ)
(82 1805)

3282 > 夏の日の白きヴェールの高空に鳶の一羽が天になりをり 
(蘇生)
(84 1734)

3283 > 独身のままにて逝きし叔母の忌の8月6日また巡り来る
(茉莉花)
(85 0812)

3284 > ゆつたりと稲田の緑が波打ちて護り続けてゆきたい景色
(たまこ)  
(87 2246)

3285 > 立秋と知りて誰ぞが吹き寄こすおなじ昨日の山の涼風 
(蘇生)
(88 0507)

3286 > 葉月来て祈りに満ちたる我が国に暫し帰らう澄む空抜けて
(ぽぽな)
(88 1000)

3287 > 涼しげに宙に舞いたる鳶二羽われらが炎暑あざ笑うかに 
(蘇生)
(89 1819)

3288 > 炎天に勁き草なる大文字火焔となりて夜の如意岳 
(重陽)
(814 0915)

3289 > ひとたびはわが夢に立て亡き魂の帰るなる夜の迎火を焚く
(登美子)
(814 1936)

3290 > 高波に洋上遥か台風の猛き自然の理を知る 
(蘇生)
(818 1512)

3291 > 青簾生きてもどりし日も揺れて深き軒端に母老いたまふ 
(堂島屋)
(820 2026)

3292 > いまよりは継ぎて通はせ深草野鈴ふる虫の音は離るれども
(登美子)
(821 2131)

3293 > 虫の音に同じからずやこの秋は万感ありて兆す何かを 
(蘇生)
(824 0812)

3294 > 摂理てふ言葉噛みしめ吾の行く無月の道に桔梗蕾めり  
(丹仙)
(826 1121)

3295 > 炎天に黙するやうに色なせる百日紅は日々にあたらし 
(蘇生)
(827 1055)

3296 > 秋風の立つといへどもゆらゆらに揺るる百夜の夢浅からず
(登美子)
(828 0718)

3297 > 遠吠への犬の声に似て窓が鳴る八月尽日台風近し
(たまこ)
(92 2224)

3298 > 偲びつつアンペリアルのラトーゥルをグラスに満たす八月尽の夜 
(蘇生)
(91 1338)

3299 > 車窓より見渡す秋桜ゆうらゆら共に揺るるや鈍行の旅 
(ぽぽな)
(91 2252)

3300 > 遠ざかる姿ぼわっとふくらんで身を揉むように疾駆す「ひかり」
(登美子)
(93 1632)