桃李歌壇  目次

仮面の和歌

連作和歌 百首歌集

4701  梅雨空の鬱陶しさを振り払う仮面の和歌に心晴れるや   蘇生 614 1248
4702  桃の花の下照る園に歌ふとき鳥にも蝶にも虫にもならむ たまこ 614 1910
4703  桃李(ももすもも)丹仙の苑に漂いて自分史となる歌を連ねり   蘇生 614 1931
4704  省みて詠み散らしたる数々の虚実の間に潜みし予兆  人真似 614 2233
4705  君の輪と吾の輪それから彼らの輪含む交わるベン図の響き ぽぽな 614 2312
4706  善悪も妄執さえも忘れ去り流れる如く賢者は詠う  人真似 614 2358
4707  御仏の半眼の眼の奥深き救はれぬものの薄ら笑ひよ

海斗

615 0129
4708  それぞれの修羅場を抜けて再会(であ)ふとき交わす刃(やいば)も花となるかも ぽぽな 615 0314
4709  修羅場とて時過ぎゆけばほのぼのと記憶の淵に風化するなり 蘇生 615 0510
4710  ぼのぼのと明けゆく空に邪まな悪夢も潰える六月のみどり 人真似 615 0701
4711  六月の空に擲て水中花すめらみことは人となりける  615 1152
4712  尊称の陛下はつけず「さん」付けで過ごしきたれりささやかな叛 真奈 615 1900
4713  坂道を上りて下る唯一人聲かけることなくかけられもせず  616 0808
4714  深き淵抱えて今日も乗る電車 通勤地獄は孤独の路線  人真似 616 0827
4715  熱残る鉄路のさきの雪蛍荒星ひとつ目指してゆかん 真奈 616 1129
4716  サキが好きなマコ君をレナも好きと聞いて私も困ってるのよね  人真似 616 1403
4717  唯一人銀河とともに西に行く善悪好悪わがことにあらず   616 2132
4718  好っきゃねん大阪の子が言ひたればお好み焼きのことにあらずして 海斗 616 2145
4719  メロンさえ食べ頃のありいつ人の熟すやむなし歳月永き  人真似 616 2353
4720  食べごろのメロン食べつつルナールの「にんじん」思ふ少しせつなく たまこ 617 0030
4721  「生きていたときにそれだけ親切であってくれたらよかったのにね」 ぽぽな 617 0445
4722  もの惜しみ捨てて何にも拘らぬ 遍歴の翁なぜか恋しき  人真似 617 0539
4723  還暦や牛の背に乗り消えゆかば水は茫茫花はくれなゐ   617 0826
4724  風に光る牧草を食む牛の背に整理番号の焼き印のあり たまこ 617 1825
4725  正論は屋台の酒に盛り上がり日時計の針いつも鈍角 真奈 617 2045
4726  海外のブランド店は綺羅めいて色褪せてゆく銀座の老舗  人真似 618 0131
4727  あこがれは移ろひやすしと聴いてゐる「銀座に柳」と歌ふナツメロ たまこ 618 0755
4728  築地まで脚を延ばせば本願寺印度の破風に響くオルガン  618 0848
4729  地下鉄を上がれば淡き待宵のたまご色した街燈に映え 真奈 618 0938
4730  マリオンのカラクリ時計の人形の演奏始まり仰向く群衆  人真似 618 1157
4731  男たちを迎へ和みし銀座裏今はもう無き店も女主人(あるじ) 蘇生 61819時15分
4732  「閉店」と紙の貼られてボタン屋がここにあつたと初めて気付く たまこ 618 2304
4733  続々と化粧を直す銀座裏レディースという店増殖中  蘇生 619 0503
4734  永年のご愛顧・・と書く達筆の古き洋館写真館閉ず 海斗 619 0657
4735  汐留の気ままに建てし巨ビル群清かな風を閉ざすがごとく  蘇生 619 0717
4736  尾張町 霊岸島に木挽町 鉄砲洲みな消えし町名 真奈 619 0753
4737  夕風に疎水は潮の匂ひして 流れはすべて海へつながる たまこ 619 0759
4738  身の内に流れる血潮吾もまた海より出でて海に帰るや 茉莉花 619 0812
4739  銀座裏一丁目には真砂女なく銀座八丁何処へゆくや   蘇生 619 0820
4740  夜の雨はビル窓ガラスに滴りてネオンが滲むわびしき残業  人真似 619 0823
4741  林立のビルの睥睨するさまは地下に爪研ぐ魔物の如く   蘇生 619 0832
4742  子を攫う魔王を歌うディスカウの錆びし歌声今やいづこに 茉莉花 619 0910
4743  新しきシグナルなりし錆び色の女の城は資生堂パーラー  蘇生 619 0928
4744  あの店のあの席と決め逢い引きの胸震へたるかの日懐かし 茉莉花 619 0935
4745  建築は氷れる音楽 詩人らは虚空に言葉の円柱築く ぽぽな 619 0938
4746  綱町の三井倶楽部の洋館の庭と交わせし詩なる静寂  蘇生 619 0944
4747  洋館のここのレシピは超一流庭園下るステッキ軽し やんま 619 1942
4748  鳩居堂さびのありけり和尽くしのここは銀座の今も真ん中  蘇生 620 0617
4749  桐箪笥開けてしばらく目閉じれば匂袋ぞ記憶運べる ぽぽな 620 0659
4750  正式の俳諧なれば一っ紋にはか仕込みの小笠原流なり 真奈 620 0854
4751  あまた寄り銘茶愉しむ草庵は宇宙のごとき静寂の中  人真似 620 0900
4752  宮川の夜の静寂に飛ぶ蛍まるで光の呼吸のやうに たまこ 620 0945
4753  魂を螢と歌う和泉式部私の歌の原点はそこ 茉莉花 620 1052
4754  旅の記の限りはおろか俳諧の式目までもおくの細道  蘇生 620 1223
4755  旅枕わびさび色褪せ昨今は カラオケ唸るバスの徘徊  人真似 620 1446
4756  サスペンスドラマに君の街映りホシ乗せてバスが画面を過()ぎる たまこ 620 2007
4757  はじき持ちしけもくくわえポーズとる水鉄砲とチョコシガー哉 ぽぽな 621 0657
4758  悔しきはバレンタインディの義理チョコの数で若さに勝てぬこの頃  人真似 621 0847
4759  空模様 子らはこよみに日ごと書く「雨」の漢字をすっかり覚え ぽぽな 621 2351
4760  ベランダに忘れし歌集が昨夜(きぞ)の雨に湿りて微かにふくらみてゐる たまこ 622 0026
4760  求愛の雨や嵐をかいくぐり 手に余りある君の幸せ  人真似 622 0010
4762  雨を得て土も緑も吾が胸も未知の出会ひにときめきてゐる ぽぽな 622 0246
4763  ときめきてねたさもねたしあやめぐさ あやめもしらぬいけのこいかな  ひとまね 622 0603
4764  何人が覚えてゐるか人面魚 池を叩いて俄雨ふる たまこ 622 0723
4765  黄揚羽淡き光りの雨あがり上を下へと舞い舞いし朝  蘇生 622 0852
4766  雨上がりの緑陰に入りしんしんと傷んだ心recuperated ぽぽな 623 0021
4767  大海に憧れ抱く吾とても自然の一部と思うことあり  人真似 623 0453
4768  ベランダにくくるるくくるる唄ふ鳩「私はたまこ、きみの名は何?」 たまこ 623 0632
4769  朝なさな心待つなり老鶯のアンテナ二つ今朝も二啼き  蘇生 623 1118
4770  巣立ちする雀の仔らの覚束な喚きふらつき親の枝見る  人真似 623 2045
4771  新しいプロジェクト今日発進す彼方で星が導いている ぽぽな 624 0900
4772  梅雨の夜は高層ビルの濡れた灯に真直ぐ働く人の懐かし  人真似 624 2156
4773  モルヒネの盗聴さるる幻覚は心の闇に耐へきれぬゆゑか 海斗 624 2251
4774  徒労感にひと日は暮れてすつぽりと布団かぶれば温かき闇 たまこ 625 0631
4775  薬師寺の五重の塔の歳月も昨日の如く僧は語れり  人真似 625 0955
4776  歳を経し疎ましきこと解けゆきて梅雨の朝とて美しきかな  蘇生 626 0812
4777  今宵また我に満ち潮訪れてひたひたひたと逆らわず行く ぽぽな 626 1034
4778  かぎりなき流れを容れて溢れない海を思へり君のかたへに たまこ 626 2347
4779  階段の合わせ鏡にゆれ動く人の果てなき都会の虚像  人真似 627 0042
4780  重厚なノブを回せば白檀の香りに心安らぐばかり   蘇生 627 0700
4781  恋愛に性の垣根はいらないと街虹色にパレードの行く ぽぽな 627 2220
4782  鮮烈な羽根そり返し誇りたる孔雀二羽いる苑の陽だまり  人真似 628 0020
4783  梅雨の雨にこもりて思ふはかの皇女の動物園の真白き孔雀 たまこ 628 0538
4784  薄桃の薄衣まとふ舞姫の幽玄Auditoriumを魅了す ぽぽな 628 2356
4785  花伝書の世阿弥の花も時のはな ほのか明りの醸す幽玄  人真似 629 0806
4786  天窓ゆ明かり差し込む水槽に緋目高たまご一つ孵しぬ たまこ 630 1126
4787  歳を経て金魚も銀の鱗つけ ついには池の名主となりぬ  人真似 630 1733
4788  「メデタシ」と童話のやうにはゆかぬことを知つてやうやく大人になれた たまこ 630 1859
4789  幸せはほんの僅かの「めでたし」も零さずコップに注いでゆくこと ぽぽな 71 0322
4790  愉しみはエッセイ書き溜め本にして通夜の御礼に差上げること 人真似 71 0848
4791  詠みきれぬ焦燥感に迫られてワードを閉じて辞書をまさぐる  蘇生 72 0650
4792  梅雨の間に晴れて涼しき風のあり紫陽花ゆれる文月の庭  人真似 72 0833
4793  詠めないと言へど貴方は詠んでいるYou don't need to worry about it. ぽぽな 72 0921
4794  もの思ふ心の深き水掬ぶ指の間を零る言霊  千種 72 2123
4795  その女(ひと)にふさわしくなき句を投げしその日は辛きことぞありなむ  蘇生 73 0356
4796  虚と実のあはひにありて歌詠みは己の修羅もつらく見つめる 茉莉花 73 0840
4797  眠りをる老顔をみてわが振りをあたら電車で眠るものかと  蘇生 73 0935
4798  吊革の白き輪は静かな列をなし夕べの電車に運ばれてゆく たまこ 73 1940
4799  一様に携帯ささげ吊り輪持ち親指操るHiテク?空間  人真似 73 2208
4800  るいるいの頭の上の青い海は通勤電車の旅の広告 たまこ 74 1807