桃李歌壇  目次

何を語らむ

連作和歌 百韻

901 > 老境に己の何を語りしか故なきことの何を語らむ (重陽) (115 1902)

902 > 異空間君と我との来し方は行く末とても仮想現実 (素蘭) (115 2013)

903 > 四十度過ぎる炎昼人もなく風鈴もならず猫も動かず  (小梅) (115 2131)

904 > 炎天の南京を行く日本人われを打ち撃つ裡よりの声(たまこ) (115 2322)

905 > 水に落ちし犬を救わず撃つべしと筆揮ひたる君はや古稀を過ぐ   (有情) (116 2204)

906 > 強風に揺れなびきつつ丈高く身を寄せ耐えるコスモスの群れ (小梅) (117 0744)

907 > 古代へと続く道端コスモスに見守られつつタイムトンネル  (檸智) (117 1009)

908 > 山城の跡なる谷(やつ)の山柿の朱の憐れや猛きもののふ(重陽) (117 1331)

909 > 城山の空(そら)のお塚は苔むして芒の穂絮が風に流るる(たまこ) (117 1818)

910 > 籠に挿せるすすき抱えし幼子の見上ぐる空に雨雲はしる  (小梅) (117 2128)

911 > 富士山麓まがねの火器を擬装してまそほのすすき耀やかに見ゆ (堂島屋) (117 2140)

912 > 水喰らふ針葉樹林痛ましく祖父亡きあとの山は荒れゆく  (素蘭) (118 0002)

913 > 山肌に数多の皺の悍ましき灰降り続き島は荒れゆく (重陽) (118 0448)

914 > 学校も家も都会も砂漠かな舗装道路に雨はむなしく  (有情) (118 2302)

915 > かつて砂漠なりしあたりやこの星の遠き営み経りて泉に (志織) (119 0035)

916 > 還らんかあの夏の日に一人来て素足に踏めば泣き砂が泣く(たまこ) (119 0632)

917 > 海鳴りは揺籃のごと果てもなく太古の夢に寄り添い歌う(晴雲) (119 0932)

918 > 幾ばくか勁草見ゆるロカ岬いにしえ人の夢や遥かに  (重陽) (119 1024)

919 > 千年は目眩ひのごとし千年の橡を仰げば錦葉が舞ひ(たまこ) (119 1834)

920 > 散りそめし花に誘はれ見る夢は淡雪のごとはかなに消ゆる (素蘭) (119 1928)

921 > 桜さえ未練残して花吹雪蘂降る道を行きつもどりつ(晴雲) (119 1937)

922 > むせぶがに「未練なのね」と歌ひつつ女は未練といふものに酔ふ(たまこ) (1110 0906)

923 > 未練なき人生それも何となく寂しいかなと思ひはじめる (堂島屋) (1110 1615)

923 > 未練なき人生それも何となく寂しいかなと思ひはじめる (堂島屋) (1110 1616)

924 > 淋しいときはわが村に来よ千年の椋の大樹の結界のなか(たまこ) (1110 1838)

925 > 真夜(まよる)二時書き込み続く掲示板かの人もまた孤独生きたり (素蘭) 増殖雑記帖を詠む (1110 2327)

926 > 気遣ひて顔をつくりて時過ぎて一人真夜に深く息づく (重陽) (1111 0601)

927 > ヒヤシンスの真珠色の根が伸び始めさびしがりやの水をくすぐる(たまこ) (1111 0731)

928 > 酒を呑み高吟しばし別れゆく淋しがりやが集う友垣 (重陽) (1111 1818)

929 > 別れ雪白線流す手をかさね「理想」といふ名の荒野見つめる (素蘭) (1111 2150)

930 > 青年は荒野目指してすれ違い二つ目ボタン引出しの中 (晴雲) (1111 2235)

931 > ワイエスの荒野の家の連作に青き心のあふれるを知る (重陽)83歳のアメリカの画家 (1112 1347)

932 > 青年の心のままに躍りいて夕べ静かに時の過ぎしを (重陽) (1112 1902)

933 > 鳥になつたと思ふ小鮒もゐるだろう小川に青い空が映つて(たまこ) (1112 1925)

934 > 少年の心宿せし君なれば銀河鉄道天空をゆけ (素蘭) (1112 2234)

935 > 壮年を渉るわれらの囲む火の火の粉よ昇れ星の高さに(たまこ) (1113 0713)

936 > 大円の真っ赤な今日の太陽にまた青年の如き心に (重陽) (1113 0800)

937 > 半蔵門旅窓より見つあかあかと皇居の空ゆのぼる朝日を (堂島屋) (1113 1303)

938 > 海原ゆ昇る大日仰ぎ見て一僧朗々題目唱へり (有情) (1113 1533)

939 > 線香花火の最後の雫のやうな日が夕べわたしの視野に震へる(たまこ) (1113 1837)

940 > 暗闇を切り裂く命見つめてる線香花火の燃え尽きるまで (素蘭) (1113 2349)

941 > 幼子の指に点りて黒き眼に線香花火映りて滅す (重陽) (1114 0424)

942 > 手花火の灯りに浮かぶあさがほは祖母の手縫ひの浴衣のもやう(たまこ) (1114 0627)

943 > 手花火をともすや世間胸算用女三代姦しきこと  (有情) (1114 0954)

944 > 「大晦日は一日千金」元禄の浮き世の禿びし下駄の歯の音(たまこ) (1114 1104)

945 > 聞くならく人は畢竟慾望に手足の生えたものと知るべし  (堂島屋) (1114 1300)

946 > 権力の畏れをしらぬ高声に衆の心は沈みゆくなり (重陽)  (1114 1422)

947 > 権力の継承謀る人々の驕り生みだす民の無自覚 (素蘭) (1114 1941)

948 > ゆく雲に照り陰りつつ明日香川が蛇行して行く大和国原(たまこ) (1114 2332)

949 > 瀬を早み流れ流れて明日香川変わりゆく世のせせらぎ聞こゆ (素蘭) (1114 2353)

950 > 甘橿丘ゆ見はるかす国原の果てに高層ビル群白し(たまこ) (1115 0740)

951 > 幾山川こえて白鳥とめゆかむ刈ばねに足破るといへども  (堂島屋) (1115 1249)

952 > 白山の風に豊かな稲架の波衆に声なき葬送の列 (重陽) (1115 1837)

953 > 君送る君の愛でたるこの庭の紫式部いとど悲しき (素蘭) (1115 1953)

954 > 貴船菊白を選んで籠に盛り母を亡くした友に捧げん (晴雲) (1115 2222)

955 > コスモスの花叢枯れて野良猫もどこかへ消えて初雪がふる(たまこ) (1116 0857)

956 > グリザベラ ミストフェリーズ タントミール ジェリクルキャッツが舞台に跳ねる (素蘭) (1116 2325)

957 > 魂のドンコザックのハーモニー初めて聴きしときの感動 (重陽) (1117 0536)

958 > 紫陽花の枯葉に動かぬかたつむり舞へ舞へ舞へ舞へ今ひとたびを(たまこ) (1117 1747)

959 > 枯葉舞ふ街角衿をかき合はせ家路を急ぐ人々の群 (素蘭) (1117 1924)

960 > くるりくるり・すんすん・はらはら散り方をいろいろ思ふ秋の林に(たまこ) (1118 0034)

961 > うつろひて鎌倉山の緑錆ふ時うつ鐘のひくく響けり(重陽) (1118 0601)

962 > 教会の鐘の音遠く聞きながら見つめ合ひたるあの日に帰る (素蘭) (1118 1407)

963 > 夕茜空に波紋を描くやうな山の和尚のつく鐘の音(たまこ) (1118 1744)

964 > 新雪にシュプールゆるく描きつつ滑り終へたる朝のすがしさ (素蘭) (1118 2239)

965 > 新雪に裏大の字にうつぷして冷たき雪に呼気あたたかき (重陽) (1119 0424)

966 > 校庭にぽつんとしやがむ鬼の子の背にしんしんと積もりゆく雪(たまこ) (1119 0828)

967 > 我が内の鬼と戯る花の午後纏へる綺羅をひとつ脱ぎ捨て (素蘭) (1119 1230)

968 > そのかみのオーガンジーのブラウスは嫁ぎし君よ今も着つらむか? (堂島屋) (1119 2035)

969 > ブラウスのうすむらさきにオレンジの夕日が射して想い出の丘 (萌) (1119 2351)

970 > 想ひ出の糸をくるくるたぐり寄せ織りたる布は淡き水色 (素蘭) (1120 0050)

971 > 微かには同じ想い出何処にか老眼鏡で遠くをみやる (重陽) (1120 0606)

972 > 「いつかきっと」の声がしだいに遠くなる焼きあげしパイのにほひの満ちて(たまこ) (1120 0912)

973 > セージ パセリ ローズマリーを籠に摘む『スカボロー・フェア』を口ずさみつつ(素蘭) (1120 1913)

974 > 舞い散るは勝とう勝とうや雪桜じゃなかった水掛けエンブッ    (耽空) (1120 2328)

975 > はらはらと舞い散る紅葉まだ色の豊かなままに水面に着きぬ (萌) (1121 0016)

976 > 現しくも移し心も弁へぬ贖ふも知らぬ青き道心 (重陽) (1121 0540)

977 > 来年も似合ふだらうかこの夏を被りし帽子の青いリボンは(たまこ) (1121 0743)

978 > 何の色永田の屯を闊歩する裸の長の残るシャッポは  (重陽) (1121 1111)

979 > 選挙へと心早くも走るらし「励ます会」の招集かかる (素蘭) (1121 1847)

980 > 木枯らしに抗い咲ける山茶花のほんのりとせし暖かさ賞ず (萌) (1122 0006)

981 > 山茶花を見てゐるだけの逢瀬かな昨日も明日もなき今を生く  (堂島屋) (1122 0022)

982 > やりきれぬ現実穴をうがちたし時代閉塞啄木の世も (素蘭) (1122 0037)

983 > 閉塞といふといへども巧妙にガスを抜かれて中庸半端 (堂島屋) (1122 0049)

984 > 先見えぬ時代の処処のつむじ風カウントダウンの二十世紀は (重陽) (1122 0549)

985 > さはされどこのやさしさは千年の桜が芒や羊歯を宿らす(たまこ) (1122 0655)

986 > 剣山の嶮しき斜面の冬畑に豌豆の芽はきらきらとして(たまこ) (1122 0724)

987 > ヒマラヤの峰をはるばる越えてゆく鶴のひとむれ奇跡見るごと (素蘭) (1122 1927)

988 > 一羽ずつ孤高の輝きもつ鶴も群れれば冬の風景に和す (萌) (1122 2338)

989 > 冬ざれの心を癒す歌もがな言の葉ひとつ闇に放てど (素蘭) (1123 0111)

990 > 半天に闇の残りし小径ゆくウオーキングの交わす言の葉  (重陽) (1123 1009)

991 > 語らへど心通わぬ日の果ては言葉の無力噛みしめてゐる  (素蘭) (1124 0042)

992 > 辻占の耳に残りし一言ぞ恋路を照らす☆といふべき (堂島屋) (1124 1748)

993 > ☆のマークいくつも書いてなお迷う交換日記の青春模様 (萌) (1124 2335)

994 > パソコンに向かって互ひに愚痴こぼすメールで飛びかふ交換日記 (素蘭) (1125 0037)

995 > Eメールを送ったあとにも電話して私も友もメール初心者(たまこ) (1125 0709)

996 > 食卓に背を向けキーを叩く音団欒という時は埋もれて(晴雲) (1125 2330)

997 > はかなければ最もだいじ食卓を花びらのやうに椅子で囲んで(たまこ) (1126 1101)

998 > などかくも君はこだはるうつそみの君の心の花にあらぬを (素蘭) (1126 1253)

998 > などかくも君はこだわるうつそみの君の心の花にあらぬを (素蘭) (1126 1250)

999 > いつのまにかこだはりも君に同化してミルクは人肌ほどに温める(たまこ) (1126 1422)

1000 > 何求め何を得んとし我生きる我が影見れば闇ぞありける (神楽) (1126 1452)