桃李歌壇  目次

さらば記憶よ

連作和歌 百韻

3401 > 影薄き人住むといふ虚の世界さらば記憶よ愛しき人よ
(ぎを)
(1023 2215)

3402 > 東西にかよう銀杏の大並木夕べ散りゆくさまは妖しき 
(蘇生)
(1024 0849)

3403 > 子と遊び家に戻ればポケットにどんぐり二つと銀杏が一葉
(ぽぽな)
(1025 0936)

3404 > 金の鳥銀の小鳥に一葉のにほひたちぬる秋闌けにけり 
(素蘭)
(1026 0038)

3405 > 闌のたゆたふ秋の雲居をば数添ふやうに鳥渡りゆく 
(蘇生)
(1026 2019)

3406 > 鳥篭が鳥を探すは人の世かカフカは逃れて四十路に死せり
(ぎを)
(1026 2341)

3407 > 人はいさわれは籠らむ近江道の鳥籠(とこ)の山にぞわれは籠らむ 
(素蘭)
(1027 0039)

3408 > 牢籠の聖者の首はむざむざと踊る歌姫(サロメ)の手に渡りたり 
(ぽぽな)
(1027 0912)

3409 > ピラカンサの鈴なる枝の赤き実は誘うごとく風に揺れたり 
(蘇生)
(1027 1423)

3410 > いさ知らず人の心に熟れる実をいかなる鳥の啄むものかを
(ぎを)
(1029 0025)

3411 > 晩秋の鎌倉山の透く木々の実を啄ばみつ鳥が群れをり 
(蘇生)
(1029 0909)

3412 > あのやうに熟れたいとおもふ秋空の木守柿の実の透明の赤
(たまこ)
(1029 1653)

3413 > 柿簾その白き粉ふく狭間より祈るがごとし群青の空 
(紀)
(1029 1758)

3414 > 山越えの雪雲割れるそのまほらブラックホールに続く群青
(登美子)
(1029 2039)

3415 > 巨大なる溜息のごとし秋の雲はや愛恋の季節は過ぎぬ
(ぎを)
(1029 2354)

3416 > 朝夕はそぞろ寒しの電話あり赤きイクラが追うように来り 
(蘇生)
(1030 0538)

3417 > 秋の陽を集めて耀うその色は真紅朱橙金(しんく.しゅ.だいだい.きん)なり木の実
(ぽぽな)
(1030 0840)

3418 > 秋なれば木の実艸のみひろはむよそらに木立のいまは何色 
(素蘭)
(1030 1030)

3419 > 拾ひたる椎の実ひとつわれの手のなかに芽吹けよ春がきたなら
(たまこ)
(1030 2133)

3420 > 君の手を初めて握りしあの日より手が手を恋ふること知りそめぬ
(ぎを)
(111 0058)

3421 > 働くこと休めるときに手を見たるひとりのわれにかへらむときに 
(素蘭)
(111 0122)

3422 > 手に余るかぼちゃに目鼻と口つけてカボチャちょうちんハロウィンの夜
(ぽぽな)
(111 0443)

3423 > 何になりたいのか巨大な茜色かぼちやが秋の畑に濡れをり
(たまこ)
(111 0926)

3424 > ハロウィーンの仮装の行くに紛れるは三途帰りの魂(たま)かうつつか
(ぽぽな)
(111 1103)

3425 > 仮装行列行きたるあとをほうほうと薄の穂綿に風ふくばかり
(たまこ)
(111 1654)

3426 > こがねづく田の面(も)の穂波ほのぼのと霧たつ朝の風は知らゆな 
(素蘭)
(112 0133)

3426 > 照りはえし四五株ほどのすすき穂が引込線の錆びを覆いて 
(蘇生)
(114 0732)

3427 > 人見えぬ刈田は小春日和にて上総の海は光た走る  
(蘇生)
(112 0552)

3428 > 薄から薄へわたる蜘蛛の糸を伝ひて秋の光が走る
(たまこ)
(113 0019)

3429 > がうがうと野分きの風のいたづらに尾花こぞりて打ひしがれり 
(ぽぽな)
(113 0314)

3430 > 巨きもののたうつ如くすすき野は霙るる風の澪を映せり  
(蘇生)
(113 0454)

3431 > 芒野に澪のありとや西風(にし)吹かばそよその路をわたりかゆかむ 
(素蘭)
(113 2252)

3432 > 巨大なるものの体内に居るごとし風吹き渡る芒野ゆけば
(ぎを)
(113 2338)

3433 > やはらかに秋の光は友に降る二つの命を持てるその身に 
(ぽぽな)
(114 0210)

3434 > 秋風に麒麟はまつげを伏せながら首に小鳥を止まらせてゆく
(たまこ)
(115 0901)

3435 > 赤い鳥木の実の赤き茂みから生まれるごとく飛び発ちにけり 
(ぽぽな)
(115 0957)

3436 > 木の実落つひとの消息さりげなく記すふみ読む夜のしじまに
(登美子)
(115 1813)

3437 > 天高しイエローキャブを呼び止めて「消息不明になれるところまで」
(たまこ)
(115 1950)

3438 > さすらひの詩人の行方は風に問ふ恋の行方は下駄で占ふ
(登美子)
(115 2058)

3439 > 夕占(ゆふうら)に下駄を投げてし秋天の雲ちりぢりに明日どうなる 
(素蘭)
(115 2252)

3440 > 小春日は長く続かじ我が胸に未練の雲わきまた風たちぬ
(ぎを)
(115 2301)

3441 > 占ひの何かことある思ひさへけふの夕べにみな忘るらん 
(蘇生)
(116 0651)

3442 > 忘れたくも忘られぬ想い胸にあり雨音さみし夜半の目覚めよ
(ぽぽな)
(116 0703)

3443 > 朝の来ぬ夜のあることを知つたのに強くもなれぬ清くもなれぬ
(たまこ)
(116 2121)

3444 > 穢れより生(あ)るるものあり白妙の天花あこやのまきてかなしも 
(素蘭)
(116 2238)

3445 > 終なりていかなる情の残るにやわれ求めゆく人恋ふことを  
(蘇生)
(117 0434)

3446 > 白き手を掴みそこねて別れたるこの桟橋の遠き日のこと
(やんま)
(117 0544)

3447 > 湖の魚に呪文をかけるよに糸を手繰るや秋の釣り人
(ぽぽな)
(117 0716)

3448 > 暗き沼見つめておりし画像あり遙かむかしとなりし遠景
(茉莉花)
(117 1213)

3449 > 帰りたい景色には必ずだれかゐてたとへば陽当たる縁側に祖母
(たまこ)
(117 1712)

3450 > 帰りなむ籬に花のしをるれば侘び寂び昔しのばむものを 
(素蘭)
(117 2356)

3451 > 朝夕に四季に心に寂しおり軽み細みを訪ぬる詩人
(ぽぽな)
(118 1104)

3452 > 冬が来る前に言葉を集めませう独りの夜の詩を編むために
(たまこ)
(118 2103)

3453 > うつし身をカモフラージュするためならばまとひもしませう朽葉の小袖
(登美子)
(118 2237)

3454 > 朽ちし葉のかさなり合ひし土くれにめぐりめぐりし命ありけり  
(蘇生)
(119 0449)

3455 > 土にふらば土に還らむ雨や葉のごとく都会に人はふらむか 
(素蘭)
(119 1536)

3456 > これやこの持つも持たぬも集きては待ちて過ぎ去るタイムズ・スクエア 
(ぽぽな)
(1110 0048)

3457 > 呑んべぃの だくれ姿は消えゆけり 通りの今はカップルの渦 
(蘇生) 
(1110 0524)

3458 > 通り毎に朝日が伸ばす影法師の皆ジャコメティの銅像となる 
(ぽぽな)
(1110 0931)

3459 > わが影のジャコメッテイに拍手して夕べベルトは鱈に腹せり 
(蘇生) 
(1110 1822)

3460 > あつといふ間に過ぎ去りし歳月よ汝(な)は太腹に吾(われ)は干鱈 
(丹仙)
(1110 1834)

3461 > 歳時記をさいさいめくりめぐるまに夢に逢ひたる人と逢ひたる 
(素蘭)
(1111 0002)

3462 > 季寄せなど残りわずかになりし今にぎははしきや手帳売り場は 
(蘇生)
(1111 0602)

3463 > 夢を追ひ続けし咎のごとくあり秋の畑の巨大なかぼちや
(たまこ)
(1111 1934)

3464 > いぎたなく布団に縮まる冬の朝はるけく思ふあの夏の夢
(ぎを)
(1111 2251)

3465 > 桜さくら桜もみぢて散りぬべし無腸の夢のめぐれるところ 
(素蘭)
(1112 0018)

3466 > めくるめく昨夜の夢は言えませぬ蒲団出るのも憚りまする 
(ぽぽな)
(1112 0055)

3467 > めくるめく壁はひつたふ蔦もみじはらりはらはら洒脱をしるや  
(蘇生)
(1112 0822)

3468 > そこここに紅葉の渦をつくりつつ風がオランダ通りを抜ける
(たまこ)
(1112 1119)

3469 > 身をよぢり車窓の紅葉を目で追へばしばし忘るる満員電車
(ぎを)
(1113 0022)

3470 > 戸隠の鬼女ともならむ夕紅葉からくれなゐとはかなしきこころ 
(素蘭)
(1113 0117)

3471 > 湖に映らば妖女にもならむ黄金の中に一樹の真紅の楓
(ぽぽな)
(1113 0856)

3472 > 旭光が銀杏黄葉を煉りあげて黄金の如く北の大地に 
(蘇生)
(1113 1837)

3473 > コート着た女映画のごとく往く銀杏並木の黄葉も見ずに
(ぎを)
(1113 2242)

3474 > 名画座をおもへば追憶・旅愁とふわがのすたるぢあに邦題ゆかし 
(素蘭)
(1114 0105)

3475 > そのころはムンムンしてた名画座でいつも小さき自分が観ていた 
(蘇生)
(1114 0534)

3476 > 冬の陽のさんさん差し込む疎林ゆきかさこそてんとう虫になりそう
(たまこ)
(1114 0704)

3477 > なまぬるき冬の初めのおぼろ月夜ニュースは告げぬいくさの兆しを
(ぽぽな)
(1114 0725)

3478 > 我と我がただごと歌に倦みにつつこの時こそが至福なる時
(たまこ)
(1114 1130)

3479 > PCオン心の裏木戸すこし開け日常抜け出す準備整ふ
(登美子)
(1114 1949)

3480 > 枳殻の垣をくぐらむいにしへに塩竈ありぬしほくむために 
(素蘭)
(1115 0007)

3481 > 夏の午後つがひの鴨見し枳殻邸心の裡に君ありし頃
(ぎを)
(1115 0145)

3482 > 晩秋の鎌倉山のさび色をひとり愛でをり午後の日溜り  
(蘇生)
(1115 0535)

3483 > 食卓のマルメロに日脚ののびてきぬそろそろ子らの戻りくるころ
(たまこ)
(1115 1928)

3484 > 小春日の丘にゆうらりまどろめば牧神の笛のほの聴こゆる午後 
(ぽぽな)
(1116 1113)

3485 > 初冬の九十九折りゆく箱根路のミラーに映るさびの色かな 
(蘇生)
(1116 1946)

3486 > 散ればこそめでたかるらめ水無瀬川桜もみぢて下ゆ流るる 
(素蘭)
(1116 2332)

3487 > 仲通り異国の文字のウインドウ黄葉仰ぎつ大手町ゆく  
(蘇生)
(1117 1030)

3488 > 異人さんに連れられてった女の子自由の女神をなんと見たやら
(登美子)
(1117 2005)

3489 > 冬の浜に波に連れられ白亜紀の巨蟹のごとく群れ成すテレビ 
(ぽぽな)
(1118 0103)

3490 > 紐育・倫敦・巴里を銀幕に見しころとほくあくがれとほく 
(素蘭)
(1118 0111)

3491 > 改むる展望の塔江ノ島の一望にせむ広重の景  
(蘇生)
(1118 0545)

3492 > 音たてて「白雨」のやうに雨が降るさよならさよなら今年のもみぢ
(たまこ)
(1118 0647)

3493 > 見るもなき北の斜面のそこここに今は限りの櫨紅葉見ゆ 
(蘇生)
(1118 0923)

3494 > 限りとてひとに贈るは美しき夢見終へたる恋忘れ貝
(登美子)
(1118 1932)

3495 > 影細く並んでホームに写りゐき発ちゆく君と送るわれとの
(たまこ)
(1118 2000)

3496 > 『ひまわり』のやうな別れは許されず新宿駅の午後六時半
(ぎを)
(1118 2355)

3497 > うつせみのひとなるゆゑにこころ和(な)ぐ山ゆき野ゆきあずさは発ちぬ 
(素蘭)
(1119 0046)

3498 > 信濃路は窓から望む八ヶ岳やがて諏訪湖のきらめくを見む 
(ぽぽな)
(1119 1110)

3499 > 冬ざれのしぶけし磯に竿ふれば雲の間にまに箱根連山 
(蘇生)
(1119 1831)

3500 > 神無月降りてきさうな空だから降りみ降らずみ冬ざれにける 
(素蘭)
(1120 0121)